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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【49】絶望ダンジョン

「綺麗だなぁ」

「確かに……これは予想外だ」


ユーディアも驚いているのか、珍しくぽかんとした表情を浮かべている。

きっと貴族の金銀財宝でも眠っていると期待していたのだろう。


俺が花へ近寄ろうとした、その時だった。


「ミューミュー」


隠し扉の向こう側から、シーフラ達の鳴き声が聞こえてきた。


「あいつらも入りたいのか?」

「ふむ。入れてあげよう」


ユーディアは俺の手を離し、岩肌へと手を置く。


すると、岩の中から、スルリ……と大量のシーフラがなだれ込んできた。


「《無名讃歌》って、無機物にも効くのか?」

「うむ。何を透過させるか調整することも可能だ」


……便利な技能で羨ましい限りだ。


シーフラ達は花畑に入るや否や、我先にと駆け出していく。

そして植えられている青い牡丹へ飛びつくと、茎ごとカジカジと食べ始めた。


「……なぁ、これ不味くね?」

「いや。ここの感情は酷く澱んでいるからな。むしろ、いいことだろう」

「いいのか……?」


まぁ、今さらだ。


ここの持ち主には悪いが、腹を空かせたシーフラ達の夕飯にさせてもらおう。


――ご愁傷さまです。


俺はこの畑の持ち主へ、心の中でそっと手を合わせた。


総勢300匹を超えるシーフラが畑に広がり、物凄い勢いで花が消えていく。


俺達はまだ花をちゃんと観察できていなかったため、食べられていない畑の反対側へと急いで移動した。


移動しながら、俺は天井や壁を見上げる。

地球でも行われている電灯栽培に近い構造だ。

魔石を光源として利用し、植物を人工的に育成している。

気温や湿度まで管理されているのか、ダンジョン内部よりも明らかに暖かく、空気もやや乾燥していた。


……なんか、見覚えがある。


なんだろう?


俺は立ち止まり、天井や畑全体をチラチラと見回す。


よく観察すれば、天井や壁、さらには土壌にまで独特の魔力の流れが走っている。


そこで、ようやく思い出した。


「……これ、ローレン先生の茶畑と同じ設計だ」


渡された資料に書かれていた内容。


専門棟の一角を丸ごと使った茶葉栽培。

中規模栽培計画書に描かれていた、魔石や各種魔道具を大量に用いて温度や魔力環境を制御する設計図。


――まさに、それと同じだった。


じゃあ、これはローレン先生が?

なら、この花もお茶なのだろうか?

葉よりも花の方が大きい。

ルーファムストーンの花茶のように、花弁を使う茶葉なのかもしれない。


俺は一足先に畑の向こう側へ進んでいたユーディアへ声をかける。


「ユーディア。これ、ローレン先生の狂気の茶畑計画書と同じ設計だぞ」

「むっ。そうなのか?」

「……やっぱりあの資料読んでなかったな? この畑と同じ図、書いてあっただろ」

「ふぅむ……記憶にないな」


歩く図鑑が忘れるはずがない。

……絶対読んでなかったな、こいつ。


「では、これも茶か?しかし、この花は……」


ユーディアは近くの花の横へしゃがみ込み、花には触れず、葉や茎の形状をじっくり観察している。


……そういえば、ユーディアの近くにある花。

中央部分に大きなゴルフボールのような塊がついている。


なんだ、あれ?


「ーーマズイ!アルノー君、ここを離れるぞ!」


突然、ユーディアが血相を変えて立ち上がる。


「どうしたんだ?」

「この花はーー」


ユーディアがこちらへ駆け寄ろうとした、



その瞬間。



ーー近くの花についていたゴルフボールが、パァン!と弾けた。


ふわりと花粉のような粉が周囲に舞う。


「目と口を塞げ!コート!」


ユーディアの指示に反応し、俺のコートがシュルリと動く。口元を覆う分厚い布製のマスクと、目を覆うゴーグルが瞬時に形成された。

かなり息苦しい。


一方のユーディアは……


「ぐっ……」


途端にガクン……とその場に崩れ落ちた。


さっきの様子からして、どうやら先程の粉末を少し吸ってしまったらしい。


「ユーディア!」


俺は慌てて駆け寄る。

地面に力なく倒れている身体を引き起こそうと腕を掴もうとするが――


スカッ


「は?」


俺の手が、ユーディアの腕をすり抜けた。


「おい!技能を解け!」

「……魔力、が……言うこと、を……聞かん……!」


ハッとしてユーディアの魔力を確認する。


「魔力が……漏れてる!?」


マゼンダ色の魔力が身体全体からダバダバと溢れ、空中へ拡散していた。それだけじゃない。体内の魔力までもが、ぐちゃぐちゃに暴れ回っている。




ーー《無名讃歌》が暴走している。




魔力量の少ないユーディアでは、数分も持たずに完全枯渇する。

ポーションを飲ませたいが、《無名讃歌》を解除しない限り液体すら身体を素通りしてしまう。


その時だった。



ズブリ……



ユーディアの身体が、地面へ沈み始めた。



――嘘だろ!?

