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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【33】技能祝い

「ただいま。悪い、遅くなった」

「おかえり。まったく、迎えに行くところだったぞ」


アジトに帰ってくると、普通の服を着たユーディアがマントを羽織っているところだった。ご自慢の怪盗服は所々燃えてしまったが、マントは無事だったのだ。





ここ数日、ユーディアは寝込んでいた。

というか、俺が寝かせていた。


コイツは多少魔力が戻っただけで「平気だ」と言って、青い顔のまま出かけようとするのだ。


それを俺が引き止め、魔力が完全回復するまでの間、俺は職業訓練所には行かずにユーディアと文字の練習をすることを条件に出し、無理矢理アジトに押し込んでいた。


その甲斐あってか、今のユーディアの体調はすこぶるいい。


だが、完全回復した彼の魔力は平民の10分の1もない。俺の小指くらいの量だ。

もともと魔力が少ないとは言っていたが、【契約回廊】で半分以上持っていかれていると考えると、確かにさっさと【師弟契約】を解除したいと思うのも無理はない。





「今日の夕飯、作れたか?味付けくらいならやるけど」


最近の朝晩の飯当番は俺だ。

《神の舌》を使って味をつけるというのもあるが、ユーディアには無理はさせられない。


しかし、今日は職業訓練所最終日。

俺は朝から出かけていたので、残飯を探しに行けなかったのだ。夕飯はユーディアがきっと作っているだろう。


そう思ってかまどを見るが……何も無い。

それどころか、火すら起きてない。


「あれ?飯は?」

「作っていない」

「は?……いや、まぁ、無理はさせられないけどさぁ……」

「フン、もう完全回復したと言っているだろう。いつまで私を病人扱いする気かね?」


そういうならば、飯の用意をして欲しかった。

腹ぺこな俺はガックシと肩を落とす。


「ほら、受け取るがいい」


意気消沈な俺に、ユーディアが小さな何かを投げ渡してきた。受け取ってみると、黄金色の小さなコインが2枚。


ーー小金貨だ。


「もしかして、ポン子のマントを売ったのか?」

「そうだ。今朝、アルノー君が出ている間にな。小金貨4枚で売れた。それは君の取り分だ」

「マジ!?」


そんなに高く売れたのか!

確かに、皇女様が着ているものだから相当な高級品なのは間違いない。良い値がついたものだ。


「ってか、取り分半分でいいのか?後で返せって言われても無理だぞ?」


今回のMVPは、なけなしの魔力を振り絞って騎士の攻撃を掻い潜り、相手を翻弄して魔力消費を誘発させたユーディアだと俺は思っている。


全く欲しくないと言えば嘘になるが、俺は小金貨1枚でも十分だ。


「騎士を倒したのはアルノー君だろう」

「だから、あれはポン子の技能でーー」

「君の話だと、《神の舌》を獲得した時とは違い、ルルシェラ嬢から何か言われた後すぐに技能獲得は起こらなかったのだろう?

……なら、騎士を倒した時に手に入れた技能は、君の積み重ねてきた努力によるものだ。私が保証しよう」



ーー胸につかえていたものが、スっと消えた。



今回の技能取得は、完全に俺の実力ではない。

ポン子に何かされた結果によるものだ。

だから、先生達に祝福され、涙され……俺は、若干の後ろめたさを感じていた。


しかし、ユーディアの言葉のおかげでーー

ようやく俺は、少しは自分の努力が実ったのだと噛み締められたのだ。


ありがたく小金貨は貰っておこう。

これは不器用なアイツからの餞別だ。


「ーーあぁ、なるほどな!この金で食材買うのか?」


そうか!

だから残飯を漁っていないのだ!

