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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【64】ひと時の安らぎ

その日、俺たちはゆっくり休息を取った。

ダンジョン地下19階層は広大な草原と川が広がる穏やかな場所だ。ナシェルの民が、川魚と水牛のような魔物を仕留めてきてくれた。


「川魚だろうが、魚は魚だ。約束、果たして貰うぞ」

「はいはい」


俺は魚を使って、《神の舌》でブイヤベース味のスープを作る。水牛も、ナシェルの民が綺麗に捌いてくれたおかげで、市販の塊肉のようにしか見えない。余計なことを考えずに済むのはありがたい。


ーー今夜は焼肉だ!


ユーディアには「5日間も食事をしてないのに重くないか?」と言われたが、割と元気だし、せっかくの焼肉チャンスを逃す訳には行かない。


「「いただきます」」


薄切りにした肉を、そこらにあった岩をナシェルの民が爪と怪力で板状に加工し、火にかける。その上に牛肉を乗せ、みんなで囲んで焼いていく。


《神の舌》で水に焼肉のタレ味をつけ、それを絡めて食べてみる。


「ん〜まっ!久しぶりに牛肉食ったぜぇ!」


フワンプ・ツリーの葉はサンチュのような形状をしている。肉を包んで食べると、これまた最高だ。


……あぁ、白米が食いたいなぁ。


「ーーあぁ、美味い……美味いな……」


一方のユーディアは、久しぶりのブイヤベースをゆっくり味わっていた。一口ずつ、確かめるように飲み込んでいる。

今回はフワンプ・ツリーの根を潰し、マッシュポテト風にして添えた。スープに絡めれば、そりゃあ格別だろう。


「毎日、これでも構わんよ」

「嫌だよ。やっぱ汁物っつったら味噌汁だもんな」

「チッ」


露骨な舌打ちが返ってきた。

よし、ブイヤベースの頻度は減らそう。


「ミューミュー」


シーフラ達にもスープをおすそ分けする。

石製の器を囲み、ぴちゃぴちゃと夢中で飲む姿は実に可愛い。


そんなシーフラ達をみていると、ふと疑問が湧いてくる。


「……そういえば俺って、どうやってシーフラ達に助けられたんだろ?」


未だになんで生きているのか謎だ。

その疑問に、ネフィルが口を開く。


「このシーフラ達ですが……どうやら《精霊の小道》を使えるようです」

「小道……?何それ?」

「封界人風に言えば、“転移”に近いでしょうか」


転移?

つまり、俺はあの白い森へ飛ばされたということか。


「《精霊の小道》は、この世界と重なり合う“精霊界”を通って、全く違う場所に移動が出来る……という術です。精霊との繋がりが非常に強い者にしか使えません。しかも、使えたとしても移動先がランダムでどこに出るかは分からないのです」


「なるほど。つまり――」


ユーディアがブイヤベース風スープをおかわりしながら言葉を続ける。


「アルノー君を探していたシーフラ達が、君が地底湖に落ちた瞬間、偶然にも君を見つけ、《精霊の小道》を発動。たまたま救出に成功した……というわけか」

「……そうなのか?」


シーフラ達に聞くと、何匹かは「ミュ!」と頷いた。

……マジ?


「ハッ、本当ならば、とんでもない豪運だな」

「なんか俺、人生の運を全部使った気になってきたんだけど……」


ダンジョンを出た瞬間に死ぬんじゃないかってレベルの豪運だ。

どうか俺の運勢が、ここで干からびませんように。


「しっかし、精霊かぁ……ネフィル達って、神じゃなくて精霊を信仰……してるんだよな?」


ふと気になり、そう尋ねてみた。

挨拶にまで“精霊”という言葉が出てくるのだ。よほど信仰が深いのだろう。


ネフィルは小さく頷いた。


「精霊は、我らの父であり母であり、尊敬すべき隣人のような存在です。あらゆるものに宿り、我らを生み出し、導くもの。封界人の信仰とも似ている部分はありますが、もっと身近なものだとお考えください」


なるほど。

日本でいうところの“八百万(やおよろず)の神”に近いのかもしれない。あらゆるものに神が宿るという考え方だ。


そういえば――俺が帰るために必要な指輪は『精霊王の気まぐれ』だったはずだ


「精霊王って、いるのか?」

「精霊に“王”……どうでしょう。御霊を分け与えられたとはいえ、私たちは精霊そのものについて詳しいわけではありませんので……」


意外にも、精霊については曖昧な部分が多いらしい。

ならば、と俺は話題を変える。


「じゃあ、神は信仰しないのか?」


ネフィルは少し困ったように首を傾げた。


「えぇと……我らには“神”というものがよく分かりません。生物を超越した存在として認識しているのは、精霊だけですので……」


その時、横からユーディアが口を挟んだ。


「アルノー君。神と言っても、人間が神を信仰し始めたのは、ここ数百年程度なのだ。それ以前は、人間も精霊を信仰していた――クラリス婦人とのお茶会で、そういう話をしていただろう?」


