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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【83】リナ達の身の上事情

「やっと帰ってきた!遅かったじゃないか!」

「アルノーおにーちゃん、ユディおにーちゃん、まってた!」


下半身を土まみれにしたままアジトへ戻ると、リナ達が今か今かと待ち構えていたらしく、勢いよく駆け寄ってくる。そんな中、俺の姿を見たエドが、小さく「うっわ」と素直な声を漏らした。


「兄ちゃん、畑仕事でもしてたのか?随分と泥だらけだけど……」

「まあ……そんなとこ」

「でもユディ兄ちゃんは綺麗なんだな?」

「コイツは畑仕事しなかったからな」


ジト目で睨んでやると、ユーディアは何食わぬ顔でフイッと視線を逸らした。


「それより早く食事の支度をしたまえ、アルノー君」

「お前にもう少し筋力あれば、もうちょい早く夕食の支度が出来たんだけどな?」

「さて。エド君、ユノ嬢、リナ嬢、何かリクエストはあるかね?」


チッ……話を逸らしやがった。


「オレ、肉がいい!」

「ユノはおいもがいい」

「あたしは腹にたまるもんならなんでもいいよ。でも量は欲しいね」


好き勝手な注文を並べる三人に、ユーディアは満足げに頷く。


「との事だ。アルノー君、あとは任せよう」

「聞いといて俺に丸投げかよ!?」


本当にコイツ、あとで覚えてろよ……。

とはいえ、食事に誘ったのは俺だ。文句を言いながらも、頭の中で献立を組み立てる。


「肉に芋に腹にたまるもん、か……」


肉はこの前、保存の利くベーコンを少し買ってある。芋ならコロンがあるし、腹にたまるものといえば……フワンプ・ツリーも使えそうだ。手早く作るならスープ系だが、具材を多めにして満足感を出すのも悪くない。


そうして決めた今日のメニューは、具材たっぷりのポトフにパン、それから果物を適当に切って盛り合わせた簡単なフルーツポンチだ。

調理はもう慣れたもので、具材を切って鍋に放り込み、《神の舌》でコンソメの味を整え、そのままコトコトと煮込めば完成する。パスタ用に買った大きな鍋が大活躍だ。


出来上がったポトフとパンを皿に盛り、テーブルへ運ぶ。椅子は二人分しかないのでエドとユノに譲り、リナと俺たちは近くにあった木材に腰かけることにした。


「「「いただきます」」」


いつもより少しだけ賑やかな声が、アジトの中に広がる。よほど腹が減っていたのか、エドとユノは挨拶もそこそこに、湯気を立てるポトフへ勢いよくかぶりついた。


「あっつ!?」

「あつつ……」

「ポトフは逃げないんだから、落ち着いて食えよ」


そう言うと、二人はハフハフと息を吐きながら、口の中で必死に冷ましつつ咀嚼する。


「美味しい!ベーコンなんて久しぶりだ!」

「コロン、たくさん!ホクホクおいしい!」


口いっぱいに頬張ったまま、もごもごと喋る二人に、


「こら!口に入れたまま喋らない!行儀悪いよ!」


リナがぴしゃりと注意を飛ばす。すると二人は慌てて飲み込み、背筋を伸ばした。


「アルノー兄ちゃん!オレ、こんなに美味い飯食えたの久しぶりだよ!」

「とってもおいしい!ユノ、これだいすき!」

「2人とも嬉しいこと言ってくれるなぁ。作ったかいがあったよ」


最近はユーディアも俺の味付けに慣れてきたのか、「うまっ」とすら言わなくなっていた。こうして素直に喜ぶ反応を見るのは、なんだか久しぶりだなぁ。


「なぁなぁ、明日もまたご飯作ってくれよ!その分、オレすげぇー働くから!」

「ユノもおてつだいする!がんばる!だからたくさんたべたい!」

「あぁ、いいよ。作る量が増えるだけで、手間はそんなに変わらないからな」


「「わぁーい!」」


ぱっと花が咲いたみたいに、二人が同時に笑顔になる。


その様子を見るに、以前の俺たちと同じように、僅かな食糧を三人で分け合っていたんだろう。育ち盛りなんだから、遠慮せずしっかり食べればいい。


はしゃぐ二人を眺めていると、リナがどこか気まずそうに視線を落とした。


「うちの子達がごめんよ。一応、あんたが依頼主なのに、食事をせびるなんて……」

「俺は別に構わないよ。満足に食わせてやれてないんだろ?」

「まぁ、ね。……ありがと、アルノー」


そう言いながら、リナはパンをちぎって口に運ぶ。ひと口噛んだ瞬間、ふっと表情が緩み、思わずといった様子で頬に手を添えた。その顔は、見ているこっちまで美味しさが伝わるような、満ち足りた顔をしていた。

