宿に入りました。
先に駆け出したフィアナを追って俺も駆け出す。
姿を見失いかけながらも何とか追い掛け、十数秒後には爺さんの宿屋の前にたどり着いた。
と、丁度爺さんも鍵を持って自宅から出てきた。
「おぉ、お二方。無事に金は作れましたかな?」
「いや、無事にと言ったら無事なんですが……ある意味無事じゃなかったですね」
俺の話を聴いて、老人は、なんのこっちゃ、と言いたげな顔で首を傾げた。
いや、俺的にも頑張って説明しようと思ったよ? だって、「50万手に入れるつもりが800万手に入っちゃいましたてへぺろ♪」なんて言った日にはきっと爺さん入れ歯すっ飛ばして腰抜かすだろうから言えるわけがないから、安全に説明するならうやむやにしてしまった方がまだましな気が微レ存。
俺の為じゃなく、爺さんの為なら誤魔化せる!
…………はい、何言ってるか意味不明ですよね、ごめんなさい。
「まぁ詮索はせんが……とにかく金が出来たのなら結果オーライじゃな。ほれ、シングル一泊食事付き二人分で3000エルじゃ。お代は明日で構わんぞ」
「おっと、ありがとさん」
爺さんから投げ渡された鍵を受け取ると部屋の番号を確認しておく。書かれていたのは、753の三文字。何故か吸血鬼をモチーフにした仮○ライ○ーを思い出した。
ぎゅっ。
と、フィアナが俺の腕にしがみついてきた。
こちらを見上げるその顔は、何か初めての事をしたいような──そんな表情をしていた。
「ほ、ほら、鍵も受け取ったならさっさと荷物置いて出掛けるぞ。あと今日は汗をいっぱいかいたからシャワー浴びてから出掛けるぞ!」
「分かってるって。俺は付き人、行動の決定権は持ってないからお前がしたいようにしてくれ」
「おぉ、それもそうだったな。御老人、753号室は何階ですか?」
「あ、それなら宿泊棟の三階じゃ。ほれ、あそこの」
爺さんが指差したのは、宿泊棟三階の左から2つ目の部屋だった。よく見ると他の部屋は既に人が入っているらしく、全て明かりが点いていた。
「飯は9時までに食堂に行けば食わせて貰えるから、遅れんようにな」
そう言い残すと、爺さんは自宅の中に入っていった。
そんな訳で俺達も部屋に向かうことに。
爺さんの自宅兼ロビーの中に入ると、案外しっかりとしたロビーだった。
申し訳程度の装飾、ガラスケースの中のスズメバチの巣、何故存在するのかは知らないがシーサーの置物と、何処か老舗旅館を彷彿とさせる。足下の床は何年も使われているせいか、一歩一歩踏みしめる度にギシギシと音を立てる。
そのまま渡り廊下を抜けて宿泊棟にたどり着くと、薄暗い階段を昇っていく。どうやら灯りとなるアルコールランプの中身が幾つか切れているせいらしかった。日が落ちかけている時間もあって、一層不気味に感じる。
「ううっ……! ちょっと……怖いな……」
「なんで魔王が幽霊とかお化けを怖がるんだよ。そういうのはお前たちの仲間だろうから普通逆だろ?」
「あ、あのな……幽霊とかお化けとかは別に悪魔系統の類いじゃない……! それに我も魔王とはいえ女。そんなのが怖いのは当然だ!」
あ、やっぱ魔王といっても魑魅魍魎も恥じらう乙女なんですね。
しかし千里の道も一歩からとはよく言うものだ。話してるうちに部屋に着いた。
さて、宿の部屋はどんな感じかなーっと。