そんなことを言われても覚えていない。難しい歴史の話をしていたのは聞いていたが、俺にはちんぷんかんぷんだったのだ。



「正確には、神の登場はおよそ五百年以上前、“第七転換期”に発生したとされる。その際、多くの人々の感性に影響を与え、それまでブールド調の装飾が主流だった宝飾品に、何柱かの神を象徴するレミノルリア調の意匠が増え――」


「あー、わかったわかった」


話が長くなりそうだったので、途中で遮る。


「つまり、世界的には“精霊が先”、で“神々が後”ってことな?」


ユーディアはわずかに口を噤み、不満そうにこちらを見る。どうやら、まだまだ語り足りなかったらしい。


こうして、久しぶりの食事を楽しみ、風呂にも入り、コートをテントに変形させ、眠りにつく。

そこへシーフラ達がなだれ込み、もふもふの体で身を寄せてきた。ふわりと暖かい。


みんなと再会できた安堵感と、ようやく揺れない場所で眠れる安心もあって――俺はすぐに、深い眠りへと落ちていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「コート、ちぎれちゃったな……」


翌朝。


俺はナシェルの民が朝食の準備をしている間、左腕に巻きついたコートの切れ端を撫でていた。ちぎれた側はぴくりとも動かないが、かすかに魔力は通っている。……完全に死んではいない、はずだ。


コートの本体はユーディアと一緒に19階層へ置いてきてしまっていた。俺と合流するまではユーディアが身に着けていたそうだが、俺がいないと魔力を渡せないため、テントなどへの変化はできなかったという。辛うじて食材を出せた程度だったとか。


そのせいで、久しぶりに地面の上で寝る羽目になり、背中が痛いとユーディアが文句を言っていた。


……贅沢を覚えさせてしまったな。


それはともかく。


俺と再会した時のコートは、魔力がほとんど通っておらず、まともに機能すらできていなかった。俺が触れて少し魔力を流してやると、途端に嬉しそうに体へまとわりつき、襟元で俺の頬をすりすりしてくる。


……でかい犬に挨拶代わりに顔を舐められている気分だ。


「クラリスさんのところに行ったら、修理してもらえるかな?」


ぷるり!?


コートが怯えたように震えた。


さすがに酷使しすぎたしな。ダンジョンを出たらメンテナンスに連れていくつもりだったのだ。悪いが、諦めろ。


コートは、ぷる……と力なく震え、襟がしなしな……と垂れ下がっていく。


……これは連れていくのに骨が折れそうだ。






朝食後、《空間読解》を使うと、ここから半日もかからない場所に上層へ続く道があると分かった。巨大な石柱の内部が坂道になっており、そのまま上へと伸びているようだ。


「よし、行くか。……えーと、シーフラ達も一緒にいくか?」

「ミューミュー」


シーフラ達はこくこくと頷く。

途中までなら問題ないだろう。


その時、ユーディアが口を開いた。


「アルノー君。このシーフラ達だが……エル=ナシェルの民と共に、ダンジョンの外へ連れていかんか?」

「は!? ユーディア、どうした突然!? もふもふにやられたか!?」

「違うわ、馬鹿者」


腕を組み、冷静に言い返す。


「亜種とはいえ、シーフラの本来の生育域はダンジョン地下1~3階層。それより下には生息していないし、繁殖にも向かん。つまり我々が出た後、この者達は浅層で暮らすことになる」


