【39】冒険者ギルド1
冒険者ギルドは、市民街の少し外れにある。
位置的には、ほんの少しだけ商業街寄りだ。
ダンジョンが郊外にあるため、その近くに冒険者ギルドが建てられたらしい。
採取した素材や戦利品をすぐに売れるよう、商業街にも行きやすい場所を選んだのだろう。
ちなみに教会は、貴族街、商業街、市民街のそれぞれに一つずつ建てられている。
どれも同じ造りなので、遠目でもすぐに教会だと分かる。
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」
ユーディアに案内されて辿り着いたのは――木製の二階建ての建物だった。
ログハウスというより、アメリカ映画に出てくるウェスタン調の酒場に近い。
荒くれ者が集まりそうな外観だ。
ドア代わりの板をキィ、と押し開けた瞬間、ムワッとした空気が鼻を突く。
――運動部の男子更衣室の下駄箱……そんな臭いだ。
思わず顔をしかめた。
なるほど、綺麗好きなユーディアが嫌がるわけである。
冒険者ギルドの中は、吹き抜けになった二階建てだ。
一階には受付カウンターと、簡易的なテーブルと椅子がいくつか置かれている。
右の壁には、何かの絵や文字が書かれた紙が不規則に貼られていた。何人かの冒険者らしき人物達が紙を指差し、何やら相談している。
反対側、左の壁には名前が書かれた板がずらりと並んでいた。どうやら名簿のようだ。
二階からは、ワイワイと賑やかな声が聞こえてくる。
食堂か、待ち合わせに使えるスペースでもあるのだろう。
壁際にはいくつか扉も見える。
――ギルドマスターの部屋とか、やっぱりあるのだろうか?
「おやおや……やはり、匂いますかな……」
そんなことを考えていると、ふいに声をかけられた。
ギルド内を掃除していた、白髭の小柄な老人だ。小刻みに震えており、今にもパタリと倒れそうなほど高齢である。眠たそうに垂れた目元と、年季の入ったエプロンが印象的だ。
「すみませんなぁ……冒険者達は皆……帰ってくると、風呂より先に報告に来るもんで……」
「はぁ……」
「一週間は、誰も風呂に入っとらんのですじゃ……」
「あ、あぁ……そうなんですね……」
老人はショボショボした目で俺達を見たあと、モップを動かし、床をゴシゴシと拭く。
少し掃除すると、腰をトントンと叩いて小さく息をついた。
……正直、いくら床を拭いても、“臭いの元”が人間なら意味は無さそうだ。
「あの、冒険者ギルドに登録しに来たんですけど……登録って、あそこの受付で合ってますか?」
恐る恐る尋ねると、老人は口髭をもぞもぞと動かしながら頷いた。
「うんうん……そうじゃよ……」
そう言って、プルプルとした細い腕で受付らしきカウンターを指差す。
……大丈夫だろうか、このお爺さん。
動かずに座ってた方がいいのではなかろうか……?
お爺さんと別れて受付カウンターへ向かう。
すると、若い受付嬢が少しだけ背筋を伸ばし、緊張気味に、にこりと微笑んだ。
まだ制服が身体に馴染んでいない様子からして、恐らく新人なのだろう。初々しさが前面に出ている。
「こんにちは!本日はどのようなご要件でしょう?」
明るく、ハキハキとした声だ。
なんだかこっちまで緊張してきてしまう。
「おお、このような陽の当たらぬ場所で咲く一輪の雛菊よ。我々はこのギルドの末席に加えていただきたく来たのだが――お美しい貴方に、是非ともその導きを願いたい」
……通じるのか、それ。
一瞬そう思ったが、受付嬢は瞬き一つせず、にこやかに頷いた。
「はい!新規の冒険者登録のご希望ですね!」
通じた!?
ユーディア語、通じたぞ!?
相変わらず女性が絡むと頭ポンチとなるユーディアだが、受付嬢はまったく動じていない。
もしかすると、このミレアスの冒険者ギルドには、ユーディアみたいなのがたくさんいるのかもしれない。
……不安になってきた。
「では、まずは“身分札”をご提示ください!」
ギクッ。
その一言に思わず体がこわばる。
やはり登録にも身分札が必要らしい。
だが、俺たちは白札だ。
身分札なんて持っちゃいない。
ーーユーディアは、どうするつもりなんだ?
