エピソード13 偽預言者
Episode13
登場人物
濱平 万里:主人公
源 香澄:物知り
西野 仁美:大尉
巨大な魔法瓶の覗き窓から中を見る。
裸の外人が暗い液体窒素の底に沈められていた。
香澄:「聖獣ってこういう取り扱い方も出来るのね。」
万里:「死んでるんですか?」
香澄:「完全体の聖獣が死ぬとは思えないわ、単純に尸童の肉体が壊され続けている状態と聖獣がそれを再生し続けている状態がバランスしているだけだと思う。」
源香澄はスコルから切り取った右手の親指を保管用のケースに収納しながら私の質問に答えてくれた。
万里:「いずれは復活する?」
香澄:「液体窒素が無くなったら復活するでしょうね。」
万里:「この後、どうするんです?」
香澄:「池内が帰って来たら試してみたい事があるの。」
万里:「聖なる箒ですか?」
池内瑠奈は、大阪府警が回収した例の「赤い箒」を取りに向かっていた。
香澄:「山猫の話が本当なら、何らかの変化が観測されるはずだわ。」
万里:「でも、 海斗があの箒でスコルを叩いても何も起きなかったですよ。 ただ、その後凄く箒の事を避けてたのは事実だけど。」
香澄:「どうせ、何だかくだらないルールみたいな事が決められているんでしょう。 一回目はセーフ…とか、」
万里:「あの、良ければ私帰りたいんだけど、海斗の所にも行きたいし。」
香澄:「まあ、そう焦んないでよ。 わざわざ貴方に来てもらったのは、会わせたい人が居るからなの。」
万里:「会わせたい人?」
ここは東京都の郊外にある結構広い研究施設。 源香澄と難波優美の秘密基地?みたいなモノらしい 。
源は私を一つの部屋に案内した。
そこには、痩せこけた1人の人間が機械に繋がれて眠っていた。 毛を全て剃られて丸坊主になった頭、土気色の肌
思わず、海斗の心の中で見た改造人間の姿を思い出す。
万里:「この人は?」
香澄:「濱平さんの夢の中の少女、「さりな」よ。」
香澄:「生きているのか、死んでいるのかも分からない。 青龍の力を持ってすれば復活させる事は容易いのだけど、私達のパトロンはそれを望んでいない。」
万里:「パトロンって?」
香澄:「「さりな」の父親よ。 絶大な資産と権力を持っている人間。 彼は、「さりな」は今神託を授かっている最中なので、無理に目覚めさせて神との会話を妨げるべきではないと信じている。」
万里:「これが、現実の「さりな」、」
香澄:「貴方は夢の中で「さりな」に会ったと言った。 もう一度、「さりな」に会って、彼女が今何をしているのか、一体どうしたいのか聞いて来て欲しいの。」
万里:「でも、「さりな」は夢の中でも何も話さないんです。」
香澄:「でも、「さりな」っていう名前を貴方は知っていた。」
万里:「…はい、何故だか「知って」いました。」
もとから「知っている」と言う感覚。
閃き、既知感、
私の無意識の領域には相変わらず濁流の様に世界が流れ込んで来ている。 そこから紡ぎだされるストーリー。 自分の空想と世界は等価。
自分でも信じられないけれど、そうやって私はスコルの出現を2度も察知したのだ。
つまり、さにわ の能力とはそう言うものの事なのだろうか…
万里:「やってみます。」
自分の頭の中の「さりな」を探す。
膨大な量の情報の中から「さりな」のキーワードにヒットするモノをピックアップし、繋ぎ直して一つのストーリーを組み立てる。
それが「分かる」という事。
でも…
万里:「何にも出てきません。」
何だか疲れる…
