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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【76】加工依頼とコートの調律

翌朝。


俺たちは商業街へと繰り出し、宝石の加工屋を巡ったり、スピアの装飾加工を依頼したりと、ユーディアと一緒にあちこち歩き回っていた。どの店も立派で規模も大きく、どうやら貴族相手にも商売をしているような大店ばかりだ。


俺が基本的なやり取りを店主と行い、細かな注文はユーディアが横から口を出す。それを俺が改めて整理して店主へ伝える形になる。二度手間だが、これで店主が依頼を忘れる事はないだろう。


「前はどうやって依頼してたんだ?依頼したことすら忘れられるんだろ?」


そう聞くと、


「1時間ごとに店に顔を出していた。夜は無理だが、早朝は店主の出待ちもしたな」


という回答が帰ってきた。

ヤベェやつである。

その店主、さぞや1時間ごとに現れる客に戦々恐々としていたことだろう。


「こまめに顔を出したおかげで、店主も気前よく“超特急”で仕上げてくれたのだ」


怖かったのか、それとも単純にうざかったのか。どちらにせよ、相当な圧だったに違いない。

俺は、かつてユーディアの服を仕立てた職人に、心の中でそっと手を合わせた。


――うちの師匠が、本当にすみません。





怪盗服を仕立てるべく、俺たちは高級な生地ばかりを扱うオーダーメイド専門店へと足を運んだ。


例によってユーディアの要望は俺が店主へ伝え、前金として大金貨3枚を支払う。ユーディアが採寸されている間、手持ち無沙汰になった俺は、店内に並ぶ服のサンプルへと目を向けた。


――やっぱり、いいなぁ。


オーダーメイドなんて憧れる。安物のリクルートスーツじゃなくて、自分にぴったり仕立てられた一着なんて、一度は着てみたいものだ。


そんなことを考えながら眺めていると――




ぷるっ。




コートが震えたかと思うと、一瞬で俺が見ていた服と同じものに変化した。


「お、お客様!そちら展示品となります!着用はお控えください!」

「いや違……す、すみません」


即座に店主に怒られ、俺は慌てて頭を下げる。そそくさと店の隅へ移動し、誰にも見えないようにコートを元に戻した。……心なしか、コートの襟がいつもよりもシャープだ。


「……もしかして、俺が他の服を欲しがったから嫉妬したのか?」


そう問いかけると、コートの裾がぷいっと外側を向いた。

どうやら図星らしい。


「お前だってユーディアに懐いてるじゃん!持ち主の俺を差し置いてさ!」


ペシッと叩くと、俺の魔力を吸い取って防御した。

コイツぅ……。


「魔力が無くなった時用に予備の服は要るだろ!それとも何か?魔力無くてもちゃんと変化してくれんのか?」


ぷる……と、自信なさげに震える。


「だったら、服の一着や二着くらい、大目に見ろよ」


そう言って再びサンプルに目を向けた、

その瞬間――




ずしっ。




コートの重量が、明らかに増した。



「んごぉっ……!?」


思わず床に膝をつく。

遠くから店主が「店の隅で何してんだ……」という視線を投げてきた。ヤベェ奴だと思われている。

何とか立とうとするが、無理に動こうとすればするほど、さらに重くなる。どうやら本気で他の服を買わせる気はないらしい。



ーーめんどくせぇ彼女か!?



脱ごうとすると、今度は脱げないように肩と腰周りをぎゅうぎゅうと締め付けてきた。



ーー質量保存の法則を無視すんな!コートはコートらしく軽くあれ!