そう思った瞬間、ユーディアの周囲で、うっすらとマゼンダ色の魔力が揺らいだ。
「何をおっしゃるのやら。
身分札なら――先程、見せたでしょう?」
すると受付嬢は、ぱちくりと目を瞬かせた後、ハッとしたように背筋を正す。
「……は、はい!失礼しました!確認……済み、でしたね!す、すみません!私、まだ新人なもので……!」
身分札は持ってないので、もちろん見せていない。
それなのに、“見せたこと”になっている。
……どういう仕組みだ?
「では、登録書類を準備しますので、少々お待ちください!」
受付嬢が奥へと引っ込んだのを見計らい、俺はユーディアに小声で問いかけた。
「……今、何した?」
「《無名讃歌》の応用だ。これまでも身分札が必要な場面では、毎回使っている」
さらっと言いやがった。
本当になんて便利な技能なんだ。
ユーディアの技能はどれも一級品だが、特に《無名讃歌》は頭一つ抜けている。
俺も欲しい。
――今度、《偽相盗用》の時にでも使ってみよう。
「お待たせしました!こちらが書類になります!」
受付嬢が両手で差し出してきたのは、数枚綴りの紙と羽根ペンだった。
「身分札は拝見しましたが、私ったらお二人のお名前を覚えてなくて……。すみませんが、こちらにご自身でお名前と職業をご記載ください!あとは、得意なこととか、好きな食べ物とか、苦手なこととか……ご自由にお書きください!」
……後半、それ必要か?
内心ツッコミを入れつつ、とりあえず名前と職業を書こうとペンを取る。
職業――
……見習い怪盗、なんて書けるわけがない。
仕方ない。
無難に「見習い盗賊」にしておこう。
名前も、漢字は目立つ。
アルノー……っと。
ふと隣を見ると、ユーディアはカリカリと迷いなく書類を埋めていた。その横顔が、少しだけ誇らしそうに見える。
……もしかして、今まで冒険者ギルドを避けていたの、文字の読み書きへの苦手意識からじゃないか?
だとしたら、文字の練習、役に立って良かったな。
そう思いながらユーディアの書類をちらりと覗く。
職業欄――「怪盗」
俺は反射的に、その文字をぐちゃぐちゃっとペンで塗り潰した。
「あ!コラ!何をする小僧!」
「アホか!」
すぐさま受付嬢に向き直り、“竹田くんスマイル”を作る。
「いやぁ、お姉さん。こいつ書き損じたみたいで。もう一枚、貰えます〜?」
「は、はい……?」
差し出された新しい紙の職業欄を、俺はトントンと指で叩く。
「ユディくんはドジだなぁ。盗賊って漢字、難しかったかなぁ?」
「私は盗賊では――」
「俺が代わりに書いてあげようっ!ほら!こう書くんだぞ!分かったかなぁ!?」
ガシガシと、でっかく「盗賊」と書き込む。
ユーディアは、見るからに不満そうな顔だ。
だが知るか。怪盗なんて書けるわけないだろ。
するとユーディアは、俺から奪い返したペンで「盗賊」の文字の頭に、ちょこんと――
「超」
と付け足した。
そして、むふー、とドヤ顔でこちらを見る。
ーー「超盗賊」
……同じ盗賊扱いが、よほど気に食わなかったらしい。
めんどくせぇヤツめ。
他の項目も適当に埋めて、受付嬢に手渡す。
好きなもの:シチュー、サンドイッチ
得意なこと:料理の味付け、ちょっと物を浮かすこと
俺が書いたのは、せいぜいそれくらいだ。
一方、ユーディアの備考欄はというと……
……パッと見、真っ黒に見えるほどびっしりだ。
『かしこく、ゆうのうで、うつくしくものをぬすむ。かげにすむもの。だれもわたしをとらえられない……』
そんな感じのひらがな多めのユーディア語が、延々と続いている。
受付嬢も、その異様な密度に若干たじろいでいる。
「……あのー。ちょっと、盛ってません?」
「いいや。全て事実――」
「いやぁ!すみません!こいつすぐホラ吹くんですよ!嘘つかないと落ち着かない病気でしてー!」
「誰が病気だ!私ほど健全で有能で心の清らかな者は、このミレアスには存在しない!」