《無名讃歌》で地面をすり抜けられたら、本気で取り返しがつかなくなる!



「お前の技能なんだから、ちゃんと手網を握ってやれ!掴めたら、後は俺が引きずっていってやるから!」


冷や汗を流しながら、ユーディアは震える手をこちらへ伸ばす。俺はそれを思い切り掴んだ。

ちゃんと掴めたことにホッとした――その直後。



ユーディアは、フッと意識を失ってしまった。



「おい!ユーディ……」




次の瞬間。




ーー俺達の身体が、真下へ落ちた。




「う、うわぁぁぁあ!?!?」


まるで最初から地面など存在しなかったかのように、身体が真っ暗な地中を落下していく。

突然すぎて、《落下猶予》が間に合わなかった。


パッ、と一瞬視界が明るくなる。

下の階層の光景がチラリと見える。

だが次の瞬間には、また地面の中へと身体が入り込み、さらにその下の階層が見える。


それを何度も何度も繰り返しながら、俺達は落ち続けていた。


次々と過ぎていく景色に、俺は戦慄する。




――このままだと、地上へ戻れなくなる。




「ユーディア!起きろ!ユーディア!」


胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶるが、反応がない。


「起きろポンコツ!おやすみの時間にはまだ早いぞ!」


バシバシ!と頬を叩き、さらに頭を激しく揺さぶる。そこでようやく「ゔぅ……」と、ユーディアの瞼がかすかに開いた。


「技能を止めろ!受け身は俺が取る!」


俺の言葉にハッとしたユーディアは、魔力を引き絞る。


ーーそして、次の階層の光景が現れた瞬間、

技能がフッと消えた。


俺は即座にコートを動かし、

ユーディアごと全身を包み込む。


途端、


ドォンッ!!


激しい衝撃と共に、

俺の魔力がコートへごっそり持っていかれる。


そのまま、何度も何度もバウンドするような感覚と、

更に下へ落下する感覚。


最後に、ダンッ!と激しい衝撃が俺達を襲い、

魔力がさらに絞り取られる。


コートが、ぐったりと力を失ったように

シュルリ……とほどけた。


全身が冷たい。指1本動かない。

ーー魔力が、もうない。


最後の衝撃の時に、

残っていた魔力を全部コートに吸われたのだ。


それでも魔力が足りなかったのか、少し体が痛む。



だが、その感覚も、


意識も、


遠くなっていく。



ーー死ぬ。



直感的にそう感じた。


無い魔力を振り絞った結果、

俺の生命力まで消費したのだろう。


……ユーディアが心配だ。


アイツはどうなっているのか。


あのままだと、


アイツまでーー。



そう考えている途中で、



プツン……と俺の意識は強制的に途切れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ゆるり、と意識が浮上する。


まず最初に感じたのは、身体の重さだった。

手足の感覚や、自分の体の形をじんわりと認識していく。


同時に――口の中に残る、甘ったるい薬のような味に気がついた。


……エナジードリンクの味だ。


重たい瞼をゆっくりと開ける。


うっすらと、視界の端から光が差し込んでくる。

どうやら、俺達が買ったランタンがすぐ横に置かれているらしい。


俺はゆっくりと体を起こしてみる。


……普通に起きられた。


全身に痛みは残っているが、動かないほどではない。


そして気づく。


耳が痛くなるほどの静寂に、周囲が包まれている。

気配を探るが、魔物の存在は感じない。


どうやら、この場所は安全そうだ。


自分の魔力へ意識を向ける。



……3割ほど、回復していた。



――あり得ない。

あの状況から、ここまで自然回復するはずがない。



俺は自然と、ランタンの方へ顔を向けた。




――そこには、




青白い顔で倒れている、ユーディアの姿があった。




「ユーディア!」


ランタンの暖かな光に照らされているのに、顔色が異様に白い。


鼻からも、口からも。

目や耳からまで、血が流れている。


そして――



魔力の光が、完全に消えていた。



「嘘だろ!おい!」


慌ててユーディアの傍に寄る。

その時、彼の手に何か握られているのが見えた。


……空になった、ポーション瓶だ。


コイツ……俺に魔力回復ポーションを使ったのか!?


「っんの、馬鹿!!」


使うなら本人に同意を求めろって、さっき言ったばかりだろーが!


