もう一歩足りない
「寒っ・・・・・・」
真夏だというのに日没を迎えた野球場は寒く、防寒対策は何もされていないベンチに座っている俺は、ただ寒気と格闘することしかできなかった。
早く終わって欲しい。
それしか、もう俺の頭にはない。
グラウンドでは九人の部員達が相手校の選手と試合をしている。スコアは〇-七。大差を付けられたものだな、と僕は他人事のように思う。まあ実際、他人事だし。
応援席では下級生や保護者が大声で仲間達を応援している。それで何が変わるという訳でもないのに。
まあ、そんなことはどうでも良いんだ。問題はこの後。俺はその理不尽に、既に気が滅入ってしまう。
――あー、負けちまった。
とか悔しがる仲間に、残念だったね、とか言っても、
――お前に何が分かるんだよ!
と怒鳴られる。
――お前等がちゃんと練習してねぇから、うちのチームは弱いんだよ。
とか言われるかも知れない。
――本当は試合に出たくないんだけどなぁ。他の奴等が頼りねぇから。
なんて言うクラスメイトに、ヘコヘコしないといけないかもしれない。
「あぁ・・・・・・」
また、うちのチームが失点をした。〇-八。そうして、さらにうちのレギュラーが不機嫌になっていく。
「今日、帰れるは何時かな」
多分、今日の部会は永くなる。本気で嫌だ。
分かっているさ。
こんな辛さは、レギュラーになってしまえば感じずにすむ。でも、俺はレギュラーになることなんてできない。
負けてはいるものの、あいつ等に俺が適う訳がないんだ。
だから今日も、俺は自分の辛さを自分の中にだけ詰め込んで、今日一日を乗り切らなくてはならない。
一日一日を生きること。
その辛さは多分、グラウンドを走り回るレギュラー達には分からない。
息を吸って吐く。
それがどれほどまでに辛いことか。