旅立ちの時
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そして30分くらい経った頃。俺とフィアナは大勢の召し使いや大臣に囲まれ、王の間の中心に立っていた。
何でも、ここから魔方陣を使った瞬間移動魔法でパンデモニウムの外へ俺達を送り出すらしい。行き先は────不明。
その理由を先程フィアナに問い質したところ、「旅の始まりは決まってない方が面白いだろう?」とのこと。ポ○モンとかやるときは片手に攻略本必須の俺にとっては危なっかしくて仕方がない。
フィアナ曰く、「底なし沼のど真ん中とか超高い山脈の頂きとかドラゴンの巣とかそんな危険な所には飛ばないから安心しろ」との事だが、そういう問題じゃねぇ!!
何て言うか…………こう……よくわかんねぇけど乗り気じゃねぇ!!
例えるなら、ほら…………あれだ! 500発空砲装填されたマシンガンでやるロシアンルーレットみたいなもんだ!
当たる確率が非常に高いが、本当に運が悪ければあの世行き。
退くにしろ挑戦するにしろ、かなりの慎重さが問われる。
だが、ここまで来てしまったからにはもう後戻り出来ない。
こんな大勢の前で「転送魔法は嫌だ! 俺達は歩いていくっ!!」なんて言える勇気、俺にはありません。恥かいて穴の中入ります。
──更に俺にはこの場に1つの敵があった。
「何を緊張しているのだソウマ。ただの転送魔法だぞ? 心配はない」
「あのな……こちとら大勢の前では極端な騰がり症なんだよ……! こんな大勢に周りから見られて今超恥ずかしいんだよ……!」
──そう。俺、霧風ソウマは前述した通り極端な騰がり症。昔っから壇上に立って発表なんかをするときは発狂寸前で事を終えていた。その為、学校での文化祭の劇の時は確実に裏方を担っていた。
いや、裏方いいよ裏方。だって舞台上で演技をする演者達を音楽や光で際立たせるんだよ? それ故、裏方は影の主役と巷で言われることもある。そんな大役をやってられた俺って幸運!
でも、その裏返しで更に騰がり症は悪化。おかげで今この有り様だ。
「ふむ……なら早く終わらせた方がいいな。皆の者! これより我らは旅に出る。王宮魔導士、魔方陣の起動を!」
「「……はっ!!」」
フィアナの号令が下ると、大臣達の中から6人、俺達の周りに杖を突き立てる。格好が明らかにブラッ○・マジ○ャンなので、フィアナの言う通り王宮に仕える魔導士なのだろう。
──だが、全員人間ではない。
フードで顔は見えにくいが、よく見ると馬面だったり牛面だったり。中には蠅頭もいた。
恐らく彼らは人6割その他の動物4割という感じの悪魔なのだろう。日本でいう牛頭馬頭みたいな奴らだ。
と、その魔導士達が何やらブツブツと呟き始めると、6人を頂点としたペンタグラムが俺達を中心に輝き始める。
更に魔導士達が杖を再び床に突き立てると、その頂点を結ぶように円が輝き、光の粒子が生まれ始めた。
おー、リアルなファンタジーっぽいじゃないですかこれ! これこそ魔法!
「そろそろ転送が始まる。ソウマ、私と手を繋げ」
「え、何で?」
「転送先で離れ離れは嫌だからな。それに──」
俯いて頬を染め、フィアナが一言。
「──お前は私の付き人であろう?」
ぎゅっ。
その言葉と同時に、右手に伝わる暖かく柔らかい感触。
──フィアナが俺の手を優しく握っていた。
ここまでされたら、することは決まってる。
──ぎゅっ。
俺は、フィアナの手を優しく握り返した。
それと同時に光の奔流が激しくなる。どうやら時間だ。
申し訳程度の荷物が入ったリュックと、同じく申し訳程度の荷物が入ったポーチを俺達はそれぞれ持つと、奔流に任せるように眼を閉じる。
「「行ってらっしゃいませ! 魔王様、ソウマ様っ!!」」
大勢のメイドと大臣達の送別の言葉を聞き届けると、俺は一瞬の浮遊感を感じる。
少し前に感じた、空を落ちる感覚とはまた違った──言うなれば天使に抱えられ、空を舞うような、そんな感覚。
実際隣にいるのは魔王だが、そんなことは関係ない。
何故なら彼女は──
──天使のように美しいのだから。
そして俺達は、暫しの間、意識を手放した。