エピソード7 裏モード
Episode7
登場人物
濱平 万里:主人公
カイト:ヒーロー
夜、空を飛ぶのは少し楽しい。
そんなに高く飛ばないから、所々街の灯りが見える。
あの灯火の下に家族の団らんが有るのだろうかなんて空想してみたりする。
空飛ぶスクーター「フライングシューズ」はカイトと私を乗せて亜音速で闇を切って行く。 カイトは相変わらず眠りこんでいた。
やがて私も眠気に取り憑かれる。 どうにもこうにもって言う状態。
無理も無い、昨晩平位のアパートについてから一睡もしない内に出発して来たのだ。
2,3回船を漕いで、涎をすする。
気がつくと、ナビゲーションの赤い矢印から外れて明後日の方角に向かっていたりする。 結構居眠り飛行は危なそうな気がするので、一旦休憩する事にした。
スマホのマップを見ると、どうやら現在地点はタジキスタンの東の端あたり、もうすぐ中国に入る所。 下は殆ど民家もない真っ暗な山岳地帯、獣に襲われないか心配だが、ここら辺の国の情勢がよく分からないからとりあえず人気の無い場所を選んで着陸する。
カイト:「何、着いたん?」
カイト、起きる。
万里:「未だ、ちょっと寝させて。 …もう駄目、眠くて。」
スクーターを降りて、地べたに横になる。
もう、何でも構わない。
万里:「カイト、変な獣 出てこないか見てて…。」
カイト:「ねえちゃん、お弁当食べてもええ?」
私:「…zzz」
私、突然頭を押さえつけられる!
万里:「何?」
どれ位眠っていたのだろう、 数人の男が私とカイトを囲んでいた。
小銃の様な武器を…持っている。
万里:しまった!
カイトは!
二、三人の男と戦っている最中だった。
流石にカイトにかなう様な人間は居なさそうだった。 次々にカイトの体当たりでのされて行く。
私を押さえつけている男が何か叫んだ。
聞いた事の無い言葉だ。
私、人質に取られた訳ね…
カイト、なす術も無く降伏。
二人は別々の部屋に入れられる。
ランプ一つしか無い薄暗い、汚い部屋だ。 なんか妙な匂いもする。
立ったまま両手足を広げさせられた格好で縛られる。
万里:何か、こういうの前にも有った様な…
散々日本語で抗議申し立てするが、全く言葉が通じない。
やがて、部屋の中で一人きり放置された。
万里:「カイト! カイト、聞こえる?」
返事が無い。 それでもカイトが一緒なだけ、この前よりも心強い。
万里:早く助けに来てよ…。
やがて…太った汚いおっさんが入って来た。
何か訳わかんない言葉で上機嫌、 酒のグラスを持っている。
万里:「ちょっと、ほどきなさいよ!」
何か、ニヤニヤしながら話しかけて来るが、意味が分からない。
近づけた口臭が、信じられないくらい…臭い。
万里:「何なの、このおっさん、」
やがて、最も望んでいなかった展開が始まる 。
おっさん、酒のグラスをテーブルに置いて、ズボンの後ろポケットからナイフを取り出して、それもテーブルの上に置いて…、
万里:「ちょっと、何、待ちなさいよ!」
おっさん、近づいて来る。
万里:「くっさい…」
アンモニア臭?
とうとうそのおっさんが、私のブラウスに手をかける。
万里:「えっ、えっ! ちょっと、止め!」
身をよじって避けようとするが、おっさんは笑いながら私のブラウスのボタンを外して行く。
万里:「カイト! 助けて! 早く、やだ! 変態! 止めろ!」
すっかりブラウスのボタンは外されてアンダーシャツが丸出しになる。 おっさんは、二、三回、ぶつくさ言いながらシャツの襟元を引っ張っていたが…面倒くさくなったのか、ナイフを取り上げるとアンダーシャツを切り裂いた!
万里:「やだ! ちょっと、やめろ!」
恐怖でおののく私のいたいけな胸が、曝け出されてしまう…。
おっさん、何かぶつぶつ文句言ってる、怒ってる? ブラの紐を引っ張る!
