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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【50】前人未到ダンジョン

ドンッ!と俺の魔力をユーディアの魂へぶち込む。



ーーその瞬間、



「っがはっ!」



ユーディアの上半身が、突然跳ね起きた。


「ゲホッ、ゲホッ……助かったのか……?」


胸に手を当て、止まっていた呼吸を必死に再開させている。ゼェゼェ、と苦しそうだが……生きている。


「ユーディアァーー!!!」

「ぬあっ!?」

「生きてる!動いてる!」


思わず、ユーディアに飛びつく。

突然飛び起きたユーディアに驚きもしたが、あの状態から息を吹きかえしたのだ。


「どっか具合悪くないか?痛みは?」

「特にない。それよりも離れたまえ。暑苦しい」


ひ、ひでぇ!こんなに心配してんのに!


俺が離れると、ユーディアはキョロキョロと周囲を見回す。


「……ふむ、周りは安全のようだな」


さっきまで死にかけていたとは思えないくらい、いつも通りの様子だ。


俺はユーディアの魔力を確認する。

……マゼンダ色ではなく、俺と同じ紫色だ。

全力で注ぎ込んだからか、俺の魔力の一割……平民の10~20倍ほどの大量の魔力が胸の中でキラキラと揺らめいている。


とにかく、何とかなったのだ。

安心したせいか、ちょっと泣けてきた。


「お前っ……マジでっ……どんだけ心配させんだよ……このクソポンコツがぁ……」

「……何故私は罵倒されているのだ?」


理解できないという顔をするが……コイツ、本当に分かってないのか?


ふつふつと怒りが湧いてくる。

俺はユーディアから離れると、厳粛な声で言った。


「ーー被告人。そこになおれぃ」

「は?」

「そこになおれぃ!!」


コートをハリセンに変化させ、パァン!と手で打ち、鬼の形相で立ち上がる。

俺の圧に驚いたユーディアが、いそいそとその場で正座をした。


「な、なんなのだ、泣いたり喜んだり怒ったり、忙しない奴め……」

「黙れ。俺は怒っている」

「見れば分かるが……」


パァン!とハリセンで手を叩き、言葉を断ち切る。


「お前、魔力回復ポーションを俺に使ったな?」

「……使った、と思う」

「なんであんなことした?」


自分の命を犠牲にしてでも、なんて……そんな漫画のヒーローみたいな考え方をしていたら、ぶん殴ってやる。

コイツは怪盗で、悪党なのだ。

自分勝手上等。

何よりもまずは自分の命を優先すべきだ。


ユーディアはしばらく記憶を辿っているようだったが、思い出したように俺を見上げ、さも当然のように言ってきた。


「あの状況では、君に魔力回復ポーションを与えるのが最善策だったのだ」

「……だから、自分の命を投げ打ったと?」

「そうでは無い」


片眉を上げ、訝しげに俺を見つめてきた。


「覚えていないのかね?アルノー君は一度、呼吸が止まって死にかけていたのだ」

「……は?」

「魔力欠乏の重症症状……魔力枯渇だ。冒険者の死因第一位だぞ」


ユーディアに顔を指さされ、手で少し顔を擦ってみる。そこで俺は初めて、自分の目や鼻や口から血が流れていたことを知った。


……そういえば、ユーディアの危機で頭がいっぱいだったが、俺も一瞬「死んだ」って瞬間があったなぁ。


ユーディアは淡々とその時の状況を話し始める。


「アルノー君のコートで我々が一命を取り留めた後、私はまだ魔力が辛うじて残っていた。だが、君はもはや呼吸も止まり、危機的状況だったのだ。魔力をすぐに回復させないと、私より先に命を落とすのは明白だった」

「そっ……そう言うお前だって危なかっただろ!なら、なんで自分が飲まなかったんだよ!?」


俺を救ってくれたことには感謝してる。

だが、自分の命と他人の命を天秤に乗せて欲しくない。


「私の症状は、魔力がじわじわと減るものだ。そして君は一気に魔力を使ったことによる、魔力枯渇。ならば、君を魔力回復ポーションで瞬時に回復させ、その後に“活性剤”でじわじわ減る私の魔力をどうにかすればいいと考えたのだ」


ユーディアはニヤリと笑う。


「アルノー君の持っている“活性剤”がどの程度回復効果があるか分からんし、私がポーションを飲む前に倒れてしまったからな。君が察してポーションを使ってくれるかは賭けだったが……見たまえ!私は賭けに勝ったどころか、魔力までこんなに増えてーー」


