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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【69】緑賢のローレンVS 師弟怪盗

「まずは一人ですね」


地面に倒れた白い怪盗を技能で拘束し、もう一人の方を探す。黒い方は《気配遮断》でも使っているのか、時折見えなくなったり、意識からフッと消えたりする。


ーー不意打ちに気をつけねばなりませんねぇ。


魔力で探知出来るか試そうとした時、



バキバキバキッ!!



「!?」


亜種の魔物たちを捕らえていた木の檻から、聞こえるはずのない音が響いた。

まるで木が内側から折られているような、鈍い破砕音。


視線を向けると――そこには花が咲いていた。


檻の内側から幹を突き破るように、溢れんばかりの花が咲き乱れている。花に押し広げられ、弱くなった幹が音を立てて崩れ落ちた。

修復しようと檻へ魔力を動かすが…… 入らない。

すでに別の魔力が内部へ流れ込み、制御の隙間がまったく残っていない。



――私の魔法制御を、奪った?



《魔力操作》を授かっている私は、そこらの魔法使いより遥かに魔力の扱いに長けている。


簡単に制御を奪われるはずがない。


「やはり……上手くいったようですね……」

「!」


足元から声が聞こえた。倒れていた白い怪盗だ。

彼を拘束していた蔦が、勝手にほどけていく。

すぐに魔力を流して操ろうとするが――弾かれる。



――また、魔力制御を奪われた?



咄嗟に後方へ飛び、距離を取る。

そして白い怪盗の様子を観察する。


……先程までの彼とは、雰囲気がまるで別人だった。


鼻が伸びた天狗のような調子の軽さは影を潜め、口元には穏やかな笑みが浮かんでいる。

若者であることは分かる。だが今は――まるで落ち着き払った老年の男のような空気を纏っていた。


技能?魔力の制御を奪う?

だとしても、今更?

何か条件が?


興味はあるが、それらの思考を一度振りほどき、もう一度小さな爆発を彼の傍に起こそうと魔力を練る。



パァンッ!!

パァンッ!!



彼に対して魔法を放った瞬間、私の真横に同じような爆発が突然起きた。


《魔力障壁》のお陰で怪我はないが……まさか、魔法を模倣された?


「《草木魔法》」


地面が割れる。周囲から胴よりも太い強靭な根が何本も生え、それが白い怪盗へ叩きつけられた。


すると、


「《草木魔法》」


鉄の棒のような武器を、まるで指揮棒を振るかのように持つと、ヒュンと振る。

私と同じように地面が割れ、強靭な木の根が周囲に生えた。そして、それを振るう。



ーー木と木が、激しくぶつかり合う。



ッダァァアン!!



派手に木片を撒き散らす。

その木片をさらに操作しようとするが……反発があり上手く制御が効かない。


魔法の制御の奪い合い。


相手の魔法の隙間に入り込み、操作権を奪取しては、再び奪取される。



ーー私と同格の、《魔力操作》の持ち主?



片手で魔法の制御を続けながら、もう片手で水の槍を無数に放つ。

すると白い怪盗は、瞬時に同数の炎の槍を飛ばし、水の槍へ寸分の狂いもなく全てぶつけて相殺した。


ドォンッ!と音を立てて水が一瞬で蒸発し、周囲に濃い水蒸気が立ち込める。



ーーなんて楽しいんでしょう!



最近は実戦も随分とぬるかった。

そのせいか、久しぶりの同格との戦いに、自然と口元が緩む。

しかも……相手も同じく《草木魔法》の使い手。



ーー八冠聖人として、負けられませんねぇ。



地面から岩の槍を突き出せば、同じく岩の槍で砕かれ。

蔦で殴りかかれば、同数の蔦で弾き返される。

水や火を撃ち合えば、必ず正確に撃ち落としてくる。

こっそりと地面へ魔力を流し、私の魔法が効きやすい森林領域を広げても、相手も同じように自分の森林領域を作り上げてくる。


戦法も、思考も、緻密な魔力操作も……すべてが同じ。


まるで、鏡合わせ。



ーー自分自身と戦っているようです。



「では、こちらはどうです?」



腰につけたポーチより種をいくつか取り出して地面にバラ撒き、《草木魔法》で2mくらいまで急成長させた。

毒々しい真っ赤な花弁。中央には鋭い歯が並び、まるで魔物のような姿をしている。


『パラライズ・センカ』


大陸南西原産の、肉食植物。


花粉のような細かい麻痺針を飛ばす危険な植物だ。

それが計20本。


パラライズ・センカ達は体をバサリと揺らすと、牙の生えた口から細かな針状の花粉を霧のように吹き出し、白い怪盗へ向けて放った。


ボォッ!


