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春化け②

それは、この高校生活で最も予想外の事件だったといえる。


正直、僕は普通の人間ではない

変にひねくれてるし、友達を作ろうとしないし、無口だし…


だが、彼女《九尾美春》は変人の度を遥かに越えているのだった。


パッと見だけで異常だということに気付いた。

頭からは犬のようなふさふさした耳が生えていて、背後には大きな1本の尻尾がフリフリと左右に揺れていた。

これは犬というより、《狐》なのか…


目が合ってから0コンマ数秒、頭が高速で回った結果、この結論にたどり着いた。


《今の目の前で起きていることは、現実ではない》


数秒の沈黙が続いた後、美春はハッとして叫ぶ。


「みっ見ないでください!!!」

「ハッはいっ!」


愁は慌てて180度回転する。


「えっ…えっと…あの…」


最悪だ。バレちゃった…


私、九尾美春は人間ではない。

この町にある神社《稲荷神社》に祀られている善の狐の神様、《白狐》の末裔なのだ。


どうしてこの高校に入りたかったかというと、本当はどの高校でもよかった。


ただ、人間と同じ事をしてみたかった。


《人間になりたかった》


両親一族に頼み込み、ようやく許可を得た。

条件は2つ。

一、あまり無闇に自分が白狐だとバレないこと

二、人間と…


私が白狐だと知っているのは幼馴染みの女の子《長澤夏希》だけだった。

そして今、2人目が現れたのだが…


どうしよう…よりによってクラスで一番怖いって言われてる真柴くんだよぉ…とりあえず後ろ向かせたけど、記憶消すなんて私じゃできないし…と、とりあえず何か言い訳を…!!


「あ、あのね…実はこれコスプレで…狐さんコスなんだー!アハハハ…」


ダメだー!!これじゃあ黒歴史だ!皆に笑わられるぅぅ〜どうしよう!真柴くんに弱み握らせちゃったよ、これをネタにパシリとかされちゃったら…


「これ、あんま人に知られたくないんだよね?」


愁が話すと、考え込んでいた美春がハッとする。

顔を上げると、何故か愁は両手を上げている。


「そ、そうだよ…?」

「その、バレるのがイヤならちゃんと守るよ?秘密は誰にも言わないし…趣味は人それぞれだし…」


あれ?信じてる?

今のをホントにコスプレだと思ってるの?

普通ならもっと食い下がるはずなのに…


もしかして真柴くんって、喋らないだけでいい人なのでは…?

ここは一つ、打って出る!


「あのね、真柴くん…お願いがあるんだけど…」

「は、はい?」

「実はね、今凄く喉が乾いてて…でもこんな格好だから自動販売機までいけなくて…だから、買ってきてくれないかな…?」


さ、さすがに強情すぎたか?


「いいよ。お茶でいい?」


イケたー!びっくりするくらいすんなりいけちゃった!

やっぱり真柴くんは悪い人じゃなかった…


「じゃ、じゃあ買ってくるよ…」

「待って!」


自販機へ行こうとした愁を止める。

この人なら、真実を伝えてもいいかもしれない。


廊下側から窓際までの少し離れた距離

彼女は、彼に心を開く方法を選んだ。


「さっきのは全部嘘。実は私、白狐なの…」

「白狐って…キツネの?確かうちの近くにある神社に祀られてる…あの?」

「うん、私はその末裔なの。こっち向いて。」


愁は再度、美春を見る。

耳と尻尾はなくなっていた。


「これが私の、本当の姿…」


シャララン


心地よい鈴の音が聞こえたかと思うと、また彼女から耳と尻尾が生えてくる。

その光景は、窓から降り注ぐ陽に照らされてより眩しく見えた。


「す、凄い…本当にキツネなんだ…」

「うん…本当はあんまりバラしちゃいけないんだけど、見られちゃったらいいかなって…」

「でも…僕だよ?クラスで、その…怖いとか言われてるのに…」


自虐しておいて、自分の胸が痛む。


「真柴くんはちょっとだけ怖いけど、悪い人ではないかなって思ったの。私の言ったこと全部信じてくれたし…」

「あっ…」


このとき、愁の中で柊真の言葉が蘇る。


その人と初めて会ったときに、こうピンッとくんだよ。そうなった人とは長く仲良くなれるんだ!お前と会ったときもそうだったんだぜ?


