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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【36】災い転じて福となす

カラン、と来店のベルが鳴ると、すぐにクラリスさんが顔を出した。


「あら!アルノー君、久しぶりねぇ」

「お久しぶりです、クラリスさん」


どうやら作業の途中だったらしい。

手を止め、にこにことした笑顔のまま、こちらへ歩いてくる。


「なかなか来てくれないから寂しかったわ。せっかくお茶菓子を用意してたのに」

「いやぁ、なんだかんだ忙しくて……これからは友達とちょくちょく遊びに来ますよ」

「本当に?なら、また腕を振るわないといけないわね」


お茶会の招待状は必要かしら?と、お茶目に小首を傾げるクラリスさん。相変わらず、可愛らしいお婆さんである。


「あら、アルノー君、それ……」


視線が、俺の剣に留まった。

気づくのが早い。


俺は剣を持ち直し、彼女に見えるよう前へ差し出す。


「今日は商談に来ました。これ、買い取って貰えます?」


クラリスさんは、はっとした表情で剣を見つめる。


「アルノー君。これ、どちらで?」


少しだけ、焦った色が声音に混じる。


「狐獣人の女性から貰いました」

「……貰った?これを?」

「はい。お父さんの薬が買えないって落ち込んでて……ちょうど俺、症状に効きそうなポーションを持ってたので渡したんです。そしたら、代わりにこれを」


一通り話し終えると、クラリスさんはふっと力を抜いたように、俺を見つめた。


「……そう。あの子が、これをあなたに……」


目を細め、その表情はどこか懐かしそうだった。


「分かりました。こちら、私が買い取ります」

「ホントですか!?」


内心、何か事情がありそうだとは思ったが、買い取ってもらえるなら願ったり叶ったりだ。

かなりの金額になるかもしれない。


「それで……おいくらで売れますか?」

「そうねぇ……大金貨1500枚程かしら」

「……は?」


せ、せ、1500枚!?!?

約1億5000万円相当!?!?


あの狐、サラリとこんなものを渡してきたのか!?

あんな効果が分からない激ヤバポーションと引き換えで!?


ゴクリと生唾を飲む。

突然の億万長者だ。

ど、どうしよう。実感が沸かない。


そんな俺の様子を見て、クラリスさんはクスッと笑い、ポケットからチェーン付きの身分札を取り出した。


「身分札を出してくださいな。先に金額をお渡ししましょう」

「???」


身分札……?

俺が首を傾げていると、クラリスさんも同じく傾げる。


「……もしかして、高額な買い物をした事がなくて?」

「あ、あぁはい……」


なんなら、今朝古着屋で買い物したのが初めてだ。


「そうなのねぇ。高額な取引をする時は身分札をお互いに見せあってからね、身分札同士を合わせるのよ」

「……合わせる?」

「えぇ。それで、私の口座にある金額が、アルノー君の口座に移動するわ。反映に少し時間がかかるから普段は少量の金貨を持ち歩くのだけれど、1500枚は重いものね」


用意する私の腰がやられてしまうわ、とクスクス冗談を言うように笑う。



ーーまさか、身分札って……



キャッシュレス機能付き!?!?!?



ヤバい。


つまり、白札の俺には口座が存在しないということだ。

地球でも、信用のない人間――いわゆる前科持ちは、口座を作れない。

そう考えると、白札がどれほど危険な立場を示しているのか、嫌でも理解できてしまった。


「いやぁ……あのぉ……」


目を泳がせてから、俺は慎重に言葉を選んで口を開く。


「お金……じゃなくて……何か、他の……遺物と、交換って……ダメ……ですかねぇ……?」

「交換?」


キョトン、とした顔でクラリスさんは更に首を傾げる。

俺だって金が欲しい!

でも受け取るための口座がない!


なら、これまで通り物々交換するしかないのだ。

もっと手軽に売れるデカ魔石らへんで換金しとけば良かったと、じわじわ後悔が募る。


「大金貨1500枚相当の物ねぇ……ひとつ、あるにはあるけれど……」


どうしようかしら?とクラリスさんは少し考え込む。


ーーすると、



ガタガタッ!



店の奥で何かの物音がした。

俺以外に、誰かいるのだろうか?