「ほらね?この通りなんですわ、ハハハー!」
互いに譲らず揉み合っていると、受付嬢は苦笑いを浮かべながら、
「で、では、次はこれですね!」
と、別の道具を用意した。
カウンターに置かれたのは――ナイフ。
「最後に、名前の所に血判を押してください!」
その一言で、俺たちはぴたりと動きを止める。
血判。
じ、自分で、切るのか。
うっかり指を切ったことなら何度もある。
だが、自分の意思で指に刃を当てるのは、話が別だ。
心理的ハードルが、高すぎる。
ちらりとユーディアを見ると、彼もまた露骨に嫌そうな顔をしていた。
「ユディ師匠、お先にどうぞ」
「アルノー君、先を譲ろう」
声が被った。
お互い、ちらりと視線を交わす。
やれ、というユーディアの視線と、いけ、という俺の視線が、無言のまま空中で火花を散らした。
「……」
譲る気配は、どちらにもない。
「あのー……私がやりましょうか?」
その空気に耐えかねたのか、受付嬢がにこやかに手を挙げた。
さすがにそれは――
女性にやらせるのは、男としての沽券に関わる。
「はぁ……じゃあ、俺から」
渋々俺が折れ、ナイフを受け取る。
鋭い切っ先で、反対の指を少しだけ傷つけた。
ピリッ、とした痛み。すぐに赤い雫が滲み、指先に広がる。
そのまま紙に押し付けると、血判がはっきりと刻まれた。
「はい、こちらガーゼです!」
受付嬢が素早く差し出してくれたガーゼで指を押さえながら、俺は心の底から安堵する。
……終わった。
もう二度とやりたくない。
「ほら、次はお前だぞ」
「……」
ユーディアは、ゆっくりとナイフを手に取った。
だが、その持ち方が、なんだか危うい。
柄をぎゅっと握りしめ、まるで串刺しにでもするかのような角度だ。
……そういえばコイツ、死ぬほど不器用だったよな……?
大丈夫なのか?と、ハラハラしていると。
ユーディアは、ナイフを少し振り上げ――
指に向けて、ビュン!と振り下ろした。
――その速さ、かなりザックリいくんじゃ!?
ヒヤッとした、その瞬間。
ナイフは、スルリとユーディアの手をすり抜けた。
……《無名讃歌》使いやがった!!
「ッあーー!!あれは何だーー!?」
ユーディアが突然、でかい声を上げ、受付嬢の後方をバッ!と指さす。
思わず、俺と受付嬢がそちらを見る。
その一瞬だった。
ガッ!
突然、俺の血が滲んだ指をユーディアが掴み、そのまま――自分の名前の横へ、無理やり血判を押し付けた。
「こ、この野郎ォォ!!」
叫ぼうとした俺の口は、ユーディアの片手でぎゅむっと塞がれる。
「むぐぐぅーー!!」
「いや、すまない。美しき雛菊よ。貴方の周囲に溢れる清らかな魔力の輝きに、どうやら私の目が眩んでしまったようだ」
何食わぬ顔でそんなことを口にしながら、ユーディアは自分の書類を受付嬢へ差し出した。
「あ、は、はい……確かに、お預かりします……」
ガーゼを渡しつつ、受付嬢はユーディアを、うっすら哀れむような目で見ている。
多分「この人、本当にホラ吹きなんだ……」と思われているに違いない。
血判と評判を天秤にかけ、ユーディアは評判を犠牲にしたのだ。
「……ダッセェ……」
「うるさいぞ小僧。身分札の件は、私のおかげであることを忘れないように」
……恩着せがましいヤツめ。
「えっと、こちらで冒険者登録は終了となります!それでは、こちらが皆様の“冒険者札”になります!冒険者活動の間は、見える位置にお付けください!」
受付嬢から渡されたのは、灰色の石に長い紐が付いたものだった。
石は鏡面加工でもされているのか、ピカピカと光っている。硬貨のように丸く、薄い。大きさは親指の爪ほどで、意外と軽い。
表面には、“G”の文字が刻まれていた。
「それでは、簡単に冒険者ギルドについてご説明させていただきます!」
