エピソード12 転生
Episode12
登場人物
濱平 万里:主人公
吾妻 碧:青龍の尸童
池内 瑠奈:朱雀の尸童
館野 涼子:ドスグロ少女、玄武の尸童
加地 伊織:ヒラメ顔
私は畳の上に寝転がってじっと天井の木目を眺めていた。
そっと顔に触れてみる。
スコルに潰された筈の顔は全てが夢だったかの様に元に戻っていた。
万里:「此処は何処?」
少女:「伊織の知り合いの家よ。 元はそろばん塾だったみたいね。」
見ると少女が私の傍に付き添っていた。 ずっと手を握ってくれていたらしい。
万里:「ここはどこ…」
少女:「ああ、そうね…ここは神奈川県の平塚市。」
神奈川県?
万里:「私はどうしてこんな所にいるの? さっきまで大阪にいた、」
少女:「あなたの声が聞こえたのよ…「助けて」って、なんだか緊急事態っぽかったから、こっちに連れて来ちゃった。」
少女:「貴方、濱平さんでしょ。 源から貴方の事は聞いてるわ。」
意識が朦朧としている。 起き上がろうとしたが、…身体に力が入らない。
万里:「どうやって、連れてきたの? 私、スコルに掴まって…」
少女:「転送したの。」
万里:「転送?」
少女:「元のあなたを消去して、こっちに作り直したのよ。 物質転送機とおんなじ原理かな、コピー? ファックス見たいなもの?」
ここ数週間様々な不思議を体験してきて、大抵の事には驚かないつもりだったが、…「物質転送」ってのは思いつかなかった。
万里:「海斗を助けなきゃ。」
再度起き上がろうとするが、インフルエンザで高熱を出した時みたいにふらふらして身体が自由にならない。 呼吸が苦しい…
女;「無理しない方が良いわ。 海斗君なら大丈夫、安全な所に避難させたから。」
見ると、芸能人がそこにいた。
万里:「なんで、アユアユが此処にいるの?」
女:「あっ、よく言われるんだけど、他人の空似なの。 ちなみに親戚でもないわ。 私は池内瑠奈、よろしくね。」
女:「鳥越啓太郎の部下だって言えば、…もう少しわかるかな。」
少女:「私は吾妻碧、 よろしく。」
「海斗は無事」と聞いて少し安心する。
万里:「海斗はどうなったんですか?」
瑠奈:「警察病院に収容したわ。 外傷は無いみたいだけれど、まだ意識は戻っていない。」
万里:「海斗も私と同じ様に此処につれて来れないんですか?」
碧:「貴方みたいに存在がはっきり判らないの。 それにその子 半分は聖獣なんでしょう、だとしたら青龍の能力は通用しないから無理ね。」
この非常識な現象にも、なんだかルールみたいなものがあるらしい。
万里:「今何時?」
碧:「午後3時くらいかな。」
万里:「あれから、半日も経ったの?」
碧:「これでも結構速くなったのよ。 まだ脳みその細かいところの復元に時間かかるのかな、…記憶とか。 再生した体に意識がすんなり馴染まないっていうか、一通り記憶をおさらいしてからでないと目覚めないみたいなのよね。」
良くわからない…けど、
万里:「スコルは?」
瑠奈:「鳥越が言っていた新しい聖獣ね。 行方を眩ましたみたいなの。 現場にいた警官の報告によると、自分で自分を消しちゃったみたいね。」
万里:「死んだの?」
瑠奈:「そういう訳ではないでしょうね…」
当面の危険は去ったのか。
万里:「そういえば、私、顔を潰されたはずなのに、どうして元に戻ってるの?」
碧:「転送する時に直しといた、と言うか新しく作ったんだけどね。」
「物質転送?」、「人体再構成?」、そんなSF小説の目次っぽい事をすんなりやってしまうこの少女も、やはり「聖獣」なのだろうか。
万里:「あなた達って、もしかして源香澄とか優美とかの仲間なの?」
碧:「まあ、そんなところかな、ある意味「敵」かもしんないけど。」
万里:「鳥越の部下って言うことは、あなた達も警察なの?」
瑠奈:「私はね、吾妻さんは違うわ。」
碧:「私は、只の家出少女よ。」
万里:「家出?」
碧:「今ちょっと親と喧嘩しててね、家出してここに居候してんのよ。 受験勉強するかしないかで揉めてんの。 …くだらない事よ。」
瑠奈:「しといた方が良いと思うわよ。」
碧:「来月人類滅亡するんだから、今さら受験勉強なんかやったって仕方ないじゃん。」
人類滅亡…、最近良く聞くフレーズだ。
ようやく少しふらつきが取れてきた。 ゆっくりと上半身を起こして布団の上にアヒル座りする。 私は身に覚えのない寝巻きを身に着けていた。
頭の中では、掠れ掠れではあるが、未だに光の残響が反芻していた。
そうだよ、そうだよ、…
無秩序に、半強制的に、様々な閃きが私の無意識の領域に雪崩れ込んで来る。
不意に閃く。
スコルは私を探してここに来ている。 既に私の居所は突き止められている。 何故そう確信できるのかは分からない。 でも…私は知っているのだ。
万里:「スコルが、此処に来るわ。」
瑠奈:「そう、じゃあ助けが必要よね。 だって私一人じゃ勝てる気しないもの。」
碧:「あんたって相変わらず弱気ね。」
瑠奈:「此処から一番近いのは、伊織クンを護衛しているゴスロリちゃんかな?」
碧:「はっきり言って私、あいつ嫌いよ。」
瑠奈:「あの子きっついからね…」