続いてナイフとフォークを取り、野菜を一口大に切り分けてから、静かに口へ運ぶ。その所作は無駄がなく、妙に様になっていた。


見た目は腹出しの盗賊スタイルだっていうのに……意外と、こういうマナーはきっちりしてるんだな。


「リナ嬢。レディにこのような頼み事をするのは気が引けるのだが、壁紙の設置をお願い出来ないだろうか?あいにく、そういった事とは無縁でね」


ユーディアがそう切り出すと、リナはカトラリーをわずかに下ろし、視線だけをこちらへ向けた。


「あぁ、出来るよ。ユディって見るからに育ちが良さそうだからねぇ。こういうのは確かに縁なさそうだ」

「は?コイツが?コレが??」

「何か師に言いたいことがあるのなら、素直に言うがいい」


【契約回廊】越しに、『その分、今夜の訓練は厳しくしてやろう』と声が聞こえてくる。


「……ナンニモナイデス、シショー」


これ以上きつくされたら、さすがに体がもたない。

俺ははにかみながらポトフを食べる。


……というか、リナはユーディアの素顔が見えていないはずだ。今着ている怪盗服の雰囲気でそう思ってるんだろうが……中身を知れば、割と幻滅すると思うぞ。


「しかし私としては、リナ嬢もなかなかに育ちが良いと思ったのだがね」

「へ?あたしが?」


意外そうに目を瞬かせるリナに、ユーディアは軽く顎で示す。


「カトラリーの扱いが洗練されている。それは一朝一夜で身につくものではあるまい?」


言われて、俺もリナの手元へ目を向ける。


……いや、普通にナイフとフォークを使っているだけに見えるんだが。真似しようと思えば出来そうな気もするが、ユーディアの目には何か違って見えているらしい。


「あぁ、これ?あたし、色んな仕事してきたからさ。大きなレストランの給仕とかもやったことあって。その時に金持ち連中がこうやって使ってたのを覚えてただけだよ」


リナは照れくさそうに笑いながら、フォークをくるりと指先で回してみせる。


「ふむ……だとすれば、リナ嬢は物覚えが良いのだな。貴族と言えど、練習しなければカトラリー1本すら満足に扱えぬ者もいる」

「へへへ、言ったろ?あたし、これでも器用なんだって」

「大した腕だ。ならば壁紙の他にも、床への絨毯張りも頼めるかね?報酬は……」


ユーディアはそう言うと、誰にも見えないように腕のリングへ手を滑らせ、小さな袋をひとつ取り出した。帰り道で買っていた焼き菓子だ。


「この焼き菓子でどうだろうか?金の方が良ければ、そちらでも――」

「そっちがいい!!」


言い終えるより早く、リナが身を乗り出して答えた。視線は完全に袋へ釘付けになっている。


……いやいや。


壁紙に絨毯張りだぞ? こんな菓子で請け負っていい仕事じゃないだろ。これ、露店で売ってたやっすい焼き菓子だ。価額にして銅貨5枚にすら届かない駄菓子なのに。


「リナさぁ、食い意地は分かるけど、報酬は金にした方が――」

「あたしはそっちがいいの!!」


ぴしゃりと言い切るその声は、さっきまでの軽さとは少し違っていた。


「……金があるのはいい事だけどさ、買えないものはたくさんあるからね」


そう言って、リナは首から提げている身分札を指先でなぞる。無意識なのか、それとも癖なのか、その仕草がやけに重く見えた。


「アルノー君。犯罪数値の高い者が小金貨や銀貨を取り出して嗜好品を買おうとすれば、どうなると思う?」


ユーディアの静かな声が、間を埋めるように差し込まれる。


「え?どうって……」

「普通は、盗んだ金だと疑われる。ましてや、犯罪数値の高い者が嗜好品を買うなど、不自然極まりないからな」


淡々とした口調だが、その内容はこの世界の不条理さをありありと表すようだった。


「……以前言っただろう。まともな店主は、売買すらさせてくれないと」


……あぁ、そうだ。

頭では分かっていたなのに、どこか実感がなかった。

けど、改めてリナの手元の身分札と、あの菓子袋に向ける視線を見て、ようやく腑に落ちた。


――だからか。

