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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【55】ダンジョン地下37〜36階層

「ゔぅ~……」

「ほら、手当は済んだぞ」


ユーディアに左手の包帯を交換してもらい、俺は噛んでいた枝を口から離した。枝がシュルリとコートに飲み込まれる。消毒液が沁みて、俺の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。


「超痛ァい……」

「回復ポーションが無いのに手など切るからだ」

「あの時はあれが最善だと思ったんだよ〜……」


先程の爆発で尻もちをついた時、左手の傷が開いてしまって包帯が血まみれになってしまったのだ。スペアを買っておいてよかった。


俺は手当された手を見る。新しい包帯でグルグル巻きにされて、またもや猫型ロボット風の手になっていた。

コートをハンカチに変えて涙を拭った俺は、よろよろと立ち上がる。




ーーダンジョン地下37階層。


星空のように天井が輝く幻想的な洞窟かと思いきや、そこは音もなく落ちてくるクリスタル爆弾で天井が埋め尽くされた、逆地雷原だった。




予想以上に天井は脆く、一つ爆発すると振動で数分間は周囲のクリスタルまで連鎖的に落ちてくる。激ヤバである。


《空間読解》を使ったところ、ここも38階層と同じくらい広かったが、今回は半日行ったところの近くに上へ行く道があった。ツイてる。


「あとは、あのクリスタルをどうするか」


《天蓋疾走》を使えばユーディアは楽だろうが、俺は《偽相盗用》をそこまで長く展開させられない。かと言って、地雷原の中を半日歩くのは怖い。コートの防御があるとはいえ、《空間読解》を使ったせいで魔力があと3割しかないのだ。


落下時やコウイカの時のように、防御しすぎて魔力欠乏になるのはまずい。


だが、この先どれくらい時間がかかるか分からない以上、動ける時に動いておきたい。


「あのクリスタル……落ちた衝撃で爆発したよな?衝撃に弱いのか……」

「ふぅむ……」


俺の言葉に、ユーディアが首を傾げる。


「投げナイフでガンガンと叩いて掘り出そうとしたのだぞ?何故、その時は爆発しなかった?」

「ん?……あ!確かに!?」


不器用なユーディアがガシガシ掘ったのだ。衝撃で爆発するなら、今頃ユーディアは木っ端微塵のはずだ。


「天井では、爆発しないとか?」

「柔らかい土だったが、特に変わったところは無かった」

「じゃあ、地面に何かカラクリが?」


俺はしゃがんで地面を撫でる。

すると、地面に濃い赤い魔力が流れているのが分かった。

炎を出す波長の魔力だ。


「ユーディア、上の土の魔力を見てきてくれ」

「分かった」


瞬時に天井に降り立つと、ユーディアはしゃがんで土に触れる。


「……魔力が一切通っていない」

「そんなことあるのか?」


《魔力知覚》で見れば、あらゆるものには魔力が通っていると分かる。だが、それが一切ないのは珍しい。


「魔力に触れると爆発するとか?」

「ナイフで掘る時に、私の魔力が多少触れたはずだ。しかし、爆発はしなかったぞ?」


魔力が起因でもない?


「土とクリスタルを少し持ってきてくれ」

「……こんなことせずとも、さっさとここを抜けた方が良いのでは無いか?」

「こういう未知のものはしっかり確認しとかないと、後から痛い目に会うっての」

「面倒な」


ぶつくさ言いながらもユーディアは土とクリスタルを持ってくる。


土は本当に魔力が一切通っていない。それどころか魔力を弾いているようで、魔力のある俺が触ると灰のようにホロホロと崩れる質感だった。


一方のクリスタルは普通にユーディアが手で掴んでいるが、爆発はしていない。よく見ると、魔石のようにキラキラと内部に魔力が巡っているのが分かる。


衝撃でも、魔力でも、爆発しない。

……でも、地面に当たると爆発する……?


