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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【37】ドヤ顔の帰宅

俺はご機嫌でアジトへ向かっていた。

あちこち走り回ったせいか、いつの間にかもう夕暮れだ。


クラリスさんにコートの調律してもらってから、さらに俺の魔力に馴染み、今では《魔力操作》のように違和感なく動かせる。

暑さや寒さなどの調節もできるらしく、厚手のコートを着ているはずなのに全然暑くない。


なんとも快適である。


プル……


ただ、コートのテンションがだだ下がりしていた。

クラリスさん曰く、半年に1回は調律してもらった方がいいらしい。また、他にも洗浄魔法で綺麗にしてくれるそうなのでちょいちょいクラリスさんのところに行くことになりそうだ。その度にコートを連れていくのに少し骨が折れそうだけど。



俺がアジトに戻ってくるとユーディアが復活していた。席に着き、モソモソとサンドイッチを食べている。


「ただいま。もう大丈夫なのか?ポンコツ」

「誰がポンコツだ」

「お前だわこのアホ」


フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らす。反省の色ナシだ。

こいつめぇ……。


ふと、ユーディアは俺の着ているコートに視線を移す。


「新しいものに買い直したのか?随分と上質な生地だな」

「ふっふっふっ」


それを聞かれ、俺は自信満々にコートをバッサァ!とする。その瞬間、コートは形を変え、ユーディアが着ているのと全く同じ怪盗服へ変貌した。しかも、俺のサイズにピッタリだ。


「は?」


サンドイッチの具材がポロッと落ちそうになり、慌ててそれをキャッチする。


「な、なんだね、その服は」

「国宝級の遺物だぜ。『アシュトラの闇衣』つって、自由に服を変えられるし、自動防御機能付き。さらに、《空間系統技能》が使えるんだぞ」


ついさっきクラリスさんから聞いたことをそのままドヤ顔で伝える。

ぽかんとするユーディアを見て優越感を得つつ、自分のベッド横に置いてあるサンドイッチへ視線を向ける。


「こんなことも出来るぞ」


シュルリ、と服の裾が紐のように伸びる。

少し離れた場所にあるサンドイッチに巻き付き、そのまま持ち上げて――俺の手元へ。


《魔力操作》と同じ要領だ。

イメージした通りに動き、しかもこれは物理的に干渉できる。


重いものを持てば、それなりに魔力は消費する。

だが、この程度なら俺の魔力量では痛くも痒くもない。


「な、なな、なんだねそれは!一体どこでそんなものを!?」

「クラリスさんのお店でな。巡り巡って、なんやかんやで手に入ったんだよ」

「少し、貸してくれ!」

「えー?どーしよっかなぁ〜」


コートの形に戻し、上から目線でニヤリと笑う。


「コート売り払った奴に貸すのはなぁ〜」

「ぐぬぬ……」


どうしても俺に謝罪したくないらしい。

自分の落ち度を全く認めない姿勢は、ここまで来ると逆に清々しい。

その様子を見て、俺は思いついたように手を叩く。


「あっ、そーだ!俺、腹減ったなぁ!」

「……は?」

「【せせらぎ亭】にある出来たてのサンドイッチと酒が飲みたいなぁ!人の金で!!」

「……」

「お詫びの気持ちも込めてさ〜!誰か買ってきてくれないかなぁ!」


チラリ、とユーディアを見ると「このサルノーめ……」と蔑みの視線で睨まれる。


ウキィ!ウキィ!何とでも言えウキィ!


悔しそうにユーディアは立ち上がると、いそいそとマントを羽織り、無言でアジトを出ていった。






「っん〜まっ!」


しばらくしてユーディアが熱々のサンドイッチとボトルのワインを買ってきた。

熱々のサンドイッチは初めて食べるが、チーズがトロリと伸びて最高にうんまい!

グラスはないのでワインをスープカップに注ぎ、クイッと飲む。


「……合うぅ〜!!」

「約束だろう。そのコートを貸してくれ」


ジト目で言われ、俺はコートを叩いてユーディアの方へ行くように指示を出す。


さらり、と解けるようにコートは形を崩し、ユーディアの方へ飛び移った。


「言っとくけど、それ使う人を選ぶみたいだからな。お前が着れるとはーー」

「ふむ、素晴らしい!ピッタリではないか!」


ユーディアを見ると、コートを変化させ、艶やかな怪盗服を着ていた。とてもご機嫌そうだ。

しかも、コートが俺よりもユーディアに纏われて嬉しそうに見える。


ーーう、浮気者ォッ!


若干のジェラシーを覚えていると、

ユーディアは片手を突き出し、遠くにある鍋へ向ける。


「ヤッ!」


……。


…………。


何も起きない。


「ヤッー!」


2度目の掛け声。

だが、何も起きない。


何してんだ?