菓子や果物、あと妙に可愛いものを見つけると、あいつが子供みたいに食いついていた理由。



金があっても、手に入らないものばかりだったんだ。



「すまないな、リナ嬢。うちの猿は世間知らずなものでね」

「平気平気。それに、アルノーが変なのは大陸の外の小島から来たからだろ?エドから聞いてるから知ってるさ」

「大陸の外の小島?なんだね、それは?」


――あ。

そういえば以前、誤魔化すためにエドにそんなことを言った覚えがある。


チラリと視線を向けると、エドは「やっべ」とでも言いたげな顔で、分かりやすく目を逸らした。


「ごめん兄ちゃん……姉貴には嘘つけなくて、つい……」

「え?もしかしてユディは知らなかったのかい? お師匠なのに?」


言っちゃまずかった?とでも言いたげに、リナが俺とユーディアを交互に見比べる。


「いや……確かにそんな話を以前、アルノー君から聞いていたな。今思い出した」


ユーディアは一拍置いてから、何でもないことのように肩をすくめてみせた。その声音は落ち着いているが、こちらにだけ分かる程度に“合わせてやったぞ感謝しろ”という気配が滲んでいる。


――た、助かった……


異世界人なんて、こんな場で正直に言えるわけがない。適当にでっち上げた設定だが、どうやらうまく納得してくれたらしい。


『やはり適当だったか。だが、大陸の外に小島など存在しない。もっと別の方便を考えておけ』

『小島すらないとか、この大陸どうなってんだよ……』


【契約回廊】で小声のやり取りをしながら、思わず苦い顔になる。


小島のひとつやふたつ、あっても良さそうなもんだろうに――この世界、地味に変というか、なんというか……。








「「「ごちそうさまでした」」」


そうこうしているうちに、全員が食事を終えた。


「洗い物くらいはやるよ」とリナが手を挙げたので、俺が魔法で水を出し、ユーディアが洗い、リナには食器を拭いてもらうことにする。


いつもは当番制なのだが、こうして並んで後片付けをしていると、妙に“家”っぽい空気になるのが、なんだか懐かしい。実家にいた頃は、よく母さんの洗い物を手伝ってたなぁ。

しみじみと昔を振り返っていると、リナが食器を拭きながらチラリと水源をやっている俺を見る。


「まさかアルノーにお師匠がいたとはねぇ。しかも、頭が上がらなそうじゃないか」

「そういう訳じゃねぇし」

「フッ、もっと頭を低くしても構わんぞ?」

「するかバーカ」

「仲良いねぇ」


カップを拭きながら、リナがくすっと笑う。

そしてふと、「そういえば」と思い出したように俺たちを見た。


「どうして2人は師弟関係になったのさ?」


「ユディがどうしてもと頼み込んできて……」

「アルノー君がどうしてもと頼み込んできて……」


ぴたり、と声が重なる。


「……言ってること、違くない?」


ジト目でユーディアを見ると、向こうも同じようにジト目を返してきた。


……よし、これは不毛だ。話を逸らそう。


「そういうリナは?」

「え?」

「お前、なんで盗賊なんてやってんだよ?」


そう聞くと、リナは一瞬だけ言葉を探すように視線を上へ向けた。


「あたしは……」


わずかに間を置いてから、小さく首を横に振る。


「さぁね。気がついたら、盗賊になんて身を落としてたのさ」


軽く言っているが、その言葉の奥にあるものまでは読み取れない。


「じゃあ盗賊になる前は?ってか、親はどうした?」


脳裏に思いついたままに聞いた瞬間、ボスッとユーディアの肘が脇腹に入る。


……やばっ、踏み込みすぎた。


まだ幼いエドやユノの面倒を、俺と同い年くらいのリナが見ている時点で、察するべきだった。

だが、リナは気にした様子もなく、あっさりと続ける。


「親は覚えてないよ。物心ついた時から一人で盗賊してたからね」


「……ん?じゃあ、エドやユノとは血の繋がらない兄妹なのか?」


時系列的におかしい。リナの物心着く頃なんて、まだエド達が生まれていないはずだ。なら、孤児同士が集まって兄妹関係となっているのか?

