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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【28】怪盗達とポン子

背中にユーディアを背負い、俺達はアジトを目指していた。ユーディアは気を失って居るので、背負うだけだとずり落ちる。なので、ポン子に背中を押して支えてもらっていた。


いつもは近道の路地を通るが、慣れてないポン子では難しいと判断し、表通りを歩くことになったので少し遠回りだ。


「なぁ、お前、騎士から逃げてきたんだよな?何があったんだ?」


そう尋ねても、ポン子は答えなかった。


話しにくいことなのか。

それとも、前みたいにワタワタして言葉が出ないだけなのか。


背中越しでは、表情が分からない。


やがて、空の端がじんわりと白み始める。

夜明けが近い。


「……朝……?」


同じく白みゆく空に気づいたポン子が、ぽつりと呟いた。

まるで初めて見るものを前にしたような、現実味のない声だ。


「随分駆け回ったからなぁ」

「……夕日とは、違うのですね」


妙な言い回しに、思わず首を傾げる。


「夕日は赤いけど、朝焼けは白っぽいんだよ。早起きすればいくらでも見れるんだから、いつまでも寝ていないでもっと早起きしろよな」


――と言いつつ、

いつもユーディアに起こされている俺は、

しれっと自分のことを棚に上げた。


まあ、ポン子はその事実を知らない。

知らないなら問題ない。

上げられる棚は、上げておく主義だ。


「早起きがダメなら、また夜更かしすればいいさ」

「……はい」


遠くからガヤガヤと人の声。

そろそろ商人達が起きてくる時間だ。

ミレアスの朝市が開かれる前に、俺達は路地の中へ入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここが俺ん家」


アジトの中に入り、ユーディアをとりあえず俺のベットに寝かせる。適当な布を濡らして顔を拭いてやった。綺麗好きな怪盗をいつまでも汚れたままにするのは忍びない。


ふと、ポン子がアジトの前でポカン……としている事が分かった。

まぁ無理もない。お嬢様にとって、こんなあばら家は見たことも入ったこともないだろう。


「信じられないかもだが、ここは俺達の住んでるところだ。掃除はしてあるから入ってこいよ」


手招きすると、トコトコとポン子が入ってくる。

雑多なアジトの中に、朝日を受けて輝く白い髪。

あまりにも不釣り合いで、夢でも見ているみたいだった。


……なんだか、どっと疲れが出てきた。


ポン子を抱えて逃げ回ったこと。

魔力を無茶苦茶に使ったこと。

新しい技能で走り回ったこと。


火傷の痛み。

死の恐怖。

人を人として見ない、あの冷たい瞳。


それら全部が混ざり合い、

「帰ってきた」という安堵と、

「生きている」という実感が胸に押し寄せる。


俺はベッドの脇に座り込み、腕を抱えた。

奥歯が、カチカチと音を立てる。


……怖かった。


震えが止まらない。


もし次に、ポン子と同じ目に遭っている人を見かけても、俺は同じように助けられないかもしれない。

それくらい、鮮烈で、恐ろしい体験だった。


このまま眠ったら、悪夢を見そうだ。


――ふわり。


気づくと、ポン子が隣に腰を下ろしていた。

少し焦げた、ふわふわの髪が腕に触れる。


「……ありがとう、ございました」


青い宝石のような瞳が、まっすぐ俺を見る。

そこにあるのは、疑いようのない感謝だった。


ポン子は俺の手にそっと手を重ね、

もう一度、息を吸ってから、震える声で言う。


「……助けて、いただき……ありがとうございました」

「……いいっての」


その一言で、

俺の選択は間違っていなかったんだと、

少しだけ思えた。


震えも、ほんの少し収まる。


……。


……ダメだ。

疲労が一気に押し寄せてきた。


ふらつく俺に、ポン子が目を閉じたまま寄りかかってくる。彼女も、限界なのだろう。


俺は大きなクッションを抱くように、

ポン子と互いに体を支え合い――眠りに落ちた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ふと、日差しのまぶしさで、目を覚ます。


