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スマホを受け取って、乱入

「んじゃ、しばらく待つとするか……」

 座っているソファーに大きく腕を広げると、伸びをして一息つく。今日は朝からフィアナと風呂に入ったりで、昨日の分も含めて疲労がピークに達していた。おまけに飯も食っていないので空腹もヤバい。最悪食うための体力を温存しておかなければ。

 喉も少し渇いていたので、お冷やを一気に煽る。瞬間、かき氷を食べたときのあの痛みがこめかみを襲う。あぁ……異世界でもこの痛みはあるのか。久し振りだからガチで痛い。

 痛みを紛らそうと外の景色を眺めると、通りを行き交う大勢の人々が目に留まる。

 如何にも異世界、といえる服装の人間が視界のあちらこちらで各々の動きをしていた。

 魚屋だろうか、店の先に多くの魚を広げて買い物途中のご婦人達を呼び止める捻り鉢巻きの男性。呼び止めたご婦人達に新鮮そうな魚を満面の笑顔で見せている。朝からテンション高いねぇ。

 視線を少しずらすと、その先で若い男性と女性が地面に広がった紙を拾い集めていた。どうやらぶつかって撒き散らしてしまった男性の書類か何かを一緒に拾ってるようだ。と、二人の手が同じ紙を掴み、お互い慌てて手を離してペコペコと謝っている。因みにお互い赤面していた。きっとああいうことからリア充が誕生するんだな、うん。

 そうしていると、ふと、一匹の鳩が窓際に飛んできた。しかし、普通の鳩じゃない。

 通常なら灰色と白のツートンな体色が、こいつは真っ黒。俗にいうカラスバトだ。

「へぇ、カラスバトか。珍しいもんだな」

「え、カラスバトって普通にそこら辺飛んでるじゃん。別に珍しくもなんともないよ?」

 その発言に、俺は衝撃を受けた。カラスバトが珍しくもなんともないだと? 寝言言ってんじゃねぇよ。

 元の世界の日本では、カラスバトは九州の南のごく一部や離島にしか棲息していない珍しい鳩。その稀少さ故に天然記念物に指定されている程だ。天然記念物の鳩と言えば、他にもシラコバトやニジバトなんかがいたはず。

 それがヴァルシュエルには普通に棲息しているだと!? 元の世界の生物学者がいたら、手土産に100匹ほど持たせてやりたいな。

「ってあれ……? こいつ、何か首に付いてるぞ?」

 今になって気づいたが、よく見るとカラスバトの首に紐のようなものが掛かっており、それが背中の袋に結ばれていた。

 袋はそれほど大きくなく、精々カラスバトの背中程の大きさだ。

「あ、もしかして!?」

 それを見て何か思い当たる節があったのか、フィアナは駆け足で店の外に出ていった。

 向かうのはもちろんカラスバトのいる窓際。

 フィアナはカラスバトに近付くと、首に掛かったその袋を取った。不思議なことに、カラスバトは逃げる素振りを見せない。まるでフィアナになついているかのようだ。

 カラスバトが飛び去ると、フィアナは店内に戻ってきた。

「一体何だったんだよ」

「いやぁ、実はあのカラスバト、サンジェルマンの飼ってるやつで、ヴァルシュエル用にチューンアップしてもらっていたソウマのスマホ届けにきたみたい」

「何っ!? スマホだと!?」

 俺はその言葉に一種の衝撃を覚え、フィアナの持っている袋を強奪した。

 中身を見ると、そこには充電器と共に愛しき我がスマホが。

 早速立ち上げて状態を確認すると、ほとんど変わっている所はなかった。強いて言えば、ワンセグのアプリが消えてラジオアプリが入っていたこと。この世界の情報源は新聞とラジオ+αらしい。

 しかしそんなことよりっ!! これで俺に「暇」の文字は無くなったっ!! 

 暇になりそうな時は、図鑑アプリでも入れて閲覧したり、その他エトセトラで暇なんか幾らでも潰せる。

 ビバ、暇潰しっ!!

