エピソード10 触
Episode10
登場人物
濱平 万里:主人公
カイト:死亡
山猫:逃亡
スコル:凶暴
大阪梅田、電車の高架脇で非日常な光景が繰り広げられていた。
先ほどから赤毛の外国人が私の方をじっと見ている。 名前はスコルと言うらしい。 スコルの手にはトレンチコートを着た男の頭がしっかりと鷲掴みにされていた。
男の頭は…まるで粘度細工の様に掴まれた部分が凹んで消え失せている。
スコルが手を離すと、頭が凹んだ男はそのまま道路に転がって動かなくなった。
もう1人のトレンチコートの男がスコルに向けて左手を差し伸ばす。 この男の左手は掌から肘にかけて不気味に裂けており、腕の内側からガトリングガンの様な砲身が突き出している。
ガトリングガンは音を立てて高速回転しながら猛毒を塗った細い針を射出した!
針はスコルの身体に次々刺さって行く… しかしスコルは全く気にしていない風だった。 突き刺さったかに見えた針はスコルの身体に触れた途端にどこかに消え失せていた。 黒のミリタリーモッズコートには傷一つ付いていない。
私のすぐ目の前には、巨大なカブトムシ程の大きさも有るカメムシがホバリングしていた。 そのカメムシが喋りだす。
山猫:「通常兵器による攻撃は効果がない様ですね。」
更に4名のトレンチコートの男達が駆けつける。 めいめいが左腕の中に仕込まれた隠し武器を展開していた。
1人目のトレンチコートの左腕から伸びたショットガンから散弾が撃ち出される! ショットシェルから解放された特殊な金属製の散弾は空気と反応して発熱、燃焼しながらがスコルに命中するが、一切ダメージを与える事なく消失する。
2人目のトレンチコートの左腕からは火炎放射器のノズルが突き出しており、ガソリンと共に火柱をスコルに浴びせかける。 しかし火炎ですら狼の聖獣の身体に触れる事は出来ないらしく、スコルは全く意に介していない風だった。
3人目のトレンチコートは刺激臭のする液体を高圧で浴びせかけた、 恐らく強烈な腐食性薬物らしく、地面に垂れた液体がアスファルトを溶かして異様な煙を吹き上げている。 しかしやはり液体であってもスコルの身体に触れた途端この空間とは別の次元へと転移させられて、モッズコートには濡れた後すら残っていない。
4人目のトレンチコートから発射されたグレネードも、爆発する事なくスコルの身体に吸い込まれてしまった。
いよいよ手詰まりになったか、トレンチコートの1人がスコルに飛びかかって抱きついた! 触れた部分が影の中に吸い込まれて見る見る分解して行く! 次の瞬間トレンチコートの首筋から何かの液体が浮き出す! エインヘリャルの自爆用の腐食液である。
玉砕したトレンチコートは異臭を放ちながら溶けて崩れ落ちる。 しかし、スコルは、それでも無傷のままだった。 コートが少し汚れた? …のを気にしてる。
山猫:「濱平さん、カイト君にキスして下さい。」
巨大カメムシが、私に男の子とのキスを要請した。
万里:「なんでこのタイミングなの…?」
山猫:「どうやらエマージェンシーモードを使うしか勝ち目がないみたいです。」
万里:「あ、そう言う意味よね、、」
しかし、エマージェンシーモードになったカイトはどことなく危険な感じがするのだ。 本当に大丈夫なのだろうか…。
と、私が心の準備を完了するよりも早く、スコルが何かを仕掛けてきた!
スコルの視線が私を捉えた途端、スコルと私との間の何かが吸い取られたらしい。
私は、意に反して吸い寄せられるようにふらふらと自らスコルに歩み寄る。
トレンチコートの1人が飛び出して来て私を支えてくれる。
山猫:「何をやってるんです。」
万里:「判らない! 身体が勝手に…」
いきなり、カイトがスコルに突っ込んだ!
カイト、手に持った赤い箒を振り回す。
スコル、箒を軽く受け止めたつもりが、弾かれてよろめく。
スコル、立ち止まって箒に打たれた右の腕を確認する。 何か違和感を感じているらしい。
カイト:「これでぶっ叩けばええんやろ!」
山猫:「グッジョブです! カイト君、もっとやっちゃって下さい。」
スコル、改めて万里に向き直る。
万里、再びふらついてスコルの方に、足が止められない! どうして?