「これが…そうなのかな…」

思わず心の言葉が漏れてしまう。


「えっ?」

「な、何でもないよ…とにかく秘密はちゃんと守るから、安心して。」


唇を噛んで、必死に目を逸らしながらチラチラとこちらの様子を伺っている。

その様子に、思わず吹き出してしまった。


「プッ…アハハハ!」

「?!俺、何か変なこと言った?!」

「ごめんなさい、噂とは全然違くて面白い人なんだなって思ったら…つい…」


一瞬だけ沈黙に包まれた後、美春が小さく息を吸って声を出す。


「よかったら私と、友達になってください!」


このとき、僕の思考回路は完全に壊れてしまっていた。

なんと返したらいいかと考えていると、何故かこの言葉がポロリと出てしまった。


「…む、無理…」

「…え?」


愁は慌てて荷物を持ち、走り去ってしまう。

美春はその場で立ち尽くすしかできなかった


「な、何で…?」


入れ替わるように美春の友達《長澤夏希》が教室に入ってくる。


「待たせてごめん美春!遅くなっちゃ…ってえええ?!何で泣いてるの?!」

「なっちゃん…何かフラレたよぉ…」


こちらも感情が壊れてしまったかのように突然泣き出してしまう。


「何で?何があったの美春ぅぅぅ!」

「うえぇぇぇぇぇぇぇん」


柊真は部活を終えて部室へ戻ると、何やら部員が集まっている。


「どうしたんすか皆さん?」

「あ、柊真。お客さんだぞ?」

「俺に…え、愁?まだ帰ってなかったのか?」

「柊真…俺どうしたらいいかな…」

こちらもまた、涙目になっている。


「え、えーっと…何事?」


愁は放課後に起こった出来事をこと細かく説明する。

もちろん、秘密の部分は話していない。


「…」

「どうすればいいと思う?」

「とりあえずこれだけ言わせてくれ。」

「…?」

「バーーーカ!アホ!アホ愁!!何やってんだよマジで!!!」

「ぎゃああああああああ!」


柊真が愁の首に手を回し、キツく締め上げる。


「女の子が秘密見られて…それでも話してくれた親切な女の子の友達申請を断っただと?!どういう構造してんだよお前の人格はよぉぉぉぉ!」

「とにかくパニックになってて、しかもいきなり友達になろうなんて言われて…思わず…」

「どんなラッキースケベしたんだか知らないけどあの九尾ちゃんだぞ?今や1組のアイドルだぞ?そんな娘の誘いを断るなど…など…羨ましぃぃぃ!!」

「それ違くない?!何か意味違くない?!」


柊真の私怨も混ざり説教は1時間続いた。

「とにかくだ。明日ちゃんと謝れ、そしてお前の口から友達になってくださいって言え!」

「それはハードル高…」

「言え。」

「わ、分かったよ…分かったからそんなに怖い顔しないで!」


ようやく説教が終わり、柊真はズンズンと自宅へ引いていく。


「でも、どうやって謝ろう…?」


翌日。

美春が席に着くと、前からギャーギャーと声がする


「やっぱ無理…柊真渡してきて…」

「ふざけんな!今来たんだから行ってこい!!」


昨日かくかくしかじかな事があった真柴愁が恐る恐るこちらへ歩み寄ってくる。


「九尾さん…その、昨日はごめんなさい。びっくりしちゃって…何したらいいか分からんなかったから…これ!」


愁が取り出したのは、いなり寿司の入ったタッパーだった。


「これ…作ってくれたの?」

「うん…朝起きて作ってみた。やっぱりこれがいいのかなと思って…」

「おい、まだ大事なこと言ってないぞ?」


後ろから柊真が愁の背中を叩く


「分かってるよ…えっと九尾さん。」

「はい?」

「僕と、友達になって…くだしゃい…あっ」


一番大事なところで噛んでしまった。


かなり恥ずかしいのだが、後ろからクスクスと一人の男の笑い声が聞こえる。


「ブッアッハハハハハハハハハハハ!おい愁!それはいくら何でも…クッ…」

「笑いすぎだよ柊真!」


「プフッ…」

「九尾さんまで…!」

「ごめんなさい…面白くって…私こそよろしくね、愁くん!」


初めて、柊真以外の友達ができた


嬉しい、けどいきなり異性の、しかもかなり可愛い娘に名前呼びされてしまった…

再び思考回路はオーバーヒートを始める。


「げ、限界…」

愁はその場でバタリと倒れてしまう。


「愁ーーーーー?!しっかりしろーーーーー!」

「愁くん?!」


その後、愁は早退した。


「九尾ちゃん、とりあえず名前呼びはもう少し時間を置いてからにしてあげてくれ。」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」





