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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【51】生き抜くために

「ーー私のせいだ」


『深度計』を見たユーディアは、固く瞳を閉じ、奥歯を噛み締める。


「私が、隠し扉の中に入ろう言わなければ……こんなことには……」

「過ぎたことを悔いても仕方ないだろ。それに、それを言うならダンジョンに行こうって駄々こねたのは俺だ」


そう声をかけてみるが、ユーディアの様子は変わらない。相当参っているらしい。

ふらり、と力を失ったように近くの岩へ腰掛けると、両手で顔を覆い、そのまま深く俯いてしまった。


「それで、あの花は何だったんだよ」


気を紛らわす為に、気になっていたことを聞いてみた。そもそも、あの花の花粉を吸ったせいで、こんなことになったのだ。


「……『酔月牡丹』。別名『リリスの百刑』。大陸南側が原産の、希少な猛毒花だ」


ユーディアは顔を上げずに答える。


「成熟した花に出来る花粉袋には、男性限定だが、魔力を乱し、生気を奪う強力な毒性がある。多量に吸い込めば人体に様々な毒性反応が現れ、苦しみもがいた末に死に至る」

「そ、それ、お前吸ったよな?大丈夫なのか?」

「ほんの少しだけ、な。すぐに《無名讃歌》を使ったので今は平気だ。……私の魔力を出し切ったおかげか、毒性も消えている」


それでも、少し吸ってあの効果なのだ。


「……そんな花が、あの量で人工栽培って……」


つまりは……あそこは猛毒の生産工場ということだ。


「どの国でも、輸入禁止薬物に指定されている。それを栽培など……どこかの国を攻め滅ぼすつもりなのかもな」

「……あれ?でも、シーフラ達は平気だったぞ?むしろすげぇ勢いで食べてた」

「言ったであろう。“男性限定”の毒物なのだ。君についてきたシーフラは、全部メスだ」

「あ、そうか」


にしても、雑食だからといって毒花を食べるなんてすごい度胸である。というか、もし他国を滅ぼそうと毒花をせっせと世話していたのなら、シーフラ達に全て食べられたあの畑を見て、生産者はきっと頭を抱えるだろう。ざまぁみろ。


「……とりあえず、地上に出てギルドにでも報告しようぜ。証拠の毒花は消えちゃっただろうけどさ」


そう言ってユーディアへ手を差し伸べるが……まだ顔を両手で覆っている。そうだった。こいつは自信家な分、落ちる時はとことん落ちるのだ。


「……地上へ、本当に戻れると思っているのか?」


低く、沈んだ声。言葉の端々に、拭いきれない絶望感が滲み出ている。


ーーだからこそ、俺は明るく声を上げる。


「戻れるよ」

「……無理だ」

「いいや、戻れる」


俺は、生への執着は人一倍あるのだ。

こんな所で死にたくは無い。


「戻ったらやらなきゃならない事が山ほどあるんだぞ。おちおち死んでなんかいられないって」


俺は指を折りながら数えていく。


「まず、ギルドに報告しなきゃだろ?あと、クラリスさんに深度計を返さなきゃだし、タルト食いながらお土産話をしなきゃだ。さっき助けたリナ達からお礼を貰いたいし、エドやユノの怪我も気になるよな。あとは、ガルドさんとニーナさんの所で酒盛りもしたい。ポーターさんとこにも顔出したいし、ベレー先生の本講義も受けたいし、ローレン先生の研究の手伝いに、個人授業もある。……あ、ポン子とお喋りの約束もしてたわ」

「……それは、アルノー君がやりたいことじゃないか」

「馬鹿言え。お前も一緒にやるんだよ。それにーー」


コートをハリセンに変化させ、俺はユーディアの頭をペシンと叩く。


「ーー地上に上がったら、怪盗するんだろ?」

「……」

「あ、俺の指輪もちゃんと取り返してくれよな」


指の隙間からマゼンダ色の瞳がチラリと見える。

悲観的な色を滲ませ、俯いたまま唸るように呟く。


「……ダンジョンの最高到達階層は地下18階層。それなのに、ろくに戦えない、軽装備のたった2人で地下38階層など……死んだも同然だ」


パァン!とユーディアの頭をハリセンで叩く。


「まだ生きてる。勝手に殺すなアホ」

「……食料はどうする」

「とりあえず……水は魔法で出せるから大丈夫だとして、食料だけど……実は多めに1週間分買ってたんだ。節約すれば、半月は頑張れる。その後は……食べられそうな物を探そうぜ?」