白い怪盗は炎の壁を展開し、花粉を焼き払おうとする。


……しかし、この花に火は効きません。


花粉は勢いを失うことなく炎の壁を突き抜け、白い怪盗へ突き刺さるーーはずだった。


「この程度ですか?ローレン」


白い怪盗のマントが翻る。

気付けば、彼の手には透明な石がいくつも握られていた。

次の瞬間、石が弾け飛び、大量の水が噴き上がる。


荒れ狂う波のように水がうねり、花粉をすべて飲み込むと、意志を持つかのようにずるりと宙へ浮かび上がった。

そして、見上げるほど巨大な水球へと変貌する。



……火が効かないと判断し、水に切り替えたのですか。



白い怪盗はふと、水球へ手をかざした。

服の裾が水球に触れると、ドロリ……とそこから土のようなものが溶け出し、水球が泥のように灰色へ濁っていく。


「先ほど、私だけ水浴びをさせて頂きましたからね。せっかくですから、ご一緒にどうです?」


白い怪盗が、指揮棒を振るように優雅に手を前へ振る。



ドゥッ!



途端に水球が加速し、凄まじい速度でこちらへ飛んできた。


「お断りします。お風呂はもう入ってきてしまったので」


私は杖を向け、水球の制御を奪おうと魔力を放つ。


……しかし、魔力は水球の表面を流れるだけで、中へ入り込めない。



――魔力が弾かれる?



先ほどとは違い、水へ魔力を溶け込ませることが出来ない。迫る水球に対し、咄嗟に《魔力障壁》を前方へ展開した。


すると、



スッ……



「!?」


水球は《魔力障壁》をすり抜け、私へ迫ってくる。

咄嗟に爆発を起こし、水球を正面から吹き飛ばした。

だがすべてを防ぎきることはできず、袖や頬へ泥が飛び散る。ビリリ、と痺れる感覚。

麻痺毒が体内へ侵入してきた。


「《異常浄化》」


胸に手を当て、麻痺が回る前に体内の毒素を消し去る。

その様子を、白い怪盗は後ろ手に手を組みながら、朗らかな笑みで眺めていた。


「その土は、ダンジョン深層の天井から取ってきたものです。私からのプレゼントですよ、ローレン」

「……随分と素敵なプレゼントですね」


水と風の魔法で、体についた泥を一瞬で吹き飛ばす。


ーーしかし、服に付いた泥は完全に落ちません。

少し汚れてしまいました。

あーぁ……この服、お気に入りでしたのに。


「……少し本気を出しても良さそうですね」


カンっ!と杖で地面を付き、複雑に魔力を編み上げ、地中に魔力で魔法陣を描く。



ーー《魔力操作》による、オリジナル魔法。



「死なないでくださいね」



地面がボコリ、と風船のように膨れ上がる。


そして、




ドォォォオオオオン!!!




