【6】脱走1
死刑……!?
今、死刑って言ったのか!?
「ちょ、どういうことですか!?
死刑だなんて、俺が怪盗じゃないって分かってくれたじゃないですか!」
「そうだとも」
「なら、なんで――」
「本物だろうと偽物だろうと、領主就任式を破壊したのは君だろう?」
グレゴールは涼しい顔で続ける。
「就任が遅れれば、この街には相応の損失が出る。
その規模を、君は想像できないだろう」
それに――と、彼は付け加えた。
「怪盗ユーディアが捕まったと噂になっている。
偽物でも処刑しておいた方が、色々と“都合がいい”のでね」
意味が分からない。
俺の処刑が、得?
「処刑は明日だ。
最後のひと時を、ゆっくり過ごしたまえ」
そう言い残し、グレゴールは何事もなかったかのように扉から出て行った。
「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!」
一拍遅れて叫んだ俺の声は、
重たい石壁に吸い込まれて消えた。
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俺は鉄格子をガチャガチャと揺らし、隙間から何とか出られないか必死に試していた。
背中にあったザワザワした感覚が、
いつの間にか右肩へ移動しているが――今はどうでもいい。
騙されて異世界に来て、
怪盗に指輪を取られ、
挙句には死刑宣告。
ただの就活生にはあんまりな仕打ちである。
ーー俺は絶対に生きて帰る!
生への執着には自信がある。
鉄格子を蹴り飛ばし、
殴り、
噛みつき、
揺らす。
「ウギィィイーー!!!」
今の俺は、確かに見世物小屋の珍獣であった。
その時だ。
右肩に集まっていたザワザワが、
はっきりとした“輪郭”を持ち始めた。
――気配だ。
しかも、すぐそこ。
ガチャリ、と扉が開く。
現れたのは、赤髪にマゼンダ色の瞳をした男だった。
やたら目立つ見た目のくせに、体格はひょろひょろ。
今まで見た衛兵の中で、ダントツに頼りない。
「……何をしているんだ」
鉄格子に張り付いた猿状態の俺を、
彼は憐れむような目で見下ろした。
慣れた視線だ。
俺は猿ポーズのまま睨み返す。
「何か用っすか?」
「君に面会だ。来い」
衛兵は鍵を取り出し、牢屋の扉を開け始めた。
面会?俺に?
不思議に思いつつ、俺は扉が開くのを待つ。
カチャカチャ……
カチャカチャカチャカチャ……
「あの、まだっすか?」
「ちょっと黙ってろ」
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ……
「その鍵、合ってます?」
「だから黙っていろと言っているだろう」
……全然開く気配がない。
鍵が間違っているのか、
死ぬほど不器用なのか、
どちらなのか分からない。
俺はそれでも待った。
1 0 分 経 過 。
扉は開かなかった。
「なぁ!?それほんとにここの鍵!?」
「静かに。今、この錠前の心の声を聞いているのだ」
なぁーに言ってんだこの人!?
ともかく、これ以上カチャカチャやって鍵が折れたら一大事である。
「貸せ!俺がやる!」
「あ、コラ!」
衛兵から鍵を奪い取り、内側から外の錠前に手を伸ばして鍵を差し込む。
ガチャ……
呆気なく開いた。
いやどんだけ不器用なんだよこの人!
これをどうして10分もカチャカチャやってたんだ!?
「あと少しだったのだがね」
どこがだ。
「さて、面会室はこっちだ。ついてこい」
衛兵の後を追って、牢獄の扉を出る。
上に上がると窓のない廊下が続いており、恐らくまだ地下だということが分かった。
衛兵に続いて廊下を進む。
人の気配がなく、静かだ。
衛兵が角を曲がる。
俺も曲がった所で…………
俺は、衛兵の手首をがっしりと掴んだ。
「お前、衛兵じゃないだろ」
マゼンダの瞳がキラリと見つめ返す。
「何を根拠に言っている?」
「あんた、武器はどうした?」
今までの衛兵は皆、剣や槍を持っていた。
例えここが魔法もあるファンタジー世界だとしても、身を守る武器を衛兵が持っていないのは不自然だ。
なのに、目の前のこいつは無防備で俺を面会室とやらに連れていこうとしている。
「それに、貴族が牢屋まで会いに来るのに、今更俺が面会室まで移動なんておかしいだろ」
「……」
「あと……お前は他のやつと、違う」
ずっと感じてたザワザワとした感覚……気配。
今、目の前のコイツから、バリバリ感じていた。
確信をもって言うと、赤髪の男はニィッ……と笑った。
「なら、私は一体誰かね?」
「お前はーー」
多分、だが。間違いない。
衛兵でもない奴が衛兵の服を奪ってここまで来たのだ。
異世界滞在歴がまだ僅かな俺でも、
それが可能な人物を一人知っている。
「ーー怪盗ユーディア」
赤髪の男……怪盗ユーディアは、
心底楽しそうな笑みを浮かべた。
「お見事!よくぞ我が正体を見破っーー」
「確保ォーーーー!!!!!」
掴んでいた怪盗の腕を捻り、背中に回して壁に押し付ける。
「いだだだだだ!?」
「指輪返せ!!俺は帰る!!」
この機会を逃せば、本当にもう帰れなくなる。
物理的な意味で。
怪盗が着ている衛兵服をまさぐる。
ーーだがしかし、何も入ってない。
「おい!指輪はどこだ!?怪盗服に忘れてきたのか!?」
「コラ!静かにしたまえ!気が付かれるだろう!」
「指輪の在処を言え!言わないなら人を呼ぶぞ!」
怪盗は面倒くさそうに、ハァ……とため息をついた後、言った。
「……指輪は返した」
「……は?」
「だから、返した。ーー君がいた領主邸に」
なんで!?
というか、あそこ領主の屋敷だったのか!?
「私は盗みはするが、金の為じゃない。
盗んだものは、所有者に全て返すのが私の信念だ。
君を領主と思って襲ってしまったから、
盗んだ後は領主邸の書斎に戻してきた」
「な、何してんだ!馬鹿!」
「馬鹿は君だ!私も君にはーー」
その時ーー走ってくる足音。
「おい!何をしている!」
本物の衛兵だ。
「衛兵さーん!コイツでーす!本物の怪盗ユーディアでーす!!!」
「あ、コラ!?」
俺は怪盗を突き飛ばし、
混乱に乗じて廊下を全力疾走した。
ーー死刑より、指名手配の方がまだマシだ!




