宿確保
「それにしてもお二方、よくこの町──リカルデに辿り着いたのぅ。この辺りは盗賊が多くて、そうそう無事に辿り着ける者がおらんのだが……」
「盗賊? それなら俺達も襲われましたけど、簡単に追っ払えましたよ?」
「ほほぅ、盗賊を追い返すとは……。中々に腕の立つ付き人に恵まれたのぅ、お嬢さん」
「当たり前だ。ソウマは我が選んだ付き人。盗賊くらい、追っ払うのは朝飯前だ」
あの、その盗賊を追い返せた腕は貴女が分けてくれたんだよな、フィアナ?
あくまで実力(借り物)のある俺を選んだ自分を誇張したいのか、それとも俺の実力を鼓舞したいのかどっちなんだよ。
まぁそんな疑問も、こちらに投げ掛けられるフィアナの笑顔で何処吹く風なんだが。
しかし老人の口から出たが、この町は「リカルデ」と言うのか。
俺とフィアナにとって、この町が所謂「始まりの町」になるわけだ。
「ほっほっほっ、それは頼もしそうじゃな。では、お嬢さんを守るために武器もいるじゃろう──若いの」
「正直、武器は欲しいですね。盗賊も拳だけで戦わざるを得ませんでしたから」
いや、分かってる。フィアナのやつは俺に武器を渡すつもりなんだ。しかし、敢えて武器を渡さない事で俺のレベルアップを計って、そうして苦労する俺をほくそ笑む気なんだこいつは。
どこまで俺を楽しむ気なんだ。
「──なるほど。では、いい武器を売ってる店を紹介するから明日にでも行ってみるといい。あの店はいい店だ」
「あ、ご親切にありがとうございます……」
「構わんよぉ。元気な子供と旅人を見るのが儂は好きだからな。だからこそ旅人を手助けするのは──おっと、もう着いたか」
老人が足を止め右手の方を見ると、そこにはこじんまりとした一軒家が立っていた。周りの家と比べると些か小さいが、この老人が一人住むには丁度いいだろう。
「ここが儂の家じゃ。この時間帯以外は家に居るから、リカルデで分からないことがあったら遠慮なく来なさい。あ、いい忘れかけたが、両替商は向かいから右に4つ目の…………ほれ、あの店じゃ」
老人の指差す方を見ると、確かに向かいから右に4軒目に、でかでかと「両替」の文字の書かれた看板が。人が何人か出入りしているから、まだやってそうだ。
「お爺さん、案内ありがとうございました。このお礼はまたいつか……」
「いいよいいよ、気にせんで。あ、儂の家は宿もやって居るから良かったら泊まっていきなさい」
「えっ、お爺さんの家……宿屋何ですか?」
さっきも言ったが、老人の家はどうあがいても人が一人生活するくらいが妥当な敷地面積。とてもでは無いが宿屋には到底見えない。
「本当じゃよ。ほれ、そこに看板が立っとるじゃろ?」
老人が入り口横の壁を指差すと、そこには確かに──
《リカルデの宿 ~旅人達の止まり木~》
──の文字が。
すいません、看板小さくて見えませんでした……。
「…………失礼な事を聞くようですがご老人」
「なんじゃ?」
「ご老人のあの家の何処に人を泊めるスペースがあるので?」
フィアナがそう問うと、老人はローブの中から何やら紙を取り出し俺達の前に広げた。どうやら見取り図らしい。
「実はお嬢さんのように思う人が多いのじゃが……あの家は儂の住居兼受付で、その後ろのでかい建物と渡り廊下で繋がっておる。そっちが宿泊棟じゃ」
老人の言うことは正しいようで、受付兼住居の死角になって見えないが渡り廊下があり、その先は後ろの大きな建物に接続されている。
顔を上げて改めて見ると後ろの建物はそれなりに大きく、民宿や規模の小さい旅館程度はある。
これなら文句無しに宿と言えるな。
しかし、一番気になるのは──
──値段だ。
「お爺さん。お爺さんの宿って一泊幾らですか?」
意を決して老人に聞いてみる。
「儂の宿か? 儂の宿はシングルオンリー飯付きで2000エルじゃ」
「よし、戸々に泊まるぞソウマ」
俺が言い出すよりも早く、フィアナが即答していた。
「別にいいけど……予約出来ますか、お爺さん?」
「別に構わんが……。生憎部屋が1つしか今日は空いておらん。それでもよいか?」
じゃあなんでさっき泊まるのを勧めてきたんだよ。空いてる部屋が1つしか無いのなら、二人の俺達を泊めるに値しないと思うんだが。
しかしそんな俺とは裏腹に、フィアナは勝手に老人の出した紙に必要事項を書き込んでいた。
既にここに泊まるの決定なんですね。
「ほい、これでよいぞ。金は明日の朝でいいから、早く両替してきなさい。その間に、儂は鍵を取ってくるからの」
そう言い残し、老人は家の中に消えていった。
しかし料金を後払いとは、なんと気前が良いのだろうか。普通こう言うのは前払いなのに。
「よし、では早速両替商のところに行くぞ。そしてそのあとはソウマとデートだ!」
「お、おい待てって!」
意気揚々と両替商へ駆けていくフィアナの後ろ姿を、俺は追い掛けた。