115.子爵令嬢は古着屋と兵士の服の顛末を聞く
脱線しがちなグレンの話をざっとまとめると。
セレシュが市で迷子になった時に王国近衛兵の服を売る屋台を発見。
カレルがグレンの名前でそれを売っていた古着屋……モランボのウダと接触。
近衛兵の中にも諜報員が混じっているとなると、迂闊に話を軍部に持って行くわけにはいかない。
セレシュを通じて国王陛下から勅命をもらい、内偵と同時に話を進めることになったらしい。
同時に、近衛兵の制服を新しくする話を流布する。
ああやって持ち出された兵士の服は、偽物を作られることがよくある。城に侵入するのに使われるのだ。
だから定期的に兵士達の制服は変えられている。今回も定期的なリニューアルの一環として、情報を少しだけ早く出したのだそう。
その情報を流したのはお師匠さまと兄上。レオ様も関わっていたらしい。それを聞いて流石にめまいがしたわ。
カレルたちに兄上のことを伝えておいたけれど、まさかレオ様が出てくるとは思わなかった。
父上はこのこと、知ってたのかしら。……お師匠さまが根回ししたのだとしたら、知ってないとは思えないわ。
もしかして、それもあって、クリスをこちらに寄越したのかしら。
連絡に五日もかかっていては、いざという時に取り逃がしてしまうものね。
グレンは、自分宛の連絡が来たら砦に知らせるように村の人たちに協力を頼んでいたらしい。
ちなみに、お師匠さまから話を聞いたグレンは、名前を貸す見返りとして王都に行って手伝うことを了承させた。
……まあ、こんな機会でもなければ、王都に行くことなんてないものね。仕事なら、費用の心配もない。きっと飛びついたに違いないわ。
……ちょっとだけ羨ましい、と思ってしまったけれど、わたしが行ったところで何かできるわけもない。むしろ、顔を合わせたくない人の方が多いもの。まだ……無理ね。
お師匠さまが眉をひそめたところを見ると、表情に出てしまっていたのかもしれない。
姿勢を立て直し、グレンの入れてくれたお茶で頭を切り替える。……苦いお茶も役に立つものね。
グレンはまず、モランボのウダに『グレンの代理』として接触。
この人、最近領に来た人で、カレルもグレンもきちんと顔を知らなかったみたいなのよね。
あの店にはカレルもグレンも連れて行ったけれど、覚えてなかったみたい。
気がつかれたら、誤魔化すつもりだったそうだけど、気づきもしなかったそうよ。
で、どうやらヒュージ村でグレンのことを聞いて回ったらしいの。
あ、本人が直接行ったわけじゃなくて、人を頼んだそうだけど。
すぐに村から人が飛んで来たそうよ。でも、『グレンがどこかのお嬢様に見初められたかなんかで、身上調査しに役人みたいのが来た』ってことになっていて、村では大騒ぎだったらしい。
本当のことを言うわけにはいかないからと、話を合わせたそうなのだけど……それってあとあと大変なことになりそうな気がする。
まあ、そんなこんなで、グレンは代理人としてモランボのウダとの接触に成功した。もちろん、本人も制服マニアという触れ込みで。
色々準備して……もちろん、お師匠さまや父上たちの協力あってのことだけれど……行った甲斐あって、相当のフェチと認識してもらえたそうよ。
で、最近耳にした話、として、王国騎士団の近衛兵の制服が新しくなる話を吹き込んだ。
最初は疑っていたそうだけれど、しばらく経って連絡があったのだそうよ。
裏付けが取れたのね。『最新のものが入手可能だ』と連絡が来た。
ただ、すぐにというわけではないから、と言うウダに、王都に行って直接交渉したいと持ちかけたの。
あ、一応グレンは『ヒュージ村のグレンの同僚』で、砦に派遣された王都の兵士ってことになっていたそうよ。
金は持っていること、どこぞの御落胤らしいという噂まで流布したというから、相当よね。
……そんな噂、わたしは聞いてないのだけど、もしかしてみんなに口止めしていたの?
そういえば、ブレンダが何か言いたそうにウズウズしていたことがあるけれど、もしかしてこれだったの?
教えてくれればよかったのに。
ともあれ、グレンは王都でその協力者に会う段取りをつけて、王都に向かった。
カレルたちと合流して、我が家のタウンハウスにいたそうよ。
そこで兄上やカレルと作戦会議を開いてたらしいけど……セレシュがいつも参加してたって、どういうこと?
そんなに暇なわけないわよね?
そう聞いたら、国王陛下からお許しはもらっていたらしい。……王都作戦での責任者だとかなんとか。
まあでも、グレンやお師匠さまの表情から、ただの制服横流し事件ではなかったらしいことがうかがえた。
王都の協力者はどこかのゴロツキだったらしい。
うまい酒と食事を散々奢って、口を開かせるのにずいぶんかかったらしいわ。
……言葉を濁したあたり、多分娼館にも連れて行ったのね。
それで、王宮付きの縫製係が絡んでいることがわかった。
そちらの調査は王妃陛下とレオ様、それからセレシュが行ったそうよ。
セレシュはまだ面立ちも幼いし、油断を誘うにはちょうどよかったみたいね。
縫製係は他にも二人、抱き込まれていた。
三人の女性がそのゴロツキに入れあげてたらしい。……それを知らされて縫製部は修羅場だったそうだけれど。
他にも仕入れルートと横流し先のルートがないか調査していたところ、逃げようとしたらしい。女たちにつなぎが取れなくなって、身の危険を感じたのね。すんでのところで捕まえたそうよ。
我が国の人間でないことは明白で、自害などされないように監視中らしい。近衛兵も騎士団も使えないとなると、どこにどう確保してるのかしら。もちろん教えてくれなかったけれど。
そうそう、近衛兵の中にも内通者がいるらしい。
これはそのゴロツキが捕まった時に漏らした言葉からの推測だそうだけれど、レオ様が調査中とのこと。
王都内の古着屋の査察は騎士団に任せたそうだけれど、きっちり情報が漏れていたらしくて、数件は摘発できたけれど、もぬけの殻になっている拠点もあった。
……国内の貴族から、王族への不満が噴出しているという話は聞かない。まあ、王太子妃の話では色々言いたいことはあると思うけれど、国外の人間を使ってまですることかしら……。他国の差し金の可能性の方が高そうな気がする。
モランボのウダは身柄を確保して尋問中らしい。ただ、あまり収穫はなくて、詳細は王都から信頼の置ける兵を送ってもらってからになるとのこと。
……本当は関わった兄上自身がやりたいところでしょうね。
せめて何か協力ができればいいのだけれど。
それにしても、こんなことが夏の間に起こっていたなんて、知らなかった。
夏のオフシーズンは、王族も貴族も王都を離れる。
警備も多少薄くなるから、動くんじゃないかと予想していたらしい。
そのために、国王陛下も王妃陛下も避暑地に行き、対応するためにレオ様だけが残ったのだとも言っていた。その方が油断を誘いやすいから。
……あの方が王都を離れた理由はこれだったのか、と考えて安堵する自分に気づく。もう、忘れようとしているのに。
年内更新はたぶんこれが最後となります。
本年一年、ありがとうございました。
お待たせしてしまって本当に申し訳ないです。
来年もどうぞよろしくお願いします。
来年一発目は予定通り元旦の12時更新となります。
続き書かなきゃ(汗)