そこでユーディアは「あれ?」と首を傾げる。

ようやく自身の魔力がいつもと色が違う事に気がついたようだ。


ーーすぅ〜……


ふぅ。


深呼吸をして自身を落ち着かせた後、俺はハリセンをコートへ戻し、正座するユーディアの前に座った。


「実は俺……“活性剤”と間違えて“除草剤”のポーション買ってました」

「は?」

「だから、【契約回廊】に魔力をぶち込んで、俺の魔力をお前に分け与えました」

「は?」

「そしたら、なんかお前の魔力、俺の色になっちった」

「は?は?」


両手をぺしっと顔の前で合わせる。


「わりー」

「“わりー”……ではないわっ!この馬鹿者ォ!!」


ユーディアは勢いよく立つと、「そこになおれぃ!」と指を指す。めちゃくちゃ怒ってる。

既に俺は座っているので、ちょっとだけ姿勢を正す。


シュルリ、とコートが俺から伸びてユーディアの手の中にハリセンが現れる。

……なんで指示も出てないのにコートを扱えるんだよ。


「ダンジョンに行く前にポーションの確認をしなかったのか!?」

「だって……瓶の形、全部一緒だし……コートの中にあることは確かだったから……」

「確認と言ったら普通ラベルを見るだろう!貴様の目はどこについているのだ!?この猿め!」


パァン!と俺の頭をハリセンで叩く。


……おっしゃる通りです。

でも、ユーディアは別に自分の命を投げ打った訳じゃなかった。生き残る算段をつけていたのだ。

そういう事なら、良かった。


……まぁ、その算段の要である俺が、アホやらかしてしまっていたというのは、ユーディアも想定外だったのだろう。


甘んじて、お叱りを受けよう。


「それに、貴様の魔力を流し込んだだと!?この私を殺す気か!」

「な、なんでだよ。色は変わっちゃったけど、魔力分けられたし、結果オーライじゃん」


前の魔力欠乏の時は、ユーディアは何日も寝込む事になった。それが、今回は俺の魔力のおかげですぐに復帰出来たのだ。それの何が悪いのか。


しかし、ユーディアは目くじらを立ててハリセンで手をペシペシ叩く。


「いいか!他人の魔力は猛毒だ!少量でも自分の魔力と混ざり合えば、拒絶反応が起きて全身の血管が弾け飛ぶ!この量の魔力を流したのなら、普通内側から人体が破裂するぞ!」

「何それ!?こわっ!?」

「それを本人の同意も得ずに……!」


パァン!とまた頭を叩かれる。


「今回はたまたま無事だったが、他の人には決してするな!分かったか!?」

「やりたくても出来ないって……」

「分かったかと聞いているっ!!」


パァン!とまたまた頭を叩かれ、俺は「ウキィ……」とか細い声で鳴いた。くそぅ……必死で助けたんだからちょっとは褒めろよ……。


「……じゃあ、なんで俺の魔力は平気だったんだ?」


ユーディアがここまで怒るということは相当マズイことをしたと分かる。でも、実際にユーディアの命は俺の魔力により生きながらえたのだ。


「……【契約回廊】で魔力を流したと言ったな?」

「あぁ。内側……魂に魔力を直接送れば行けると思って。実際、上手くいったし……」


ユーディアはハリセンをコートに戻すと、自身の胸に手を置いて自身の魔力を確認する。


「……使えなくはないが、扱いづらいな」


そういうと、ユーディアの紫色の魔力が一瞬にしていつもの派手なマゼンダ色に変化した。


「うむ。これで違和感が無くなった。……アルノー君の魔力を自分の魔力のように使えるとは……一体何が起きている?」

「もしかして……【師弟契約】の影響とか?」


昔の人は、恩恵欲しさに【師弟契約】を結んだとローレン先生が言っていた。

恩恵と言っても、俺が知っているのは“師匠は弟子の基本技能を扱えるようになる”くらいだ。それだけなら大したことでは無いが……もし、この【契約回廊】によって魔力の受け渡しが出来るとしたら……かなり破格の契約ではなかろうか?


