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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【40】冒険者ギルド2

「エド、ユノちゃん。職業訓練所はどうした?」

「今日は休んだ!ユノと冒険者登録しようぜって約束してたんだ!」


元気よく答えるエドの隣で、ユノが俺の横に立つユーディアを見上げ、こてんと首を傾げる。


「おにーさん、だぁれ?」


──忘れられている。

まぁ、無理もないか。顔を合わせる機会はそう多くなかったし、何よりユーディアは技能の影響で、印象が残りにくいらしいしな。


「俺の友達。ユディな。聞き覚えはないか?」

「「ない」」


2人揃って首を振る。

どんまいユディ。


「初めまして。彼の友人のユディだ。以後、お見知りおきを」


気にする様子もなく、いつもの如く芝居がかったように胸に手を置き、優雅に一礼をする。


「よろしく!ユディ兄ちゃん!オレ、エド!」

「わたし、ユノ」

「君達の事は彼から聞いている。真面目に働き、技能を授かる為に日夜努力を続けている、良き友人だと」

「えー!なんか照れるなぁ!」


エドとユノが照れくさそうに頬をかく。


「2人は今日冒険者登録をしたのか?」

「うん!」

「実は俺とユディもさっき登録をしてきたとこなんだ。奇遇だな」

「わ!じゃあ、アルノー兄ちゃん達とオレ達、“同期”だなっ!同期とか初めてだ!よろしくな!」


エドと俺は握手を交わす。

こんな小さな子まで冒険者登録が出来るのか。

同じことをユーディアも思ったのか、少し心配そうな顔をする。


「ギルド登録には年齢制限はないが……さすがに受けられる依頼などは少ないのではないか?」

「へへっ、まぁな!だからさ、ユノとダンジョンに行こうかって話をしてたんだ」

「わたしはおりょうりしたいけど、にぃにが行こうって」


ユノは少し不服そうに口を尖らせる。

少々強引なエドが誘ったのだろう。


「まぁ、あんまり危ないことすんなよ」

「うん!」

「しかし……君たちだけでダンジョンへ行くのかね?泊まりがけは危ないと思うが……」


10歳にも満たない子供が数日間ダンジョンに潜るのは誰だって心配だ。しかしエドは「平気!」と胸を張る。


「日帰りで行けるところで、売れそうな草とか魔物の素材を狩るんだ!」

「でも、入り口近くは取り尽くされて大したものは無いんじゃないのか?」


するとエドは得意げに一冊の本を取り出す。


「じゃーん!これ、ダンジョン内に生息してる魔物辞典!ここに、入口近くでも少しだけお金になる魔物とか乗ってんの!」

「わたし、こっちもってる」


ユノが取り出したのは植物と鉱石の本だ。


「ダンジョンで取れるそざいがたくさんのってるの」

「それ、ちょっと見てもいいか?」

「うん」

「いいよ」


2人から本を借り、ユーディアと共に本をペラりとめくる。ダンジョン専門の図鑑のようだ。ダンジョンの簡易的な地図まで載っている。


ダンジョンは階層構造になっているようだ。

一つの階層ごとに広い空間があり、下層へ降りるための通路がいくつか存在する。そこを抜けると、また別の広間が広がる──そんな作りだ。


地下1階層は日帰り圏内。

地下2階層からは、泊まりがけが前提になるらしい。


本には、地下2階層までの魔物の生息分布や、採取可能な薬草・鉱石が、細かな挿絵付きで記されていた。


「これ、どこで手に入れたんだ?」

「ギルド2階の売店。他の階層の地図とか、ポーションとか、道具もあるんだ」


それは気になる。

上は結構賑やかだから食事処だと思ったが、こういうアイテムも販売しているようだ。


ーーそういえば、昨日会ったポーターは13階層まで行ったらしいが……ダンジョンってどのくらい深いんだ?