これだけあれば、久しぶりに残飯以外のちゃんとした飯が食える。なんなら肉も買えるかもしれない。


ワクワクして聞くと、ユーディアはニヤッと口の端を歪めた。


「ほう?食材だけでいいと?」

「えっ、……皿とか、鍋とかも買っちゃう?」


この時間ならミレアスの市場がまだやっている。

小金貨2枚もあるなら買い物も楽しめそうだ。

夢が広がる。


しかしユーディアはハッと笑い、マントをつけたままアジトを出ていく。俺も慌ててその後に続いた。


「どこ行くんだ?」

「今日は、君の“技能祝い”の予定だ」

「祝い?」

「技能が授けられることは喜ばしい事だ。本来なら、技能を獲得する度に祝い事をするのだが……君はまとめて技能を授かり、私の体調も良くなかったからな。なかなかタイミングが合わなかった」


路地を進みながら、ユーディアはチラリと俺を見る。


「遅くなったが、この私が弟子であるアルノー君を祝ってやろう」

「ずいぶん上から目線なお祝いごとだなぁ。で?何してくれるんだ?」


路地を抜け、表通りに出た。

いつもなら路地を通って移動するのに……?

賑やかな表通りを背に、ユーディアは小金貨を指の上で転がしながら俺へ振り返る。


「せっかくだ。君が気にかけている【せせらぎ亭】で夕食にしよう。私の奢りでな」

「え、え!?マジ!?やった!」


なんと!

あの貧乏性の怪盗が、外食を奢ってくれるらしい!

しかも、ずっと行きたかった【せせらぎ亭】だ!


「よし、一番高いやつを頼もう」

「コラ!少しは遠慮せんか!」

「えー奢ってくれるんだろ?」

「奢るのは銀貨5枚までだ。それ以上は自腹だからな」


図々しい猿め、と悪態をつかれながら、

俺達は店がある通りへと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



店に足を踏み入れると、ちょうど夕食時なのだろう、店内は大賑わいだった。

酒、焼いた肉、揚げ物の油――あらゆる匂いが混ざり合い、それだけで腹が鳴る。


所狭しとテーブルが並び、空いた場所には立食用の卓まで置かれているせいで、通路はひどく狭い。

立食席を含め、ほぼ満席。

空いている席はないかと首を巡らせていると、店の奥からやけに聞き覚えのある元気な声が飛んできた。


「いらっしゃーーお前、この前の気前のいい兄ちゃん!」


テーブルの間を縫うように現れたのは、給仕姿のガルドさんだった。

昼は自警団、夜は給仕――どうやら二足のわらじらしい。


「こんばんは!やっと来れました!」

「いや〜!待ってたぞ!」

「あなた。兄ちゃんじゃなくて、アルノーさんよ」


厨房に視線を向けると、エプロン姿のニーナさんが顔を出した。


「ようやく来てくれたわね?待ちくたびれたわよ。さぁ、あなた!席に案内してあげて!」

「おうおう!……で、後ろの彼はお友達か?」


案内しようとするガルドさんが、ユーディアに気がついたらしく声をかけてきた。ユーディアはいつも通り、優雅で芝居がかったようにペコリと頭を下げる。


「初めまして。ガルド殿。ニーナ殿。私は、彼の友人のユー……ユディです」


肘でどつく構えを取ると、ギリギリで偽名を言えたようだ。セーフとしておこう。


「ユディさんね?アルノーさんのお友達なら、サービスするわよ」

「恐縮ですマダム。お美しい貴方の言葉に、本日は甘えさせて頂きましょう」

「あらやだ、とっても紳士なのねぇ」

「おいおいユディさんよ!俺の奥さんをたぶらかしちゃ困るぜ!」


ガハハ!とユーディアの背をバンバンと叩いたガルドさんは、「こちらへどうぞ!」と元気よく店の奥へ案内する。


奥はどうやらテラス席のようだ。

店内の騒々しさとは違い、等間隔にテーブルが置かれ、頭上には優しく照らすランプの光が瞬いている。

夜空を見上げられるせいか開放感があってオシャレなレストランに来たような気分になった。


テーブルや席も店内の簡素な木製のものとは違い、布が張られたちょっといい席だ。


テラス席の下には水路が流れており、サラサラと心地よい水流のせせらぎが聞こえてくる。

京都にある川床を連想させる。

だから【せせらぎ亭】という名前なのだろう。


「ガルド殿、随分といい席のようですが……よく空いてましたね」


さすがのユーディアも驚いたようだ。キョロキョロと物珍しそうに見回している。


「いつアルノーさんが来ても良いようになぁ、この一等席はずっと空けてたんだよ」

「え!ずっと!?」


この席は多分、追加料金が必要な席だ。

そこをいつ来るか分からない俺のために空けておいてくれたなんて、凄いVIP対応である。


「この前、ルルシェラ皇女殿下を届けた褒美にな?貴族からたんまり報奨金を貰っちまったんだよ。数年は店を開けなくても遊んでいられるくらいのな!」


マジか!

