アンブレラカード
昨日は風が強かったなー
春一番か?
「審査まであと一週間か」
「そうだな」
「大丈夫なのか?」
「まぁ、なんとかなるさ」
カイトはウィスキーを一舐する。今日のジャベリンは静かだ。それもそのはずで、客はカイト1人しかいない。
「銃ギルドは関門が狭いみたいだからな」
グラスを磨きながらパイクが言う。
「100人受けて5人通れば良いそうだ」
パイクから銃ギルドのことを聞いた日、カイトは試験について調べてみた。人気のギルド故かその門はなかなかに狭く、その合格率は5%未満ということだった。因みに、試験ではなく審査が正式な呼称だ。
「そんなに……。お前さん狩猟は自信ありそうだから良いが、問題は面接だろうなぁ」
「面接……?なんで」
「なんでって、お前さんの過去のことや、この国の歴史を聞かれるかも知れんのだぞ。俺も出来る限りのことは教えたが、それでも不安だよ」
面接は実技審査を通過した者が受ける最後の審査だ。しかし、当の本人はそんなに気にしていなかったりする。
(いざとなったら……なんとでもでっちあげるさ)
ふぅ、とため息をつきながらバイクはアンブレラカードをカイトに差し出しす。
「頼まれてたやつ。無茶はするなよ」
「ありがとう」
アンブレラカードは、簡単に言うと傘の原型がつまったカードだ。厚さは二センチ程で、下面にあるスイッチを押すと傘となる。
このカードの原理もトンクと同じくよく分からない。おそらく、毎日雨の降るこの国で生活に一番必要な傘に技術力を終結したのだろう。偉大な先人の結晶だ。
カード種類も様々だが、そのタイプは大きく分けると2つになる。1つは単に傘として使うもの、そしてもう1つは、トンクを嵌め込むと傘以外に変形するものだ。
今回パイクに用意して貰ったカードは、トンクスペースが3つあるタイプのカードだった。
「先に用意するとは、お前さんもなかなか大胆だな」
「ああ。受かったらすぐに使いたいからな」
銃のトンクはガンナートンクと言って、トンクスペースを3つ使用する必要がある。このカードと、今スカイウォーク用で使っているカードがカイトの武器となる。
「そういえば聞いたか?」
「何を?」
「2丁目先のフアナ婆さんが光無症にやられたそうだ」
「フアナ婆さんが?……そうか」
カイトの頭に老婆が浮かぶ。フアナ婆さんとは一度だけ話したことがあった。年齢の割に元気で、笑顔が素敵な婆さんだった。
「あんな元気だった人がなぁ。本当どうなってるんだろう」
「ハンネルさんはここ数年で急に増えたと言っていたな」
「そうだな、俺がガキの頃なんて光無症なんて聞いたこともなかったから」
「そうなのか?」
「ああ。いつぐらいからだろうな。ちょこちょこ聞くようになっていつの間にか光無症にかかるヤツが多くなった。その内大流行してもおかしくないだろうね」
カイトは視線を窓に向けた。外は相変わらずしとしと雨が降っている。
その後もカイトが席を立つまでの間、ジャベリンのドアベルは一度も鳴らなかった。
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