「エド、ダンジョンって何階層まであるんだ?」

「え?うーん……ミレアスだと最終到達階層は18階層って言われてるけど……」


それを聞いたユーディアが横から口を挟む。


「ミレアスだけではなく、ダンジョンは他にもいくつかあるのだ。それぞれ特性が違うので、到達階層もダンジョンによってまちまちだ」

「へー。ダンジョン踏破とかはされてないのか?」

「「「ダンジョン踏破?」」」


3人が口を揃え、首を傾げる。


「あー……最下層まで行ったやつは居るのか?」

「私は聞いた事ないが……」

「ダンジョンに、いちばんしたってあるの?」

「ーーあ、オレ知ってる!ダンジョンの一番下は、あの世に通じてるんだぜ!」


エドはガオーと手を上げてニヤリと悪い顔をする。


「ダンジョンは悪い子を食べちゃって、あの世に連れてっちゃうんだってさ!ガブー!」

「やめてよにぃに!ユノ、こわいのヤなのに!」


キャーキャーとしている2人を横目に、俺はユーディアに小声で聞いてみた。


「……そうなのか?」

「なわけなかろう。ただの迷信だ。君の世界のダンジョンには最下層があったかもしれないが、ここではダンジョンの最下層まで辿り着いたというのは聞いた事がない。無限に続くと噂されるほどだ」


残念ながら、俺の世界にはダンジョンはない。

俺の知識はサブカルチャーの趣味から吸い上げた、空想上のなんちゃって知識だ。


……しかし、無限に続くと噂のダンジョンか。

ずっと下はどうなっているのだろうか。


「最下層に憧れを持つ冒険者も少なくは無い。目指す者も中にはいる。だが、たとえ最下層があったとしても……それを見た者は誰一人帰ってきていない。余程素晴らしい場所なのか、それともーー」

「…………なるほどね」


エド達の地図を見るに、階層はひとつ進む事に大体1日程度かかるようだ。そして当たり前の事だが下った分だけ、上る為の食料や水、装備が必要となる。

つまり、最下層を目指した人達は……そういうことである。


ロマンを感じるが、俺は安全第一。いのちだいじに、だ。

そこそこの階層で稼げるのがベストである。


「エド君。ユノ嬢。もしダンジョンに降りるのなら、しっかり装備を整えて、出来ればパーティを組んで行くのだぞ」


パーティ!