「……アルノー君。どうやって裾を伸ばすのだ?」

「《魔力操作》の要領だけど……あー、不器用なお前には無理だな、うん」

「ぐぬぬ……」


ユーディアは悔しそうにピカピカの怪盗服を眺めていると、スルリとコートが自ら解けて俺へ飛び移ってきた。

コートの形状になると、ちょっと端っこがシナッ……と力なく垂れている。

どうやらユーディアの魔力量ではあまり長居はしたくないらしい。


「相性はいいけど、魔力少なすぎて嫌だってさ」

「くっ、素晴らしい着心地だったのだが……」


ユーディアは今着ているボロボロの怪盗服を残念そうに見る。


「なぁ、怪盗服、買い直さないのか?焦げてボロボロだろ?それ売って、新しいの買えよ」

「むぅ……買い直したいが……難しくてな……」

「何か思い入れでもあんのか?」


そう尋ねると、ぎゅむ……と唇を噛んだ後、自分の服を掴む。


「これは私が山菜を売って貯めた金で作った、オーダーメイド品なのだ。大金貨5枚はするので、もったいなくて売れん……」

「大金貨5枚!?」


つまりは50万円。とんでもない高級品だった。山菜をどれほど取ればそんな金額になるんだよ。


「もったいないのは分かった。なら、代わりの服を買えよ。まだ小金貨1枚くらいあるだろ?」

「なかなか良いデザインのものが見つからんのだ……」

「デザインって……なんでもいいだろー着られりゃさー」


ふと、ユーディアがこちらをジトリと見てくる。

まだ腹がすいてるのだろうか?

俺は昨日の冷めたサンドイッチを半分にして渡してやった。何故かジト目で睨まれた後、それを俺から奪い取る。


「なんだよ、冷めたサンドイッチじゃダメかよ」

「違うわ!怪盗服の話だ!この美意識の低いサルノーめ!」


ムスッとした顔でサンドイッチを頬張りながら、ユーディアは言い放つ。


「怪盗とは、美しく、品格が無くてはならない。小汚い平民服では、ただの盗賊と間違えられるだろう」


つまりは盗賊との差分化の為に、かっこいい怪盗服は欠かせないらしい。相変わらず、わっかんねー美学だ。


しかし、オーダーメイドを新調できるほどの大金はない。


……それこそ、一獲千金でも狙わなければ。


「なぁ、ダンジョン行かないか?」

「行かん」


即答。

だが、俺は諦めない。


「このコートが手に入るほど、俺は今ツイてるんだよ。今のツキまくっている無敵幸運状態なら、狙えるぜ!一獲千金!」

「私はダンジョンには潜らないし、冒険者ギルドにも行かないのだ」


きっぱりといいのける。

随分と頑固だ。


……確かに、つい最近、騎士の件でこいつには迷惑をかけた。

俺の独断で、死にかけたのも事実だ。


だが、技能5つのリナがダンジョンに潜って無事に帰って来られるくらいなのだ。

浅層だけなら、そこまで危険は高くないはず。


それに――だ。


貴重な稼ぎ口である冒険者ギルドに、近寄りすらしないのはどう考えてもおかしい。

ユーディアほど質の高い技能を持っているなら、回数を重ねれば安定して稼げるはずなのに。


……もしかして、行きたくない理由があるとか?


「ダンジョンとか、冒険者ギルドの何がそんなに嫌なんだよ」


嫌な思い出があるなら、無理強いはしたくない。

だが、ユーディアは「分からんのかね?」と肩をすくめ、やれやれと首を振った。


「何故ならばーーかっこ悪いからだ」

「……かっこ、悪い?」


サンドイッチをもしゃりながら、ユーディアは至極当然のように言った。


「汚くて暗くて不衛生なダンジョンに、同じく汚くて臭くて粗雑な冒険者ギルド。この私には相応しくないだろう」

「……もしや、怪盗に相応しくないから、嫌だと?」

「いかにも」


シュルリ、と袖が伸びて、俺の手の中に何かが現れる。

……ハリセンだ。

気の利くコートである。


「そぉい!」

「ぬあっ!?」


ユーディアに振り下ろしたそれはギリギリでかわされてしまう。ちっ、外したか。


「何をする!この阿呆!」

「アホはお前だこのポンコツ!今更こんなあばら家に住んでて何が“相応しくない”だ!このなんちゃって怪盗めっ!」

「誰がなんちゃってだ!私は怪盗だ!住める所が無いと駄々を捏ねるアルノー君の為に探してきてやったに過ぎないのだ!私の趣味では断じてない!」

「そもそもだ!金が無くて怪盗服買えないのに、金を稼ぐ方法を厳選している場合か!?美しさを重視する怪盗が、そんなオンボロ服着て生活すんのかよ!」


俺の言葉に、ユーディアが悔しそうに唇を噛む。


「ぐっ……だが、ダンジョンにはーー」


俺は立ち上がり、ハリセンで手をペシペシ叩きながら見下ろす。


「グダグダ言ってないで、生活水準向上の為に稼ぐぞユーディア。せっかく職業訓練所が終わって俺の時間が取れるんだ。活用出来るもんはなんでもする」

「しかしーー」


パン!とハリセンを打ち鳴らし、言葉を遮る。


「ものは試しだ。一回だけダンジョンに潜って、それでダメならキッパリ諦める。それに、お前言ってただろ?俺が新しい技能を獲得して、お前が大金欲しくなったらダンジョンに行ってやるって。それが今じゃないのか?」

