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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【29】ルルシェラ

出来るだけ路地を抜けて、自衛団詰所を目指す。

路地を歩き慣れていないポン子は時間がかかるので、いつもよりもかなりゆっくりなペースだ。


「そこ、気をつけろよ」

「……はい」


手を貸して飛び越えさせると、ポン子はほっとしたように小さく息を吐く。


「はぁ、それにしてもさ。お互い、散々な夜だったな」

「……っ、……」


話しかけても、ポン子はいつも通りそわそわして喋らない。前から気になっていたが、この子は時々言葉が出てこないことがある。何か理由でもあるのだろうか?


「ポン子さ、あんまり平民と喋っちゃダメとか言われてんの?」

「っ!……いいえ」

「えっ、そうなのか?」


てっきりなかなか喋らないから、上流階級のマナー的な理由かと思ったが違うらしい。


「俺とお喋りはしたいのか?」

「……はい」

「なら、なんで時々無言なんだ?」

「……」


無言。ある意味、いつも通りである。


木箱で覆われた路地に出た。

転ばないように木箱の上を歩かせようとして、彼女の手を取ろうと振り向く。


ーーポン子が、とてもしょげた顔をしていた。


俺の質問が原因らしい。悪いこと、したかな。

ポン子も喋りたいけれど、何かが原因で喋れない……のか?


「うーん……ポン子はさ、喋る前になんか色々考えてるよな」

「……はい」

「作法とか、言葉使いが関係してるとか?」

「っ……」

「話す事が思いつかない、とか?」

「……」

「言葉が出てこない、とか?」

「っ、はいっ」


ちょっと食い気味に返事が聞こえた。

そうか、言葉が出てこないのか。


「じゃあ、考えすぎで言葉が決められない?」

「っ、はい」

「えーと、お喋りは本当はしたい?」

「はいっ」

「なら……喋りたいことがありすぎて、絞れない?」

「はいっ!!」


大きな声で元気よく返事が聞こえ、思わず振り返った。頬を染め、青い瞳を輝かせて、俺に詰め寄ってくる。


「はいっ!はいっ!」


何度も何度も、頷くポン子。

何を聞いても「はい」か、無言なので、俺は〇✕ゲームをやっている気分だったが、ポン子としてはダイレクトに俺が原因を言い当てた事がかなり嬉しいらしい。


ーーこのお嬢様、物静かなんじゃなくて、本当はお喋りがしたいだけのただの女の子なのだ。


しかし、喋りたいことが沢山ありすぎて、どれから口にすればいいか分からない。

そのせいで、いつも考えすぎでダンマリしてしまう。


なんとも、本末転倒な性格だ。


「そっか。お前、本当はお喋り好きなんだな?」

「はい!」


嬉しそうに、ふわりと微笑む。

そんなに嬉しそうにされると、なんだかこっちも嬉しくなってくる。幸せな気持ちとは、伝染するものなのだ。


「俺も、お喋りは好きだよ。いつかポン子とも、カフェとかでダラダラと駄弁りたいわ」

「っ!……」


返事があると思ったが、また黙った。

振り向くと、ポン子はまたしょんぼりした顔をしている。


「……自分が相手じゃ、お喋り出来ないかもとか思ってんの?」

「……」


声は出さず、コクリと頷いた。

この子、相当な重症のようだ。


俺はポン子に近づき、頭をポスポスしてやる。


「なぁ、そんなに喋る事に悩むならさ。……全部、紙に書き出しとけばいいだろ?」

「ーーっ!」


ハッとした顔で、ポン子が俺を見つめる。

そんな当たり前な事に気が付かなかったのか。


「じゃあ、お喋りしたい内容をリストアップしてきてくれよ。次会う時に、俺が順番に聞いてやるからさ」


ぱっと表情が明るくなる。


「それも立派なお喋りだろ?」

「ーーはいっ!」


ふわり、とまた微笑む。

足取りが軽くなっているので、余程嬉しいようだ。


そんなポン子を連れて、俺は表通りに出た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



自衛団詰所は市民街の外れにある。

俺としては苦々しい思い出が詰まったところである。


路地でショートカットしたので、

表通りを少し歩けばすぐに着く。


昼だから人混みはまだ少ない。

しかし、ポン子はその人の多さに、目を白黒させていた。手を繋がなければはぐれそうだったので、手を引っ張ってゆっくり歩く。


「しっかし……お前、ほんとに目立つなぁ」

「?」


真っ白な髪にふわふわのフォルムは、遠くから見れば何かの着ぐるみか、マスコットのようにも見えてくる。周囲の人達の視線が集まるのも納得だ。


「それにしても……お前も便利な技能持ってるよな」

「?」

「炎出したりとか、料理に味をつけたヤツとかあっただろ。……あ、炎は魔法のようなもんか」


指先にライターのように炎を灯すなんてカッコイイ。

俺だってやりたい。


けど……


「はぁ……」

「?」

「あ、悪い。俺も、魔法使いたいなぁって。でも俺、魔力ってのを感じられなくてさ……」


ローレン先生にも小指の先ほども才能がないと言われたのだ。周りが簡単に魔法を使うところを見ると、羨ましいと思うのは必然である。せっかくの魔法ありきのファンタジーな世界なのに。ちぇっ。


