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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【序章】かくして異世界に来たりけり

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【5】死刑宣告

狭い牢獄で、俺は横になりながら必死に情報を整理していた。

何か考えていないと、不安で眠れそうになかったからだ。


まず――

俺が会ったラディックさんは、偽物だった。


冷静に思い返すと、妙な点はいくつもあった。

そもそも身元不明の怪しい男が、「指輪で異世界から帰れます」なんて言い出した時点で警戒すべきだったのだ。


にもかかわらず俺は、

戻れる確証が一切ないその指輪の効果を、わりとあっさり信じた。


……おかしい。


怪しい宗教の人が「これを持つだけで幸せになりますよ」って壺を売りに来て、

その場で財布出す奴がいるだろうか?


少なくとも俺は、

「はいはい」って鼻で笑ってドアを閉める側の人間だ。


なのに俺は、アイツの話を全て真実だと決めつけた。

どう考えてもおかしい。


さらにだ。

偽ラディックは言っていた。


――この世界では、努力すれば誰でも“才能”が得られる、と。


……それ、地球でも同じじゃないか?


アスリートは、プロになるまでに一万時間の練習が必要だと聞く。

それ以外でも、才能がなくたって、地道な努力を積み重ねて夢を叶えた人間はいくらでもいる。


つまりだ。

あいつの話は、ちょっとファンタジー味を足しただけの、割とよくある成功論だった。


考えれば考えるほど、

あの時の俺はどうかしていた。


一度はきっぱり断ったはずなのに、

気づけば「あれ、いい話じゃね?」と、どんどん心が傾いていったのだ。


……たぶん、だが。


偽ラディックは、俺との交渉に“才能”――技能を使った。

どんな能力かは分からないが、人の人生を覗き見るような力があったんだ。

例えば、思考誘導とか、警戒心を鈍らせる能力だってあり得る。


そう考えた瞬間、腹の底から怒りが湧いてきた。


怪盗にも言いたいことは山ほどある。

だが、そもそもの元凶は――


偽ラディック、お前だ。


「……絶対、絶対にここから帰ってやる」


そして、偽ラディックを捕まえて、

この異世界に引きずり戻し、

土下座の一つや二つじゃ済まない責任を、きっちり取らせてやる。


荒れ狂う思考に脳をすり減らし、

気力が完全に尽きたところで――


俺は、牢の冷たい床の上で、いつの間にか眠りに落ちていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


つんつん。

つんつんつん。


背中をつつかれる感覚に、俺の意識はゆっくりと浮上した。


「いけません!御手が汚れます!」

「そうです!もしかすれば、指を食いちぎってしまうかもしれません!」


俺をなんだと思っている。

失礼極まりない声に、俺は体を起こし、格子の外をジロリと睨んだ。


そこにいたのは――

この薄暗い牢獄にまったく似つかわしくない、真っ白でふわふわの女だった。


わたあめ。

いや、ポップコーン。

遠目で見たら、羊でも通用する。


年齢は俺と近い……いや、多分年下だ。

腰下まである長い髪はゆるくカールし、青い瞳がきょとんと俺を見つめていた。

しゃがみ込み、指を尖らせている。

さっきから俺の背中をつんつんしていた犯人は、間違いなくこいつだ。


その周囲には、身なりのいい兵士と侍女たち。

どうやら俺は、見世物にされているらしい。


「あぁっ!なんて獰猛な顔!これだから悪党は!」

「“白札”なのでしょう?野蛮ねぇ……」


ふわもこ女の周りの奴らから、口々に奇異な生き物を見下すような言葉が吐き出される。

ただでさえ神経がささくれだってるのに、この女は見世物小屋に捕まった珍獣を見に行く気分でここに来たらしい。

その様子に、カチンと来た。


「……なんだよ、お前」

「……」


反応なし。

ぽけーっと俺の事を見ている。


「おい、ポン子。そんなに俺を見て楽しいかぁ?おい」


荒れている今の俺は、何にでも切りかかるナイフだ。名前も知らないので、ポップコーンから取って“ポン子”と命名した。

「貴様、無礼だぞ!」と兵士が声をあげるが、俺が聞いてるのはポン子だ。


「っ……!……、……」

「あぁ?聞こえないなぁ??」


ポン子は視線を彷徨わせ、手を組んだり離したり、そわそわして落ち着かない。


俺と喋るのも嫌ってか?

いつもなら紳士的に待つのだが、今の俺は研ぎたての切れるナイフだ。


ガシャン!

