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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【80】個室と宝石の加工

「おお〜!良い!めちゃくちゃ良い!」


リナに修理してもらったおかげで、俺たちのアジト……あばら家は劇的に進化していった。


ーーなんということでしょう。


今まではキッチンも寝室も仕切りがなく、どこまでも筒抜けだったNOプライベートハウスが、匠の手によりキッチンと寝室に分けられ、床板も張り替えられ、ついに念願だった“個室”という概念が生まれたのです。


6畳くらいだが、窓もあるし、リナが気を利かせて壁に簡易的な棚も付けてくれた。

ここにベッドがあれば、もう夢のマイルームだ!


「ふふん。お気に召したかい?」

「リナ!お前すげぇな!見違えるようだぜ!」

「だろ?……なら、追加でお礼とかあってもいいんじゃないかい?」

「しっかたねぇなぁ。ほらよ」


俺はコートから桃のようなダンジョン産の果物……トゥーチを取り出す。


「やった!」


奪い取るようにそれを俺からもぎ取ると、むしゃりと早速かぶりついた。

リナは特にダンジョン産のあまぁい果物がお気に入りで、ことある事に俺を喜ばせては美味しい果物をせびってくる。

フレイムビスキュイをあげた時から思っていたが、リナはあまりにも餌付けに弱い。


お兄さん、ちょっと心配になってくるなぁ……。

変に餌付けしてくる男とかに引っかからないといいが……。


「室内はこれでOKだね。あとはレンガだけど、今エドに探させてるところ。キッチンもせっかくだからレンガにしてあげるよ。まだ時間かかると思うから、その間家具でも買ってきたら?」

「家具かぁ。ベッドと新しいテーブルとか?」


一人暮らしのワンルームに住んでいた頃、買ったものといえばこの辺りだったか。家電も無いし、そんなもんで十分か?


