鑑定額が想像の斜め上いきました。
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「────えっと、こちらがお客様の延べ棒の買い取り金額となります……」
震える手で両替商の主人が差し出した紙を受け取ると、フィアナと金額を確認する。
リカルデに着く前にフィアナが大雑把に割り出した値は一本約50万エル。要するにそのくらいあれば俺達二人は文句ない訳で。
まぁ50万もあったらしばらくは安心して暮らせるな。宿に泊まって飯食って、あと武器揃えて。
果たして鑑定は────!?
じゃかじゃん。
「「………………………………………へ?」」
──えっと、ちょっと待ってよ?
俺達が出したの11本の内の1本だよな?
間違っても11本全部じゃないよな?
そして一番左に付いてるの8だよね? 6が汚れたとかじゃないよね?
そんでもって0の数は、一……十……百…………………………百万。
ようするにこの延べ棒一本で──
──800万エル。
「あの……これ鑑定ミスってこと無いですよね?」
まさかとは思うがちょっと尋ねてみる。
「はい、間違いなく。その金額は延べ棒一本の金額でございます」
やっぱプロの人凄いなぁ。
──って違う、そうじゃないっ!!
フィアナの見積もった50万エルを遥かに上回る800万エルっ!? 一体どこをどうしたらそうなった!? 千利休でも侘寂忘れて小判ばら蒔くぞ!?
もう一度紙を見直しても、そこに書かれているのは0が6個と8が1つ。要するに800万エル。
いや、確かに金が増えたのはラッキーだと思うよ? だって50万が16倍になったんだぞ? そんだけあれば数ヶ月は何もせずに暮らしていける!
──でも、そんな大金持ったことが無いのもまた然り。
「えー、お客様がお値段に納得していただければこちらにサイン──してますねもう」
主人が紙を差し出すと、次の瞬間にはそこにフィアナのフルネームが刻まれていた。こいつ、本当に迷いが無いな。いや、俺が金額に怖じ気付いてるだけか?
「では、こちらが800万エルになります」
「おぉ、すまないな」
主人がカウンターの奥から取り出した小さめのケースを、フィアナはお礼と共に受け取った。
中身を見ると、テレビのドラマ等で見かけるように札束が詰まっていた。1つ分の厚さも(多分)百万円のそれと同じだったので、それが8つで800万。間違いはない。
というより、この際2~3万位少なくても別に構わない。こんなにあったら足りないのも無いようなものだ。某アヒルの老人は断固許さないだろうな、多分。
「いや、それにしても……。私も長いこと両替商を営んでますけど、金の延べ棒持ち込んできたのはお二人が初めてですよ。生憎取り乱してしまうところでした」
「いや、こっちも鑑定額が想像の斜め上行ってたんで驚きました。僕ら的には50万くらいが妥当かな──って思ったのに、それが800万ですからね」
「いえ、一週間前まではそのくらいのレートだったんですがね、首都のジラントの方の催しで金を大量に使うらしくて、それでここいら西一帯の金がほとんど首都に流れて……。それでも向こうはまだ足りないらしく、盛んに金の需要が増えてレートが高騰。たった一週間で価値が16倍という有り様ですよ」
なるほど、これはナイスなタイミングで催しが起こってくれたものだ。
しかし西一帯の金を使っても足りない程の催しって何なんだ? 機会があれば首都に寄って見てみたい。
ケースの中の金を全部フィアナの財布(札束8つ入れても全く膨らまない謎設計)にぶち込むと、俺達は主人に一礼して両替商を後にした。
「さて、御老人から鍵を受け取ったら早速デートに行くぞ」
「分かってるよ。何べんも言わなくても忘れるわけ無いだろ」
「だろうな。ソウマと我の初デートなのだから、当たり前だ」
上目使いでこちらを見上げるフィアナの視線。
──殺人級だ…………っ!!
魔王らしからぬ可愛らしい笑顔。その視線と笑顔がこちらに向けられる度、俺は何故か眼を剃らしてしまう。嫌な訳ではない。本当に何故か──だ。
教えてくれ、フィアナ。俺はあと何回お前とお前の笑顔に萌えなければならない……。俺の脳は何も答えてくれない……。
「何を黙っている? 御老人を待たせる訳にはいかないから、早く行くぞ!」
「なっ……ちょっと待てよフィアナ!?」
今回初めて自作の挿絵を入れてみました。
背景が手抜きなのは作者の技量不足ですm(__)m