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『GIFTED』  作者: Hagalaz
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序章 月の光差す桜花の下で

  ――主が、「名は何か」とお尋ねになると、それは答えた。「我が名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに」


                    ――新約聖書 マルコによる福音書 5章9節より




  ――月明かりの下で、私は彼女に会った。

忘れもしない、あの夏の日。自分にはどうしようもなくて、でもそれが悔しくて、泣きじゃくりながら走ったあの、満月の夜に。

…私らしくない。感傷なんて。今日の月は…あの夜の月に似ていた所為かもしれない。

月明かりの中を桜の花弁が舞う3月の末。何故、季節も違うあの時の月と、今夜の月が似ている等と思ったのか。


「お疲れさまです」


 ふと、声が聞こえた。振り返れば、いつもの様に突然そこに居る黒尽くめの男。

何を考えているのか、黒いシャツに黒いズボン、手に持つ鞄まで黒、極め付けに黒いトレンチコート。

まぁ、どうでもいい。私の仕事は済んだ。そう思い踵を返した私に、さらに声が掛かる。


「いやはや、しかし御見事御見事。流石はA級ライセンス保持者」


 そう言いながら男は視線を移す。

月光だけが降り注ぐ、薄暗い路地裏に転がるのは骸。ただ、1つではない。ざっと数えて59体。

異形の骸達は例外なく、1撃の元に斬り捨てられていた。

ソレ等に残る断面はそのまま宛がえばくっ付いて仕舞いそうな程。

まぁ、やった事はないが、多分実際にくっ付くだろう。


「深度3にも関わらず僅か数分で掃討…恐れ入りますね。

 しかし、今回貴女は現場に出ない予定だったのでは? また勝手をしては上から睨まれますよ?」

「…何の用? …なんて聞くまでも無いわね。

 闇夜の鴉が運ぶのは凶兆だけ。禄でも無い事なら、さっさと済ませて消えて」


 私だって暇ではない。用事が有るなら心底さっさと済ませて欲しい。

そう視線に込めて男を見つめる…何故そこで蒼褪めて1歩後ずさるのか。


「そ、そんなに睨まないで下さいよ…

 ひどいなぁ。私だってこんな嫌われ役、好き好んでやってる訳じゃないんですよ?」


 睨んだ心算は無い。目付きが悪いのは生まれつきだ。放っておいて欲しい。

そんな私の心の声は当然、黒尽くめの男に届く事は無いが。

後、男が愚痴々々喧しい。


「郵便ですよ。こちらに」


 男の台詞を遮る様に、私は男が手提げ鞄から出した便箋を引っ手繰る。

差出人なんて確認する必要もない。『天啓機関(オラクル)』からの命令書なら兎も角、私に手紙を送って来る人なんて、あの子以外にはいないのだから。

便箋を線に沿って開き、中の手紙を取り出し読む。

あの子らしい支離滅裂な、思いついた事をそのまま書き連ねた様な手紙。

微笑ましい気分になりながら読み進めると、私の目に信じ難い文字が飛び込んで来た。


「それでは、私はこの辺りでぇっ!!?」


 立ち去ろうとした男の首根っこを掴み引き倒す。

男が踏みつぶされた蛙の様な声を上げたが、気にする必要は無い。ただ、こちらの質問に答えさせるだけだ。


「どう言う事だ」

「な、何がですか!!?」


 随分と血の巡りの悪い頭の様だ。

あの子ならすぐに私の意を汲んで答えてくれると言うのに。


「何故あの子が月日原(ここ)に来る」


 私の手に握られている手紙、その最後の1文。

そこにはこう書かれていた。来週、あの子が私と同じ学校に転校して来る、と。

もちろん、内容だけならば諸手を揚げて喜ぶべきものだ。だが、それでも、しかしながら。


「う、上の決定です…わわわ私に言っても仕方ないでしょう」

「…」


 この男の言う事に間違いは無い。

これでも組織に身を置く人間。上層部の決定に従うのは道理だろう。

それに。あの子と学園生活を送るのも悪くない…悪くない。うむ。


「そ、それでは私はこれで。彼女の事については追って通達が届く筈です。では!」


 言いたい事だけ言って、黒尽くめの男はそそくさと立ち去った。

ほんの一瞬、私が再度手紙に向けた視線を上げれば、男の姿は既に無い。

が、あの男などどうでもいい。今、私が気にとめるべきなのは、あの子の事だけ。


「……」


 期待と不安が私の胸中で綯い交ぜになる。

あの子との学園生活。想像だに心躍る。だが…

私は視線を路地裏に移す。そこに有った異形達の骸は既に消え、影も形も無い。

溜息を1つ吐くと、私は再度空を見上げた。満天の空に浮かぶ満月が私を照らす。


「…」


 如何な目論見が上層部に有るのかは知らない。

だが、あの子をわざわざ月日原(ここ)に呼ぶ以上、碌でも無い事を考えているに違いない。

再び溜息が唇を突いて出る。面倒な事になりそうだ。

それでも。

踵を返し、帰路に着く。私の頭上には煌々と光る満月。

季節は違えど、あの日を思い起こさせる、綺麗な月。

あの日に誓ったのだ。そう。何が有ろうと、何が起ころうと、何を敵に回そうと、あの子だけは…私が守ると。




あとがき(と言う名の言い訳):←この言い草で分かった方、お久しぶりです。分からなかった方、初めまして。Hagalazと申します。


 この度、以前から書いていた2次創作が行き詰まり、息抜きとして以前から設定だけは考えていたこの作品を投降する事に致しました。

何分、設定だけが先行し、プロットも数話分しかない有様ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。


 今回はプロローグ、と言う事で。

未だ主人公の名前すら出ていませんね。

『あの子』とは何なのか。異形の怪物達とは何なのか。

その辺は順次作中で明かしていく心算です。

この作品の優先順位は現在執筆中の2次創作より下な為、そちらが終わるまでは不定期更新になると思われます。

それでも宜しければ、どうぞお付き合いくださいませ。では。



次回、第1話 『日の光差す丘の学園で』

お楽しみに。



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