 しかもよく見ると、ヴァルシュエル製と思われるゲームアプリが入っていた。通話とメールの送受信しか出来ない設定仕事しろ。

「あ、一緒に付いてたメモに書いてあったけど、『ソウマ様の世界のゲームを参考に、お粗末ながらゲームアプリという物を作ってみました』、だって」

「なんかクソゲーしか出来てない気がするぞ……」

 しかし厚意を無駄にするのも良くないので、早速遊んで見ることに。

 慣れた手付きで画面をスライドさせると、件のゲームアプリをタップする。

 ──貴方も私もニーート♪

 タイトル画面が出ると同時に、そんな空耳が脳内再生される音楽が流れる。

 そしてあろうことかタイトルも友人マ○オでお馴染みのあのゲームに超酷似。このゲームのシンクロ率、300%を越えています!

 半ば呆然としてスタートボタンをタップすると、どこかでみたようなマップ画面に。

 画面端に表示されている十字キーを操作して、取り合えず右端のステージに。案の定でっ○いうの家。

 メッセージブロックがあるので叩いてみる。

 ──あきらめたら?

 そんなメッセージが、諦めたらそこで試合終了な男性のAAと共に表示された。アンインストールするぞこの野郎。

 だが怒っていては始まらない。マップ画面に戻ると、別れ道を戻り左のステージに。

 プレイヤーの残り数が表示され、ようやくスタート。

 ──テケテケ↑テケテケ↑テケテケ↑テケテケ↑テン↓、ドン↑!

 開始直後、5連ダァ○ラーに正面衝突。敢えなく一機失った。

 何故にこの鬼畜ゲームをチョイスしたしオッサン……。

 きっと、ニ○動のアプリのマイリストに入ってた「あの動画」を見てそのままパロったに違いない。ドSか貴様。

 まぁ、丁度いい暇潰しにはなるか。難しくて全クリまでにはかなりの時間を要すだろうから、そう簡単には飽きないだろ。難しいゲームはこういうのに重宝するのだ。

「どう、ソウマ?」

「まぁ……いいんじゃないか? 使い勝手も前と変わらないし、持ってないよりは遥かにマシだな」

「ならよかった。あ、そうそう。電話帳開いてみて」

「電話帳?」

 ゲームを終了させランチャーをスライドさせると、言われた通り電話帳を開く。

 しかし、変わった様子は特に見られない。登録されている人物の名前も変わ────っていた。

 ハ行のリストに、名前が1つ増えている。


 フィアナ。


「サンジェルマンに頼んで入れて貰ったの。これでいつでも連絡出来るよね?」

「────ははっ、その通りだな」

 フィアナが見せる笑顔に、俺も自然と笑いが込み上げる。

 そうだ、元の世界の恋人同士のやり取りで欠かせない事を忘れていた。

 ──電話番号の交換。

「じゃあ、僕の電話番号も渡しとかなきゃな」

「えへへ……。そうこなくっちゃ!」

「フィアナが取り出したスマホにこちらのそれを向けると、赤外線通信を作動させる。

 ピロン♪

 そんな音がして、フィアナに自分の電話番号が転送された。

「これで、本当にいつでも連絡できる。二人がどこにいても──だ」

「うん、そうだね……ソウマ」

 互いの顔を確認すると、俺達ははにかんで笑い始めた。そう、これが一番いい。俺にとって一番だ。

 守りたい、この笑顔。

 そう心で呟き、お冷やに手を伸ばした──

 ──時だった。


 ゴッシャァァァァァァァァァァァンッ!!!!


 突如、先程まで眺めていた窓ガラスが勢いよく粉砕された。

  ──きゃあああああっ!?

 店内に女性の悲鳴が響き渡り、辺りが緊迫した空気に包まれる。

 飛び散る硝子片から咄嗟にフィアナを守ると、同時に1つの影が机に飛び込んでくる。

 こちらを見下ろすその姿は──


「…………見つけたぞ」


 ──赤ずきんを被った少女だった。


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