万里:ああああぁ…やめろぉ…
おっさん、臭い顔を私の胸に近づけて…匂いを嗅いでいる。
当然、私、ガン泣き状態。
万里:やだ、こんなところで、こんなおっさんに犯されちゃうの?
私、唇が切れそうになるくらい噛み締める。
おっさん、続いてロングのスカートをたくし上げる。 やっぱり面倒くさくなったらしく、真ん中の部分をナイフで縦に切り裂く。
当然、ストッキングの下半身が露になる。
私、なんだかギャーギャー怒鳴っている。
おっさん、私が騒ぐのも一切無視してストッキングをつまんで剥がそうとする。 やはり面倒くさくなって、ナイフで切り裂いてしまう。
万里:「やだぁ…」
おっさん、とうとう私のパンツも、ナイフで切り取ってしまう。
もう…何も考えられない。 涙がにじんで…何も見えない。
おっさん、切り取った私のパンツの匂いを嗅いで笑っている。
万里:殺してやる…
おっさん、面白がって私の股間にナイフを当てる。
万里:殺してやる…
おっさん、私の毛を摘んで…
私の下半身に抱きついて、…そのまま、床に転がる。
自分の股間を押さえて何だか呻いている。
カイトが、後ろからおっさんの股間を思い切り蹴り上げたらしい…
万里:「カイトぉ…遅い〜!」
カイト:「ねえちゃん、ゴメン!」
カイト、いきなり血相を変える!
カイト:「ねえちん! 大丈夫か! 血い出てる!!」
さっき、おっさんがナイフを当てた所が少し切れたらしい…
万里:「えっ?」
カイト、一生懸命傷が無いか 私の股間を調べ始める。
万里:「ちょっと、…駄目、そこ…」
カイト、私のお股が切られたと思ってパニクってる?
カイト:「ぎゃぁ! たいへんや!! 裂けてもてる!!! なんかはみ出してる!!!!」
万里:「ひぃっ、見ないでぇ!」
私、魂抜けてる…
万里:「大丈夫ょぉ…、ちょっと血が出ただけだからぁぁ…」
取りあえず、スカート切られた所を横にずらしてチャイナっぽくする。 履き心地悪い。
それから、思いっきりおっさんの股間を蹴っ飛ばす!
おっさん:「がぁあ!」
もう一発、
おっさん:「ぐぉお!」
多分、カイトに蹴られた時点で潰れてる、だってじっとり股間が血でにじんでいる。 そこをもう一発だめ押しで蹴っ飛ばす。
おっさん:「…」
カイト:「ねえちゃんって、怖い…」
万里:「早く、スクーターを取り返さないと!」
建物の入り口迄抜け出すと、5,6人の男がスクーターを寄ってたかって調べてる。
カイト:「ねえちゃんはここに隠れてて…」
カイト、いきなり飛びだして、思いっきり男達をぶん殴り始めた。 鉄パイプで殴った様な音がして、男達は次々気を失う。
スクーカーの起動スイッチをONにするが…
万里:「スイッチが入らない!」
見ると、スマホが外されている。
恐らく、スマホが無いとエンジンがかからない様になっている。
何だか、数名が集まってる部屋をこっそり覗く。
万里:「テーブルの上見て」
小声でカイトに伝える。
男達が酒を飲んでいるテーブルの上に「フライングシューズ」のスマホが置いてある。
そのうちに、誰かが部屋に飛び込んで来る。 何だか判らない言葉で騒ぎ出す。 逃げたのがばれたらしい。
突然、肩を叩かれる。
ドキっ!として振り返ると、1人の若者が口に指を立てて静かにしろの合図。
どうやら、味方になってくれるらしい。
どこかにかくまってくれるつもりなのか、付いてこいと身振り手振り。
私も手振り身振りでスマホが必要だと伝える。 あのテーブルの上にある、と身振り手振り…
若者、危険だから駄目…と言ってるみたいな身振り手振り。 代わりにとって来てくれるらしい。
部屋の中はみんな逃げ出した私達を探しに出て行って、偉そうな奴が一人残ってる。
若者、何気ない会話しながらこっそりスマホを持ち出そうとするが…偉そうな奴に見つかる。
若者と偉そうな奴、なんか揉めている。
偉そうなやつがナイフ取り出す。
カイト、飛び出す!
