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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【62】突破口

「なっ……上層!?」

「どうりで上への道が見つからないわけだ」


多分、この地底湖をどれだけ進んでも上層への道は無いかもしれない。《空間読解》などの帰り道を探る技能を持っている人ほど騙される。気がつかなければ、一生ここから出られないだろう。

しかも、ご丁寧に天井がとても高いので、天井まで登る技能がなければ詰んだも同然だ。


ユーディアごとコートで俺を包み込み、着水する。


巨大コウイカとやり合ったせいで、ナシェルの民が作った木製のイカダは大破しているようだ。

ネフィル達は器用に水面に浮かぶイカダの部品だった丸太の上に立っていた。


すぐにコートをイカダに変化させて足場を確保すると、声を張り上げる。


「ネフィル!上層は天井だ!あそこまで上がれるか!?」

「申し訳ごさいません!足場もおぼつかないここでは、跳躍だけでは届きません!」


天井にある上層への道を見上げ、即座に無理だと判断する。ネフィルが無理なら他のナシェルの民もダメだ。


「ユーディア!ネフィル!合図をしたら目をつぶれ!上層へは俺が何とかするから!」

「どうする気だ」


俺はコートからクリスタルをいくつか取り出す。


「クリスタルを使って、デカイ光を出す。目を眩ませているうちに、俺のコートで上まで紐を伸ばす」

「光?君はまだ出せないだろう?」

「うっ……でも俺、本番に強いから……」

「コートをあそこまで伸ばすには魔力も相当使うだろう?今の君に、あれもこれもする魔力は無いはずだ」


巨大コウイカが俺たちを見つけたのか、黄色い目がギョロリと一斉にこちらを向く。


「私が光を出す。君は上層へコートをかけろ」


無数のイカ墨が、俺たちに降り注ぐ。

俺がコートで防ごうとする前に、ユーディアが俺の肩に手を置くと、イカ墨は俺たちの体を通り抜けた。《無名讃歌》を使ったようだ。

再び俺たちを見失ったのか、黄色い目がぎょろぎょろと動く。


「は!?でも、お前だって光なんてーー」

「確かに以前までなら無理だな。だが……アルノー君との特訓で、大雑把だが私も魔力濃度を上げられるようになった」

「けど……」

「君は咄嗟の判断には優れている。だが、何でも一人で背負いすぎる。もっと私を頼れ。弟子の無茶ぶり程度、片手間に済ませてやろう」


そう言って、俺の肩に置く手に力を込める。

不可能はない、か。


「……投げナイフの件は?」

「……あれはノーカンだ。それ以外であれば、何とかしてやる」


2度も投げナイフを俺に直撃させた件は、ユーディアの中でノーカンらしい。


ーーまったく、頼れる師匠なこった。


ならば、遠慮なく頼もう。

俺はコートから両腕に溢れんばかりのクリスタルを取り出してユーディアに渡す。


「そこまで言うならーー巨大コウイカの全ての目に、同時にクリスタルを使って光を出してくれ」

「……全部?」


目が点になっているとしたユーディアに、「全部」と俺は念を押した。コウイカの胴体には、360°無数の目が存在するのだ。


「それくらい出来るだろ?何せ、怪盗に“不可能”はないんだからさ?」

「……いいだろう。それくらいのハンデがちょうどいい」


強がった様子でクリスタルを受け取る。俺から手が離れたせいか、巨大コウイカがギョロリとまた俺を見る。


「投げるなよ!」

「言われずとも!」


ユーディアは水面を蹴り、巨大コウイカへ一直線に駆け出す。


俺は同時に、コートを細く、紐のように変形させ、天井――上層への出口へ向けて伸ばし始めた。


ユーディアの接近に気づいた巨大コウイカは、イカ墨を無数に打ち込む。それを華麗にステップを踏むかのごとく避けると、巨大コウイカの体を《天蓋疾走》でかけ登った。


イカ足で叩き潰そうとしてくるのを上空へひらりと避けると、両腕をバッと開き、抱えたクリスタルを上空からイカの全身に降り注がせた。


そしてーー両手をクリスタルの方へ向ける。


「《落下干渉》」


俺から事前に渡していた魔力――2~3割分が一気に吸い上げられ、流星のように落ちていくクリスタルを包み込む。


すると、それぞれの落下する速度に変化が現れた。猛スピードで落ちるものもあれば、紙が落ちるようにゆっくりと落ちるもの、軌道を少しずらしたものもある。


すべてが狙い澄ましたように――イカの目へ落ちていった。


まだそんな技能を隠し持っていたのか!

てか、あれほどの数を同時に、的確に操れるのに、なんで投げナイフはあんなに下手なんだよ!?