その日の帰り。


「おーい愁。生きてるかー?」

柊真はわざわざ愁のお見舞いに行った。

最早からかいたいだけだが


「何だ、来たんだ柊真。」

「まさか熱出して早退するとはな…九尾ちゃんも心配してたぞ?」

「あっそ…」


無言で部屋へ招き入れ、勉強机に腰掛ける。


「実はな…九尾ちゃんにお前のこと色々聞かれたんだよ。」

「で、なんて言ったの?」

「ぼっち主義のむっつり野郎って言っといた。」

「ちょ…」

「冗談だよ、ありのまま言っといたぜ。」

「…」

「何だ、嬉しくないのか?」


愁は今まで感じたことのない感情に、気持ちを持て余している。


「何か、不思議な感じなんだ。柊真以外の友達ができたってのもあるけど…とにかく頭に血が昇って訳わかんないまま倒れた。」

「俺はお前以上に人格構造を知りたい人間はいねえよ。」

「だって…女の子にああやって声かけられるの初めてだし…」

「恋愛の先輩から言わせてもらえば、これはチャンスだ。ゴールデンウィーク辺りが距離を縮めるチャンスだ!」

「恋愛感情とは違うよ。」

「嘘つけ!完ッッ全に意識してんだろ!」

「違うし。」

「いい加減素直に…」

「追い出すよ?」


おもむろにベッドから取り出した週刊マンガ雑誌を振りかざす。


「えぇー。俺見舞いにきただけなのに!」

「ならさっさと帰ってよ。」

「へいへい、明日はちゃんと来いよ?九尾ちゃんが待ってるぞ〜」

「うるさい。」


マンガを投げつけて柊真を力ずくで追い出す。


「ありゃ自分でも気づいてないか…ここは親友の俺が、ひと肌脱ぎますかね〜」


こちらも帰り道。

九尾美春と長澤夏希は2人で帰っていた。


「なっちゃんなっちゃん!私友達できたよ!男の子の!」

美春の朗報に夏希は思わず立ち止まる。


「え、美春が男友達?!」

「うん♪」

「騙されてんじゃないの?」

「そんな事無いよ!しゅ…真柴くんはいい人だよ!お稲荷さん作ってきてくれたんだよ!」

「お、器用な人だね〜惚れちゃった?」

「ほ…ほ?」


考えたことも無かった。


まず私はレンアイという概念が全く無い

だから惚れたのなんだと言われても、ピンと来ないのだ。


「まったく男として見てなかったって顔だな。まったく世話が焼ける娘だねアンタは。」

「なっちゃん顔が変だよ!」

「う、うるさいな!それより、このアタシが値踏みしてやるよ。真柴なんとかくんが美春の旦那になれるかどうか!」

「愁くんね。」


柊真と夏希の思惑が重なり、ある計画が完成することになる。


その翌日、昼休み。


「真柴愁ってどいつだー!!」


夏希が叫びながら1組へ入ってくる。

残念ながら愁は自分の席で夢の中だった


「キミは確か、2組の長澤だったよね?うちの真柴に何か用?」

すかさず柊真が対応する。


「うちの大事な妹分の旦那候補ってのを見たくてね〜で、どこよ?」

「妹…九尾ちゃんか?」

「そーそー。てかお前誰?」

「相河柊真。真柴の友達だよ。」

「で、真柴はどいつ?」

「話聞いてる?」


いまいち噛み合ってない2人を見つけて美春がすかさずフォローにいく


「なっちゃん!放課後に紹介するって言ったじゃん!」

「待つのめんどかったんだもん〜」

「アハハ。自由だなぁ〜」

「よく言われる!」

「柊真、何やってんの?」


何やら騒がしい空気を察した愁ご本人が登場してしまう。


「ちょ、愁!」

「し…真柴くん?!」

「お前が…真柴?」


少しつり目の、女子にしては身長の高い夏希が愁をジッと見つめる。


「…!」

殺気を感じたのか、すかさず柊真の後ろへ隠れる。


「…お前が…」

「ど、どう?なっちゃん…あ、真柴くん。この人が私の友達のなっちゃんで…」


間髪入れずに夏希が食い下がる。

「お前なんかに娘はやらーん!!」

「何これどういう状態?」

愁は空気を掴めずに柊真にすがる。


「簡単に説明すると、九尾ちゃんの友達が愁を値踏みにきて、大事な妹分を預けるかどうかの審査をしてるところ。」

「たった今落ちたぞ。」

「なっちゃん〜友達くらい好きにさせてよ〜」

「し、しかし…美春を危険に晒すわけには…」

「そこで、皆さんに提案がありまーっす!」


柊真が突然、高らかに声を上げる。


「提案?」

「皆さんの親睦会も含めて、GWにお泊まり会でもしませんか?」

「はあ?てことは美春が一つ屋根の下、男2人に…?危険すぎるだろ!」

「そうなりますね〜」


こうなった柊真は留まるところを知らない。


「私は賛成なんだけど…何で危ないの?」

「えっ…えっと、襲われるかもしれないんだぞ?」

「おそ…真柴くんと柊真くんは何もしないと思うよ?」

「えっとだな〜…美春が…」


夏希の良からぬ妄想が駆け巡る。

その顔を愁がジト目で見つめる


「くっそ〜こうなったらアタシも参加するぞ!!えっと、シュウマ!」

「いいね夏希ちゃん〜あと俺トウマね。愁と混ざってるぞ。」

「反対。」

「やっぱそう来たか。だが今回は少数派の意見は消すぞ!」


愁の無愛想な表情は不機嫌さをまとって一層怖い顔になる。


「少数派意見の尊重…」

「うるせえ!とりあえず決定な!」

「楽しみだね、真柴くん!」


柊真のなにか企んでる感じは拭えないが、せっかく九尾さんが乗り気だからしょうがない…


「もう…しょうがないなぁ…」


5月上旬、GW

波乱のお泊まり会の幕が切って落とさせる!

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