受付嬢はそう言って、ちらちらと手元のカンペに目を落としながら説明を始める。
「冒険者ギルドでは、冒険者の『総合能力値』によって、上からA、B、C……とランク分けをしております!最低ランクが、そちらの“Gランク”です!」
「へぇ……一番上って、Sランクじゃないんですね」
「S……は、聞きませんね……?」
違った。
どうやら、素直にアルファベット順らしい。
受付嬢の説明を、俺なりにまとめるとこうだ。
冒険者は、倒した魔物や持ち帰った素材の質、ダンジョンで得た情報、達成した依頼内容などをギルドに報告することで『総合能力値』が上昇し、それに応じてランクが決定される。
『総合能力値』は全部で五つ。
魔物を倒す戦闘力を示す『力』。
素材採取などの質を示す『集』。
斥候や荷物持ちといった補助能力の『助』。
専門知識や状況判断力を示す『知』。
人命救助や人柄の良さを評価する『人』。
この五つを、満遍なく上げる必要がある。
たとえ『力』が高くても、『知』や『人』が低ければ護衛依頼は回ってこない。ただし、魔物討伐戦では重宝される――そんな具合だ。
ひとつに特化することも可能だが、それで到達できるのはEランクまで。
それ以上を目指すなら、他の能力値もバランスよく上げなければならない。
この“Eランクの壁”を越えられるかどうかが、冒険者として食っていけるかの分かれ道らしい。
ちなみに、申告内容に虚偽がないかどうかは受付嬢たちが月に一度教会へ報告書を持ち込み《神官系統技能》で真偽を確認してもらうそうだ。
そのため、ランクの反映はひと月後になる。
「ランクが上がりますと、それに応じた特典があります!施設の無料使用権だったり、一部店舗での割引だったりですね!でも一番は……やっぱり、昇格報奨金です!」
「昇格報奨金?」
「上がったランクに応じて、ギルドからお祝い金が出るんです!GランクからFランクに上がると、小金貨五枚が支給されます!」
「マジで!?」
受付嬢は得意げに「マジです!」と胸を張った。
「それ目当てで登録される方も多いんですけど、ランクを上げるのは大変ですからね〜。本業の片手間に素材採取をして、小銭稼ぎをする方ばかりです。ですので、うちはGランク冒険者で溢れてますよ!」
「……ユディ、知ってたか?」
「いや。さすがに私も、ギルドの仕組みまでは初耳だ」
ユーディアの目が、きらりと光る。
昇格報奨金に、露骨に興味を示している。
「――他にも、こちらの受付で魔物や素材の買取も行っております!」
「買取には、毎回身分札の提示が必要でしょうか?ダンジョン内で落とした場合、再発行が面倒でしてな」
さすがユーディア。
そこを確認してくれないと、俺だけでは買取が出来ない。
「あ、いえ!冒険者ギルド内に限りますが、こちらの冒険者札が身分札の代わりになります!ですので、提示は冒険者札のみで大丈夫ですよ!」
よし。
俺は、思わず小さくガッツポーズをした。
これなら、俺でも素材買取を利用できる。
「依頼書は、あちらの壁に貼ってあります!受注する際は、こちらの受付までお持ちください!反対側の壁には、現在活動中の冒険者名簿をランク順に掲示しています!一年間活動がないと外されてしまうんですが、再開すればまた貼り出されますので!」
冒険者登録をすれば、基本的にランクの降下はない。
ふらりと戻ってきて活動し、またふらりと辞める――そんな人も多いらしい。
「長々と失礼しました!これで説明は以上となります!冒険者活動、頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます」
「感謝しよう、美しき雛菊よ」
俺たちは冒険者札を首にかけ、受付を離れた。
背後から「一人で出来ました〜!」という受付嬢の声と「頑張ったねー」「偉いよー」と言う先輩らしき声が響く。とても初々しい。
一方の俺は、ユーディアに対して不満タラタラだ。