仲間を集めて冒険!まさに俺が夢見たやつだ。

俺が胸をときめかせている一方で、エドはニカッとユーディアに笑いかける。


「心配してくれてありがとな!ユディ兄ちゃん!でも、地下1階層は姉貴に連れられて行ったことあるくらいだし、初めて行く時は姉貴と一緒に行くから大丈夫だよ!」


ドン、とエドは小さな胸を叩く。

エドは少し強引なところがあるから心配だが、俺達も彼らと同じ初心者だ。

あーだこーだ言える立場ではないし、家族想いのリナがいるなら何とかなるだろう。


「ーーじゃあ、オレ達は午後から仕事だから!もう行くよ!」

「バイバイ、おにーちゃん達」


2人を見送った後、俺はユーディアに向き直る。


「俺達もパーティメンバー探すか?人手は多い方がいいだろ?」

「そうだな。白札である我々と行きたいという変わり者がいれば……の話だが」

「……待て待て。まさか……パーティを組むのにも身分札は必要なのか!?」

「当たり前だろう」


それも分からんのか、と見下すように首を横に振る。


「パーティの仲間とは、命を託す相手になるのだ。どんな職業で、どんな技能があり、犯罪数値があるのかどうかお互いに知っておかねばなるまい。身分札は偽れんからな」

「で、でも……」

「白札などを仲間にしたら、下層で荷物を奪われて捨て置かれると考えるのが普通だ。諦めて、私と2人パーティで我慢しろ」

「そんなぁ……」


胸踊る冒険は、まだ遠い。

白札に、そんな人権はなかった。


「2階に行くぞ。図鑑や魔物の分布図があるなら一応買っておきたい」

「ハァ……ソーダナー……」

「やる気を出せ。まったく……ダンジョンに行きたいと騒いだのは君だろう」


ごもっともです。

たとえパーティが組めなくとも、ダンジョンには行けるのだ。前向きに考えよう。



2階へ上ると、そこは大賑わいだった。

フードコートのように好きな食事を買い、好きな場所で食べる形式らしい。

他にも道具屋や、パーティ募集用の掲示板が並んでいる。その近くには『前衛募集中』のカードを掲げたチームなどもいた。


しかし……ダンジョンに行って汚れたまま来ているのか、ここは特に臭いが酷い。


「なんでみんな風呂入ってから来ねぇの……」

「まったくだ……」


俺たちは顔を見合せ、さっさと用を済ませてここを立ち去ろうと決める。

なるべく鼻で息をしないように、道具屋の方へ向かった。


道具屋のカウンターにはおじさんが一人座っている。新聞を読んでいたようだが、俺たちが近づくと畳んで視線をこちらに向ける。


「いらっしゃい。何をお探しで?」

「ダンジョンの浅い階層で採れる素材図鑑と、魔物図鑑はありますか?」

「はいよ。……あんたら、新顔だな?こんな浅い階層だと、それこそ子供のお小遣い稼ぎ程度にしかならねぇぞ」

「承知の上です」


承知したくはないが、仕方ないのだ。

往復3日なら、1階層を探し回るか、2階層まで足を伸ばすかの二択である。


「身分札か、冒険者札を見せてくれ」


貰いたての冒険者札を見せると、店主はそれを一瞥してから頷いた。


「2冊で銀貨4枚だ」


チラリとユーディアへ振り向くと、既に技能で姿を消していた。チッ、仕方ない。言い出しっぺの俺が払おう。

銀貨4枚を払い、図鑑を受け取る。

痛い出費だが、必要経費だ。


「春になると新人さんが増えるからな。一応みんなに言ってるんだが……最近、郊外の魔物が随分と活性化しててな。退治依頼が多いんだ。時間があれば受けてくれ」

「いや、俺達……じゃなくて……俺、戦えなくて」


それを聞いて店主は「そっかぁ……」と肩を落とした。どうやら下のゴブリン依頼は相当人手が足りてないらしい。


「郊外の魔物が活性化って……何が起こってるんですか?」

「俺にも分からん。ただ、時々こういうことが起きるんだよ。何かの前兆じゃないかってもっぱらの噂だ」


前兆……何だか不気味な響きだ。

悪いことが起きなければいいけどな。


「あぁ、そうだ。初心者さんにはな、ダンジョンに必要な道具をざっくりと書き出したメモを渡してんだ。春の初心者キャンペーンみたいなもんよ」


店主からメモを貰うと、様々な道具の名前が書いてある。

遠足に行く前の忘れ物チェックシートのようだ。


保存食や飲み水、ランタンにコンパス、時間確認用の時計、ポーション各種に治療用のガーゼや包帯、寝泊まり用のテントや寝袋、ダンジョンの地図、あとは個人的な着替えや武器などの装備品とその予備。それらをまとめるリュックや鞄。


……こうして上げると準備するものがかなり多い。


「ーーそして、それら必需品が全部セットになった、ダンジョンスターターキットがこちら!ひとつ小金貨3枚と銀貨5枚のところを、小金貨3枚ぽっきり!お得だよ!」


たっか!

俺ははにかみながら店主に手を振り、そそくさとその場を離れた。




1階に降りると、ユーディアが姿を現す。


「ふむ、早速外で図鑑を確認しよう」

「これ俺が買ったんですけど?」

「ダンジョンに行きたがったのはアルノー君だろう。必要経費として腹を括りたまえ」


貧乏性め……銀貨1枚くらいは出して欲しかった。


俺達は臭うギルドからさっさと出ようとする。

すると、さっきの受付嬢が受付カウンターから出てくるところだった。


「ーーあ!先程の!」

「どうされたんですか?」

「いえいえ!皆様の評価表が出来たので、Gランクの欄に貼り出す所だったんです!」


受付嬢がプレートを見せてくれる。

細長い金属の板のようだ。

名前や職業の後ろに五角形のグラフがあり、そこに『総合能力値』が入るようだ。今は全て“0”となっている。そして、さらにその後ろに、書類に書いた好きな食べ物とか特技とか書いてあった。