「ユーディア、クリスタルを持っててくれ」

「何をする気だね?」

「実験。《無名讃歌》の準備よろしく!」


ユーディアから離れると、俺は《魔力操作》で自身の魔力を紐のように伸ばし、離れているユーディアの手にあるクリスタルを魔力でツン、とする。


……爆発しない。


そのまま触れ続けた状態で、魔力の色を青へ変える。まだ問題ない。

さらに少しずつ、青い魔力の濃度を上げていく。


すると、




バシャァアア!!




水が生まれる直前ほどの魔力濃度に達した瞬間、触れさせていた魔力量とは比較にならない量の水がクリスタルから溢れ出し、内側から弾けるように粉々に砕け散った。


周囲は一瞬で水浸しになる。

多分、風呂5杯分くらいはあるんじゃなかろうか。


ユーディアは技能のおかげで濡れていないが、突然の大量放水に呆然と立ち尽くしていた。


「一体、何が起きた?」


キョトンとするユーディアに、俺は自分の推論を口にする。


「多分だけどーーこれ、“魔法を増幅させる効果”なんじゃね?」

「増幅?爆発ではなく?」

「ほら。ここの地面、かなり濃い赤い魔力が流れてるだろ?多分、触れた波長の魔力を核にして、中の魔力が一気に増幅するんじゃないかな。だから、試しに水の青い魔力を流してみたら……」

「ーーなるほど。この有様か」


地面に広がった大量の水を、ユーディアは見つめる。


「危険物かと思ったが、少量の魔力でこの量の水を生み出せるなら、便利かもしれんな」

「確かになぁ。風呂とかもっと楽に沸かせそうだ。これ、せっかくだし持って帰るか!」


俺はコートの裾を広げ、天井まで伸ばすと、天井全体を覆う。一瞬にして、土ごとクリスタルが天井から消え、夜空にぽっかり穴が空いたような光景になった。


「ーーそうだ。上層の道へ向かいつつ、天井のクリスタルを全部吸って行けばいいんじゃね?」


そうすれば落ちてくることもないだろう。

クリスタルも大量に採れ、一石二鳥である。


コートを天井に広げ、掃除機のように進行方向にあるクリスタルを全部吸い込みながら、歩き始める。

進んだ道の天井の星が消えるので、まるで星の海をかき分けて進むかのようだ。


ここはクリスタルの影響で魔物がいなさそうだし、比較的安全地帯だ。

むしろ技能を使って走り抜けたら、その振動で落ちてくるかもしれない。


という訳で、のんびり歩きながら俺たちは36階層へ上がる道へ向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーー36階層へ上がると、じっとりした湿度の高い洞窟だった。


あちこちに苔や、湿った場所を好みそうな草が生えている。石柱には、まるで灯りのように光るキノコが群生していた。


なんだか幻想的なところだが、花が咲いてないのでちょっと地味だ。


「今日はこの辺で休むぞ。もし魔物が襲ってきたら、先程の37階層への道へ飛び込めるからな」

「賛成」


魔力も心もとないし、《空間読解》のためにも、しっかり回復しておく必要がある。


俺たちは近くの石柱のそばでキャンプをすることにした。


コートをテントにして、その中でユーディアと一緒にサンドイッチを食べる。食後に紅茶味のお湯まで飲んで、ようやく一息ついた。


「つっかれた〜……」

「しかし予想以上のペースだ。まだ3日と少ししか経っていないのに、2階層も上がったからな」

「結構順調だな」

「そういう油断は禁物だぞ。……と、言いたいところだが、こうして寝ずの番もせずに眠れて、のんびり食事をして、さらに紅茶まで楽しめるとは……ちょっとしたピクニック気分になってしまうな」