「……何をやっているのだね?」


採寸を終えたユーディアが、クソ重コートと格闘している俺を見て呆れる。好きでこんなことやってるんじゃないやい。


結局、ユーディアが間に入ってコートをなだめてくれたおかげで、俺は上質なインナーとズボン、それに下着を二着ずつ購入する許可を得た。


……なんで今着てる服に、別の服を買う許可取らないとならないのか。


複雑な気持ちのまま、俺は大金貨2枚を支払ったのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




俺たちは一通り必要な加工依頼を済ませると、その足で足りない物資の買い出しへと向かった。


主に、消えてしまったユーディアの生活用品だ。椅子や器、カトラリー、コップ、包丁、まな板、鍋をいくつか。それに加えて、調味料や保存の利く瓶詰め、さらには家飲み用にと、まだ試したことのないワインなどの酒もいくつか選んでいく。最後に花瓶などの小物も買い足した。


ついでに、俺の私物もいくらか新調することにした。今まで使っていた物は、ゴミ捨て場で拾ったものや、職業訓練所から貰ってきたものばかりだったからだ。


ひと通り買い物を終えたところで、俺たちは最後にある場所へと向かった。




――クラリスさんの店、【エヴァレット旧蔵店】だ。




扉を開けると、カラン、と軽やかなベルの音が鳴る。同時に奥の部屋からクラリスさんが顔を出し、俺たちを見るなり嬉しそうに目を細めた。


「あら、今日も来てくれたのねぇ。アルノー君」

「こんにちは、クラリスさん。それと……昨日はすみませんでした」


頭を下げると、クラリスさんは「いいのよ」とやんわり手を振る。


「私も覚えてなくて、ごめんなさいね」

「ありがとうございます。……改めて紹介させてください。俺の友人で師匠で、同居人のユディです」


そう紹介すると、ユーディアは芝居がかった所作で一礼した。


「お初にお目にかかります、クラリス婦人。彼より紹介を受けました、ユディと申します。よろしければお近づきの印に、こちらを」


コートを軽く叩くと、一輪の白い花――『ベールフローレン』が現れる。それを恭しく差し出しながら、ユーディアは穏やかに微笑んだ。


「夢で貴方にお会いした折、お約束したのです。クラリス婦人に似合う美しい花をお持ちすると。覚えておいでではないでしょうが……これで、その約束を果たせました」

「夢の中で私に会ったの?まぁ、まるでおとぎ話のお姫様みたいねぇ」


……実際、本当に約束したんだけどな。


そう口には出せないが、クラリスさんが嬉しそうに笑ってくれた。それだけで、今は十分だった。


クラリスさんは花を受け取ると、「そうだわ」と軽く手を打つ。


「実はね、2ヶ月くらい前に新しく花瓶を買っていたのよ。どうして買ったのか思い出せないんだけど……もしかしたら夢でユディさんに花を貰うのが楽しみで、無意識に買ってしまったのかもしれないわね?」


その言葉に、ユーディアは一瞬目を見開き――やがて、ふっと柔らかく口元を緩めた。


「夢でお会いしたクラリス婦人も、『花瓶を買っておかないと』と仰っていました。……きっと本当に、我々は夢でお会いしていたのでしょう」

「ふふ、そうね。なら“初めまして”じゃなくて、“お久しぶり”の方が良さそうかしら?」


冗談めかして笑うクラリスさんに、ユーディアは心から嬉しそうな表情を見せた。


――全部消えてしまったわけじゃない。


クラリスさんは、俺たちと別れたあと、きっとすぐに花瓶を買ったのだろう。その理由は忘れてしまっていても、“買った”という事実だけは、かろうじて残っていた。


そのことに、俺の胸も少しだけ温かくなった。


さっそく花瓶を用意し、『ベールフローレン』を飾る。ふわりと華やかな香りが部屋に広がり、クラリスさんの店の雰囲気にも不思議とよく馴染んだ。


「素敵ねぇ。本当にありがとう、ユディさん」

「お気に召したようで何よりです、クラリス婦人」


ユーディアとクラリスさんの約束を果たせた所で、俺は改めてクラリスさんへ声をかけた。


「クラリスさん。今日は実は、お仕事のお願いがあって来ました」

「お仕事?あら、もしかして……」


俺はコクリとうなづいた。



「コートの調律と修繕をお願いいたします」


……。


…………。


……………………プルリッ!?