何せ、魔力の最大値を上げるのと同義なのだ。

師匠の魔力が低くとも、俺のように莫大な魔力を持ってる人を弟子にすれば、【契約回廊】の維持など気にならないほどの魔力が手に入る。


「有り得るが……魔力の受け渡しができるなど、私は初耳だぞ」

「魔力の受け渡しには《魔力操作》がないと難しいんだよ。これまで出来なかったとしても不思議じゃない」

「だとしても……他人の魔力を受け入れるなど……」


余程、常識を覆される事だったようだ。

まぁ、ユーディアも猛毒って言ってたし……。


そう言えば【師弟契約】について他にもローレン先生から教えて貰っていたことがあったな。


「【師弟契約】って、確か《定理技能》に近いらしい。ローレン先生が言ってた」


色々聞いたが、世界の常識から外れるほどの力が《定理技能》だと俺は解釈している。なら、常識外の事が起きても不思議ではない。


すると、


「なるほど……《定理技能》か……。理解した。これは、“そういうもの”なのだな」


……あっさりと納得した。

これなら最初からそう伝えていればハリセンで頭を叩かれずに済んだかもしれない。


「私に魔力をもう一度渡せるか?」

「落ち着いている状況なら」

「やってみろ。ただし、極小量だぞ」


やるなと言ったり、やれと言ったり、どっちなんだ。

仕方なく《魔力操作》を使って同じように【契約回廊】へ魔力を流す。

ユーディアが元気になったおかげか、先程よりも簡単に感じた。


針の先ほどの極少量を、ユーディアへ送る。

【契約回廊】を伝ってユーディアにたどり着いた紫色の魔力は、マゼンダ色の魔力にじわりと混じり合う。水の中に色水を落としたような感じだ。

ユーディアは胸に手をかざすと、紫色はマゼンダ色に変わった。


「……全く問題ない。これは、良いな」


ユーディアはニヤリと笑う。


「君の馬鹿みたいな魔力を私に渡せるとなれば……私は、念願の怪盗が出来る」

「……あっ!」


そうだ!クラリスさんの所の大金貨2000枚のアクセサリーが無くても、魔力を与えられるならば、こいつは怪盗が出来る!


怪盗が出来る、ということは……


「ーー俺の指輪を、取り返せる!」


俺とユーディアは顔を見合わせる。

意図せずして、各々の目的に一歩近づけたのだ。


「ならば、早くこんなダンジョンからは出るぞ」

「だな。ついでに売れそうなものを少し拝借して……」


気持ちが少しプラスに向いたことで、俺はようやく今の現状を把握した。


「……なぁ、ここってどこだ?」


ユーディアの技能でダンジョンをかなり落ちてしまったのだ。せっかく覚えた地図も無駄になってしまう。


「ふーむ。我々、どこかに落ちていたようだが……」

「覚えてないのか?」

「花畑のところで気を失ってから、ずっと意識が朦朧としていたのだ。君に起こされた時にどこかに落ちている感覚と、魔力を必死に動かしたこと、ポーションを君に与えることに必死で何も覚えていない。……あの近くに谷でもあったか?」


どうやら、俺がユーディアを抱えて谷に落ちたと思っているらしい。

本当に意識が朦朧としていたようだ。


「……花畑で俺がお前の手を取った瞬間、《無名讃歌》が暴走して、俺達2人とも地面をすり抜けて真下に落ちたんだよ」

「なっ!?」


ユーディアの顔が、真っ青になる。

ようやく事の次第を理解したようだ。


「……では、ここは……」

「結構落ちたし……地下10階層くらいかも知れない」


1階層進むのに地図を見ながらでも約1日かかるので、どんなに早くても帰れるのは10日後以降ということになる。

3日程度の用意しかしてない俺達にとっては、かなり厳しい。


「すぐに上層へ向かうぞ」


焦った様子でユーディアが周囲を見渡す。

ダンジョンに3日以上潜りたくないって言ってたのに予期せぬ長期滞在になったのだ。そりゃ嫌だろう。


「待てって。まずは『深度計』で深さを調べてみよーぜ」

「……そう、だな」


深い所の地図も、図鑑も、情報もないのだ。

慌てた所で事態は好転しない。


それに、ユーディアが生死の境目を彷徨っていた時の方が慌ててたせいか、今の俺は逆に落ち着いていた。


ユーディアを落ち着かせた後、俺はクラリスさんから借りた『深度計』を取り出す。


借りてて良かった。

これで脱出にどの程度かかるか分かる。


食料は少し多めに持ってきているので、食い詰めれば5日前後は大丈夫なはずだ。あとは水があればギリギリ帰れる。




パカッと『深度計』を開く。




「………………えっ」




『深度38.5』




そんな数字が、目に飛び込んできた。

ユーディアも横からそれを覗き込み、目を見開く。


「……まさか……」


軽装備。

階層情報不明。

回復ポーション無し。

そして……わずか3日分の食料。




ダンジョン地下38階層。




脱出まで1ヶ月以上かかる絶望的な状況の中、

前人未到の超深層に、俺達はいた。

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