どうやら仰向けで寝ていたらしい。

寝ているユーディアを枕にしてしまったせいか、

「うーん……うーん……」と苦しそうな声が聞こえる。


体を起こすと、太陽はかなり高い。

どうやら昼過ぎまで眠っていたようだ。


隣を見ると、ポン子も目を覚ましたらしく、

寝ぼけ眼でこちらを見ている。


「……おはようポン子」

「……っ、はい」

「はい、じゃなくて、おはような。挨拶の基本だぞ」


俺が指をさして注意すると、キョトンとした後に、ふわりと微笑み「おはようございます」と返した。


「しっかし、困ったな……飯が残飯スープしかない……」


昨日集めていた残飯は、2人分だ。1人分足りない。

悩んだ挙句、俺は飯抜きで、ユーディアとポン子の2人分を作ることにした。とりあえず鍋に水を入れて、ユーディアのポケットから火打ち石を借りる。

やったことないが、いつもユーディアの手元を見ているから出来るはずだ。



カチッ、カチッ



……つかない。


ユーディアが毎日苦戦している理由が、よく分かった。

力を入れて打ちつけた瞬間、

散った火花が腕に飛ぶ。


「あっづ!?!?」


昨日の火傷の痛みがフラッシュバックし、

思わず全身が震え上がる。


驚いたポン子がすぐさま駆け寄り、俺の手を取る。

ポワッと白い光が包み、痛みと恐怖が一瞬で引いた。

大袈裟にビビりすぎた……。


「……サンキュー、ポン子」

「……っ、いえ……」


照れた様子で下を向くポン子。

……そういえば、コイツ魔法使えるんだよな?


「なぁ、お前、火とか出せない?」

「?」

「飯、作ってやるから」


ポン子は少し考えた後、人差し指を上に向ける。すると、ボッとロウソクのような火が灯った。

この火はーー怖くない。


「おお、すげぇ!やっぱ魔法使えるんだな。じゃあ、ここのかまどに火をくべてくれ」


指先をひょい、と動かすと、火がひゅーんと飛んでいき、かまどに着火した。

ありがたやありがたや……


「よしよし、よくやったぞ。ポン子、えらいえらい」


ポスポスと頭を撫でてやった後、俺は鍋をぐるぐる回す。その様子を興味深そうにポン子が後ろから覗き込んでいる。


味見用に、スプーンで一口。

うん、今日も無味。

食えそうだ。


「……」

「ん?味見するか?」


後ろにいるポン子にも味見としてスプーンを差し出す。おずおずとした様子で、優雅に一口。


「???」


コテン、と首を傾げ、もう一口。


「???????」


味がしない事にずっと首を傾げ続けるポン子。

その様子が少し可笑しい。


「ははは、味しないだろ?まぁ、変な味しないって事は、腐って無いって事だ。食べれはするから好き嫌いとか言うなよ」

「……」


茫然としていたポン子は、ぽん、と手を打つと混ぜている鍋に手をかざす。


「《神の舌》」


パチチ、と鍋に金色の電撃が走る。

瞬間、とてつもなくいい匂いが鍋から漂ってきた。


……何をした?


首を傾げつつ、一口スープを飲んでみる。


「……は?」


味が、ある。


コクのあるまろやかな旨味と塩味が絡み合い、

信じられないくらい美味い。

肉は入っていないのに、まるでシチューのような味だ。


調味料なんて、何も入れていない。

やったのは、ポン子の技能だけ。


……料理に味をつける技能?


今さらだが、ポン子って何者なんだ。

有名なシェフの愛娘とかなのか?


