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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【47】魔物とダンジョン

「なんてことだ……この私が……何故こんな目に……」


シーフラの着ぐるみを着た大の男が二人、トコトコとダンジョン内を歩いていた。


俺はユーディアをコートで覆い、俺と同じシーフラの着ぐるみ姿にして全身を包んでいる。ちなみにメス仕様だ。


コートの一部を繋げておく必要があるため、俺たちの着ぐるみは尻尾の先が少しだけ繋がっている。そのせいで自然と横並びで歩く形になっていた。


――傍から見れば、完全にヤバい奴らである。


「こんなの、美しくない……」

「でも可愛いだろーが。文句言うな」

「せめてオスが良かった……」

「俺がもうオスになってるから諦めろ」

「ぐぬぅ……」

「ミューミュー」


未だにシーフラのメスたちは、俺たちを追い続けていた。

振り切ろうとしても、どこまでもついてくる。


「……シーフラのテリトリーとは、オスの周囲を指すのだ。君がその珍妙な格好をしている限り、どこまでも追従してくるぞ」


歩く図鑑が、現状を分かりやすく解説する。

それはもっと早くに言ってほしかった。


だが、今ここで変身を解除すれば、女心を弄んだクソ男として、メス達に袋叩きにされる未来しか見えない。


俺の記念すべき初冒険は――

情けないことに、可愛い着ぐるみを着てシーフラを引き連れる大行進となってしまった。


まるで遊園地のパレードだ。




そして、暗いダンジョン内を歩くこと……半日と少し。




地下2階層へ到達した頃には、俺たちはいつの間にか300匹を超えるメスのシーフラを引き連れていた。


道中、いくつものシーフラのテリトリーに入ってしまったのだ。

そのたびにメスが甘えた声を上げながら俺についてきて――そして、そのたびに俺は、背後から突き刺すようなオスの視線を浴びることになった。


こんな異世界ハーレムは望んでいない。

しかも全員、別の男の奥さんである。


「もう離れてくれミュ。別のオスの元へ行くミュ。俺とお前らじゃ、生きる世界が違うミュ」


「「「ミューミューミューミュー」」」


ダメだ。言葉が通じないミュ。


ふわふわのシーフラたちが、俺たちの周囲の地面を埋め尽くしている。

一匹一匹は可愛いが、この数になると普通にドン引く。


「今日のキャンプ予定地まで、あと数時間かかるが……このままシーフラを引き連れてキャンプ地まで行くのか?」

「それミュ……」


どうするもんかと頭を悩ませていた、その時。



ーーダンジョンの奥から、悲鳴が聞こえてきた。



「ユーディア!」

「分かっている!」


俺たちは声のした方へ駆け出す。

シーフラ付きだが、致し方ない。



たどり着いた先で見たのは――


2人の子供が倒れている姿だった。



「エド!?ユノ!?」


まさかの顔見知りだ。

ぐったりとお互いを庇い合うように倒れている。

駆け寄ろうとした瞬間、グイッと着ぐるみの襟を掴まれる。



「待てっ!上を見ろ!」

「ーーは?」



見上げたそこには……真っピンクの巨大コウモリが天井に張り付いていた。


「まずいぞ。スペキュラスの“亜種”だ」


その言葉に、俺はビクリと体を震わせる。


ーー“亜種”。


いわゆる魔物の“色違い”個体だ。


魔物は基本、暗いダンジョン環境に適応して暗色をしている。だが時折、突然変異のように目立つ色の個体が現れることがある。

目立つ色であればあるほど、脅威度が増すのだ。