「今度お喋りする時にでも、魔力の使い方を教えてくれよな。あ、忘れないようにリストアップ頼むわ」

「……っ」


嬉しそうにコクコクと頷く。


そんな話をしているうちに、自衛団詰所の近くにやって来た。と、近くに見知った顔がある事に気がつく。


「ーーガルドさん!」

「ん?おぉ、お前いつぞやの全裸少年!」


最悪のあだ名で呼ばれたが、致し方ない。

本当に世話になった恩人なので、なんと言われようと痛くも痒くもない。


「お久しぶりです」

「あぁーーそれよか、お前さんも聞いたか?今朝の商業街の事件。俺も見に行ったが、凄かったぞ」

「え?」

「お貴族様を全裸に剥いて、箱の上に貼り付けだってよ!とんでもねぇ極悪非道もいたもんだぜ」

「ハハハー、デスヨネー」


極悪非道とは人聞きが悪い。

それを言うのなら騎士の方が極悪非道だろう。

俺はまだその手前くらいだ。


「ーーって、そこの嬢ちゃんは……」


俺の後ろに隠れていたポン子を見て、ガルドさんも目を見開く。やっぱり目立つよなぁ、このもこもこ生物。


「なんか、近くで見つけたんです。迷子っぽかったから、自衛団詰所まで案内するつもりだったんですよ。な、ポン子」

「っ、はい」


ポン子の頷きを確認してから、俺は正面のガルドさんを見ーー


あれ?


目の前に立っていたガルドさんが、居ない。


いや、


正確には、地面に体を低くして土下座をしていた。


……なにしてんの??


「こっ、これはっ!ルルシェラ皇女殿下ッ!!お初にお目にかかります!どうか、我らに女神の祝福をお与えくださいッ!」

「えっ、ちょ、ガルドさん?」


突然の土下座に戸惑う。

変な誤解をされそうで周りを見回してしまった。


だが、

周りを見てみれば、

同じように土下座する人が何人もいた。


ーーというか、ポン子を見ていた人がいつの間にか俺達の後ろを付いて歩き、大行列になっていた。

その人たちが皆、俺達に向けて土下座をしている。


な、なにこれ。


てか、


「皇女殿下?」

「おいおい兄ちゃん!知らねぇのか!?」


ガルドさんは、ガバッと顔を上げる。


「このお方は、祝福の神ルルシェリエールリーヌより寵愛を受けた、現人神(あらひとがみ)!アーヴァンテール王国の第5皇女殿下であらせられる、ルルシェラ=フロウ=リリエール・アーヴァンテール皇女殿下、その方であらせられるぞッ!?」


…………はい?


皇女……殿下?



待て。



それって……



……お姫様ってこと!?!?




その声と共に周りの土下座の野次馬達から声が上がる。


「やはり!見間違いではなかったか!」

「なんと神々しくお美しい!」

「我らに祝福を!」

「ルルシェラ様!どうかお慈悲を!」

「私に、私に女神のご加護を!」

「息子に!是非お願いいたします!」

「俺の願いを聞いてくれ!」

「いや、あたしがーー」

「どけ!俺が先だ!!」

「ルルシェラ様!」

「ルルシェラ様っ!!」


「「ルルシェラ様!!!!」」



「ちょ、待った待った!」


野次馬達がポン子に詰め寄ろうとして、大混乱に陥る。一部では殴り合いの乱闘までも始まっている始末だ。俺は背中にポン子を庇いつつ、必死に群衆から遠ざける。


「コイツはいけねぇ!ルルシェラ皇女殿下、こちらへ」


ガルドさんの案内で急いで自衛団詰所に駆け込む。

扉が閉まった瞬間、外から押し潰すような音と共に、バンッ!バンッ!と閉まった扉を人々が叩いて押し開けようとする。


ーーぞ、ゾンビ映画かよ……


ガルドさんは扉に鍵をかけると、はぁ……と深々とため息を吐いた。


「いや、ほんと助かったよ兄ちゃん。実は、ルルシェラ皇女殿下が失踪したって秘密裏に話があってな。朝から衛兵と自衛団総出で探してたんだ。ただ、どっかの馬鹿が漏らしたせいで、今やミレアス全体で皇女殿下探しが始まっててな……」

