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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【38】2度目の教会

「アルノー君。起きたまえ」


朝。

ユーディアに起こされ、俺は重たい瞼を持ち上げた。


「ふわぁ……おはよ……」

「うむ。おはよう。……その布団、随分と気持ちよさそうだな」

「んんー……控えめに言って、最高」


寝ぼけ眼のまま、ふかふかで手触りのいい敷布団と掛け布団を撫でる。


敷布団が、プルリ!と嬉しそうに震えた。


――そう。

なんと、あのコートはふわふわの敷布団と掛け布団にもなれたのだ。


コートの一部が繋がってさえいれば、同時に二つのものへ変化できる。魔力さえあれば、もっと大きくもできる。


俺のQOL(生活水準)が爆上がりである。


体を起こせばシュルリと布団が俺に絡みつき、一瞬でコートになる。布団を畳む必要もない。

さすがは当時大金貨3000枚にまでなった遺物だ。


「……そんなに良いのか?」

「お前、いつも梁の上で寝てるだろ?なのに布団に興味あるのか?」

「ふっ、たまには下界に降りて睡眠を取るのも悪くはないだろう……」

「普通に貸してほしいって言えよ」


まぁコートがユーディアの少ない魔力に一晩耐えられるか知らんけど。


今日はユーディアが朝当番なので、

水など必要なものが既に準備されていた。


バシャバシャと水で顔を洗うと、シュルリと俺の手にふかふかのタオルが現れる。

顔を拭えば、キュッと自動で水気を絞り、そのままコートへ戻った。


便利〜。


「朝食は昨日のサンドイッチの余りでいいかね?」

「あぁ、いいよそれで」


昨日の余った半分のサンドイッチを二人でさらに半分にして軽く腹を満たす。


さっさと身支度を整え、俺達はアジトを出た。

空はまだ薄暗く、ようやく太陽が顔を出し始めた頃だ。

朝5時くらいだろうか。


「まずは教会だ。アルノー君の技能の確認と職業同定を行うぞ」

「楽しみだな〜!基幹技能が5つもあるんだから、そろそろ何かの職業が貰えるんじゃねーの?」

「ハッ、珍妙な技能ばかりだからな。少なくとも“怪盗”ではないだろう」

「いや、《怪盗系統》が2つもあるからな。わっかんねーぞ?」


まぁ、例え職業が“怪盗”になったとしても、本当に怪盗をするつもりはないけどな。


だが、職業を得ることで手に入るボーナス効果……

ーー“祝福”は欲しい。



期待に胸を膨らませ、俺はユーディアと共に1ヶ月半ぶりの教会へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーそれでは、神々のご加護があらんことを」


神官がそう告げると、背後の扉がバタン、と重たい音を立てて閉じられた。外界と断ち切られ、真っ白な部屋は完全な密室となる。

壁も床も天井も、すべてが白。

音すら吸い込まれるような静けさの中、中央には一本のモノリスがそびえ立っていた。


同時に、隣にいたユーディアが技能を解除して姿を表す。


「さて。やり方は覚えているな?」

「もちろん」


俺は小さく息を整え、モノリスへと歩み寄った。

そっと指先がモノリスに触れる。


ずわっと魔力が吸い取られた。

吸い取られた魔力はモノリスの表面をキラキラとした波紋となって波打ち、光の文字として表面に浮かび上がる。


懐かしい。

最初は魔力を吸い取られる感覚に、随分とビビったもんだ。


浮かび上がった文字を早速見てみる。



ーーーーーーーーーーー

名前:有野 恭也

職業:見習い怪盗?

師弟契約《弟子》


【基本技能】

《魔力操作》《魔力知覚》


【基幹技能】

《偽相盗用》《致命顕現》《神の舌》

《落下猶予》継承

《影足》継承

ーーーーーーーーーー



「職業……なんかハテナマーク付いてんだけど?」

「分からん。こんな表記、聞いたことがないな」


ユーディアには珍しく、はっきりと困惑した声を出している。


ポン子の力で《基幹技能》が増えすぎたせいで、神ですら俺の職業が決めらんないって事?


ーー神様、頼むよ!もっと自信を持ってくれ!