ダンジョン図鑑にも、「ダンジョン内で目立つ色を見かけたら全速力で逃げろ」と何度も注意書きがされるほどだ。


スペキュラスは、本来ならば黒い両手くらいの大きさのコウモリの魔物だ。だが、あのピンクのスペキュラスは……大の大人よりも一回り大きい。まさに化け物だ。


エドとユノは、ーーそれに運悪く遭遇してしまったのだ。


周囲にいた大量のシーフラが、一斉に「ギュリリリ!!」と威嚇音を上げた。

とんでもない大音量の合唱だ。


「な、何なんさ!?あの巨大シーフラは!?」


横の石柱から声が上がる。

そちらを見るとーーリナがいた。

腕を怪我しているのか、赤い雫がぽたぽたと地面に落ちている。


「リナ!俺だ!アルノーだ!」

「え?え?」


巨大シーフラ着ぐるみが突然喋ったせいで、リナは混乱しているようだ。


「ーーその可愛いポーチ、似合ってるぞ!」


リナの腰についている、俺があげたオシャレポーチを指さすと、リナはようやく合点がいったのか驚いた顔をした。


「っ!?あんた、本当にアルノーなのかい!?」

「話は後だ!お前はエドとユノを連れて逃げろ!」

「無理なんだよ!だってーー」


パァン!


会話の途中、コートが何かを弾いた。


同時に俺の魔力が削られ、

乱れた魔力と風が周囲を駆け抜ける。



ーーこれ、風の魔法だ!?



慌てて俺とユーディアも石柱の影へ身を潜める。


一方、シーフラたちは四方へ散開し、スペキュラス亜種を取り囲むように陣形を作っていた。


「馬鹿な……!?浅層で魔法を扱う魔物など、図鑑には無かったぞ!?」


歩く図鑑がそう言うということは、本当にイレギュラーなのだろう。


風魔法は初めて見るが、着弾が異様に速い。

《魔力知覚》で軌道は視認できる――だが、それでも回避するのは容易ではない。


「ーーあんたら、エドとユノを連れて逃げてくれ」


リナがふと、覚悟を決めた表情でそう言った。


「何言ってんだ馬鹿!」

「あたしは怪我してんだ。逃げても血の匂いで追いかけてくる。だからーー」

「見殺しにするわけないだろ!」


思わず声が荒くなる。


「とにかくエドとユノを回収しろ!アイツは俺が注意を引くから!」


その言葉に、リナが泣きそうな顔をこちらへ向ける。


「アルノー……」

「ユーディア、頼む。リナに付いてくれ」

「承知した。君も気をつけろ」


俺がユーディアの着ぐるみを解除すると、瞬時にユーディアはリナの横へ現れた。技能をつかったようだ。


俺はコートに指示を出し、両手に武器のスピアを構え、カンカン!と金属音をけたたましく鳴らす。


「こっちだ!ファンキーコウモリ!」


パァン!


瞬時に風魔法が飛んでくるが、コートがそれを防ぐ。

何とか気を引けたようだ。

だが、天井に張り付いたアイツをどうすればいい……?


「ギュリリリリ!」


オスである俺が攻撃されたことに怒ったのか、シーフラたちが一斉に石柱へ爪を立て、よじ登りながらスペキュラスへ飛びかかろうとする。


しかし――距離が足りない。


石柱の先端からスペキュラスまでは微妙に間があり、攻撃が届かないのだ。


「ギュリィ!」

「ダメだ!一旦引け!」


そう叫ぶが、やはり言葉は通じない。


その直後。


ゴオッ――!!


暴風がシーフラたちを襲い、何匹かが宙へ吹き飛ばされた。


俺はとっさに袖を伸ばし、先端をネット状に変形させて、落ちてきた個体をギリギリで受け止める。


ーー魔物とはいえ、半日一緒にいたのだ。情くらい湧いてしまう。


「ミュミュミュ……」

「しつこい女は嫌われるミュよ」


そっと地面に降ろしてやり、俺は再び上を見上げた。


その瞬間……




ガァンッ!!