偉そうな奴、カイトの一撃で失神する。
カイト:「手加減したつもりやったけど、大丈夫かな?」
スマホを取り戻す
万里:「あっ、箒! 何処だろう、」
私、若者に手振りで示す …こんなの知らない?
悪者の仲間が戻ってくる、
カイトが次々なぎ倒す、今日は何か頼りになる。
女が拳銃を撃つ!
銃弾がカイトの肩を掠める!
カイト、女を見て硬直する。
万里:あの時と同じだ…
カイト:「ア、アァああ…」
カイト、叫びだす!
万里:何なの、一体これはどういう意味が有るの?!
カイト、膝をついてしゃがみ込む
万里:不味い! 何とかしてカイトを正気に戻さなきゃ!
万里:どうする? どうすれば…?
私、カイトの所へ走りよって、…キスする。 他に思いつかなかった…
カイト、顔が真っ赤になる
万里:「しっかりしなさい!」
拳銃の女、カイトに拳銃を向ける
私、女の前に立ちはだかってカイトを守る
カイト、不意に立ち上がって万里を押しのけ、前に出る
その、カイトの左手が…掌から二の腕にかけて左右に裂けて、中から先端に青い石が取り付けられた二本の金属棒が出現していた。
万里:「えっ!」
その二つの青い石の間から…火の玉?
火の玉は、マグネシウムのフラッシュのように、一瞬で、半径十メートル以上に渡って燃え広がる。
カイト:「なんや、これ、」
万里:「何が、起こったの?」
私も、助けてくれた若者も無傷だった。
建物や、調度品にも何の異常も起こらなかった。
気がつくと、周りにいた人間だけが炭化している…。
カイト、何だか雰囲気が変わってる。
目つきが威嚇的、まるでヤンキー?
万里:「カイト、」
万里:違う、こんなの…カイトじゃない
カイト:「俺は、誰や…?」
助けてくれた若者が、叫んでる!
多分ひどいことを言ってるに違いない、いや恐怖で命乞いしてる?
やがてカイトの左手が元通りにくっついて、…裂け目の傷がふさがっていく。
カイト:「なんや、この手は…」
万里:こいつ、危険そう…、何とかして元に戻さないと、でもどうすれば…
万里:「カイト!」
反射的にカイトが振り向く
私、無理やりもう一回キス! 他に思いつかなかった…
カイト、一瞬驚くが…
万里:なにこいつ! 舌入れてくるなんて…生意気!
カイトの目が閉じて、その場に座り込む…
どうやら、気を失ったらしい…
私、顔真っ赤
万里:「い、言っとくけどファーストキスだったんだからね!」
あたりを見回すと、赤い箒が見つかる
多分女の人…、が持っていた。
その炭の塊から、箒を取り上げる。
ぼろぼろと、指が崩れ落ちる
万里:「これ、カイトがやったの?」
唖然とする、辺りを見渡す、人間の形の炭、炭、炭…
万里:「一体、何人殺したの?」
知らないうちに涙がこぼれだす
辱められたからでも、ファーストキスを奪われたからでもない。 自分たちが、もう戻れないところにいるという後悔にも似た感覚、
万里:「早く、ここから離れなきゃ…」
スマホをスクーターにセットして起動スイッチを押すとカメラが万里を認識、スクーターが息を吹き返す。 カイトをおんぶして自分の腰に縛りつけ、赤い箒を持ってスクーターにまたがると、高度調整ダイヤルを目いっぱい捻りこむ。
フライングシューズはあっという間に高度を上げて行き、特殊外装が自動で展開する。
過呼吸が止まらない、何故だかまばたきが出来ない…
万里:はやく逃げなくちゃ!
自分達の犯した罪から、取り返しのつかない過ちから…
希薄な意識の中、「空飛ぶ靴」は夜の闇空を疾走する。