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少女の追憶


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 △ △ △ △ △ △



 ──時は20時間前に遡る。


 リカルデ郊外から少しばかり離れた森。人を殆ど寄せ付けないこの森の中、唯一存在する岩壁に空いた洞窟内に、幾多の人間が集まっていた。

 その殆ど、と言うより「一人」を残して全てが男。

 その男達は、壁にもたれ掛かるその「一人」を心配気な視線で見つめて取り囲んでいる。

 小さい影の「一人」は膝を抱えて踞り、ただただ涙を流していた。

「お、お頭ぁ……。大丈夫ですか?」

 様子を窺おうとしたのか近くにいた取り巻きの一人が手を近付けるが、お頭と呼ばれたその「少女」は乱暴にその手を振り払う。

 着ている服はどう足掻いても彼女の体型に合わない。首回りは少女の肩に迫るほど広がり、最早胸すら隠せていない。服自体が上だけで少女の身体をすっぽり覆い尽くす程大きい為か、下は履いていないように見える。まるで父親の服をきた娘だ。

 他を全て拒絶するように踞る少女は、更にその身を縮みこませる。既に足元の土は少女の流した涙で一面が濡れており、どれ程長い時間少女が泣いているかを容易に想像させる。

「うっ…………えぐっ……ひぐっ……!」

 ──どうしてこんなにも心がクシャクシャなのか。

 ──どうしてこんなにも泣かなければならないのか。

 ──どうしてこんなにも悔しいのか。

 ──どうして悔しさが湧いてくるのか。



 ──何故なのか。



「なんで『おれ』が…………こんな……娘っ子のからだに……。しこうや……かんじょうまで…………ほとんど……おんな……なんて……」

 ──ほんの数時間前まで、「俺」は男だった。盗賊のリーダーやって好き勝手略奪し、人は殺し女は襲い、仲間と毎晩酒飲んでドンチャンして。

 ──そんな日常が、まさかあんな二人組をターゲットにしたことで変わるなんて。

 ──「俺」には想像すらしなかった。

「ちくしょう……これは…………いままでのつみの……むくい……なのか……よ?」

 ──罪がなんだ。罪だからなんだっていうんだ。

 ──俺はただ欲望に身を任せて生きてきただけ。

 ──誰がなんと言おうと、俺の中では罪ではない。



 ──だが、それも、もう、戻れない。



 少女の思考がその答えに辿り着いた瞬間、少女はある決心をした。

「…………おい」

「な、なんですかお頭ぁっ!?」

 今まで拒絶されていた少女に突然声を掛けられ、部下の一人がすっとんきょうな声で返事を返す。

「このまえ商人の荷物うばったとき、いろいろ服があったな。それ、ぜんぶもってこい」

「わ、わかりやしたぁ!!」

 部下への命令は基本絶対。部下は大急ぎで洞窟の奥に消え、数秒もしないうちに大量の服を抱えて戻ってきた。

「よし、お前ら全員うしろむけ」

「へ? お頭、一体なにする気で?」

「きがえる」

「「「寧ろ拝ませてくださいっ!!!!」」」

「おがんだ奴ら全員にきんてきだからな?」

 少女の着替えというシチュエーションに呼応して、涙を長し懇願する部下達であったが、頭のその言葉を聞いて全員が勢いよく後ろを向いた。よほど悶絶したく無いらしい。

 全員が後ろを向いた事を確認すると、少女はするすると纏っていた服を脱ぎ捨てて、一糸纏わぬ姿になる。

「(…………身体の割に胸デケぇな)」

 少女が自分の身体を見ての第一印象はそれだった。

 見かけは10歳くらいの少女なのに、胸だけは一丁前にデカい。小振りな自分の手でも鷲掴み出来る。

 下はもちろん無かった。当たり前だ。こんな身体でブツが付いてたら真っ先に気が狂う。

 少女は一通り身体の鑑賞を終えると、地面に山積みされた服に手を伸ばす。無論、自分の服を見つける為だ。

 しかしどれもこれも大きい。手に掴むもの全てが大人用。自分に合うサイズが中々見つからない。

 それでも根気よく探し続け、ようやく一着だけ見つけることが出来た。

 それは、フリル付きの白いワンピース。スカート丈は短めなので、動きが命の少女にはぴったりであった。

 しかし、元々男なだけに着るのに躊躇してしまう。まるで女装初体験だ。しかも女物の下着は一切無いのでノーブラノーパン。恥ずかしくて仕方がない。

 だが妥協するのも覚悟の一つ。ふっ切って少女はワンピースを着始める。

 ついでに見つけた可愛らしい赤ずきんを着ければ、可愛い女の子の出来上がり。

「よし、もういいぞ」

 ──ぶしっ。

 部下達を振り向かせた瞬間、8割が鼻血を吹き出して気絶した。他2割も、目を丸くしてこちらを凝視しており、いつ倒れてもおかしく無さそうだ。

「お前ら。俺はきょうかぎりで盗賊をやめる」

「なっ!? いきなり何言い出すんですかお頭!?」

「お頭なんてよぶな。俺はもうただのおんな、盗賊なんてやれねぇ。きぜつした奴らにもつたえとけ」

「お、お頭ぁっ!?」

 部下達の声を少女は聞くことは無かった。

 少女は愛用の武器──ショートブロートを手に取ると、部下達の声に耳を貸すこと無く森へと駆けていった。

 ──もう、俺がすることは決まっている。

 少女は駆ける。ただ駆ける。



 ────復讐の為。



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