「アルノー君ッ!」


上空からユーディアの声。

合図だ。


「了解!ーーネフィル!目を閉じろ!」

「かしこまりました!」


その声とほぼ同時に、ユーディアが技能をつぶやく。


「《魔力操作》」


《落下干渉》でクリスタル周囲に巡らせていた魔力が、純白へと変質する。そしてぎゅっと魔力を押し固めるように魔力を圧縮し、濃度が上がった瞬間ーー



カッ!!



目を閉じていてなお、瞼の裏を焼くような閃光が地底湖を満たした。


世界が、白に塗り潰される。



「ブォォオオオ!!」



まるで船の汽笛のような咆哮が、巨大コウイカの体内から絞り出されるように響き渡った。


その悲鳴とほぼ同時に、俺の伸ばしていたコートがついに上層へと到達する。

魔力を節約するため、コートはすべて細い紐状に変形させているため、今や左腕に巻き付いた一本の紐だけが、俺と上層を繋ぐ命綱だった。


「ネフィル!上がれ!」

「感謝いたします!」


光が収まった瞬間、ナシェルの民がバッと上層へ繋がる紐に飛びつき、凄まじい速度で登っていく。


「救世主様もお早く!」

「コートごと俺を持ち上げられるほど魔力がない!先に行って俺を紐ごと持ち上げてくれ!」

「承知致しました!」


あっという間にネフィル達は登り終え、上層からコートの紐を掴む。


「ユーディア!」

「うむ!」


一瞬で俺の傍にやってきたユーディアと共に、コートの紐を何度か引いてネフィル達に合図を送る。すぐさま、吹っ飛ぶような勢いで上層へと引き上げられた。


辿り着いた19階層は、一面の草原地帯だ。洞窟のはずなのに、どこまでも芝生が広がり、草木が生い茂っている。天井や壁が淡く発光しているのか、昼間のように明るい。


這い上がった直後、背後でズズズ……と音がして、通ってきた穴がゆっくりと塞がり始めた。


……た、助かった。


同時に、身体の力が一気に抜ける。

魔力はほぼ空だ。手足は鉛のように重く、体温が奪われるように冷たい。

久しぶりの魔力欠乏手前の症状に、俺はその場にぐったりと倒れ込んだ。ユーディアも同じく芝生の上に大の字になり、明るい天井を仰いでいる。どうやら向こうも限界らしい。


「なんとか……」

「……なったな」

「ありがとうございます、救世主様」


ナシェルの民もその場に傅き、深々と頭を下げる。その隣には、ぐったりと紐の束になってピクリとも動かないコートがいた。魔力が回復したら沢山魔力を渡してやろう。


とにかく……ひと段落だ。


俺は横になったままユーディアと視線を合わせる。

自然と、お互いに片腕を持ち上げ、寝転がったままハイタッチをしようとした、その瞬間だった。




ドドドドドッ!!




突如、塞がりかけていた地面が大きく崩れ落ちる。

いや、崩れたんじゃない……腐食するように、溶けている。



ーー例のイカ墨が、地面を溶かしている!



ネフィル達は素早く飛び退いたが、完全に気を抜いて横になっていた俺とユーディアは、反応が遅れた。


「ーー《落下猶予》!」


咄嗟に発動し、俺は空中へ浮き上がりながら下層へ落ちそうなユーディアの手を掴む。だが、魔力欠乏手前の身体では、指先に力が入らない。


「ユーディア!ちゃんと掴め!」

「私にそんな握力があるわけないだろう!」

「自信満々に言うことじゃねぇー!」


必死に両手で握り直すが、じわじわと手の中で彼の手が滑り落ちていく。


船出前に見た、あの貴族の服の残骸が脳裏をよぎった。



ーーダメだ、それだけは。



「ーー《影足》!」



残った魔力を根こそぎ振り絞り、俺はユーディアの手を強く握り直すと、そのまま全力でネフィル達の方へ投げ飛ばした。

ぎりぎりのところで、ネフィル達が彼の腕を掴む。


同時に、《落下猶予》が切れた。


身体が重力に従い、真下へと落ちていく。


「アルノー君!」

「救世主様!」


俺の左腕に巻き付いたコートの紐を、ネフィルたちが必死に掴む。




ジュッ!




その瞬間、イカ墨が紐に直撃した。


これまでは魔力を流して弾いていたが、今は違う。魔力を失ったコートは耐性を失い、ただの布に近い。




ブチッ




焼き切れるような音と共に、紐が溶けて千切れた。


俺はそのまま、再び地底湖へと落ちていく。


声を出す気力も、もう残っていない。

身体の芯まで冷え切り、指一本動かない。




魔力欠乏だ。




遠ざかっていく19階層。

塞がりかけた穴が、徐々に視界から消えていく。



ーーここで、死ぬ訳には……



そのまま俺は水の中へ落ちる。

冷たい水の感触と、迫る巨大コウイカの気配を感じつつ……意識を手放した。

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