嘘だ。食料は3日分だけしかない。

けれど、俺の分をユーディアに多めに回せば、少しは誤魔化せるはずだ。


ゆるり、とユーディアが顔を上げる。


「……どうして、絶望していない?」

「ユーディア。お前は考えすぎるんだよ。何もしてないのに“終わった”とか、判断が早すぎんだろ」


俺だって別に平気な訳じゃない。だが、悲観したって解決しないのだ。怖がり、震えるのは……地上に戻ってからゆっくりすればいい。


「俺もお前も、まだ動けるし、ピンピンしてる。できる限りのことはしようぜ。案外、何とかなるかもしれないしな」

「……君のような考えは、私には出来ん……」

「情けない事言うなよ。ーーそうだ。前を向けない時は、未来の事を考えようぜ?」

「……私に、未来など……」


再び俯きそうな頭を、パァン!ともう一度ハリセンで引っぱたく。

ユーディアがチラリと嫌そうな目でこちらを向いた。


「お前は地上に戻ったら、何したい?」

「……戻ったとしても、私には……」


ハリセンでペシペシと手を打ち、圧をかける。


「御託はいいーーお前は、何をしたい?」


少し視線を彷徨わせた後、絞り出すように口を開いた。


「……そう、だな。まずは風呂に入りたい」

「うんうん、他には?」


「……クラリス婦人と、また遺物について語り合いたい」

「いいな。俺もお茶しに行きたいよ」


「……まだ見ぬ美酒も、味わってみたい」

「俺も。せせらぎ亭のやつ全制覇しよーぜ」


「……魔法の訓練も、続けたい」

「その分、ローレン先生にこき使われそうだけどな」


「……怪盗服を、作り直さねば」

「仕立て屋に行かないとだな。その為にダンジョンへ潜ったんだろ?」


「……あと、ギルドに報告して、昇格報奨金がほしい」

「みみっちいな……でもまぁ、このことを報告すれば、かなり『総合能力値』に加点されそうだ。何せ前人未到の地下38階層だぞ?」

「……確かにな」


「ーーそんで?」


そういうと、ユーディアはゆっくりと顔を上げる。

マゼンダ色の瞳と、目が合った。


「それだけか?」

「……いや、他にもある。未練……のようなものだが……。私には、やり残したことも、やらねばならないことも……まだある」

「ふーん。でもーー俺が聞きたいのは、そっちじゃないぞ」

「……何?」


俺はニヤッと笑った。


「ユーディア。ーー他に、やりたいことは?」


重ねた俺の言葉に、マゼンダ色の派手な瞳が意を得たようにキラリと輝いた。




「ーー何よりも私は、怪盗をしたい」


「よし」




その言葉を待っていた。

それでこそ、怪盗ユーディアだ。


「もちろん出来る。俺の魔力ならいくらでも分けてやる。今まで出来なかった分、盛大にやろーぜ?ミレアス中の貴族の屋敷を、右から左に総ナメだ」

「それは……なんというか……最高だな」


くくく、と笑いを堪えるようにユーディアは笑う。


「ほら、お前だってやりたいことが沢山出てきただろ?俺も、お前と一緒にやりたい事や、教えて欲しいことが沢山あるんだよ」


そんなユーディアへ、俺はもう一度手を差し伸べる。


「ーー生きよう、ユーディア。俺にはお前が必要だ。さっさとここから出ちまおうぜ。だって……怪盗に、“不可能”の文字はないんだろ?」


ユーディアはフッ、と鼻で笑う。

そして、俺の手をしっかりと掴んだ。


「無論だ。天才のこの私にーー“不可能”はない」

「さすがだぜ、ユーディア師匠」


俺は手を引っ張ってユーディアを立たせる。


「なぁ、怪盗の美学に『怪盗は諦めが悪い』って追加しよーぜ?さっさと見切りをつける怪盗なんてダッセェしな」

「フッ……いいだろう。アルノー君に“ダッセェ”と言われるのは、私も御免だからな。君が地上へ戻れる、と言うのであれば……その言葉を信じるとしよう。ーー師は、誰よりも弟子を信じるものだからな」


すると、ユーディアは少し口元に笑みを浮かべて言った。


「……だが、食料が1週間分ある、というのは嘘だな?」

「え゛っ……そ、そんなことぉ〜ないよぉ〜?」

「嘘が下手か」


ユーディアは自分の瞳を指さす。


「《注目律》は、魔力を多めに流せば、言葉にどんな感情が乗っているのかも分かるのだ。君の言葉は、どれも馬鹿みたいに真っ直ぐな、心からの言葉で……聞いているこちらも心地がよかった。だが……食料の所だけ嘘をついていたな?」