胸の奥に怒りと焦りが同時に湧き上がる。

俺はすぐに、自分のポーションをコートから取り出す。

持続的に魔力と体力が回復する、“活性剤”。

ユーディアを仰向けにして口へ流し込もうとして――


そこで、ふと気がついた。


「……“除草剤”?」


初めて、ポーションのラベルをちゃんと見た。



……活性剤じゃない!!



頭の中が、一瞬で真っ白になる。


そういえば……ポーション屋の陳列棚には、効能が書かれた沢山のポップが張り出されていた。

ポーションを買う時、俺はそのポップをかき分けてパッと一本を掴んだ事を思い出した。


……その時。


隣に置かれていた“除草剤”を間違えて手に取り、そのまま確認もせず購入してしまったのだ。


コートにしまってから、ラベルの確認を一度もしていなかった。



つまり――これでは魔力が回復しない。



「俺のアホーー!!!」


やらかした事を嘆いていてもダメだ。

今は時間が惜しい。


ユーディアの口に手をかざす。

……息をしていない。


ヒヤリ、と背筋に寒気が走った。


心肺蘇生をしても意味がない。

明らかにこの状況は、あの粉を吸った事による魔力欠乏が原因だ。


なら、魔力を回復させるしかない。


「《魔力操作》」


俺はユーディアの体に手を触れ、そのまま自分の魔力を分け与えようとした。


だが――反応がない。


俺の魔力を体の内側へ流し込んでも、ユーディアの魔力が回復する様子は一切ない。

俺は一度魔力を紫色から、ユーディアと同じマゼンダ色へと変換し、もう一度同じことを試す。


それでも結果は同じだった。

俺の魔力は、ただ彼の体の中を通り抜けていくだけ。


ポーションも、

魔力も、

周りに助けてくれる人すらいない。


絶望的な状況。



ーーでも、



諦めてなるものか。



「考えろ、考えろ、考えろ……魔力はどうやって回復する?」


睡眠。

食事。

ポーション。


どれも共通しているのは――身体の内側から回復効果をもたらすことだ。


だが、俺の魔力を内側へ入れても、ユーディアの魔力にはならなかった。


息をしていないこいつに食事を取らせるのは無理だ。

睡眠なんてもってのほか。


何とかして、内側……それも、ユーディアの魔力に直接作用させるようにしないと。



他に、他になんか……



ふと、ユーディアと自分を繋いでいる【契約回廊】が、ひどく弱くなっていることに気づいた。

糸のように細く、今にも切れそうなほど頼りない。


契約主の呼吸が止まり、

死にかけているのだから当然なのかもしれない。



ーーその時。

ユーディアと街を見渡しながら話した、あの夕暮れの光景が脳裏を過ぎる。



『【師弟契約】は血よりも濃い、魂を結ぶ誓いだ』



俺には師は不要と考え、ユーディアが自ら身を引こうとした、あの日。憂いを帯びた瞳で、アイツがそんなことを言っていたのを思い出した。



……血よりも濃い、“魂”を結ぶ誓い。



その時は比喩表現だと思っていたが……あながち間違いではないのかもしれない。

この【契約回廊】は、ユーディアの“気配”を感じ取ることが出来る。だが別に、それはアイツの魔力を感じ取っているわけではない。



ーー魔力を一切感じなかった、この世界に来たばかりの俺でも“気配”を感じ取ることが出来たのだ。



じゃあ、この“気配”というのはーー



「……ユーディアの、“魂”?」



眉唾ものだが、魔法があるファンタジー世界なのだ。

“魂”だって、存在するかもしれない。



ユーディアの言葉を信じるならば……




ーー【契約回廊】とは、

俺とユーディアの“魂”を結んでいるものじゃないか?




食事や睡眠で魔力が回復するのも、

栄養そのものというより――

魂や心が回復するから……とか。


なら……



「【契約回廊】伝いに、魔力を受け渡すーー」



ユーディアの内側。

そのさらに奥――“魂”に直接、魔力を流し込む。


《魔力操作》があるなら……出来るはず。


いや、


してみせる。



「死なせるかよ、このポンコツめ」



とっちめてやりたいことが、山ほどある。

それに、初めて出来た友達なんだ。

……今さら、一人は嫌だ。


「《魔力操作》」


消えかけている【契約回廊】を強く意識する。

細い針穴に糸を通すような、極めて繊細な操作が必要だ。


急げ。

でも焦るな。

慎重に。


そっと、魔力を流し込む。


すると、まるでチューブの中を通る液体のように、【契約回廊】の内部を魔力が進んでいく感覚が伝わってきた。



ーーいける!



「さっさと起きろよ!この野郎ッ!」



俺は力の限り、自身の魔力をドンッ!と【契約回廊】にぶち込み、ユーディアの魂へ膨大な魔力を叩き込んだ。

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