空気を震わせるほどの爆発が起こった。

地面が泡のように弾け飛び、その下から赤い溶岩が噴き上がる。

眩い赤熱と、燃え上がる大地。

立ち込める黒煙が空を赤黒く染め上げていく。

地面は溶け、花粉を吐き切ったパラライズ・センカも飲み込まれ、周囲一帯は荒れ狂う炎の火山地帯と化した。


白い怪盗の足元の地面が、ぐずぐずとマグマに溶けていく。周囲のまだ立てる地面には、制御を奪われないよう隙間なく魔力を編み込み、耐火性を付与した草木を伸ばした。

それらは蛇のように滑り、白い怪盗の手足へ絡みつき、全方位から拘束する。


「ローレン……本当に貴方、化け物ですか」

「褒め言葉として受け取っておきましょう」


ーー手足の何本か焼け落ちるかもしれませんが、まぁ命さえ無事なら何とかなるでしょう。


溶岩を持ち上げ、白い怪盗が逃げられないようドーム状に閉じ込める。さらに魔法制御を奪われないよう、溶岩の内部までみっちりと魔力を編み込んでおく。

これでしばらく放置しておけば大丈夫でしょう。



「わぁぁぁああ!!」

「魔物が!魔物が!」

「止めてくれ!早く!」

「ローレンさん!助けて!」



ふと、背後から叫び声が聞こえてきた。

振り返ると、檻の中にいたはずの亜種の魔物が、いつの間にか逃げ出していたらしい。

檻の中には、一匹も残っていない。


……しまった。魔物のことを、()()()()忘れていました。逃げ出した魔物が冒険者や衛兵を襲っていたら危険です。


しかし――何か違和感がある。


片手間に溶岩を操作しながら、魔物を探すように周囲へ視線を巡らせる。


冒険者も衛兵も、巻き込まれないようミレアスのある西側へ退避していた。そして、驚いたような視線をこちらへ向けている。



しかし――助けを求めている様子はない。



――なら、今の声は?



その時、背後に気配。



パァン!

キィィィイイイインッ!!



振り向きざまに、音爆弾と閃光を放つ。

そこにいたのはーー両眼を閉じ、両手を広げた黒い怪盗だった。

普通、この距離で音爆弾を受ければ鼓膜が破れるはず。

しかし、まったく意に介していない。



バリリッ!



周囲に強めの電撃を放ち、感電させようとするが…………黒い怪盗の体を電撃が通り抜ける。



魔法無効?



すかさず距離を取り、魔法を放とうとした瞬間。



パンッ



「っ!」



黒い怪盗の両手が、私の顔面数cm前で打ち鳴らされた。


魔力を使っていない。

技能での攻撃でもない。

敵意を全く感じない……ただの、ねこだまし。

しかしーー目の前で叩かれたその両手に、思わず意識が引き寄せられる。



「ようやくか」



黒い怪盗が手をくるん、と翻す。

その一瞬で、私の手の中にあった愛用の杖が、怪盗の手に握られていた。



ーー武器の奪取が目的、ですか。



「さすがは“八冠聖人”だ。まったく隙が無かったのでね」


すぐに爆発を起こして杖を取り返そうとするが、



「頭上注意だ」



黒い怪盗が上を指さす。

その途端……頭上からーー殺気。

暗殺者特有の魔力の流れ。

やはり不意打ちを狙ってきましたか。


「《衝撃反射》」


相手が与えようとしたダメージを、そのまま跳ね返す技能。

私への対策として魔力耐性を整えてきた暗殺者には、もっとも効果的な対処法だ。



ーーだが、技能が反応しない。



咄嗟にその場を退き、頭上を確認する。


しかし――何もいない。


すると。



「たすけて!ローレンさんー!」



今度は、背後から子供の声が響いた。


――子供?一体どこから?

そもそも、こんな場所に子供がいるはずが……。


……いえ。

もし人質として連れてきたのなら、許せませんね。


急いで振り返り、魔法を構える。



そこにいたのは――黒い怪盗、ただ一人。



「ローレンさん〜!たすけて〜!」



空に浮かび、喉に片手を当てた黒い怪盗の口から、幼い子供の声が発せられる。目が合うと、ニヤリと口の端を上げて笑っていた。

……神経を逆撫でするような振る舞い。

集中力を必要とする魔法使いにとっては……天敵。


武器を奪い、

気配や殺気を偽装し、

声まで変えて相手を惑わす。


ーー驚異ではないですが……少し厄介ですね。


「《無名讃歌》」


何かの技能名を呟いたようだが、特に何も起きない。

遅延効果のある魔法ならば、早めに叩いた方が良い。


私は杖を構えようとしてーー



「……あっ」



魔力が手から拡散していく。

()()()()、杖を盗まれたことを忘れていました。

私としたことがこんな凡ミスを……。



途端、魔力がグラりと揺らぐ。


「なんです?これは……」


まるで大きな魔法を制御している時のような、魔力のぐらつき。何か魔法を使っているならともかく、今は何も使ってはないはず。


精神干渉?いえ、私には効かないはずです。

では一体何が……


いや、これは……




ハッとする。




ーー溶岩で怪盗を一人、捕らえていたことを()()()()()()()()()()()っ!?