「だが、“見習い”とある以上、職業による祝福は今回も無しだろう」

「そっかぁ……」


肩を落としつつも、致命的なショックではない。

祝福は欲しかったが、今回の本命はそこじゃないのだ。


俺は軽く深呼吸して、気持ちを切り替えた。


「……気を取り直して、技能の確認といきますか」


本日は技能の詳細を確認に来たのだ。

特にダンジョンに行く以上、自身の技能への理解が生存率に直結するかもしれない。


ユーディアはまだ難しい漢字は読めない。

なので、俺が上から順に読み上げることになった。


まずは、《基本技能》の2つから。


「《魔力操作》ーー

『魔導へ至る5柱の一片。魔力を動かし、波長や濃度などを調節できる。波長を変えることで、あらゆる属性を操作する事が可能。より良く扱うには修練が必要』」

「あらゆる属性とは凄いな。とんでもない技能だぞ」

「つまり俺達、全属性使えるってこと?」

「恐らくな」

「やべぇー」


魔導へ至る……の所はよく分からないが、ローレン先生が言っていた通り、かなり質の高い技能のようだ。

修練次第――つまり努力次第で、俺が大魔法使いになる未来も、あながち夢じゃないかもしれない。

これには胸が踊る。


さて、次。


「《魔力知覚》ーー

『魔導へ至る5柱の一片。自身と他者の魔力を感じ取り、その質、波長、魔力の動きを五感で理解する事が出来る。魔力の理解ーーそれすなわち、魂を読み取ることである。より良く使うには修練が必要』」

「五感で感じ取れる、か。まだ視覚でしか捉えられていないが、他にも感じることができるということか?」

「多分?えーと、五感は……視覚、聴覚、味覚、臭覚……あと触覚か」


今は魔力を見るだけだが、聞いたり、味がしたり、匂いがあったり、触った感覚が分かるようになるということだろうか。


……一体どんな感じになるのか全く想像がつかない。


試しに、自分の魔力を口に含んでみた。


「……味しない」

「何でもかんでも口に入れるな。赤子か君は」

「バブー」


ユーディアが、くっと鼻で笑う。

その反応に少し満足しつつ、俺は視線を《基幹技能》の項目へと移した。


「《致命顕現》ーー

『相手の弱点部位への対応が感覚的に理解できる技術。弱点が無ければ作り出すことも可能。また、弱点となった部分への威力が増大する。あらゆる生物を再起不能へと導くそれは、死の眼を持つことと同義である』」


ーーなんか怖いこと書いてるんだけど!?


死の眼って何!?

厨二病ワードっぽいくせに、意味が分からなすぎて逆に不気味なんだが!?