「ぐ、むむ……」


ユーディアはまだ納得していない様子だったが、ハリセンをペシペシして圧力をかけ続けた結果、渋々といった様子で頷いた。


「ーー分かった。ただし条件がある」

「なんだよ」

「ダンジョンに潜るのは往復3日間までだ。それ以上は絶対に行かん」

「は!?3日!?」


リナが言っていた。

ダンジョン入口の近場はめぼしいものは取り尽くされているから、初心者冒険者でも1週間くらいは最低潜らないとならないのだ。


「短すぎるだろ!」

「君の幸運とやらが本当ならば、それでも十分結果は出るはずだ」


どうしてもダンジョンには長く潜りたくないらしい。

ガックシ、と肩を落とす。


「そんなに言うなら、もう俺一人で行くよ……」

「ダメだ」


即座に否定された。


「君の身に何かあってはマズイ。私同伴でなければ絶対に行かせん」


ユーディアが腕を組み、厳しい視線で俺を見る。


実際、ユーディアの《無名讃歌》はかなり有能だ。

騎士との戦闘でも思ったが、相手の攻撃すらすり抜ける無敵モードのような力には何度も助けられた。


何が起こるか分からないダンジョンではユーディアの力は必須だろう。


「……わかった。往復3日でいいよ、もう」

「それから魔物との交戦も無しだ。基本的に隠密行動で、素材採取を優先する。いいな?」

「もちろん。俺もそのつもりだ」


別に俺は魔物と戦いたいわけじゃない。

金が欲しいだけなのだ。

出来れば宝箱みたいなのがあれば嬉しいが、ダンジョン内とかで見つかる売れそうなものなら何でも持って帰るつもりだ。

幸いなことに、俺には何でも収納できるこのコートがある。


こそこそダンジョンを探索して、売れそうなものをくすねて帰る。言葉にするとなんだか野盗のように思えてきた。


「よろしい。さて、行くのなら、やらねばならないことが多いぞ」

「え?何かあったっけ?」


首を傾げる俺に、ユーディアは指を折りながら、淡々と続ける。


「アルノー君の新しく獲得した技能の確認に、職業同定も必要だ。獲得した技能を使う練習もしないとな。他にもローレン殿の手伝いの相談や、ダンジョンの現在の情報や出没する魔物について調べねばならん。武器や装備も整えねばな。ダンジョンでの採取に必要なスコップやナイフ、ピッケルなどの道具も必須だぞ。それに泊まりがけになるのだ。食材や宿泊準備も必要となるだろう」


つらつらと挙げられていく“やるべきこと”に、俺は思わず息を呑んだ。


……言われてみればそうだ。


ワクワクのダンジョン探索に浮かれて、完全に視野が狭くなっていたのだ。


浅層だから危険は少ない――そう思っていたが、そもそも俺は魔物を実際に見たことすらない。

ダンジョンだって、地球のゲームとかで知っているだけで、この世界のそれがどんなものなのか分からない。


泊まりがけになるのなら、なおさらだ。

準備も、情報も、欠かすわけにはいかない。


それなのに俺は、明日にでも弁当を持って、ピクニック気分で突っ込むところだった。


「……やっぱ、持つべきものは友達だな」


危機感ゼロの俺一人なら、ただでは済まなかったかもしれない。


「ふん……なら、ダンジョンに潜るのは最低でも1週間後にするぞ。金も少しある今、私も君も多少時間が取れる。明日は教会に行ってから、冒険者ギルドに顔を出して登録とダンジョンの情報収集。それから夕方にはローレン殿の所で研究の話だ。明後日からは装備や道具の購入を行う。以降は、採取する品について相談をしつつ探索経路の確認。ダンジョン入り直前に食材の購入だ。いいな?」

「わかった」


やらなければならない優先事項を時系列順にサクッと決めてくれた。さすがは頼れるユディえもんだ。


「言っておくが、アジトに戻ったら私の文字の練習と、怪盗訓練の代わりに君の新技能の練習を始める。朝から夜まで忙しいからそのつもりでいるように」

「了解。……ちなみに、今日の怪盗訓練はどうするんだ?」

「飲酒している者にさせるわけがなかろう」


それはそうだ。


「それに、まだ胸の辺りがムカムカして吐きそうなのだ……」

「お前、酒弱すぎね?」


二日酔いなら半日もすれば治ると思っていたが、まだ具合が悪いらしい。

どうやらうちのユディえもんは、アルコール耐性が著しく低い、典型的な悪酔い体質だった。

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