「そ、そうだったんですか……」


そんなお姫様を昼まで、しかも男2人居るあばら家に泊めていたとバレたら、やばい。下手すると打首獄門だ。


「へぇ〜知らなかったよ〜!俺はたまたま迷子のこの子を見つけただけだからさぁ〜!」


三十六計逃げるに如かず。

これ以上、いざこざに巻き込まれるのは御免こうむる。


「じゃ、俺はこれで……」

「ま、待て待て兄ちゃん!行方不明のルルシェラ皇女殿下を見つけたんだ!折角だから一緒に衛兵に引き渡しに行こうぜ!貴族までも捜索に当たってたんだ、見つけた兄ちゃんならかなりの褒美が期待できるぞ!」

「い、いやー俺見つけたんじゃなくて、拾ったようなもんなので……褒美とか興味ないですし」


嘘だ。褒美は欲しい。

でも騎士をあんな目に合わせたのだ。

もし褒美授与の場にあの騎士が居たらヤバい。


「ガルドさんが見つけたってことで、俺の代わりに褒美を貰ってください」

「はぁ!?もったいねぇって!」

「俺、ガルドさんには以前助けられましたし、その後に【せせらぎ亭】のニーナさんにも良くしてもらったんです。……でも、まだ全然食べに行けてなくて。なので、俺から2人へのお気持ちってことで受け取ってください」


ガルドさんはパクパクと口を動かしていたが、大きくため息を吐くと、豪快な笑顔を向けた。


「ーーハッハッハ!やっぱ、兄ちゃんは良い奴だよ!そこまで言うなら、ありがたく褒美を頂戴するぜ。うちの嫁にも伝えておくから、良ければまた【せせらぎ亭】に来てくれや。サービスするからよ」

「ありがとうございます!お金が出来たら、友達と食べに行きます」

「おうよ。……表はちっと騒がしいな。帰るなら裏口を使え。こっちだ」


詰所の奥へ進むガルドさんに着いていこうとして、ふと、俺は一度ポン子へ振り返った。


「それじゃあな、ポン子。もう1人で夜に出歩くんじゃねーぞ。次会う時は、一緒にお喋りしようぜ」

「ーーはい!」


ポン子はトテトテと俺のもとへ歩いてくると、クイクイと俺の袖を下に引っ張る。


……しゃがめ、って言ってんのか?


チラリ、とガルドさんの方を見てから、ポン子に傅くように片膝を立ててしゃがむ。


「なんだよ、ポンーー」


声をかける前に、ポン子は俺の頭を優しく両手で包み込む。そして、顔を寄せてきた。



「ーー貴方に、神々のご加護があらんことを」



額に触れたのは、

温かくて、柔らかい感触。


キス、してきた?



その時。



バチリ、と脳内に光が走る。



この感覚は、つい昨夜体験した。



ーー《無系統:基本技能》



魂に刻み込まれる、この感覚。




技能は

こんな簡単に

獲得できるものじゃない。



それは、この俺が1ヶ月の訓練で、

身をもって知ったことだ。



命の危機を経ても、

獲得出来るのは稀のはず。



脳内に文字が浮かび上がる。




ーー《魔力知覚》




バチリ、と2回目の光。



ーー《無系統:基本技能》

ーー《魔力操作》



は?待て待て。

意味がわからない。

なんで今、2つ目を獲得した?



……いや。

原因は、なんとなく分かっている。




バチリ、と3回目の光。




ここまで来ると、


もはや怖い。




ーー《魔導料理人系統:基幹技能》

ーー《神の舌》




そこで、俺の脳内の文字は止まった。

目眩に似た、クラクラとした感覚。


無意識にポン子を見ると……彼女の体の周りに、何か光のような物がふわふわとまとわりついている。澄んだ黄金色のそれは、見ているだけで心地が良い。


そして、俺の体からも、光が溢れているのが分かった。紫色のような光が、ぱやぱやと瞬いている。



ーーこれが何か、本能的に分かった。


ーー魔力だ。



俺は、思わずポン子を凝視していた。


いつも通り、少し落ち着きのない様子で、

それでもどこか照れたように、ポン子は俺に身を寄せる。


そして、人差し指を口元に当てた。


「しぃー」


 


技能が、人の“価値”になる世界で。




コイツは……

ポン子は、

意図も簡単に、他人に“技能”を授けた。



これが、どれだけヤバいことなのか、

異世界歴1ヶ月の俺でも分かる。



「おーい!兄ちゃん……って、何してんだ?」


呼びに来たガルドさんの声すら、

今の俺には届かない。


間抜けな俺の表情を見て、

ポン子は、花が開くように──ふわりと笑った。

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