「そんだけ?金があるならさ、みみっちいこと言ってないで色々買ったら?絨毯とか布団とか壁紙とかさ。あとは食器棚にカトラリー入れとかも必要だろ?」


なるほど……今まであばら家でのほぼホームレス生活やコートでのテント暮らしだったせいか、“家で暮らす”って感覚がすっかり抜け落ちていたらしい。


ぐるりと周囲を見回したリナは、何もついていない天井を指さす。


「あぁ、その前に照明だね。今どきロウソクで灯りを取るなんて、あたしらでもやってないよ」

「確かに……」


クラリスさんの【エヴァレット旧蔵店】や、ニーナさんとガルドさんの【せせらぎ亭】でも、ガス灯みたいなランプが使われていたな。


「いい案だ。サンキューな、リナ」

「へへへっ、なら追加で……」

「果物ばっか食ってると腹出てくるぞ」

「なっ……!?」


リナは顔を赤らめて、腹出しの服の上から慌てて腹を押さえる。


押さえるくらいなら、最初から出すなっての。


「ほんっと!あんたってデリカシーないっ!」

「何でもかんでも甘味を求めてくるお前が悪い」

「うぅ〜……!」


女の子は甘いものと素敵なもので出来ている、なんて言うが……今のリナは9割くらい果糖で出来ている気がする。

さすがに与えすぎたかもしれないな、と少しだけ反省した。



ーーよし、別のものを与えよう。



「代わりに今晩、飯食ってけよ。エドとユノも連れてきていいぞ。それまで甘味はお預けな」

「!!ホントかい!?」

「ただしサボらなければーーだけどな」


言い終わるより早く、「ちゃんとやるよ!」とリナは風のように飛び出していった。現金なやつだ。


部屋を出てキッチン兼ダイニングを抜け、反対側のユーディアの部屋に顔を出す。


「おーい。家具でも買いにいこーぜ」


ユーディアの部屋は俺のより少し広いが、その分だけ余計に何も無いのが目立つ。

その中を忙しなく歩き回っていたユーディアが、こちらに気づいた。


「家具か。確かにベッドなどがあれば、部屋らしくはなるが……」

「ベッドじゃなくて、コートで作ったテントの方がいいのか?」


ダンジョンで使っていたあのふかふかの寝床に、すっかり魅了されていたからな。下手なベッドじゃ満足できないのも分かる。


「それもあるが……」


ユーディアは、がらんとした部屋を見回す。


「個室など、久しく無かったからな。どう過ごせばよいのやら分からん」

「……あー」


《無名讃歌》がある限り宿も借りられないし、まともな部屋なんて長いこと持っていなかったのだろう。部屋での過ごし方に戸惑いを見せているようだ。


「ーーなら、俺の出番だな!」


何を隠そう、大学生から一人暮らしをしてきたのだ。家具だってひとりで揃えたし、リナからもアドバイスを貰った。


「私室用の家具を買いに行こうぜ!他にもチェストとか照明とかさ!一人暮らし歴4年の俺に任せておけ」

「4年……短くはないか?」

「十分長いわボケ!」


軽く言い返していると、顎に手を置き少し思案したユーディアが口を開く。


「ふむ……ちょうど宝石の加工も終わる頃だろう。ついでに受け取りに行くとしよう」

「よっし!じゃあ行くか!」


せっかく手に入れた自分の部屋だ。

少しくらいは、それっぽく整えてやろうじゃないか。


ユーディアを連れて、俺は商業街のインテリア通りへと向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




いくつかの家具屋を巡り、高級なベッドやサイドテーブル、それに魔石で動く照明をいくつか購入した。なんとこの照明、人感センサー付きらしく、部屋に入ると自動で点灯し、遠隔操作用の魔石で消灯できるという。妙なところでハイテクだ。


一人暮らしのプロである俺が必要なものを挙げ、ユーディアが好みのデザインを選んでいく。部屋はそこまで広くないが、小洒落た空間になりそうだ。俺としては久しぶりのインテリアコーディネートだったが、ユーディアはこういった経験があまりないらしく、「それは必要なのか?」「余計ではないか?」と、貧乏性丸出しでベッド以外の家具を買うことにいちいち躊躇っていた。


「絶対、あとで俺に感謝する日が来るから!いいから買っとけって!」


サイドテーブルに置く小さなランプすら渋るユーディアを一喝し、ひと通り家具や絨毯、照明などを揃えた。


「壁紙はリナに貼ってもらおうぜ」

「女性に丸投げするのは感心せんな」

「不器用なやつがやったら、ぶよぶよになるぞ」

「……リナ嬢に何か差し入れでも買っていくか」


一瞬で諦めやがったが、それで正解だ。このポンコツ不器用怪盗に壁紙なんて貼らせた日には、壁紙の方が犠牲になりかねない。









あらかた買い物を終えた俺たちは、ユーディアが原石を預けていた宝石加工店へとやって来ていた。貴族街にある、いかにも高級そうな店だ。入口にはドアマンまで立っていて、最初に入った時はめちゃくちゃ緊張したのを覚えている。


店の前に掲げられた店舗札には『神石匠』と書かれている。ユーディア曰く、『宝石匠』の上位職である『魔石匠』、そのさらに上に位置する、宝石加工における最上位職らしい。ミレアスでも一人か二人しかいないという希少な存在だ。さすがに原石をすべて預けることはせず、ユーディアが目利きした一級品のみをここに持ち込み、残りは『魔石匠』や『宝石匠』に任せている。


「こんにちはー」


重厚な扉をドアマンに開けてもらって中に入ると、奥のカウンターにいた店主が優雅に一礼した。


「いらっしゃいませ。――ユディ様とアルノー様ですね。お待ちしておりました」


一目で俺たちだと察した店主は、そのまま上等なソファへと案内してくれる。大量の原石を持ち込んだ俺たちは、どうやらかなりの上客として扱われているらしく、対応は完全にVIP仕様だ。ほどなくして店員がお茶を運んできて、入れ替わるように店主が奥から大きな木箱をいくつも抱えて戻ってきた。