「あぁ、ダメよ」


クラリスさんが指をちょちょいと動かすと、音は静かになった。


「クラリスさん、何ですか?今の音」

「手入れをしていた遺物よ。ちょっと暴れん坊でねぇ」

「え、遺物って動くんですか?」

「ふふふ、びっくりしたかしら?」


遺物なんて名前だから、もっと古代の武器とか装飾品などを想像していた。まさか動くとは予想外である。


「今ちょうど店内の遺物の調律をし直してたところなの。定期的にやらないと、機能が落ちてしまうのよ」


つまりは、メンテナンスということだ。クラリスさんが古物商からエンジニアに見えてきた。


「アルノー君がやってくる直前までね、ちょうど大金貨1500枚相当の遺物の調律をしていたのだけれど、その子、少しワガママなのよ」

「わ、ワガママ?」


どういうことだろうか?

調律が難しいということか?


「実は昔からうちにあるものなの。仕入れた時は何人もの貴族が欲しがってねぇ。少し前まで、うちで一番高額な遺物だったのよ?一時期は大金貨3000枚まで値上がりしたんだから」


つまり、その時の時価は3億円。

そんなとんでもない代物が、誰の手にも渡らずに今や半額の1.5億円。


「そんなに大金を出してきたなら、なんで貴族に売らなかったんですか?」


俺だったら両手を上げ、狂喜乱舞しながら売り払っている。


しかし、クラリスさんは困ったように苦笑いをした。


「その子ね……使う人を選ぶのよ」

「選ぶ?」

「その子と合わない人は全く使えなくてね。どんなにお金を積まれても、使えないものは売れないわ」


とても貴重なものだが、持ち主に合わなければガラクタ。

そのせいで、本来の値段より半額となっているわけか。


……だが、高価っちゃ高価なのだ。

せっかくだし、できるだけ価値のあるものと交換したい。


「それとこの剣って、交換出来ませんか?」

「うーん……交換しても良いのだけれど……まずその子と面会しないと、何とも言えないわね」

「面会?」


本当になんなんだ?生き物じゃないよな?


待ってて、とクラリスさんは部屋の奥に入り、ガタガタと勝手に揺れる大きな箱を持ってきた。

銀の装飾がされ、ところどころ魔力を感じる箱だ。

この箱自体も何かの遺物なのだろうか。


開けてみると、そこにはーー


「これが、その子。『アシュトラの闇衣』よ」


ーー夜空をそのまま写し取ったような、不思議な色合いの黒いロングコートが入っていた。



ロングコートだ!俺がずっと探してたやつ!



さすがは“無いものが無い”商都ミレアス。

たとえ春うららかな季節でも、黒のロングコートはバッチリ置いてあった。


戯弄(ぎろう)の神アシュトラヴェルガが実際に着たとされる、名も無い古代国家の国宝なの。触ってみて」


クラリスさんに言われ、そっと指先でコートに触れてみる。

……おお、不思議な質感だ。布のような、液体のような、よく分からない素材で出来ている。

ただ、肌触りが凄くいい。


すると、



シュルリーー



コートの袖が、俺の腕に巻きついてきた。


「うわ!?」


反射的に引き剥がそうとするが、離れない。

コートは液体のように形を崩し、清水が流れるように俺の身体を這い上がってくる。


冷たくも、熱くもない。

ただ――妙に“馴染む”。


次の瞬間、コートは俺の体に沿って形を変え始めた。


布がするりと音もなく体を滑る。

俺の肩幅に合わせて伸び、背中の丸みに沿って形を変え、袖が勝手に腕を包み込んだ。


サイズが、ぴったり合う。


いや――合わせてきている。


魔力が吸われる感覚はない。

だが、パヤパヤと垂れ流しだった俺の魔力が、まるで水路を見つけた水のように、静かにコートへ流れ始めた。


「……は?」


驚きで、間の抜けた声が出た。


重さも、締め付けもない。

それなのに、妙な“存在感”だけがある。


まるで、身体の一部のようだ。


ふと、袖を見る。

夜空色のコートは、微かに紫を帯びてキラキラと揺れていた。


ーー俺の魔力の色だ。


「……驚いたわ。アルノー君、この子に気に入られたのね」


ぽかんとしていたのは俺だけではなかった。

持ち主のクラリスさんも、まさかという顔で見てきていた。


「あ、あの、コレなんですか?」


いつの間にか、コートの形は完全に変わっていた。

今はオシャレポーチと化している、俺のお気に入りのロングコートと――まったく同じデザインだ。


「その『アシュトラの闇衣』はね、適合者の魔力に馴染んで、好きな服に変わるのよ。色も形も、着用者の思い通りにね」


……変わる?つまり、このコートは俺のお気に入りのコートに合わせて形を変えてくれたってのか?