「そんなことも分かんの!?ってか、技能使って俺が嘘ついてないか試してたのか!?きったねー!」

「ハッ、私に“不可能”はない、と言ったであろう?」


だとしても、なんかズルい。

俺は真摯に向き合ってたというのに、こいつは俺が嘘ついてるかもと、バレないように技能をこっそり使っていたのだ。


ユーディアは腰に手を当て、偉そうなポーズを取る。


「食料の件は、君だけで抱えるな。君よりこの世界の知識がある私を頼れ。分かったな?」

「……はぁい」


なんか、腑に落ちない。

誠に遺憾である。


ハリセンをしまい、これからどうするかと考えていると、ふとユーディアが独り言を呟く。


「地上へ帰るまで、1ヶ月以上……か」


そう言って、視線を天井へ向ける。

先程のような悲観的な表情は、もうない。


ただ、どこか……憂いを帯びた表情をしていた。


「……クラリス婦人は、きっと喜ぶな」


フッ、とまるで自虐気味に笑う。

確かに1ヶ月もダンジョンに潜れば、お土産話は沢山出来そうだ。クラリスさんとのお茶会での楽しみが増えるだろう。


……でも、なんだ?

何か、また別の……含みがあるように感じる。



そこで、俺はハッと気がついた。



……綺麗好きの怪盗にとって、1ヶ月も風呂に入れないのは、とてつもない苦行だろう。


「ふっふっふっ。ユーディアくん。君には確かに“不可能”はない、と言えるほどのスペックがあるんだろう。だけどな、俺は見習い怪盗だ。俺にだって、ちょっとだけ“不可能を可能にする”ことが出来るんだぞ?」

「なんだ?藪から棒に」

「お前の悩み……俺にはお見通しなんだよ」


そういうと、ユーディアはハッと息を呑む。

そこまでいい反応をもらっちゃ、俺もサプライズのしがいがあるってもんだ。


俺はコートから、ガルドさんにこっそり頼んでいた『対ユーディア用秘密兵器』を取り出した。


「テッテレ〜!『オシャレ着洗剤』〜!」

「……………………は?」


コートから洗剤を取り出すと、ユーディアは目を見開いてポカンとした顔をした。


「他にもあるぞ。普通の洗剤、シャンプー、リンス、石鹸、お泊まり用歯ブラシセット!」


どうだ!と見せびらかすように次々に地面へ置いていく。


この『対ユーディア用秘密兵器』は、ダンジョン内で成果が出なかった場合、ダンジョン探索を少しでも延長出来ないか交渉する為に、綺麗好きの怪盗の為に俺が自腹を切って用意した衛生用品セットだ。


「俺のコートで風呂の枠を作って、火と水の魔法でお湯を沸かせば……ダンジョンでも風呂が入れるぞ!」


ババーン!と手を広げてアピールする。

さぁ!驚け!そして崇めろ!この俺の用意周到さを!



ーーすると、



「っくくく、くは、ははは、アッーハハハハハハッ!!」



ユーディアが腹を抱えて笑い出した。


「きっ、君は、フフッ、私がダンジョンへ行きたがらないのは、クフッ……風呂に入れないからだと思っていたのか?」

「……えっ。違うん?」

「ーーアッハハハハハハハハハハハハハッ!!」


あまりにも笑いすぎて耐えきれなかったのか、ユーディアはその場にうずくまり、さらには地面に横になって笑い転げている。


「だってお前……綺麗好きの怪盗だろ?ダンジョンは暗くて汚くてかっこ悪いから行きたくないって言ってたし……だから風呂の用意をしてやったのに……」

「ハハハハハッ!や、やめてくれ!私を笑い殺す気か!」


ヒィー!ヒィー!と足をジタバタさせ、過呼吸になるほど大爆笑の渦だ。


「……じゃあ何?なんであんなにダンジョン嫌がったんだよ?」

「ハハハハッ!そうだな!風呂に、ンフッ、入れないのが、クフフッ、嫌だったからだ!アッハハハハハ!!」

「ぜってー嘘だろ!」


くっそ〜!バカにしやがって!

ユーディアは涙を流すほど笑いながら、ぐしゃぐしゃの顔で俺を見た。


「深層へ共に来たのが、アルノー君で良かった!」

「それ褒めてねーだろ!」

「いいや!褒めてる!褒めてるぞ!心の底からな!」

「そんなに笑うなら、石鹸貸してやらねーからなぁっ!」

「ヒィー!ヒィー!す、すまん!私が悪かっ……んははははっ!!」

「もう貸さねぇーーー!!!」


『対ユーディア用秘密兵器』が失敗に終わったが、1ヶ月以上もダンジョンにいるのなら衛生面は大事だ。これでこまめに風呂に入って服を洗おう。


まだまだ笑いのツボが収まりそうにないポンコツ怪盗を見下ろしながら、手にハリセンを再び生み出す。


そして、笑い転げるポンコツの頭めがけ、スッパーーーン!と思いっきりひっぱたいてやった。

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