余裕が出てきたのか、ユーディアの顔色は明るい。


「ピクニックにしては、ヘトヘトだけどな」

「軟弱ものめ。そういうのならば、《影足》で常に過ごせるくらいになれるよう努力をしたまえ」

「無理言うなって。流石に体力持たねーよ。……そう言うお前はいいよなー。技能使ってる間は疲れないんだろ?」

「フッ、アルノー君と違って私の技能は質がいいからな」

「でも、いざって時に体力ないと大変じゃん。ダンジョンから出たら、一緒にベレー先生の講義でも受けるか?」

「断固、断る」


ノータイムでそう言われた。ちぇっ、お前のために言ってやってんのに。

そんなことを話しながらも、お互いに疲れていたのか……いつ間にか俺達はぐっすりと眠っていた。






翌朝、俺は早速技能を発動させ、ダンジョン36階層の全体像を調べていた。食事を取る前に技能を使い、減った魔力分を食べ物で回復しようとなったのだ。


「……読解完了」


技能を切ると、《偽相盗用》の反動でその場に崩れ落ちる。


「うげぇえええ〜……」

「それはもう見飽きた。で?どうだ?」


見飽きたじゃねー……お前を楽しませる為にやってる訳じゃないんだぞ。眉間に皺を寄せながら、俺は今読解したこの階層について共有する。


「……今までで1番広かった。38階層の5~6倍の広さだ。上に行く道が、3つしかない。近場まで1週間くらい。技能で飛ばしても、2~3日かかりそうだ」

「遠いな。だが、上に行く方法があるだけマシとしておこう」


ユーディアは俺に手を伸ばす。

その手を掴んだら起き上がらせてくれるのかと思って手を掴もうとすると、ひょいっと避けられた。


「……なんだよ」

「長い道のりになるからな。魔力を少し分けてくれ」

「味をしめてんじゃねぇー!」


潤沢な魔力のおかげで残量を気にせず技能を使えるのが、よほど嬉しいらしい。気のせいか肌ツヤまで良くなっている気がする。


贅沢を覚えさせてしまったかもしれない。


俺は一人で立ち上がり、腕を組んでユーディアを睨む。


「そんなに魔力が欲しいのなら、俺から盗んでみろよ。お前、怪盗なんだろ?」

「むっ……何を言う。そんなの不可能だ」

「怪盗に“不可能”は無いんじゃなかったっけ?」


俺の言葉に「ぐぬっ」と言葉が詰まる。


魔力の受け渡しが出来るなら、奪うことだって出来るはずだ。


試しに【契約回廊】に魔力を通し、ユーディアの魔力の中へ腕を突っ込むイメージで魔力を流す。死にかけていた頃は糸のような細さだったが、今はホースくらいの太さがある。


むんず、とユーディアの魔力を引っ掴むと俺は力任せに魔力をユーディアから奪い取った。そのままストローでチュウチュウ吸うように魔力を継続的に俺の方へ流す。


「なっ、何をしている!?アルノー君!?」


素っ頓狂な声を上げているが気にしない。

俺は小指の先ほどのいつもの量だけを残し、魔力を没収した。


「ほい、ごちそーさん。な?出来るだろ?」

「ば、馬鹿な……魔力を奪われるなど……有り得ん……」


非常識だ、と何度も呟きながら、ガックリと項垂れる。魔力が少ないせいで、ダルそうだ。


「俺が渡せない状況とか、急に魔力が欲しい時もあるだろ。自分で持っていけるようになっとけよ。《魔力操作》の練習にもなるし、一石二鳥だ」


ダルそうなユーディアに、今度は俺の魔力の2割を渡す。すぐに顔色が良くなったが、その表情は困惑していた。


「……いいのか?」

「何が?」

「魔力を奪う事を推奨するなど……魔力の大切さは分かっているのだろう?」


俺は肩をすくめる。


「いいよ、別に。俺の魔力を根こそぎ奪うなんてこと、お前がする訳ないしな」

「ハッ、随分と信頼してくれているのだな」

「信頼も何も、友達だろ?好きな時に持ってっていいよ」


短い付き合いだが――コイツは、そんな酷い真似をする奴じゃない。そう確信出来るくらいには、信用している。


ユーディアはやれやれと首を振りながらも、口元に笑みを浮かべた。


「私が《魔力操作》を誤って、アルノー君の魔力を全て吸ってしまっては大変だ。やるとしたら、君が起きている時にでも、魔力を奪う練習に付き合ってくれ」