そう思って尋ねると、リナは首を振った。


「いや?あの子たちは、あたしと血の繋がった弟と妹だよ」

「は?……あ、親が違うとか?」

「そんな複雑な家庭じゃないよ。同じ親さ」

「???」


頭の中に疑問符がいくつも浮かぶ。

……どういうことだ?

この世界特有の何かがあるのか、それとも俺の理解が追いついていないだけか。

考えがまとまらないまま黙っていると、リナはふっと表情を緩めた。


「さすがにあたしの稼ぎじゃ、いつもご飯が少ないからね。改めて、今日はありがと」


その言葉に、もやもやしていた思考が一度途切れる。

すると何故か、隣のユーディアが得意げに胸を張った。


「構わんよ。リナ嬢には世話になっているからな。また腹が減ったら来るといい。アルノー君の料理を馳走しよう」

「ホント!?やったー!言質は取ったからね!」

「……俺の意見は???」

「君なら断らないだろう?」


ニヤリ、と見透かしたように口端を上げる。


……まあ、断らないけどさ。


洗い物が終わり、リナが帰る準備をするためにダイニングへ向かうと、エドとユノは満腹になった安心感からか、テーブルに突っ伏してぐっすり眠っていた。


「ほら!もう帰るよ!起きな!」


リナが揺するが、二人はぴくりとも動かない。

時間も遅い。この年頃なら無理もないだろう。

とはいえ、リナ一人で二人を連れて帰るのは無理そうで、困ったように立ち尽くしている。


「せっかくなら泊まっていけば?」

「えっ、さすがに悪いよ、それは」

「構わんよ。部屋は二つある。ベッドも先程買ってきたからな」


ユーディアがそう言い、俺も頷く。

それに、いくらリナが盗賊とはいえ、こんな遅い時間に子供を連れて歩かせるのは危ない。


「私の部屋をエド君とユノ嬢に使わせるといい。リナ嬢はアルノー君の部屋を使いたまえ」


……勝手に部屋割りを決めやがって。

今日は久々に一人でのびのび寝るつもりだったのに。


『お前、デカいベッド買っただろ? ならリナも一緒に寝てもらって、俺は個室でよくないか?』

『師である私を差し置いて個室とは、さすがは他人の家庭事情に首を突っ込むアルノー君だ』

『それは悪かったって』


【契約回廊】越しに謝ると、どこか師匠気分の声が伝わってくる。


『良いか?怪盗は紳士でなくてはならん。紳士とは女性に優しいものなのだよ』

『はぁ……分かった分かった。レディファーストってやつな』


リナがユノを抱えて、ユーディアの部屋へ入っていく。まだベッドしかない殺風景な部屋だが、寝るだけなら問題ないだろう。

俺はエドを担ぎ、同じように部屋へ運んで寝かせた。


「それじゃ、お休み。……変なことしないでよ?」

「何かあれば私がアルノー君を追い払おう。安心したまえ」

「そりゃ安心だ!」

「ゴラァ!誰が襲うか!さっさと寝ろ!」


ペロッと舌を出しながら、リナは俺の部屋へ入っていく。


……なんで俺が襲う前提なんだよ。


「さて、」


扉が閉まり、静けさが戻ったところで、ユーディアが口を開いた。


「今日はもう遅い。私の文字練習は無しにして、君の怪盗訓練を行うぞ」

「は!?いや、文字の練習も……」

「今日から《無名讃歌》の練習もあるからな。時間は多めに取らねばならん」


……そういやそんなこと言ってたな。


念の為本心を確認しようと【契約回廊】を繋げると、ローレン先生の研究資料を読むのが嫌だという感情が伝わってくる。コイツ、サボろうとしているな?


だが、夜が遅いのも事実。これ以上遅くなると明日に響く。少し考えた後、俺はにっこりとユーディアに微笑みを向けた。


「……分かった。その代わり、明日は図書館で調べ物を始めるぞ」

「うぐっ!?」

「そろそろ頃合いだからな。今日は出来なかった分、明日はたっぷり本を読むぞ?」


ユーディアの《定理技能》問題も、【師弟契約】の解消も、どちらも解決する方法を探る為には、図書館通いは避けて通れない。


それを分かっているからこそ、ユーディアは何も言い返せない。


口をぱくぱくと動かし、なんとか反論しようとしていたが……やがて諦めたようにガックシと肩を落とし、小さく頷いた。

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