「ユーディア、死の眼って何か分かるか……?」

「私も分からん。だが――弱点が無ければ作り出せる、か」


ユーディアは腕を組み、真剣な顔で文字を見つめている。


「暗殺系統でも、かなり高品質な技能だぞ。感覚だけで“殺しどころ”が分かるなど、普通はあり得ん」

「ですよねー……」


嫌な汗が、じわりと滲む。

不可抗力で獲得したが、かなり危険な技能なのではないだろうか。


「これは人には使えんな」

「……俺、騎士に使っちゃったけど」


確か……箱に磔にした時、息はあった。

うん、あったはずだ。

俺の手は、まだ汚れていない。

多分、セーフ。


「君の話では、指で“ツボ”を押しただけだったな」

「そう、マッサージの延長線みたいな感じで……」

「もし暗器でそこを貫いていたら、死んでいた可能性は高い」


淡々と告げられ、思わずゴクリと喉が鳴る。


「こ、こえ〜……」

「これはいざという時の切り札にしておきたまえ。あまり軽々しく使っていい技能ではない」


その声音には、冗談の欠片もなかった。


ユーディアの言葉に素直に頷く。

俺だって前科一犯にはなりたくはない。


「……さて、次」


気を取り直して、俺は次の技能を読み上げた。


「《神の舌》ーー

『美味しいご飯をあなたに教えたいのです。食べたことのあるお味を共有できますように』」


「……」

「……なんかこれだけ雰囲気違くね?」


先程とは打って変わって、のほほんとした文章だ。

能力の説明というより、まるでお願い事である。


「技能によって文体が変わるなど、聞いたことがないが……」

「なんか全体的に、ゆるいよな」

「うむ。それに、やけに感情的だ」


二人して首を傾げる。


「まぁ、ポン子関係の技能だもんなぁ……」


しかし、これではなんの説明にもなっていない。

……確か、《神の舌》は《魔導料理人系統》の技能だったはずだ。


「なぁユーディア。魔導料理人って、何か分かるか?」

「名前から察するに料理人系統の上位職業だろうが……具体的に何をするのかは分からん」


上位職業――それだけでも質のいい技能なのだろう。

だが、その実態は相変わらず謎のままだ。


「そのうち分かる日が来る、か」


まぁ、美味しい味を付けられる程度の技能だ。

今回のダンジョン探索の役にはそんなに立たなそうである。


「ふむ。大した情報は無かったな。ーーさて、最後の技能に行くぞ」


ユーディアが一歩前に出る。


「私と同じーー怪盗系統だ」


読めないくせに、モノリスへ顔をぐっと近づけている。

自分の継承技能だからか、途端に前のめりになるのが分かりやすい。


「おい、読めないんだから下がれって」

「雰囲気は分かる。雰囲気は」


いや、絶対分かってない。


だが、その横顔はどこか誇らしげだ。

俺は小さく笑いながら、最後の技能へと視線を落とした。


「《影足》ーー

『闇に身体を溶け込ませ、身体能力を大幅に上昇させる技術。夜や影など、陽の当たらない場所に居る時のみ発動可能。師より継承された技能』」

「ふむ、私と同じ技能だな。能力もまったく同じだ」


ふふん、と嬉しそうにしている。


やっぱり師匠としては、同じ技能を弟子が継いだのが嬉しいんだろう。

《落下猶予》の時はそこまで反応していなかったし。


「《怪盗歩行》の下位互換ではあるが、《盗賊系統》の技能と比べれば質は格段に上だ。これで少しは立ち回れるようになったな」

「じゃあ、もう怪盗訓練は終わりか?」

「馬鹿者」


即座にユーディアは俺へ振り返る。


「技能を持っているだけでは意味が無い。せめて、技能名を口にせずとも自然に発動できるようになるまでは続けるぞ」


確かに、クラリスさんやローレン先生は技能名を唱えずに魔法を使う。

ユーディアも《怪盗系統》の技能は、呼吸をするみたいに自然に使っていた。


刹那を争う場面では、その差が生死を分けるのだろう。


「了解。ーー技能はこれで全部だな」

「では、次は冒険者ギルドに行くぞ」


そう言って、ユーディアはさっさと出口へ向かう。

相変わらず効率重視というか、余韻というものを大事にしないヤツだ。


「なぁ」


歩きながら、ふと思った疑問を口にする。


「教会ってさ。技能確認や職業同定以外に、神に祈ったりはしないのか?」


神から技能や職業を授かる世界だ。

ならば教会は、信仰の中心であり、もっと厳かな場所でもいいはずだ。



ーー例えば、技能を授かれるように祈願するとか。



でも俺は、これまで祈るために教会を訪れたことはなかった。ユーディアからも何も聞いていない。


地球で教会に行ったことはないが、神社なら初詣くらいは行ったことがある。

今のユーディアの行動は、神社に来たのに参拝せず、おみくじだけ引いて帰るようなものだ。


「教会の本来の役割としては、それが一般的だ。他にも、お布施を払えば神官に技能を使ってもらうこともできる」

「なら、行く前に祈りでも――」


そう言いかけた瞬間だった。


《無名讃歌》が発動し、ユーディアの姿が音もなく掻き消える。

白い空間には、彼の声だけが淡々と響いた。


「神に祈っても、願いなど届かん。手足を動かし、修練した方がまだマシだ」


随分と現実的な考え方である。

この世界の人間ならもっと信仰心があっても良さそうなものだが……。

まぁ怪盗だし、こんなもんだろう。


俺も俺で、技能を授かったとはいえ、心から神を信じているかと言われると首を傾げる。

それでも、日本には「縁起担ぎ」という文化があるのだ。


ダンジョンに行くなら、一回くらい安全祈願しておいた方がいいんじゃないだろうか。

交通安全のお守り的なやつ、あったら欲しいし。


神官に頭を下げ、白く清められた教会の廊下を抜ける。教会の出口から、外の光が視界に差し込んで眩しい。


俺達はそのまま、次なる目的地――冒険者ギルドへと足を向けた。

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