わざと大きな音を立てて格子に飛びつく。


「ひゃっ!」


ポン子は飛び上がり、尻もちをつく。

出来たてのポップコーンが弾けたようだ。


ーーよし。溜飲が少し下がった。


「こ、この!なんて無礼を!」

「嫌だわ!本当に獣みたい!恐ろしい!」


周りは口々に俺を貶すが、檻の中の俺には何も出来まい。はんっ、と胸をそらして仁王立ちでドヤ顔をする。今さら悪党呼ばわりなんぞ、痛くも痒くもない。

侍女に支えられて立ち上がったポン子と、再び目が合った。

だがポン子はまだそわそわして落ち着かない。

口は動く。声も出る。

ただ、いつまで経っても言葉を交わそうとしない。


俺は、その態度にムッとした。


「おい、ポン子」

「っ……!」


俺は、白いポップコーンに向かって言った。


「お前さ、自分が何を言おうが迷っている間、相手のことを考えたことがあるのか?」


この女がいる限り、侍女達の俺への罵倒は止まらない。

周囲の目線や言葉が聞こえなかった訳じゃないだろうに。


「いいか?俺が話かけてきたんだから、せめて「はい」か「いいえ」くらい、脊髄反射で言え!」

「……っ!」

「返事は!?」

「ひゃいっ!」


ようやく返ってきた返事に、俺は満足した。


その時――


「随分と騒がしいようですが、如何されましたかな?」


扉が開き、知的な雰囲気の男が入ってくる。

四十代ほど、身なりも良く、いかにも貴族然とした人物だ。


「おや、これは。

このような場所にいてはお身体に障りますぞ。――彼女を部屋へ」


「ハッ!」


紳士的な所作でポン子を気遣い、兵士たちと共に送り出す。

その立ち居振る舞いは、大人として素直に尊敬できるものだった。


男は、静かに俺を見下ろす。


「君が、ラディック卿の言っていた――怪盗ユーディアかね?」

「ち、違う!俺はただの一般人だ!」


これ以上勘違いされては困る。

俺は檻を掴んで叫んだ。


「ふむ。だろうね」

「……えっ」

「世界各国を騒がせる怪盗ユーディアが、このような形で捕まるはずがない。

それに、君は技能が極端に少なく、盗賊系統でもないからね」


あっさり認められて、拍子抜けした。


本物ラディックはまるで話を聞く気がなかったから、

貴族って全員ああなのかと思っていたが――

この人、めちゃくちゃ話が分かる。


俺は思わず、ほっと胸を撫で下ろした。

悪いようにはされないだろう。たぶん。


男は優雅な口調で続ける。


「申し遅れたね。

私の名は、グレゴール=ヴァンデス。

この街の領主に就任する予定の者だ」


――領主。


そこでようやく、広場で見た“祭り”を思い出した。

あれは娯楽ではなく、就任式だったのだ。


……待て。


それって――


ヤバくないか?


つまり俺は、未来の領主の就任式を、

空から突っ込んでぶち壊したってことになる。


「あっ、あの……その節は誠に申し訳……」

「構わないとも。就任式は後日、改めて開催する予定だからね」


大人だ。

あまりにも大人すぎる対応に、俺は逆に怖くなった。


「君に聞きたいことがある。

君は怪盗ユーディアに会ったのだろう?」

「は、はい」

「彼はどんな姿をしていた?」

「えっと……上下黒い服で、マントを着てて……」

「顔は?」

「えっと……」


思い出そうとする。

だが――


何も浮かばない。


髪型も、目元も、色も、雰囲気も。

男か女かすら、はっきりしない。


確かに顔を見たはずなのに、

記憶に残っているのは服装だけだった。


「……思い出せません」

「ふむ。そうか」


グレゴールは、どこか納得したように頷いた。


「ならば、君が見たのは本物の怪盗ユーディアだ」

「え?」

「彼は“姿を覚えさせない”技能を持つことで有名でね」


全然知らなかった。

いや、知る機会もなかった。


「この領地に彼が来たと分かっただけでも十分だ。礼を言おう」

「い、いえ……」


穏やかにそう言われ、俺はほっと胸を撫で下ろした。

いい人だ。


「さて。こんな場所に長くいて、君も疲れているだろう」


グレゴールは、知的な微笑みを浮かべる。


「形式的な手続きは省こう。

君の刑の沙汰を、ここで伝える」


良かった……これで晴れて釈放ーー


「死刑だ」


…………。

……………………。


「えっ?」

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