「……おいこらユーディア。俺の血で血判するのは文書偽造になるんじゃねーのか?」
「偽名や嘘の職業を書いている時点で既に文書偽造だ。なら、血判も別に偽物でも良かろう。それに、疑われにくいよう、あえて新人を選んだのだ」
いけしゃあしゃあと言いやがって。
今度やったら金取ってやる。
血税だ、血税。
「さて、次はダンジョンの情報収集だがーーどうするかな」
鼻をひくりとさせ、ユーディアは露骨に顔をしかめる。
この臭いのせいで、あまり長居したくないらしい。
だが、俺としてはまだ見たいものが山ほどあった。
「せっかく来たんだし、色々見ていこうぜ」
「……はぁ。仕方ない」
「じゃあ、まずは依頼書だな」
依頼書が貼られた壁へ向かう。
そこに並ぶ内容は、実に雑多だった。
薬草の納品依頼、魔物退治、ダンジョン観光ツアーのガイド募集、家の庭掃除に臨時の販売員募集まで。
――依頼というより、すきまバイトだ。
「――ゴブリンの討伐依頼!」
そんな中で、まさにファンタジーっぽい依頼書を見つけた。郊外に出現したゴブリンを退治して欲しいという内容だ。5体倒す毎に銀貨1枚。かなり安い。
それでも、こういう依頼を見るとファンタジー世界に来たんだなぁと感慨深くなる。
「そういうのはやらんぞ」
「えーやっぱダメか?」
1回くらいはやってみたい。
ゴブリンも実物を見てみたい。
だが、ユーディアは厳しい目で俺を見つめる。
「怪盗は、“命までは奪わない”。奪うのは、誰かにとっての宝ーーただそれのみだ」
「それも怪盗の美学か?」
「そうだ。怪盗にとって、もっとも大切な事だ。肉や魚など命を紡ぐ糧にする為ならともかく、己が欲を満たす為だけの殺生は禁ずる」
「……了解」
ピシャリ、と言いきったその言葉に、俺は渋々頷いた。
師匠からのお達しである。なら、文句は言えまい。
もともと魔物討伐で生計を立てるつもりはなかったので、非殺生をベースに生きている俺にとっては別に問題はない。
「しっかし……意外と郊外の魔物って多いんだな。ほとんどがゴブリン退治だ」
右を向けばゴブリン。左を向いてもゴブリン。
よく見れば、全体的にゴブリンだらけだ。
ゴブリン以外の魔物討伐依頼がほぼ見当たらない。
しかも、依頼者が全員違うところから推察するに、かなり深刻な被害なのかもしれない。
だが、金額が安すぎて誰も手を出さない、もしくは手が追いついていないのだろう。
「むっ、これは……」
ユーディアが1枚の依頼書に目を止める。
“ヤマネギ”という、山菜の収穫依頼だ。
「私がいつも採ってるものだ。……これも。そっちもだ。しかも、出店で売るより値が良い」
ユーディアが採ってくる山菜は市場には出回りにくい、天然でしか採れないものだ。
本来なら、こうしてギルドの採取依頼を通して売るのが正解だったのだろう。
これまでのユーディアは適当にそこらの出店で安く叩き売りをしていたということになる。
「じゃあ、いつも出店で売ってた山菜、ギルドに依頼書があればランクを上げるための『総合能力値』も上昇してたのか」
「な、なんと……」
もしユーディアがもっと早くギルド登録をしていれば、とうの昔にEランクまで上がっていたかもしれない。何故ならコイツは山菜採りだけで大金貨5枚分を貯めた男である。
過ぎたことを言ってもしょうがないが、惜しいことをしたものだ。ユーディアもその事実に気がついたのか、珍しく肩を落としてしょげている。
さて、ユーディアを慰めようか、おちょくろうか……
俺が悩んでいると、2階の階段から降りてくる足音が聞こえてきた。
「アルノー兄ちゃん!」
「アルノーおにーちゃん!」
足音の主は、聞き覚えのある声で俺を呼ぶ。
自然をそちらを振り向くと、
「兄ちゃんも冒険者やってたんだ!」
「ひさしぶり、おにーちゃん」
ーー簡易的な装備をつけた、エドとユノの2人がそこに居た。