その時、突然コートがモゾモゾと体の上を動き始め、俺がこの世界に来た時に着ていたリクルートスーツに姿を変えた。

重さは感じないのに、色や質感は懐かしい地球のそれそのものだ。


コイツ、何もイメージしていないのに勝手に形を変えやがった。


すると、また形を変え、お気に入りのロングコートに戻った。

プルッ、とまるで自慢げに震える。


「クラリスさんーーもしかしてこれ、意思とかあります?」

「えぇ、そうなの。狭いところが嫌いで、いつも調律する度に逃げようとするからとっても時間がかかるのよ」


まさかの意志を持つコート。しかも、好きな服に変化出来る。確かに凄いが、それで大金貨3000枚?


「コイツ、姿を変えられるだけなんですか?」

「まだ色んな能力があるわよ。好きなように形を変えることも出来るけどーー」


クラリスさんは自慢げに微笑んだ。


「着用者に何か危機が迫ると、この子が自分で判断して着用者を守ってくれるのよ。物理耐性や魔力耐性が高くてね?魔力を強く流すほど、耐性が強くなるわ」

「それってつまり……自動防御機能!?」


それは凄い!

この世界の人間よりも貧弱な俺にとって、まさに喉から手が出るほど欲しい能力だ。


「でも、貴族が欲しがったのは別の能力なのよ」

「別の?」

「ーー今は失われてしまった、《空間系統技能》を備えているの」


クラリスさんは近くにあった羽根ペンを俺のコートへ投げる。コートに触れた瞬間、羽根ペンは抵抗もなく、するりと飲み込まれる。


まるで、夜空を写す湖に羽根ペンを落としたように。


「この子が使えるのは、《空間収納》と《認識阻害》。《空間収納》は大きな家一軒分ほど。《認識阻害》は弱めだけど、発動すれば他人から姿を認識されにくくなるわ。貴族にとって、こんなに都合よくお忍びが出来て、色んなものを持ち出せるなんて夢のようでしょう?」


クラリスさんがコートをトントン、と叩くと、コートの中から羽根ペンがスルリと出てきてクラリスさんに手渡した。



ーーこれ、相当やばいのでは?



つまり、『アイテムボックス』と言うやつだ。

それに《認識阻害》というのは、ユーディアの《無名讃歌》に近い能力。


ーー貴族に対して色々やらかしてる俺にとって、今まさに必要なものじゃないか!


「こっ……これっ!これと交換して貰えませんかっ!?」

「もちろんよ。むしろ適合する人が居なくて、取り扱いに困っていたのよ。貰ってくれるなら、この子もきっと喜ぶわ」


プルプル!とコートが嬉しそうに体を震わせる。


まさかこんな結果になるとは!

焦げてしまったボロボロのお気に入りコートが、最終的にこんな国宝級のワンダフル万能コートに生まれ変わったのだ。


まさに、災い転じて福となす。

とんでもない、わらしべ長者だ。


俺はクラリスさんに剣を渡した後、そっとコートの袖を撫でた。


「これからよろしくな」


プルリ!


返事をする服なんて初めてだ。

もう、妙な愛着が湧いてきている。


「そうだわ、この子の調律をしている途中だったの。ついでだから、アルノーさん用に調律をし直してあげるわ。そこに腰掛けてくれないかしら?」


クラリスさんは近くの椅子を指さす。

確か調律をすることで、より良く使えるようになるんだっけか。


「ありがとうございまーー」


俺が腰かけようとすると、コートがスルリと俺から脱げ、そのままモゾモゾと部屋の隅に進んで行き、プルプル……と怯えるように震え始めた。



……めちゃめちゃ怯えてる。



「ほ〜ら、大丈夫よ〜」


クラリスさんが近づくと、さらに生地を縮こませて震える。


「アルノー君。ちょっと押さえててくれる?」

「は、はぁ…………えーと。ほら、こっち来いよ」


俺が腕を広げると、万能コートはモゾモゾと俺の腕の中に滑り込んだ。震えながら、俺の溝尾当たりにグリグリと生地を押し付けてくる。


なんだか、既視感がある光景だ。


この姿……まるで、



ーー予防接種に来て、注射に怯える犬である。



地球にいた頃。俺の伯母さんが飼っている愛犬を動物病院へ連れていくのを手伝った事がある。病院を怖がる愛犬は助けを求めるかのように、俺の服の中にでかい体をねじ込もうとしてきて大変だったのだ。


ーーその時の行動によく似ていた。


とりあえず、コートが逃げないように押さえておく。


「じゃあちょっとチクッとするわよ〜」


プルプル……シュッ!


コートはするりとクラリスさんの手を掻い潜ると、滑るように俺の背中に登って震え始める。



ーー往生際が悪すぎる!



調律のため、コートと格闘すること一時間。


最終的に、俺がプロレス技で動きを封じている間に、ようやく調律は完了した。

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