香澄:「疑う訳ではないんだけど…さにわの能力を確かめてみたい。 良いかな。」
さんざん世話になって命まで救ってもらったのだから、断れる訳もない。
万里:「良いですよ。 私に出来る事なら。」
香澄:「スコルが言っていた「ヘラ」って言うのが何なのか、何処にいるのか、探して見てくれる?」
「ヘラ」…同じ様にキーワード検索をかけるが…
20分経過するも…
万里:「済みません、何も出てきません。」
香澄:「やり方が間違ってるのかな。」
やり方? 自分が「知った」時の事を思い返してみる。
実際に私が「知っていた」のは「さりな」の名前と海斗の記憶とスコルの言葉、それにスコルの出現の予知。 多分、イタリアで箒を感じたのもそうだ、
万里:「もしかしたら、闇くもに探しても駄目なのかも知れない…。 私が興味を持っていない事は検索に引っかからないのかも。」
香澄:「つまり、人は自分の知りたいと思う事、見たいと思う事しか見えないと言う事ね。」
香澄:「例えば、海斗が食べていたあの肉のジュース、あれは一体何なのか、興味はない?」
一週間前の南港倉庫の事件、
海斗は身体が幾つにも解体された状態で放置されていた。 海斗の再生の為に使われた赤黒いドロドロしたもの、あの光景を思い出す。
肉骨粉、尸童の屍骸、聖獣のカケラ、
やがて無意識の海の彼方から、幾つもの微かな煌めきのピアニッシモが意識の内に浮上する。
そうだよ、そうだよ、
私は知っている
そうだ、これは苦しみなのだ
出来損ないに生まれてしまった悲しみなのだ
でも本当は違う、その姿に生まれる事に意味があったのだ
腫瘍の様に増殖する身体
暗くて広い部屋いっぱいになるまで膨れ上がった身体
百本以上の手、足、胴体、それが一つにくっ付いたまま、今も増殖し続けている
切り取られても、切り取られても一晩のうちに再生、増殖する身体
セーフリームニル
誰かの声が彼をそう呼んでいた
彼の精神が、私を見つけた
僕を助けて
彼が話しかけて来る
僕を食べて
彼が話しかけて来る。
そうすれば、蘇りの力を君に分けてあげる
その代わりにその身体を頂戴
僕を食べたモノは僕のモノになる
刻は来た
第五の封印は解かれて
僕は自由になる。
僕を食べた数百、数千のエインヘリャルの中で僕は自由になる
猪のビジョンが浮かび上がる
突然鳴動を開始した非常ベルが私を現実に引き戻す 。
万里:「何、…が 有ったの。」
香澄:「さあ、でも…大体分かったわ。」
万里:「分かったって?」
香澄:「貴方、ずっと独り言の様に喋ってたのよ。 気付いてないかも知れないけれど。 まるで、口寄せ? イタコみたいだったわ。」
万里:「それで、何が解ったんです?」
香澄:「聖獣ってのは、結局の所尸童の身体を乗っ取って活動するのよ。 セーフなんとかって奴は、自分の肉を食わせて、食った奴に寄生するってタイプの聖獣らしいわね。」
万里:「寄生って?」
香澄:「聖獣に人間の精神が食尽されて、身体を乗っ取られるのよ。 憑依されるって言うのかな。」
突然、研究室のドアが開いて、非常ベルの原因が飛び込んで来た。
8人の武装した兵士? 皆全身をすっぽりと覆う防護服とマスクを身につけている。 一昔前のSF映画に出て来た敵歩兵部隊みたいだ…、
どうやら、この武装集団が、既に施設を制圧しているらしい。
防護装甲服の兵士達が私と源に小銃を向ける。
香澄:「こんな事をしてただで済むと思っている訳?」
にもかかわらず、源は相変わらず淡々としている…、
リーダー:「勿論ただではないわ、新しい段階へ進むのよ。」
万里:女?