ちょっとだけ羨ましい……いや、あの時は仕方なかった。うん。やめておいて正解だと思おう。


「だからニーナと話し合って、報奨金でアルノーさん達用に席を1つ取っておこう、って話になったんだよ」

「え、えぇ……そんな、俺、大したことは……」

「俺たちの気持ちだ!気持ち!ほら、座った座った!」


半ば強引に背を押され、席に腰を下ろす。

……ふかふかだ。座り心地が段違いにいい。


「ちなみに今日は飯食いに来た、でいいんだよな?」

「えぇ。実はアルノー君の技能祝いでして。少々、豪勢な食事にしようと」


ユーディアがそう伝えると、ガルドさんは目を見開く。


「に、兄ちゃん、見かけによらず若かったんだな……」

「いや、一応俺、18歳超えてますから」

「は!?その年齢で技能祝い!?そいつぁ、大変だ!それでうちに来てくれたなんて嬉しいねぇ!」


「ちょっと待ってろ」と言い残し、ガルドさんはメニュー表とグラス、さらに厨房奥から高そうなボトルを抱えて戻ってきた。


「これ、俺からの技能祝いな。この店一番の美味い酒だぞ。奢りだ、好きなだけ飲め飲め!」

「な、何から何までいいんですか?」

「あったりまえだろ!こんなめでてぇ日はそうそうねぇからな!」


ガハハ!と笑い、ボトルとメニュー表を置いてその場を後にする。


「これはとんだ贈り物だな」


ボトルをまじまじと見つめるユーディアは、満足そうに口元を緩めた。

綺麗な装飾のされたラベルからして、相当上等な酒のようだ。


「せっかくだから、ご相伴にあずかろうではないか」

「俺のおかげだからな!」

「ハッ、今日ばかりはそういうことにしておこう」


ユーディアが俺のグラスに酒を注いでくれる。

グラスに注がれた琥珀色の液体が、灯りを受けて揺れた。久しぶりの酒の香りに、胸が静かに高鳴る。


「それでは……アルノー君の技能獲得を祝してーー」

「「乾杯ッ!」」


チン、と涼やかな音を立てて、グラスがぶつかる。


一口含めば、まず強い旨みと深いコクが舌に広がった。

微かに弾ける炭酸。きりっとした酸味が後を引き、そこそこ強い酒精が喉を焼く。

それなのに後味は驚くほど軽く、ふわりと果実の香りが鼻を抜けていった。


度数はかなり高いはずなのに、まだまだ飲めそうな錯覚に陥る。

まるでシャンパンと日本酒の、いいとこ取りをしたような――不思議な酒だ。


……これは、飲み方を間違えると翌日ひどい目に遭うやつだな。


「なんと甘美な味わいだ。実に素晴らしい」


ユーディアはいっちょ前にグラスを回して香りを楽しんだかと思うと、くいっと一気に飲み干した。

そして迷いなく二杯目を注ぎ始める。


「おいユーディア、そんな勢いで飲んで平気か?」

「ふっ。君の分はちゃんと残しておこう」

「いや、そうじゃなくてだな?こんな度数の酒、飲んだことあるのか?」


貧乏性のこいつが酒の味を知っていること自体、すでに違和感である。

嫌な予感しかしない。


俺の問いに、ユーディアは胸を張って答えた。


「もちろん――無い」

「……はい?」

「実は、酒を飲むのは今日が初めてだ。酒とは、かくも美味いものなのだな」


ハッハッハ、と呑気に笑いながら、二杯目を口に運ぼうとした瞬間。

俺は反射的にそのグラスを掴んだ。


「バッカお前!やめとけ!」

「くっ、何をする!離せ!」

「病み上がりにこんな酒はやべぇって!」

「もう完全回復したと言っているだろう!離せ小僧!」

「ガルドさん!ガルドさぁーん!水!お水くださぁい!!」


飲酒初めての奴が、空きっ腹でこんな酒を飲んだらやばい。絶対この後が大変になる。主に看病することになる俺が。


ーーこんなひょろ長い男を担いで、アジトになんて帰れる気がしない!!