コートが、ハッとした様子で身を震わせた。




――そう、今日の1番の目的はこれだ。




どうせ店に入る時点で暴れるだろうと踏んで、事前にユーディアへ【契約回廊】越しに頼み、店に入る前から《無名讃歌》でコートの意識を逸らしておいたのだ。


案の定、コートはズルリと勝手に脱げて逃げ出そうとする。それを俺とユーディアで左右からがっちりと押さえ込んだ。


「ほらほら、ダンジョンでこき使いすぎたからさ。たまにはメンテナンスしとけって」

「早めに修繕せねばならんだろう。潔く観念するのだな、コートよ」


プルゥ!!


おのれ騙したな、とでも言いたげに激しく震えるコートを、二人がかりでなんとか組み伏せる。


「クラリスさんっ!!今ですっ!!」

「ふふふ、本当に仲がいいのねぇ」


クラリスさんはペンのような道具を手に、ゆっくりとコートへ歩み寄る。


「じゃあ、少しだけチクッとしますからねぇ」


プルゥゥウ!!


悲痛なプルり音が、静かな店内に響いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



怯えるコートを押さえつけること2時間。

ついでに洗浄魔法で丸洗いすること30分。


ようやく解放されたコートは、メソメソと俺の溝尾に襟をグリグリしていた。うちで飼ってた犬も予防接種が終わったらいつもこうなっていたので懐かしい。


「よしよし、頑張ったな」


落ち着くまで、コートを撫でてやる。

調律をすると、やはり魔力の通りが段違いだ。心なしか、コート自体も軽くなった気がする。

ダンジョンではかなり酷使していたからこそ、定期的なメンテナンスの大事さを改めて痛感した。


一方でユーディアは、ちぎれたコートの切れ端を指でつついていた。


「やはり難しいですか」

「えぇ。この子、かなり複雑な構造をしていてね。私でも完全な修復は無理そうなの。魔力導体で繋ぐことはできるけれど、元通りに動かすのは難しいわ」


ちぎれた端は、プルっと小さく震える。


「とりあえず単体で動けるように整えて、コート本体の収納空間とも繋いでおいたわ。この小さな切れ端からでも、荷物の出し入れはできるはずよ。ただし、服の変化や自動防御はほんの一部だけね。小型のコートとして使うのが良さそうだわ」

「それはそれで便利ですね」


ユーディアはチビコートで遊びながら、こちらへ視線を向ける。


「この切れ端、私が貰ってもいいかね?」

「いいよ。毎回俺のコート叩きに来るの面倒だったろ?」

「フッ、感謝しよう」


ユーディアが軽く叩くと、チビコートはシュルリと形を変え、その腕に絡みつく。やがて、シックな黒いリング状のブレスレットへと姿を変えた。


「まぁ……ユディさんにも懐いたのね。この子、着る人を選ぶのよ?」

「たまたまですよ」


そう言いつつも、ユーディアはどこか嬉しそうだ。コートの便利さを知っているからこそ、それが手元に来たのが嬉しいのだろう。


「汚れも落ちたし、これで大丈夫ね。お代は小金貨5枚だけれど、コートを抑えるのに手伝って貰ったから4枚で大丈夫よ」

「ありがとうございます!じゃあこれで」


ユーディアの身分札キャンセルをしてもらいつつ、代金を支払う。


「アルノー君、ユディさん。よかったら今度、ダンジョンのお話を聞かせてちょうだい。タルトを焼いて待ってるから」

「タルトっ!やった!絶対行きます!」

「コラ!すみません、うちの猿が……」

「ふふふ、本当に仲がいいのねぇ」


クラリスさんのお菓子は絶品だ。それに、「帰ったらタルトを食べながら話をする」という約束もあった。それもきちんと果たさないとな。



どこか懐かしいやり取りを交わしながら、ピカピカになったコートとチビコートを連れて、俺たちは【エヴァレット旧蔵店】を後にした。

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