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子爵令嬢は自由になりたい【連載版】  作者: と〜や
第十二章 子爵令嬢は収穫祭を迎える
126/199

123.子爵令嬢は思わぬ人と引き合わされる

昨日(2019/02/04)臨時更新しております。未読の方はぜひそちらからどうぞ!

 三日目ともなれば、力比べの会場も見物客が増えてくる。ライラ様の席を幕で区切ったのは正解だった、と周囲の席を見回しながら腰を下ろす。

 今日の護衛はグレンで、一刻も早く王都に帰るから祭りに参加しないものと思っていたから驚いてしまった。

 彼の話によれば、ウェイド侯爵が来られていることで状況が変わったらしい。

 それでも気がせいているせいか、試合に向けられた目は何も映していない。護衛としては失格だろう。二人の護衛にも見破られていたようで、今日は二人とも幕内から外ににらみを利かせていた。

 こういう時こそクリスがいてくれればいいのに。


「あの男、今日は来ないのね」

「ええ、今日はお休みだそうです」

「そう。……まあ、問題はないけれど」


 力比べは条件をそろえるために日が傾いてきたら終了となる。昨日は日が落ちてからライラ様ともう一度魔術師たちの露店を廻った。

 いつもならすっかり闇に閉ざされている場所が、魔術師がいるおかげで昼間のように明るい。街中も祭りの時だけは篝火が焚かれていて、夜の祭りを楽しむ人たちであふれていた。

 クリスはやっぱり姿を消したけれど、必要な情報は置いて行ってくれたから困ることはなかった。

 ライラ様の目に留まる魔術師はいなかったらしい。でも、闇の中で繰り広げられる魔術師たちの力比べはとても美しかった。



 今日もそろそろ日が傾き始めた。

 ベルエニーの冬は昼も短い。今日はどこを案内して回ろうか、と考えていた時のことだった。

 会場からざわめきが上がった。

 考えを中断して試合に目をやれば、髭もじゃの男が立っていた。足元には木剣を手放して倒れる砦の兵士。


「何があったの……?」


 隣のライラ様を見れば眉根を寄せて髭の男をにらんでいる。

 そばに立つセリアを見上げれば、目を見開いて固まっていた。


「試合開始からものの数秒で剣を弾き飛ばしたんだよ」


 そう答えてくれたのはグレンだった。こちらを向いたグレンも顔をしかめている。


「凄腕だな、あれは。砦にもあれほどの使い手はそういない」

「そういない、ではなくて皆無ですわ」


 ライラ様の声に振り向くと、面白くなさそうにため息をついた。


「確かに今までの連中とは比べ物にならないだろうな」


 グレンが悔しそうに男の方を見やる。

 剣を係の人間に渡して、髭の男はこちらを向いた。それなりに離れているし、日が傾きかけているから表情も見辛い。

 でもどこかで見たような気がした。

 どこで?

 領民ではないし、砦の兵士とも違う。

 昨日今日と回った露店の人たちとも違う。あれほどの髭ならすれ違ったらきっと気がつくはずで、少なくともわたしに会った記憶はないはず。


「でも、無理ですわよ。あれは……バケモノですもの」

「ライラ様、ご存知なのですか?」


 ライラ様が言うのならよほどの使い手ということだろう。もしかして、チェイニー領の武闘会で勝ったことのある方なのかもしれない。

 でも、それならチェイニー公爵が手放すはずがないわよね。

 あんな髭もじゃで、よれよれの服装なんてしてるはずがない。


「あの男についてはあなたの方が詳しいのではなくて?」


 ライラ様はつまらなそうな表情のままわたしの方をちらりと見る。

 わたしは首を傾げて視線を戻したけれど、会場ではすでに次の試合の準備が進んでいて、男の姿は見えなくなっていた。

 再び周りから声が上がる。試合が始まった。今日最後の試合だからだろう、周りの席の観客が身を乗り出している。


「わたくしは勇猛果敢な兵士たちの集う北の砦の騎士たちを見に来たのに、興醒めですわ」


 一瞬のうちに剣を叩き落とされた兵士だって、わたしよりはずっと強い。……まあ、わたしと比べれば、どんな人だって強くなってしまうけれど。

 木剣の打ち付ける甲高い音が観客の声援にかき消される。

 今戦っているのは砦の隊長クラスだった。鍛錬に出てくることはないからあまり詳しくはない。

 相手も……同じく隊長クラス。なるほど、盛り上がるわけだわ。

 前の席の人たちが立ち上がってしまったから、わたしも立ち上がって幕に寄った。

 目の前に黒いものが見えて、それが髭だとわかる前に後ろに引っ張られた。倒れそうになりながらも顔を上げると、グレンの背中が視界を遮る。


 グレンの手は何も握っていない。なのに張り詰めた空気に、声を失う。

 ライラ様はと見れば、二人の護衛が立ちふさがっていたけれど、ライラ様のため息にすっと前を開けた。

 グレンは動かない。けれどライラ様たちの様子は不審者を前にしたものではない。となれば、ライラ様のお知り合いという推測は当たっていたのだろう。


「わざわざここにいらっしゃるなんて」

「興醒めと聞こえたものだから」


 グレンの背中越しに聞こえた声は思っていたより若々しかった。

 少なくとも、わたしの知り合いに合致する人はいないはず。

 そろりとグレンの服の裾を引っ張ったけれど、場所は譲ってくれない。


「ライラ様のお知り合いですか?」

「きっとあなたの方がよく知っていてよ」


 服の裾をもう少し強く引っ張ってようやくグレンは少しだけ避けた。顔は見えたけれど、髭で顔の輪郭がわからない。でも。


「お久しぶりです、ユーマ嬢。いや、言葉を交わすのはこれが初めてですね?」


 そう告げる紫色の瞳には確かに見覚えがあった。

 はっとライラ様を振り返ると、やはりつまらなそうにため息をついたのち、立ち上がってわたしの方を向いた。


「ええ。御察しの通りよ。……ユーマ様、ご紹介いたしますわ。北方騎士団の視察団団長、ウェイド将軍です」



この期に及んで新キャラ投入。

……いやまあ、ユリウス君回収要員だから、ね?

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