「こちらがご依頼の品でございます。どうぞご確認ください」


箱の蓋が開かれた瞬間、七色の反射光が視界いっぱいに広がった。


中には丁寧に加工され、強い輝きを放つ宝石がこれでもかと詰め込まれている。涙型やダイヤモンド型、四角くカットされたものなど形も様々で、ようやく俺でも見慣れた“宝石らしい宝石”になっていた。ただしその大きさは地球のそれとは比べものにならないほど大きく、ガラス製だと言われた方が納得してしまいそうなほどだ。


「どれも一級品でして、加工には大変気を遣いました。ご指定通りのカッティングに仕上げておりますが、ご確認いただけますでしょうか」

「どれどれ」


俺を軽く押しのけ、ずいっと前に出たユーディアが宝石を手に取る。角度を変えながらじっくりと眺め、次の石へと手を伸ばす。その様子を見るに、これはしばらく時間がかかりそうだ。


お茶を飲みながらのんびり待っていると、向かいに座った店主が静かに口を開いた。


「しかし……これほどの原石をお持ち込みになるとは。やはりお二人のご職業は、冒険者でいらっしゃいますか」

「よくご存知ですね」

「ええ。この界隈では、最近よく耳にする話でして。怪盗に並ぶほどの噂になっておりますよ」

「えっ、噂……ですか?」


そんなものが出回っているのか。思わず聞き返した俺に、店主は意味ありげに微笑む。


「知り合いの冒険者から伺ったのですが……最近、ダンジョンで死亡したとされていた初心者冒険者が帰還したそうです。それも、人類未到達とされる深層の詳細な情報を携えて」


確かに冒険者ギルドには深層の地図を提出した。だが、あの新人受付嬢に見せた時は「これで大丈夫ですよ〜」と、特に驚く様子もなくあっさり受理されたのだ。まさか、噂になっているとは思いもしなかった。


「冒険者ギルドだけでなく、教会の神官たちも騒然としておりました。あまりにも突拍子もない報告でありながら、すべて事実と判定されたそうでして……」


……なるほど。確か、冒険者ギルドに報告書を提出すると、教会に回されて真偽判定が行われる仕組みだったはずだ。どうやら噂になったのは、その判定が下された後らしい。


少しくらい騒ぎになるとは思っていたが、受付嬢の軽い反応を見て「意外と静かなものだな」と感じていた。だが、どうやら予想通り、水面下ではしっかり騒ぎになっていたらしい。


「その報告書の一つには、かつてミレアスの冒険者が到達したとされる深層18階層の詳細な地図が含まれていたとか。なんでも、黄金と宝石のみで彩られた階層なのだそうです。……巷では『黄金郷』と呼ばれ、多くの冒険者が18階層を目指して準備を進めているようですよ。無茶をする者が増えぬよう、ギルドマスターが急遽ダンジョンを封鎖したとも聞いております」