確かに。不器用なコイツならやりかねない。


「じゃあ、これから毎晩練習しよーぜ。俺も《魔力操作》でお前の補助してやるよ」

「相変わらず、弟子のくせに生意気だな」


クッ、とユーディアは笑った。


「今晩から頼もう」


ユーディアから教えを頼まれるなんて珍しいこともあるものだ。

だが、ちょうど良かった。夜はこれまで文字の練習や怪盗訓練ばかりだった。ダンジョン内では時間を持て余していたし、ちょうどいい暇つぶしになる。


「……で、36階層はどう進む?」

「技能を使って駆け抜けるぞ。上の階層も同じように遠い可能性がある。下手に時間をかけて物資を消費するより、魔力を削ってでも強行突破しよう。……無論、君の魔力が少なくなれば、徒歩に切り替えるつもりだ」


1番近くの上層への道まで1週間なら、他の階層でも同様の距離になる可能性がある。のんびりしていると、ダンジョンを出るのが数ヶ月先になりそうだ。


ユーディアの言葉に頷く。

俺たちは技能での移動速度を揃え、暗いダンジョンの中を駆け抜けることになった。







丸一日、技能と徒歩での移動で俺の体力が限界を迎え、今日はこの場でキャンプとなった。

地面に座り、息を整える。魔法で出した水を飲んで、コートをタオルにして汗を拭いたら、ようやく少し落ち着いた。


「周囲に何か無いか見てくる。アルノー君は休んでいたまえ」

「はぁ、はぁ……俺も行く。地図は俺の頭の中だし、危ないだろ」

「ふむ……無理はするなよ」


重たい足に鞭打って、立ち上がる。

キャンプ地の周辺に気になるところがあるのだ。


「あっち……水場がある。そこそこデカイから、魚がいるかも」

「ふむ。魚が獲れれば上々だが、水の補給だけでも十分行く価値はありそうだ」


コートにしまっている水はあくまでもただの真水だ。

保存が効くわけではない。

実際、少しずつ味も落ちてきているので、最近は風呂や洗濯に回している。魔法で水を出すことも出来るが、飲む分をその場でパッとコートから出す方が楽なのだ。


「案内を頼む」

「わかった。こっち」


俺は脳内の地図を頼りに、近場の水場へ案内する。


湖とは言えないが、池というには広い水場までやってきた。澄んだ水を覗き込めば、奥の方で揺れる魚影が見える。結構深い。

ユーディアが指で水を掬いペロッと舐めるが、すぐに吐き出した。


「塩水だ。飲水には出来んな」

「……どうするかなぁ」


魚はいる。だが釣竿がない。泳いで捕まえるのは論外だ。

水も飲めないとなると、完全に骨折り損である。


「諦めてキャンプ地へ戻るぞ。今すぐ必要という訳ではあるまい」

「ちぇー……」


くたびれ儲けだ……とほほ。


そう思いながらユーディアの背中に続こうとした、


その時。


違和感に気がつく。


「あれ……ここ……もっと先があるよな……?」


目の前の岩肌と、俺の脳内地図を照らし合わせる。

……おかしい。

この先、もう少し広がった空間があるはずなのだ。

それが、こんな岩肌なかったはず。


気になり、指先で岩肌に触れようとする。


「待て!小僧ッ!」

「え?」


俺の指が触れた瞬間、スゥ……と壁が消え去る。

その先は俺の脳内地図と同じ広さの空間が広がっていた。


……だが、




「ギャギャギャ……」




その空間の奥にひしめく、“白”。




ほんのり光っているようにも見えるそれは、薄暗いダンジョンの中で異様な存在感を放っていた。


全身の皮膚は輝くような白に、頭には金色の毛。

鬼のような顔に牙と、とんがった耳。

みすぼらしい腰布からは異様に細い足が見える。

俺の腰ほどの背丈の、二足歩行の魔物だ。


ダンジョン図鑑には載っていなかった。


だが――


冒険者ギルドの討伐依頼書で、同じ姿を見たことがある。


ーー本来であれば、

薄暗い緑色の皮膚を持つはずの魔物のはずだ。



「ゴブリン……!?」



ーーダンジョン地下36階層。

隠し岩の後ろで見つけたのは、

総勢30匹以上の真っ白なゴブリンの“亜種”だった。

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