碧:「でもあいつ今イタリアに行ってんじゃなかったっけ?」
瑠奈:「そうよ、確かハマヒラとかいうサニワの子を探しに行くとか言ってた。 今日の夕方帰ってくる筈よ。」
碧:「…って、なんで貴方日本にいるの?」
二人の視線が私に…
万里:「いや、色々ありまして、…一足先に、」
碧:「あっ!そうだ、今日 日曜だから伊織んちに涼子がいるんじゃない?」
瑠奈:「メールしてみて…」
なんか、この人たち呑気、
万里:「…いや、もう間に合わないかも。」
見ると庭に赤毛の外国人が立っている。 どうやって…という事はこの際このモノ達にはどうでも良いことらしい。
スコル:『なりそこないの聖獣か、おとなしくその娘をこちらに渡せ。』
(作者注:『』はスカンディナビア語)
瑠奈:「なんか言ってるみたいよ…」
碧:「ちょっと、あんた! そこらへんのプランタ勝手に動かすと三船さんに怒られるわよ。」
あいつ、私を捕まえる気だ。
奴には6人のエインヘリャルが束になってかかっても歯が立たない。 全ての攻撃が奴の身体に触れた途端に異空間に吸い込まれて無効化されてしまうのだ。
万里:「…逃げなきゃ。」
私、必死に立ち上がる。 初めて使う足は、生まれたてのバンビ?の様にふらふらして、…再び布団の上にへたり込む。
瑠奈:「涼子ちゃん掴まった?」
碧:「うん、15分位で来るって。」
スコルはこちらに向かってゆっくりと歩みを進め、縁側を登ろうとする…
そして、そのまま足を踏み外して沓脱石におでこを強打した。
万里:「…っ?」
碧:「知らないの? 日本の家は土足厳禁なの。」
スコルの膝から下が燃えて無くなっていた。
瑠奈:「部分的に燃やすのって結構難しいのよね。」
池内の足元に、…かすかに赤い、陽炎のように揺らめくビジョンが出現している。
それは雄鶏の姿をしていた。
スコルは燃えて消失した自分の両足を不思議そうに眺めていたが、やがて両腕で身体を支えて起き上がろうと…
…したスコルの両肘が一瞬で燃え崩れて、再び沓脱石に顔面を強打する。
万里:「…凄い。」
スコルが、私を見る。 …そして、家が、庭が変形する。
空間が吸い取られていく!
今度はその顔が燃え上がる。
碧:「あーあ、私しーらない、こんな事して後で怒られるわよ。」
瑠奈:「何だか土地が狭くなっちゃったんじゃない?」
碧:「こんなんじゃ青龍だって元に戻せないわよ。」
瑠奈:「土地の資産価値、値下がりしちゃうね。」
なんか、この人たち呑気、
スコル、胴体だけになりながらも周りの空間ごと全てを飲み込み始める
みしみしと家屋がきしみ、庭の植木が大きく傾いていく。 全体的に、地面が沈下し始めている?
次の瞬間、残ったスコルの身体がとうとう全部燃やし尽くされてしまった。
瑠奈:「そろそろ、外に逃げた方が良さそうね。」
碧:「立てる?」
吾妻に肩を借りてようやく立ち上がる。 初めて使う新品の身体は、馴らしが終わっていないせいかギクシャクしていた。 …けど、
万里:「大丈夫そう。」
スコルが完全に燃え尽きて灰になった空間には、ぼおっと青白い火の玉の様な炎が残留していた。 時折大きく揺らめくそれは、内側に狼の姿を覗かせている。
瑠奈:「聖獣って、身体がある程度再生しないと能力を使えないのよね、」
碧:「今のうちに逃げよう。」
吾妻の靴を借りて外に出て、 瑠奈のクロスオーバーの後席に座らせられて一息つく。
瑠奈:「どっち行く?」
碧:「伊織んちの方でしょ、涼子がこっちに向かってんじゃん。」
瑠奈:「あっ、そっか。」
ゆるゆると安全運転で車が発進!
5分も経たない内に、疾走してくる自転車と遭遇する。
碧:「あっ、伊織だ。」
イタリア製ランドナーには、ヒラメ顔と、…あの性格の歪んだ小娘が乗っていた。
伊織:「池内さん! 聖獣が現れたって?」
瑠奈:「伊織君、どうする? また変身する?」
碧:「変身って…なんかヤダナ、」
まただ、突然の閃き
万里:「スコルが、来てる…。」
何もない空間を切り裂いて、中から裸の男が出現する。
道端のカーブミラーが意味も無く音を立てて歪み始める。 空間が吸い取られ始めている?
伊織:「完全体の聖獣には完全体でないと太刀打ちできないか、」
ひょい、と少女が自転車の荷台から飛び降りた。
少女がスコルに向けて指先を向けると、仄暗い水に溶けた墨の様に揺らめくビジョンがその少女の腕に巻きついて現れる。 それは蛇の姿をしていた。
そして、裸の男は…現れた格好のままで固まってしまった。
伊織:「何か、終わったみたいだな。」
ドスグロ少女、落ちていた棒切れでスコルの腹をつつく…
何も起こらない。
伊織も指でつついてみる
伊織:「イタッ! …ていうか冷たいの? もしかして凍ってる?」
スコルに触れた伊織の指の皮がずる剥けている。
瑠奈:「どうするの、それ?」
運転席の窓から池内が顔を出す。
瑠奈:「わいせつ物陳列的に問題ありそうなんだけど…。」
伊織:「とりあえず香澄に連絡してみるか。」
碧:「こうして鑑賞する分には良いんじゃない? 結構良い身体してんよね。」
涼子:「…。」
なんか、この人たち呑気、