リーダーらしい女がマスクを外す。
鋭い一重の目に太い眉、ショートカットというか殆ど丸坊主の女だ、
西野:「初めまして、私は 大日本神国陸軍第6師団、第一特殊旅団 西野仁美大尉であります。」
香澄:「大日本神国?」
香澄の口元が思わずにやけている…、
西野:「本日11月25日1630時より、本組織及び関連施設は我が部隊の指揮下に置かれます。 以後の行動は私の指示に従って頂きます。」
香澄:「誰がそんな事を決めたのよ。」
大尉の熱い語り口…にもかかわらず、源は相変わらず淡々としている…、
西野:「坂本総司様です。」
香澄、溜息、
香澄:「大体察しは付いたけど、その大日本神国ってのは何の冗談なのよ?」
西野:「冗談では有りません、本日正午をもって日本国は分裂、「神の戦争」を生き残る為の崇高な思想と強靭な意思を持った選ばれし民の国である大日本神国を発足させました。」
香澄:「まさか、クーデターなの?」
西野:「あり得ない、クーデター等必要ない。 我が国においてはむしろ、旧体制は新体制と強い同盟関係に有る。 旧日本国ではとても手を出せない様な事を、我々は果たさねばならない。 我々の存在は旧体制が国民への面目と責任を保つためにも有効なのですよ。」
西野:「既に、世界各国で同様の動きが出ています。 政治的、軍事的にこの「禊」を生き残る為の緊急手段が必要な訳です。」
香澄:「それで、その総大将が坂本総司な訳…?」
西野:「新しい世界を背負って立つ我らがリーダーであります。」
私、はっきり言ってついて行けない。 もしかして今日、国の名前が変わったの?
万里:「これって…何かのお芝居? 坂本総司って誰?」
香澄:「「さりな」の兄よ。」
源は、いやなモノでも思い出すかの様に台詞を吐いて捨てた。
香澄:「貴方達、新しい国を作って戦争でもおっぱじめる気なの?」
西野:「何をおっしゃいます。 貴方達聖獣こそ、我が師団の最終兵器、切り札ではないですか。」
流石に、源の顔が引きつり始めてる…
香澄:「馬鹿な事を…」
西野:「現時刻を持って源香澄、難波優美、舘野涼子、吾妻碧、池内瑠奈の五名、及び加地伊織、濱平万里の2名は我が師団の監視下に置かれます、身柄は安全が確保された我が師団の基地内にて保護されます。」
香澄:「身柄の保護…ねぇ? ところで「さりな」はどうするつもりなの?」
西野:「濱平万里の能力が確認された 時点で、「さりな」は必要ないと言うのが上層部の見解です。」
香澄:「一応聞いておくけど、もし断ったらどうなるの?」
西野:「大日本神国の意思に従わない者は危険思想分子と見なし、その4親等が処刑される事になる。」
どんどん、ついて行けなくなる。
万里:誰が誰に逆らったら、誰が処罰されるって? 4親等? これって私も対象なの? だとしたら4親等って誰だっけ? 従兄弟は…3親等、それで、従兄弟の子が4親等、それが、何されるって? …処刑??
西野:「既に監視部隊の配置は完了しています、貴方達が我々の指揮に従う限りは、4親等の安全は我々が責任を持って確保します。 貴方達が我々に歯向かった場合は4親等に対して即刻刑が執行されます。 勿論、裁判等と言うまどろっこしいシステムは介在しません。」
香澄:「7人全員の4親等を監視するなんて、大日本なんとやらは余程暇なのね。」
西野:「貴方達にはそれだけの価値があると言う事です。 ささやかなサービスですよ。」
いや、従兄弟の子供が処刑されるのは不味いでしょう…どう考えたって!
万里:「どうするんですか?」
香澄:「どうもこうもないわね。 まあ、なんだかんだ言っても私達のマスターは伊織だから、伊織の考え次第って所かな。」
西野:「勘違いしてもらっては困るな! 加地伊織は聖獣の操縦者に過ぎない。 あくまでも聖獣の支配者は我が大日本神国総統である。 もう話は十分だ、要人をそれぞれの護送車へ案内しろ。」
兵士が私と源を引き離す。
万里:「源さん!」
香澄:「やれやれ、こうなったらアンタが頼りよ、濱平さん、頼んだわよ!」
源、別方向に連行されながら捨て台詞…
万里:「頼んだって、どうすれば…?」
私は、3名の兵士に取り囲まれて施設の外に連れ出され、黒塗りのワゴン車に押し込まれた。




