心の奥で、君を想う
勢いだけで書き上げたものですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
「幸せになってください」
菫色の瞳に哀しみを湛え、それでも彼女は優しく微笑む。
顔をあげ、凛と前を向き、自らの感情をこらえるようにきつく拳を握りしめーーそれでも笑い、幸福を祈る。
誰よりも大切な、愛しい愛しい少女。
もう二度と誰にも傷つけられないように、この手で守りたかいったただひとつの存在。
それなのに自分が傷つけた。
無条件に向けられる信頼を、愛情を、重荷に感じて踏みにじった。彼女とは正反対の存在に、心を惹かれて盲目になることで。
泣かせたかった訳じゃないのに。一緒にいられる穏やか時間を、失いたかった訳じゃないのに。私の愚かな行動が、彼女の心を苦しめた。
だからこれはきっと罰だ。
自分自身の心にすら、気付けなかった私への罰だ。
「今までわたくしを守ってくださった分、今度はわたくしが祈ります。出来ることがあればお手伝いいたします。だからどうかーー」
幸せになってください。
告げられた言葉は別れの合図。共に歩むはずだった未来に対する、決別の言葉。
彼女はもう決意してしまった。
繋いでいた手を離すことを。私の愛を諦めることを。私への愛を捨て去ることを。
丁寧に一礼して去って行く背中を見送りながら、私はきつく唇を噛みしめた。
彼女の最後の願いが私の幸福だというのなら、幸せになる。なってみせる。これから先、何を得ても失っても、選んだ道を後悔はしない。
いつか誰かと家族を作り、子を育み、寿命を迎えるその日まで、きっと笑って過ごしてみせる。
ーーそれでも、ふとした時、眼裏をよぎるのは白い面影。柔らかく微笑む菫の瞳。名前を呼ぶ優しい声と、掌を包んだ小さな手。
確信のように自覚した。
どれだけ時間が流れても、私はきっと誰にも見せない心の奥底で、彼女のことを想うだろう。
イメージとしては乙女ゲームのライバル令嬢と婚約者の関係。
令嬢(仮)視点のお話も書いてみたい気もします。