ユーディアともみ合っていると、ガルドさんが水の入ったピッチャーと、何故か揚げ物や肉が盛られた大皿を持ってきた。


「はいよ!水と、こっちはサービスね」

「ありがとうござーーえ!?サービスでこれ!?」

「まだまだあるからなー!ガハハ!」


ガルドさんは豪快に笑って帰っていく。

いやいや、それよりも。


「ほら!水飲め!酒はあとで!先に飯食おう!」


ユーディアから半ば強引にグラスを取り上げると、新しいグラスに水を注ぎ、手渡す。


「ぐぬぬ……確かに君の祝いだからな」

「そうだぞアホ。主賓ほっといて酒ガバガバ飲むやつがあるか。あと、水と一緒に飲めよ。それから、酒ってのは飯と一緒に飲んだ方が美味いっての」

「ぐぬ……一理ある。先人の言葉には従っておこう」


渋々といった様子で水を飲む。

その隙に、俺は取り皿に揚げ物を適当に盛り、自分とユーディアの前へ置いた。

香ばしい匂いが立ち上り、一気に腹が鳴る。


……よし。

まずは腹ごしらえだ。


「「いただきます」」


二人で手を合わせ、同時に揚げ物へかぶりついた。


ザクッ、と小気味いい音。

衣の中から現れたのは、ふんわりとした白身魚だった。香辛料の効いた衣に、淡白な魚の脂。そこへ、パンチのある塩味が重なって――思わず頬が緩む。


脇に添えられたタルタルソースもまた秀逸だ。

ほどよい酸味に、細かく刻まれた野菜の歯ごたえ。

ザクザク、ふわふわ、とろりに、シャキシャキ。

口の中で、四重奏が鳴り響く。


思わず顔を上げると、ユーディアもちょうどこちらを見ていた。

驚愕したような表情。


――多分、俺も今、同じ顔してる。


「「うまっ!」」


声が重なり、思わずお互いに笑ってしまう。

二人で夢中になって揚げ物をかき込んだ。


こってりとした油が口内を制圧した、その直後。

あの微炭酸の酒を、くいっと流し込む。


旨みのある酒が、油を一気に洗い流す。

喉越しは爽やかで、口の中が嘘みたいに軽くなった。


――最高だっ!!