三人のトレンチコートが駄目もとで一斉攻撃を再開する。
もはや警察の包囲網、あっけにとられてただ立ちつくすのみ…
山猫:「カイト君、うかつに奴に触れると、吸い取られますよ。」
カイト:「分かってる!」
カイト、赤い箒をぶん回す
スコル、退いてよける
カイト、箒を構えて突っ込む
スコル、いきなり瞬間移動。
カイト:「こいつ、すばしっこい。」
山猫:「今の、何か変でしたね…。」
急に、スコルの位置が変わった様に見えた。
気がつくと町の風景が変わってる。 道路の幅が一カ所だけ狭くなっている。
万里:「これって、何かの冗談?」
カイト、再度突っ込む
スコル、再度瞬間移動
カイト:「何でや! あいつに届かん!」
見ると、電車の高架がいびつにずれている? 今迄有った空間の一部が消失している。
山猫:「地球を吸い込んでるみたいですね…」
万里:「まさか!」
次の瞬間、金属を引き摺る様な轟音が鳴り響く!
数十秒に亘る地響き! やがて電車の高架のコンクリートがめくり上がり、コンクリートのカケラが降り注いで来た!
高架を走る電車が、ずれた線路に乗り上げて脱線?
幸い発車したばかりで速度が低かったお陰か、転覆事故で済んだらしい…が、
大勢の人の叫び声
スコル、嬉しそうに微笑んでいる?
カイト、突っ込む
スコル、例によって瞬間移動、
スコル、間髪入れず今度はカイトとの間の空間を切り取って、一瞬でカイトの目の前まで距離を詰める!
カイト:「あっ!」
カイト、すかさず箒をスコルに叩きつけようとするが…
スコル、とうとうカイトの腕を捕まえる!
カイトの腕から何か、蒸気のようなものが立ち上がる!
カイト:「痛! …ったあ!」
万里:「カイト!」
カイト、腕の表皮と筋肉の一部が消失して、所々骨が剥き出しになっている。 しかし幸いな事に、完全に消失した訳ではない様だった。
スコル、カイトの腕から手を離す。 スコルの掌が…焼けている。 何か違和感を感じているらしい。
万里:「カイト! 大丈夫?」
カイト:「くそっ! 速すぎ…」
カイト、赤い箒を反対側の手に構え直す
スコル、再びカイトとの間の空間を消失させて、カイトの傍まで瞬間移動。
カイト:「うっ…」
スコル、カイトの頭を捕まえる!
カイト:「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…」
万里:「カイト! 逃げて!!」
カイトの頭から蒸気のようなものが立ち上がる、
カイト、苦しみ、もがくが スコルはカイトの頭を掴んだまま離さない。
カイトの頭皮が消失して頭蓋骨が一部剥き出しになる。
カイト:「はがあああぁぁ…ああぁ…」
スコル、更に指を立ててカイトの頭蓋骨を貫通し、…内側の脳髄をえぐる
カイト、箒を落し、小刻みに痙攣。
カイト、沈黙
万里:「…!」
私、なす術もなく叫ぶ。
スコル、カイトを放り投げる。 又、違和感を感じているらしい。 掌を確認している。
私、カイトの元へ駆け寄る!
スコル、私の方を見る。
万里:「きゃっ!」
私、いきなりスコルの直ぐそばまで吸い寄せられる。 いや、私とスコルの間の空間が消失した?
万里:殺される!!
私、一瞬死を恐怖するが…どうやら殺す事が目的ではないらしい。 いつの間にか私はスコルの腕に抱かれていた。
万里:「何で…?」
スコル:『女、ヘラが何処にいるか探すのだ。』
万里:まただ、知らない言葉なのに、意味が伝わってくる…
私、恐る恐るスコルを見上げる、
私を見るスコルの目は…まるで作り物の眼球の様に光のない虚ろな灰色。
万里:「私…ヘラなんて知らない、」
何故だかスコルの灰色の瞳から目が離せない。
スコル:『お前には感じられるはずだ、お前の心の壁がそれを拒絶している、今から私がお前の心の壁を取り除いてやる。』
そう言うと、スコルは私の顔面を鷲掴みにした。
万里:「止めて、お願い…」
スコルの指が、ずぶずぶと目の中に入って来る。
そして、光が失われた。 両の眼球が消失する。
万里:「えっ!?」
尚もスコルの指は、私の眼窩から顔面の内側奥深くに侵入する。
続いて一切の音が消失した。 内耳が失われる。
万里:「何なの! 何が起こってるの?」
気がつくと、舌が、鼻が、顎が無くなってしまっている。
声が…出ない、
万里:怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い…
つい先程まで顔だったものは、中に脳髄を収納するケースのみが残されて、今やたるんだ皮と成り果てていた。