「うわっ!?」


何十メートルも離れていたはずのスペキュラスが、一瞬で俺に飛びかかってきた。

コートが防いでくれたものの、今までにないほど魔力を大量に持っていかれる。


「コイツ!」


袖をネットにして捕まえようとするが、ドウッ!と荒れ狂う風と共に再び天井へ張り付く。



ーー風魔法を使って移動速度と突進速度を上げてやがる。



あんな巨体なのに、まるで瞬間移動のような速さだ。


「アルノー君!」


スッ、と突然ユーディアが背後にあらわらる。

着ぐるみを引っ張られ、そのまま近くの石柱の影へ二人で身を隠す。


「2人は無事だ。リナ嬢に預けてある。そちらは?」

「ダメだ。速すぎて全く対応出来ない。魔法で加速するみたいだ。追い払わないと、逃げきれない」


視線をスペキュラスへ向けると、シーフラの群れが大声で威嚇を続けている。

そちらに気を取られているようにも見えるが……何となく、奴の視線は怪我をしているリナの方へ向いている気がした。


「スペキュラス……魔力で体を浮遊させて飛ぶ魔物だ。魔法を使うとは記載がなかった。目は退化しており、音の反射で周囲の構造を把握し、魔力で獲物を見る。魔力の多い魔法使いなどが優先的に狙われやすい。ーー今だと、君だな」


つらつらと図鑑の内容を思い出すように言葉にする。


「他には?」

「性格は無謀。知能も低い。食欲を何より優先させる。頭と翼の骨が固く、突進と噛みつきが主な攻撃手段。弱点は下腹部。比較的肉質が柔らかい。それとーー嗅覚が特に鋭い。数km離れた血の臭いを嗅ぎとってやってくる」