「……この数の亜種シーフラが、浅層に……?」


それはかなりまずいのではないか。

俺たちとは仲良くなれたが、毛皮目当ての冒険者と共存できる未来が見えない。


「下手をすれば騎士団が討伐隊を編成するだろう。このシーフラ達なら逃げ延びることはできよう。だが……かつてのような暮らしは難しくなる」


そこまで考えていなかった。

命の恩人であるシーフラ達の未来を思うと、胸が痛くなる。


「ならばいっそ、新天地を求めてダンジョンの外へ逃がす方がよい。どうせエル=ナシェルの民も連れ出すのだ。同行者が今さら数百増えようと、騒ぎの規模は大して変わらん」


エル=ナシェルの民だけでも大騒ぎになるだろう。それ以上増えたところで、混乱の度合いはきっと同じだ。


魔物に対して厳しいはずのユーディアにしては、大胆で――そして優しい提案だった。


ネフィルが静かに頷く。


「ならば、我らはシーフラ達と共に故郷を目指しましょう。精霊の力が満ちるあの地ならば、彼らにとっても良き住まいとなるはずです」

「サンキューな、ネフィル。シーフラ達もそれでいいか?」

「ミューミュー」


どこか寂しげではあるが、納得してくれたようだ。


俺たちは、ネフィル達がいつの間にか用意していた石の神輿に乗り込む。今回は大量のシーフラ達も同行するので、神輿の周りの地面はほとんど白い魔物で埋め尽くされている。


「それじゃあ行きますか!ーー全速前進!」

「オォォーーー!!」

「ミュイーーーーー!!」


俺たち一行は新たな仲間……新雪のように白いふわふわのシーフラ達約400匹を連れて、再びダンジョン上層への冒険を再開した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺たちはとうとう、冒険者ギルド内で最高到達点とされるダンジョン地下18階層へ到着した。


ここまで進んできた俺たちだからこそ分かるが、ダンジョンは一層ごとに雰囲気も特性もまるで違う。上層への道を探すだけで2~3日はざらにかかる。長ければもっとだ。


だからこそ、かつてここまで辿り着いた冒険者たちは、数ヶ月分の蓄えを用意して挑んだはずだ。


ところが、18階層へ降りる道のすぐ近くに、19階層への穴があった。

19階層への道は、ここだけ。

おそらく《空間読解》のように周囲を把握できる技能があれば、すぐに気づけただろう。



……だが、冒険者たちは18階層で足を止めた。



いや、止めざるを得なかった。




「これは……」

「凄いですね」




壁も、床も、天井も――すべてが黄金。

その隙間からは美しい宝石の原石が覗き、世にも珍しい宝石でできた花が淡い光を灯して周囲を照らしている。




――ダンジョン地下18階層。

そこは、この階層そのものが巨大な天然の宝物庫だった。

地面に生える草も、転がる石ころも、すべて黄金と宝石でできている。




かつての冒険者たちは19階層へ行けなかったのではない。



行かなかったのだ。



ここで財宝を抱えられるだけ抱え、引き返すことを選んだ。その結果、とんでもない財を築いたのだろう。以降の到達記録が残っていないのも頷ける。


俺には大金貨がある。わざわざ売りさばく必要のある宝石類に興味はない。

だが……一人だけ、この光景を見て両手を広げ、高笑いしている奴がいた。


「は、ははは……ハハハハ……」


言うまでもない。ポンコツ怪盗ユーディアである。


「アーッハハハハハ!! なんと! なんと素晴らしい!! どれも透明度が高い! しかもこの大きさ! この花も! この草も! 全て! 全てだ!! ワハハハハハ!!」


……なるほど。

かつての冒険者たちも、きっとこうなったのだろう。

まざまざと目に浮かぶようだ。


「満足したか? じゃ、上行くぞー」

「はぁ!? 何を寝ぼけたことを言っているのだ!? まだ昼だぞ!?」


実は先ほど《空間読解》を使った際、ここから徒歩10分もかからない場所に17階層への道を見つけている。なんなら、ここから見えている。


「俺はさっさと上がりたいし、金目のものはもう十分あるからいいや」

「待て待て!? この宝石を見て何も思わんのか!? 今なら取り放題だぞ!?」

「はい、じゃー行きまーす」

「待て待て待て待て!!」


ナシェルの民に指示を出していると、ユーディアがガシィッ!と肩を掴んできた。


「ここに一泊しよう! ……いや、三泊だ!! アルノー君も疲れただろう!?」

「いや全然」

「魔力が7割しか残っておらんではないか! 無理は禁物だ!」


そうは言うが、こいつの目は完全に欲望に染まっている。

そこへネフィルが控えめに手を挙げた。


「救世主様。先ほど19階層でも《空間読解》をお使いになりましたよね?20階層の件もありますし、魔力温存のためにも、先に17階層を確認したのち、18階層で一泊するのがよろしいかと。ここは生物の気配が少なく、安全地帯と思われます」

「よく言った! ネフィル!」


ユーディアはネフィルの肩を掴み、満面の笑みを浮かべる。


「そうと決まれば! 君はここで休んでいたまえ! 私は宝石を……いや、周囲の確認をしてこよう!」


ツカツカと近づき、コートをトン、と叩く。

シュルリ……とコートがユーディアへ移動する。


「では! 行ってくる!!」


スタタタタタ!と風のように走り去っていった。


……休むためのコートをお前が持っていってどうする。

というか、ユーディアが居ないと《空間読解》をする為の《偽相盗用》を発動出来ない。そもそも、ダンジョンの深層で単独行動は愚かすぎる。


「……何人かユーディアについていってくれ。遅くなりそうなら、引きずってでも連れ帰って構わない」

「かしこまりました」


数人のナシェルの民が素早く後を追う。


……これは、長くなりそうだなぁ。


そう思いながら、俺はユーディアが戻るまで待つことになった。

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