ユーディアのプレートは備考欄が多すぎて豆粒みたいな小さな文字がびっちり書かれており、やけに目立つ。


「他の方も貼ってあるので、良ければ見てってくださいね」


受付嬢は依頼書とは反対側の壁へ向かい、Gランクと書かれたスペースの一番下に俺達のプレートを貼り付けた。

名簿を眺めると、ほとんどがGランクだ。

G以上は数えるほどしかいない。


ちなみに、今このミレアスで最上位なのはDランク冒険者。

C以上は今のところ存在しない。


リナの名前を探したが、F以上の欄には見当たらない。

恐らく彼女もGランクなのだろう。


他の冒険者の備考欄には、

「採取専門です」

「保存食はミレアスベーカリーで!」

「彼女募集中」

など、思い思いの言葉が並んでいて、見ているだけでもちょっと楽しい。


「すまない、雛菊の君よ」

「はい!如何されましたか?」


俺が名簿を眺める一方、ユーディアは俺達のプレートをじっと見つめて言う。


「アルノー君のプレートより、私ユディのプレートを上に貼り出してはくれないかね?」

「え?は、はぁ……?」

「お前なぁ……そんなのどーでもいいだろ」

「私は師だからな。君の下というのは精神的によろしくない」

「妙なこだわりで受付嬢さんに迷惑かけんなよ!」

「あぁいえいえ!私は大丈夫ですのでっ!」


受付嬢は言われた通り、ユディプレートを上、アルノープレートを下に貼り直す。

それを見てユーディアは満足そうに頷いた。


「すみません、うちのホラ吹きが……」

「いえいえ、時々そういう貼り出す場所にこだわりを持つ方もいますから」


いるのか……ユーディア以外にも……


受付嬢は「それでは!」と頭を下げ、パタパタ駆けていった。


「満足したなら行くぞユーディア。図鑑を読み込んで、ダンジョンに行く前に情報を頭に叩き込まないと」


図鑑はそこそこ分厚い。

どんなルートで行くか相談する為にも、まずは何がどこに生息しているのかなどを見ておかないと。

数は多いが、頑張ろう。


「図鑑など一度見れば絵は覚えられるだろう」


そうだった。こいつ、頭は良いのだ。

特に記憶力が凄い。

一度通った道や風景は絶対に忘れない。

文字や単語や漢字の読みは覚えるのが少し苦手のようだが、それでも3,4回練習をすれば大体は覚えてしまう。


「ただ、私はまだ難しい文字は読めん。アルノー君、これを全て読み上げるのだ」

「これを!?結構あるぞ!?」

「魔物が出てきてから呑気に図鑑を捲るつもりかね?」

「ぐっ……」


言い分は分かるが、俺だけ辛いのは納得いかない。


「……分かった。読み上げる代わりに、お前が先に読め。分からない所は俺が音読してやる」

「……は?」

「せっかくの高級な本だし、そろそろ簡易講義のテキストも全部読める頃合いだろ?全く知らない文章を読む練習だ。新しい教科書はこれを使う」


有無を言わさず宣言すると、ユーディアは目に見えて焦り、冷や汗を流し始めた。


「ま、待て。こんな細かい文字だらけの本など、いきなり難易度が跳ね上がりすぎだろう。ようやく漢字の音読みと訓読みを覚え始めたところなのだぞ」

「こんなデカデカと絵が乗ってる図鑑のどこが文字だらけだよ」

「よく考えてみるのだ。これからダンジョンへ行く為に準備が必要であろう。図鑑の読解に時間を割くのは、あまりに非効率ではないか」


随分と必死だ。

こいつは文字の読み書きが少しずつ出来るようになってきたが、まだ文脈から漢字を推測するのが苦手で、どうやら苦手意識が芽生え始めているらしい。


「行くまで一週間あるだろ。買い出しや新技能の練習、ローレン先生の手伝い以外で、空いてる時間はとにかくこれを読む。文字の練習にもなって一石二鳥だなぁ?」


「……へぁ……」


久しぶりにユーディアは、口から魂が出そうになっていた。

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