「サメかよ……」

「あと、雑食だが特に新鮮な血を好む。スペキュラスの群れに襲われたシーフラが、ミイラとなって発見された例もある」

「そこはちゃんとコウモリっぽいのな……」


だが、それはつまり――リナたちはより逃げられないということだ。


今のスペキュラスの獲物は、おそらく怪我をしているリナ、エド、ユノ。

そして次点で、魔力の多い俺。


何とかして、リナたちへの意識をこちらへ向けさせなければ、無防備な三人が危ない。


……スペキュラスを天井から引きづり下ろせれば、シーフラの追撃が出来そうだが……


「……ユーディア」

「何か閃いたかね?」

「コートの一部を紐状にしてお前に渡すから、スペキュラスのどこかに縛り付けて欲しい。

ーー何秒引きつければ行ける?」

「10秒」

「よし」


俺は着ぐるみを解除し、本来のコート姿へ戻る。


コートの長さが作戦の要だ。

余計なところに魔力は使えない。シーフラに気づかれないことを祈るしかない。


裾を細い紐状に変形させ、ユーディアへ手渡す。


そして俺は、コートの内側から料理用の錆びたナイフを取り出した。


……血判だってやったんだ。

これくらい、なんてことない。


切れ味の悪い刃を手のひらに当て、思い切り引く。

ギザギザの刃が皮膚を裂き、じわりと血が滲む。

すぐに手のひらに血溜まりができ始めた。


俺はそれをできるだけ絞り出し、アジトから持ってきていたボロ布にたっぷり染み込ませる。

そしてスピアの先端へしっかりと括り付けた。


「ユーディア、任せた」

「フッ、任された」


二人同時に石柱の陰から飛び出す。


スペキュラスの顔が、グリンッ――と俺の方へ向いた。


――魔力が多く、なおかつ怪我をした俺が、優先的な獲物になったらしい。


「ほらほら!こっちの血は、あ〜まいぞ〜!」


俺はコートを変形させ、大型のスリングショットを作り出す。

そこへスピアを装填し、技能を発動する。


「《影足》」


ぶわっと全身を魔力が包み、力が漲る。


《影足》は身体能力を引き上げる技能だ。

――何も、強化されるのは足だけじゃない。


細かい操作はいらない。

俺は全力でスリングショットを引き絞り、そのままスペキュラスへ向けて放った。


スピアは猛スピードで飛ぶ。だが、所詮は素人の狙いだ。

当然、スペキュラスには当たらない。



――だが、それでいい。



スピアは奴のすぐ近くへ着弾する。

同時に、俺の血をたっぷり吸った布が天井へべしゃりと張り付き、スピアの表面を血がたらりと流れ落ちる。


スペキュラスはそちらへ顔を向け、その血を舐めようと身を寄せてきた。


――その時。

スペキュラスの真後ろに、ユーディアが姿を現した。


「《天蓋疾走》」


まるで天井に重力があるかのように、ユーディアは天井に立つと、素早く天井に張り付いているスペキュラスの足へ紐を結び始める。


スペキュラスがすぐに気が付き、顔をユーディアに向けようとするがーー


「ほらほら!おかわりありまぁ〜す!」


俺は再び、血塗れの布を括り付けたスピアをスペキュラスの近くへ撃ち出す。

天井に新たな鮮血が染みた布がへばりつき、何事かとスペキュラスの視線がそちらへ向く。


――だが、すぐに脅威になりそうなユーディアへと振り向いた。食欲優先の割には、意外と頭いいじゃんか。


その場を離れようとスペキュラスが体をぐっと沈め、魔力がぐわっと練り上げられる。


そして、風魔法に乗って突進してこようとした――

その瞬間。


「《落下猶予》!!」


俺の全力《落下猶予》が、飛び立とうとしたスペキュラスの体を天井へ磔にする。


魔力をありったけ注ぎ込めば、最大5秒ほどは空中に固定できる。抵抗されるたびに魔力がガリガリ削られるが、こっちは魔力だけはあるのだ。


その隙に、俺はコートの後ろを伸ばし、背後の石柱へと括り付ける。


「結んだ!」


ユーディアの声と共に、俺の《落下猶予》が切れる。再び突進してくるスペキュラスをコートで防ぐと、スペキュラスはすぐさま天井へ戻ろうと飛び立つ。


だが、



ピンッーー



近くの石柱に縛り付けたコートの裾と、スペキュラスに結ばれた紐が張り詰める。


空中でつんのめったスペキュラスは、そのまま地面へ激突した。



「ギュリリリリ!!」



そこへ、待ってましたとばかりに、大量のシーフラが襲いかかる。

ピンクの体が、黒いシーフラに群がられる光景は圧巻だ。


しかし――それでもスペキュラスは止まらない。

巨大な翼を振るい、風魔法を炸裂させ、シーフラたちをまとめて吹き飛ばした。


俺は駆け寄りながら何十匹かをコートでキャッチする。だが他の個体は地面に転がり、ぐったりしている。……無事でいてくれよ。


シーフラを吹き飛ばした直後のスペキュラスは無防備だ。もう一度風魔法を練るには、あと数秒かかる。


その隙に――俺はスペキュラスに結ばれた紐を、伸びたゴムが戻るように一気に縮め、自分ごと突進する。



「これが突進される側の痛みだぞ! ゴラァ!」



ドンッ! と横腹へ衝突する。


スペキュラスが苦しげな声を上げるが、衝撃はコートが吸収してくれているため俺は無傷だ。

身をよじる巨体の上へ、俺はそのまま跨った。


「ーーさぁ、お仕置きの時間だ」


《魔力操作》で魔力を伸ばし、スペキュラスの魔力に触れる。

ーーローレン先生のところで知った、魔力の結び目。あれがあると魔力の波長を変えにくくなるのだ。


なら、是非とも体感してもらおうじゃないか。


「そぉれ!!」


スペキュラスの魔力をむんずと掴み、そのままぐちゃぐちゃに、あちこち玉結びにしてやる。


ギャア! と悲鳴を上げて暴れた拍子に俺は振り落とされたが、コートがクッションになり事なきを得た。


スペキュラスは逃げようと翼を羽ばたかせる――


だが、飛べない。


ぴょん、ぴょん、とその場で跳ねるだけで、なんとも間抜けだ。


そこへ復活したシーフラたちが再び群がろうと飛びかかる。


あちこちを噛まれ、引っかかれたスペキュラスは「ピーピー!」と情けない声を上げ、ダンジョンの奥へドタドタと走って逃げていった。


「な、何とかなった……」


安心した瞬間、全身に倦怠感と寒気が襲ってくる。

そして――鼻から、たらり、と温かいものが垂れた。

鼻血だ。



ダンジョンでの初戦闘。



俺は魔力の8割超を消費して――なんとか勝つことができた。

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