「おおー!いい食いっぷりだな!ほら、技能祝いだ!これも食え食え!」


今度は、角煮のような肉の塊に、彩りのあるサラダ。

さらに、ふわふわの白いパンまで運ばれてくる。


「こ、こんなにいいんですか!?」

「いいっての!俺らの気持ちだ、受け取れ!」

「やった!ありがとうございます!」


ホロホロと崩れる柔らかい肉。

久しぶりの、甘みのあるふかふかのパン。

ミレアスでは珍しい菜物のサラダまで揃っている。


「この店にして正解だったな、アルノー君」


ユーディアが、心底満足そうな顔でパンを頬張る。


「また来ようぜ。せっかくここまでしてもらったんだ」

「うむ。やられっぱなしでは怪盗の美学に傷が付くからな」

「怪盗関係なくね?それ」


どうやら怪盗の美学とやらには、“受けた恩は返す”という、ごく真っ当な精神も含まれているらしい。

それなら、俺も胸を張って賛同できる。


「そういえばさ。今日ローレン先生の所に行ったら、個別授業を続ける代わりに研究の手伝いを頼まれたんだ。月に数回だけでいいらしい。俺の技能が必要なんだってさ」

「ほう。それは良い話ではないか。せっかく《魔力知覚》や《魔力操作》を得たのだ。何かにつけ『魔法を使いたい』とうるさかった君には、願ってもない機会だろう」

「まぁな。……でさ、ユーディア。お前も一緒に受けないか?」


シャク、とレタスを頬張っていたユーディアの動きが止まる。

きょとんとした顔で俺を見つめ――シャクシャク、と咀嚼してから飲み込んだ。


「……は?私が、ローレン殿の指導を受けると?」

「ユーディア、俺の基本技能は使えるだろ?《魔力知覚》も《魔力操作》も、相当珍しいらしい。先生に聞いたら、一緒に来ても構わないってさ」

「ーーだが、私に魔法適性は……」

「まぁまぁ、これでも見てみろって」


俺はユーディアの目の前に、指を一本突き出す。


「《魔力操作》」


指先に少しだけ魔力を集めて、濃度を上げる。

先程は手の周りの魔力を全て炎に変えてしまったから、あんな火の玉が出来たのだ。


なら、魔力の量を調節すればいい。


「……赤くなれ〜、赤くなれ〜」


指先に集めた紫色の魔力を、じわじわと赤色に変えていく。急いで色を変えられないのが難点だ。


「で?何を見せてくれるのだ?」

「ちょっと黙っててくれ。……赤くなれ〜」

「……まだか?」

「まだ!もうちょい……赤くなれ〜」

「指先の魔力の色が変わってきたようだが……?」

「あと少し……赤くなれ〜……」

「……黄色くなれ〜黄色くなれ〜」

「こらぁ!邪魔すんなぁ!!」


邪魔が入ったせいで集中力が途切れ、魔力が紫色に戻ってしまった。


「何すんだよ!せっかく後ちょっとで色変わったのに!」

「ふむ……それが《魔力操作》か」


ユーディアは自分の手のひらを閉じたり開いたりした後、俺を真似して指を一本突き出した。


「《魔力操作》」


ユーディアがそう呟くと、指の上に微かに集まっていたマゼンダ色の魔力が、一瞬で俺と同じ紫色に変化した。


「なるほど。この技能は、魔力の波長を合わせることが出来るのか」

「は?」


ユーディアの指の上にある魔力が揺らいだかと思うと、今度は一瞬で水色になった。次は、青。次は緑。黄色に白。瞬時に様々な色へ変貌していく。


「な、なんでだよ!俺の技能使えるだけなのに、なんでそんなすぐ色変えられるんだよ!」

「フッ……天才的な怪盗ユーディアにかかればこの程度、おちゃのこさいさいというわけだ」


悔しい。めちゃくちゃ悔しい。

だが、さすがは天才型のユーディアだ。

直感的に技能の使い方を理解したらしい。


「それで、この後はどうするのだ?」

「もう少し魔力の濃度を上げると、魔法みたいな現象を起こせるんだよ。それを見せて、お前にもローレン先生の個人授業に興味を持って貰いたかったのに……」


これは教わらなくても使えそうだなぁ……


「なるほど。この技能があれば、魔法適性が生まれるようなものなのか」


ユーディアは、得意げに顎を上げる。

酒のせいか、いつもより輪をかけて自信満々だ。


「仕方ない。魔法を使えない憐れなアルノー君の為に、師である私が一肌脱いでやろう。これが、お手本だ。見よ!ーー《魔力操作》!」


その瞬間、ユーディアの中の魔力が一気に指先へなだれ込む。


そして、



ボボボボッ!



ユーディアの指先から、大きな火の玉が顕現する


……が、次の瞬間には霧散し、ユーディアはそのまま椅子にぐったりと倒れ込んだ。


「おい、大丈夫か?」

「ゔっ……」


せっかく完全回復したユーディアの魔力が、なんと8割も減っていた。胸の中に、チロチロと火種のようなマゼンダ色の魔力がうっすら見える。


こいつ、身体中の魔力を指先に全力投球しやがった。


「なんでほとんどの魔力を総動員させたんだよ。魔力を指先に集めて、魔力の濃度を上げるだけでいいんだぞ?」

「…………それはどうやるのだ?」

「は???」

「だから……魔力を君のように自在に動かしたり、濃度を上げるとはどうすればよいのだ?」

「はい???」


《魔力操作》は魔力を自分の身体のように動かす技能だ。なんでそれが出来ないんだ?


……いや待て。俺もユーディアのように、魔力の色を瞬時に変えることは出来ない。


もしかして……


技能は、使う人によって得意不得意な部分があるのでは?


