『迫りくるナニカ』
こんにちは、読みに来てくださりありがとうございます。
今回の話は、実は私が実際に見た夢がベースになっています。儀式、巨大な化物、ひたすら逃げるだけのループ……起きてからも足音の感覚が耳に残っていたので、忘れないうちに小説にしてみました。
短編1話完結なので、隙間時間にさらっと読んでいただけたら嬉しいです。それでは、どうぞ。
儀式が終わった瞬間、空気が変わった。
焚かれていた火が一斉に萎み、円陣を組んでいた者たちの声が止む。
俺は、その中心の地面が盛り上がるのを見た。
土をかき分けて現れたのは、人の形をしていない何かだった。
全身を覆う分厚い皮膚、燃えるような二つの目。
それが咆哮を上げた瞬間、俺は理解した。
これは、逃げなければ死ぬやつだ。
踵を返して走り出す。
背後から地面を割るような足音が追ってくる。
ズシン、ズシン。
一歩ごとに距離が詰まっているのがわかる。
走るだけでは追いつかれる――そう悟った俺は、道端に停めてあった自転車に飛びつきながら叫んだ。
「自転車貸して! 頼む!」
誰かが何か言う前に、俺はもうペダルを踏んでいた。
後ろを振り返る余裕はない。
ただ、足音が耳に迫ってくる感覚だけがあった。
目の前に大きな建物が現れる。
逃げ込むしかない。
自転車を投げ捨てて中に飛び込み、そのまま非常階段を駆け上がった。
三階、五階、七階――足がもつれても止まれない。
手すりを飛び越え、配管を伝い、まるでパルクールのように上へ上へと体を運んだ。
やがて、足音が消えた。
息を切らしながら踊り場にへたり込む。
静寂が耳に痛いほどだった。
助かったのか、と思った瞬間――窓の外から、こちらをじっと見つめる二つの目と目が合った。
化物は、建物の外に立ったまま、窓越しに俺を見上げていた。
「見つかった」
声に出す間もなく、建物全体が軋んだ。
次の瞬間、壁ごと崩れ落ちる感覚に襲われ、視界が暗転する。
気づくと、俺はまた儀式の場所に立っていた。
円陣も、焚火も、さっきと同じ。
まただ、と思う間もなく地面が割れ、化物が姿を現す。
今度は一人じゃなかった。
知り合いが隣で息を呑んでいる。
二人で駆け出し、途中で背の高い草むらに身を伏せた。
息を殺し、足音が通り過ぎるのを待つ。
だが、草の間を這うように動く小さな影――化物の手下が、こちらに気づいた。
甲高い鳴き声が上がると同時に、地響きがこちらへ向き直る。
「行くぞ!」
知り合いに手を引かれ、また走る。
目指すのは、知り合いの家だった。
飛び込むように扉を閉め、俺たちは奥の部屋にあるそれを見た。
人ひとりが立てるくらいの、金属の輪をくぐるような装置。
「これで逃げられる。遠くに転送できるはずだ」
しかし、起動パネルのランプは弱々しく点滅するだけだった。
「なんで動かない」
「他の家電が電気食ってるんだ、容量が足りてない……!」
その間にも、外の足音が近づいてくる。
ズシン、ズシン。
早く、早く――祈るような気持ちでパネルを睨んでいたその時、ふと気づいた。
足音が、聞こえない。
静まり返った部屋の中、玄関の扉が軋みながらゆっくりと開いていく。
隙間から覗く、あの二つの目。
次の瞬間、家ごと吹き飛んだ。
三度目の儀式の場所。
今度は違った。
逃げ出すと同時に、俺はスマホを取り出し知り合いに連絡を入れていた。
「装置以外の電気は全部落としておいてくれ! 今すぐ起動だけさせておけ!」
化物の足音が背後で唸る中、俺は指示を叫びながら走り続けた。
たどり着いた部屋には、既に起動しきった転送装置が青白く輝いていた。
輪をくぐった瞬間、視界が光に呑まれ――気づくと、足音の届かない、静かな場所に立っていた。
助かった。
だが、これで終わりではないことも、なぜか分かっていた。
あの化物を本当に止めるには、どこかに眠る兵器を見つけ出す必要がある。
問題は、街のいたる所を化物の手下たちが徘徊していることだった。
姿を見せれば、あっという間に囲まれる。
俺は水路に身を滑り込ませた。
水の中までは、奴らの感知が届かない。
息を止めて水底を這うように進みながら、俺はある情報にたどり着いた。
兵器のありかを知っているという、別の知り合いだ。
「あの儀式の場所の地面の下に、埋まっているらしい」
彼はそう言うと、剣のようなものの柄で地面をコン、コンと叩きながら歩き始めた。
音の変わる場所を探しているのだと、すぐに分かった。
コン。コン。コン、コン――ここだ。
彼が地面を掘り返そうとしたその瞬間、背後の茂みから手下の一体が飛び出し、こちらを指差すように鳴いた。
合図を受け取ったかのように、遠くから聞き慣れた地響きが近づいてくる。
ズシン、ズシン、ズシン。
急げ。
土をかき分ける手が震える。
ようやく硬い感触に指が触れた瞬間、目の前に巨大な影が立ちはだかった。
俺は掘り出したそれを両手で掴み、振り向きざまに構えた。
化物が咆哮を上げ、迫ってくる。
すべてを、そこに懸けた。
目が覚めると、天井が見えた。
心臓はまだ早鐘を打っていて、手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。
夢だ、とわかるまでに数秒かかった。
それでも、ズシン、ズシンという足音の感触だけは、しばらく耳の奥に残っていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
「迫りくるナニカ」、いかがでしたでしょうか。夢の中の出来事なので理屈より勢いを優先した部分もありますが、あのズシン、ズシンという足音の恐怖感が少しでも伝わっていたら嬉しいです。
もしよかったら、感想や「こんな夢見たことある!」みたいなコメントもお待ちしています。またどこかでお会いできますように。