慌てて溶岩の制御を行おうとするが、既に溶岩の制御が奪われており、溶岩の檻が地面へ引っ込んでいく。その中央には白い怪盗と、いつの間にか移動していた黒い怪盗の2人が立っていた。


怪盗達は、ふわりと宙へ浮き上がる。


途端に、溶岩の制御が私の元へ完全に戻ってきた。

それを使って再び捕らえようとするが、怪盗たちはそれよりも速く、白み始めた夜空へ高く舞い上がる。

白い怪盗の様子も、すっかり最初の尊大な雰囲気へ戻っていた。


「今宵は楽しめたぞ、緑賢のローレンよ」

「実に素晴らしいひと時だった。……しかし、そろそろお開きの時間だ」

「待ちなさい!一体私に何をしたのですか!」


魔法の発動をうっかり忘れるなど、本来有り得ない。

この私が、先ほどから“うっかり”と様々な事を意識の外に追い出されていた。


魔力を使われた感覚も痕跡もない。

ーーこれは、精神干渉でもなければ呪術でもない。


()()()()()()()()()()()()()()()()が、背筋をゾワリと撫でる。



ーーまさか。



「貴方は、もしかして……」




そう言いかけた、その時。




溶岩に半分飲まれていたダンジョンの入口が、内側から弾け飛ぶ。


飛び散る溶岩の隙間から、ぬらりとした茶色の触手が何本も這い出てきた。穴から這い出るように、巨大な体が地下から姿を現す。

見上げるほどの体躯。

海に住むクラーケンに似た姿。

胴の周囲には、無数の黄色い瞳がギョロリと蠢いている。


「ーーまさか、グランケーン?」


地上で生きられるよう進化した、陸上型クラーケン。

目撃例は少なく、生きる化石のように扱われる珍しい魔物だ。

しかしその実態は――物理も魔法もほとんど効かない恐怖の権化。記録では、いくつもの都市に大打撃を与えてきた、恐ろしい魔物である。


グランケーンは、ギョロリと視線を上へ向ける。

その視線の先には……怪盗達。


「さっ……最後に、君たちへ置き土産をやろう。我らが……えー、連れを、倒せるかな?」

「しょ、商都ミレアスの英雄となれる、またとないチャンスだ。あー……君たちの活躍を、遠方より応援しているぞっ!」


それだけ言い残すと、怪盗達はミレアスの方へと猛スピードで飛んで行く。


「ま、待ちなさい!コラ!」


追いかけようとすると、ガッ!と、何かにつまづいてよろめく。足元を見てみると……奪われていた愛用の杖がいつの間にか地面に横たわっていた。

怪盗達の方を見れば、何かの技能を使ったのか既に姿が見えない。


わ、私の報奨金がぁ〜!!


「グォォオオオオン!!!」


地響きのような、グランケーンの吠える声が白んできた夜空に響き渡る。そして……猛スピードでミレアスへ向かって動き始めた。


ーーこのまま進行を許してしまえば、ミレアスが半壊してしまう。


1ヶ月もかけて王都から範囲攻撃技能の許可を貰って、

職業訓練所に休講の届出をして、

深夜に魔法を飛ばしてまでダンジョンへ来たのに……


研究用に捕まえた珍しい亜種の魔物には逃げられ、

魔物恐慌(スタンピード)の主犯達にも逃げられ、

挙句は化け物退治。


も〜、散々ですよ!


「……せっかくここまで準備して来たのです。せめて、貴方の魔石は頂いていきますよ」


杖を持ち上げ、立ち上がる。

腰のポーチからポーションを取り出して一気に飲み干すと、ミレアスへ向かおうとするグランケーンに杖で狙いを定めた。


……人間相手ではなく、魔物であれば手加減はいりません。


「ーー研究費用分は、絶対稼いで帰りますからねぇ〜ッ!!」





ーーその日、商都ミレアスのダンジョン封鎖区画が蒸発した。

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