「へ、へぇー……」


そういえば道すがら、「ダンジョンが閉鎖されている」という話を耳にした気がする。


未踏の階層は何があるか分からない。だからこそ、普通の冒険者は安全な浅層で堅実に稼ぐのだろう。

だが今は、俺の地図がある。しかも地下18階層までの詳細なルート付きだ。


初心者でも生きて戻れた――ならば、自分たちにも行けるはずだ。そう考える冒険者が出てきても不思議ではない。


……どうやら、思っていた以上に一大事になっているらしい。


「ところで、アルノー様とユディ様は、当店以外にも多数の宝石加工をご依頼されているご様子。原石の種類、品質、数……そしてそれらを一度に加工へ回せるほどの財力……」


店主はにこりと微笑みを深める。


「『黄金郷』へ到達した冒険者であれば……納得がいきますね」

「ははは……お茶のおかわり、もらえます?」


空になったカップを差し出すと、すぐに店員が現れて温かい茶を注いでくれる。



……俺たちがその冒険者だと気づいてるな。



『ユーディア、どうする?』


【契約回廊】で相談しようとするとーー


『ああ!これも素晴らしい!まるで陽光を閉じ込めたような輝きだ!魔力経路も申し分ない!加工の無駄も少なく、これほど大きく仕上げるとは見事!』


……まったく話を聞いていない。呼びかけても反応がないどころか、頭の中に響く声だけがやたらと騒がしい。俺はさっさと【契約回廊】を閉じた。


「仮に、その冒険者が俺たちだとして……何かご用件でも?宝石を融通してほしいとか?」

「さすがのご慧眼です。“無いものはないミレアス”と申しますが、これほどの宝石は他に類を見ません。世界広しといえど、これ以上の品はなかなかございますまい。宝石を扱う者として、ぜひともお譲りいただきたく……」

「はぁ……まぁ、俺は構いませんけど……」


隣のユーディアの肩を叩く。

……反応がない。

もう一度、少し強めに叩く。

それでも反応しない。


仕方なく、ひょいと手元の宝石を取り上げる。


ようやく気づいたのか、ユーディアが信じられないものを見るような目でこちらを凝視してきた。


「貴様……人の心が……無いのか……?」

「これ、売っていいか?」


埒が明かないので、そのまま本題を投げる。


するとユーディアは目を見開き、バッと俺から宝石を奪い取ると、手元の箱を両腕で抱え込むように隠した。


「何を言っている!?これほどのもの、そう簡単に手放すわけがなかろう!」

「……ということで、すみません」


今にも威嚇しそうなユーディアを横目にそう告げると、店主は笑みを崩さぬまま懐から小切手を取り出した。


「どれでも構いません。ひとつだけ、買い取らせていただけませんか。こちらの金額をお出しします」


差し出された小切手を受け取り、目を落とす。



大金貨1万5000枚。



思わず目をこすり、もう一度見る。

ゼロを一つずつ数える。


ひぃ、ふぅ、みぃ……



大金貨1万5000枚。



「は、はぁぁあ!?!?!?」



宝石ひとつで、15億円ッ!?!?



「ユーディア!これひとつで大金貨1万5000枚だぞ!?売ろうぜ!?」

「売らん!絶対に売らん!」


金よりも宝石を優先するのはまさしく怪盗らしいが……何故だろう。おもちゃを取られたくない子供のように見えるのは。


どうやら手放す気はないらしいので、俺は店主へ向き直った。


「すみません。またの機会に……」

「いえ、機会が完全に失われたわけではないのなら問題ございません。……ですが、お気をつけください」


店主はわずかに身を乗り出し、声を潜める。


「初心者冒険者の二人組が深層から宝石を持ち帰り、羽振りが良い――という話は、すでにミレアスでは広く知られております。この店に出入りしたことで、お二人がその当人ではないかと勘繰られる可能性もございます。……ご帰宅の道中には、どうかご注意を」


……つまり、狙われる可能性があるということか。


礼を述べ、大金貨で支払いを済ませる。店主と店員が金貨を確認している隙に、宝石はすべてコートへしまい込んだ。リナですらスリをしていたのだ。ポケットなどに入れていたら、まず間違いなく盗られる。


「では、この度は当店をご利用いただき、誠にありがとうございました」

「見事な腕だ、店主。また立ち寄らせてもらおう」

「はい。ぜひ、お待ちしております」


店を出た瞬間、何人かの視線がこちらに向けられる。

……どうやら、すでに目をつけられていたらしい。


『これはこれは……怪盗から奪おうとする者が、こんなにもいるとは……!』

『待て待て!今は怪盗モードになるな!俺たちは“生還した冒険者”って設定だろ!』


【契約回廊】越しに弾んだ声が飛んできたので、すかさず釘を刺す。


『むぅ、残念だ。ならば普通に逃げるしかないな』

『そういうこと』


フードを深くかぶり直し、ユーディアとともに市民街へ向けて走り出す。

直後、数人の影がこちらを追ってきた。


やはり、狙われている。


『市民街の3番道路へ。大通り沿いの建物に上がるぞ』

『了解』


道幅の広い貴族街を抜け、市民街へと飛び出す。



――久しぶりの、衛兵ごっこだ!

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