例えば……ユーディアは、怪盗のくせにピッキングが出来ない。というか、手先を使う細かい作業が死ぬほど苦手だ。

おかげで毎日の火打ち石での着火に30分ほどかけることもある。

大体ざっくりやってしまう、典型的な“不器用”タイプだ。


そういう“不器用”な人にとって、繊細な操作が必要な《魔力操作》は、力任せに魔力をざっくりと動かしてしまうのかもしれない。


「……そういうのを教えて貰う為に、ローレン先生の所で個人授業受けようぜ?」


言いたかった所になんとか着地出来たので、

これはこれでヨシとしよう。


それを聞いて、ぐったりしたままのユーディアはグビッと酒をあおる。


「……自分が魔法を使うなど、これまで考えたことが無かったな」

「まぁ、その魔力量じゃ難しいかもだけどさ。細かい《魔力操作》の方法をローレン先生から教えて貰えれば、ユーディアだって魔法を使えるようになるかもしれないぜ?そうすれば、お前の“怪盗”の幅も広がるんじゃないか?」


ピクリ、とユーディアの眉が動く。

――かなり、興味を持ったようだ。


「……せっかくの機会を、棒に振るのも勿体ないな」

「じゃあ……!」

「あぁ。私もローレン殿の研究を手伝おう」

「よっしゃ!」


正直なところ、ひとりでローレン先生のオブラート皆無な発言に付き合うのは、なかなか骨が折れる。

ユーディアが一緒なら、もう少し気楽に個人授業を受けられるかもしれない。


「はいよ!お待ち!」


ガルドさんが、どん、とテーブルに置いたのは――

でかい。とにかく、でかいケーキだった。

生クリームと見たこともない果物がこれでもかともりもり盛られた、見るからに贅沢な一品だ。


「ニーナが、『技能祝い』にだってよ!」

「す、すげぇ!デザートまでいいんですか!?ありがとうございます!!」

「いいっての!せっかくのめでたい『技能祝い』だからな。今日は俺たちの奢りだ。腹いっぱい食ってくれ!」


テーブルに鎮座するケーキを見て、思わず息を呑む。

この世界に来てから――こんなに腹いっぱい食えるの、初めてかもしれない。


「私が奢るつもりだったのだが……先を越されてしまったな」


ユーディアはやれやれ、と言いながらも、そこまで残念そうでもなくケーキをむしゃりと頬張る。

俺も一口食べてみた。


……久しぶりの生クリームに、頬が落ちそうになる。


みんなの喜びようからして、『技能祝い』というのは相当特別なお祝いなのだろう。

人生で得られる技能が平均で7~8個の平民にとって、『技能祝い』が出来るのはその回数だけ。


誕生日よりも、よほど貴重な一大イベントだ。


あの貧乏性のユーディアでさえ、

食事を奢ろうとしてくれたくらいだ。




――ユーディアも、

誰かに『技能祝い』をしてもらったことがあるんだな。




この世界特有の祝い事の文化だが、

こうして皆から祝福されるのは、

なんだかこそばゆくて、

それでいて――悪くない。


胸の奥が、じんわりと温かい。

酒のせいだけじゃ、きっとないだろう。


「そういやさ、今日ベレー先生が二回もハグしてきてさ。死ぬかと思った。こう、ギューって両側から抱き潰されそうになったんだぜ?」

「ハハッ、ベレー殿はいたく君を気に入っていたからな。ローレン殿の研究室に行く度に、勧誘が来そうだ」

「うっわ、ありえそー。ユーディア、その時は技能でよろしくな」

「私の魔力量を知ってなお、私に頼るとはな。嘆かわしい」

「師匠だろーお前。弟子を守ってくれよー」

「フン。今更、君を守る必要があるのかね?」

「よっ、天下一の大怪盗!天才のユーディア様!何卒!」

「……フハハ、仕方ない。いざと言う時は、この私を頼るがいい」

「ちょれぇ……」

「何か言ったかね?」

「いえ、何も」


そんな会話をしながら、夜はゆっくりと更けていく。


美味い酒。

美味い飯。

耳を澄ませば、さらさらと流れるせせらぎの音。


そして――

目の前には、ちょっとウザいが、気心の知れた友達。


友人と語らいながら飲む酒は、

地球で飲んでいた一人酒より、ずっと美味かった。




――この日のことを、俺はきっと忘れないだろう。




俺の初めての『技能祝い』は、

最高の思い出になったのだった。

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