「ポン子、これ、お前が?」


コクコク、と頷くポン子。


どうやっているのかは分からないが、

とりあえず褒めておこう。


「ありがとな、ポン子」


ちょいちょい、と手招きすると、

トコトコと近づいてくる。


その頭を、ポスポスと撫でてやった。


……うーん。

だんだんペットみたいに思えてきたな。


グッボーイ、グッボーイ……。


その時。


「うぅ……」


ベットから呻き声と、布が擦れる音が聞こえてくる。


「ユーディア、大丈夫か?」


駆け寄ると、ユーディアがうっすらと目を開けていた。

顔色は悪いが、意識は戻ったようだ。


魔力欠乏の反動が随分派手だっただけに、

正直、目を覚ますかどうか心配していた。


「……ここは?」

「アジトだよ」

「……騎士を、倒したのか?」

「まぁな」


彼は一瞬目を見開き、

それから、いつものように鼻で笑った。


「……そうか。……随分ボロボロだな、アルノー君」

「お前、人の事言えねぇからな?」

「くくく……お互い、よく生きてたものだ」


満身創痍の姿を見比べて、苦笑する。


本当に、よく生きていたものだ。


俺はユーディアに向けて、片手を上げた。

ユーディアは意味が分からないという顔をする。


「ハイタッチだよ、ハイタッチ」

「あぁ……そうか」


まったくまだ寝ぼけているのか。

こういう時は、これだろ。

よろよろと上げられた手に、

俺はパシッとハイタッチした。


「……美味そうな香りだな」


早速匂いを嗅ぎつけたか。

俺はポン子を指さす。


「あぁ、なんかポン子が技能で残飯スープに味をつけてくれたんだよ。すげぇよな」

「……っ」


恐縮です、とでも言わんばかりに、ポン子はペコペコと頭を下げた。


「飯は食えそうか?」

「正直あまり入らなそうだが……食べなければ魔力回復は遅れるからな。しかし、人数分はないだろう?」

「俺はいいよ。お前よりは動けるし、後で自分用の残飯かき集めてくる」

「ふむ……なら遠慮なく頂こう」

「よし。……おーいポン子、そこにある器にスープを盛ってくれ」

「っ!」


声をかけると、ポン子は嬉しそうに器にスープを注ぎ始める。雑用を好むお嬢様とは、変わり者だな。


俺はユーディアを起こし、

壁にもたれられるよう姿勢を整えてやった。


ポン子がスープを持ってきたので、1つをユーディアに、もうひとつをポン子の手に握らせた。

3人でベッドに腰掛ける。

俺は食うものが無いので、給仕のノリでスープを2人に勧めた。


「さぁどうぞ。召し上がれ」

「いただきます」

「……ます」


ユーディアが一口飲むなり、目を見開いた。


「うまっ」


そう一言漏らすと、さっきまでの虚弱はどこへやら、スープをかき込む勢いで飲み始める。

あまり入らないと言っていたのは、どの口だ。


ポン子はというと、相変わらずお上品にスープを口へ運んでいるが、よほど腹が減っていたのだろう。

慣れない俺の箸を必死に動かし、ぎこちなくスープをすくっている。


「……で?」


二人が食べ終わった頃合いを見て、俺は口を開いた。


「ポン子。お前、なんで騎士に追われてたんだ?」


「っ……、……」


案の定、もじもじするばかりで、言葉にならない。


……まぁ、貴族絡みなのは確定だろう。

お家騒動だの政争だのを聞かされても、正直、俺にはさっぱりだ。


俺は質問を変えることにした。


「帰る場所はあるのか?逃げてきたみたいだけど……家に戻っても大丈夫か?」


ポン子はしばらくおろおろした後、コクリ、と頷いた。


……帰る場所はある、のか。

じゃあ、家そのものが襲われたわけじゃない?


「家の場所、分かるか?」


今度は、フルフルと首を横に振る。


「ふむ……」


そこで、ユーディアが口を挟んだ。


「ならば、自衛団に任せるとしよう。衛兵に渡すと、調書だの身元確認だので面倒になる。“迷子を保護して詰所まで案内した”――この形が一番自然だ」


「なるほど……」


さすが怪盗。

衛兵との距離感を、よく分かっている。


「それでいいか?ポン子」


コクリ、と小さく頷く。

問題はなさそうだ。


「じゃあ、俺が連れてくよ。ユーディアはもう少し寝てろ」

「おや。私の案内無しで行けるのかね?」

「子供じゃねーんだから、さすがに道くらい覚えたわ。アホ」


憎まれ口を叩けるくらいには、回復してきたようだ。

いつもの調子が戻ってきて、少しホッとする。


すると、ポン子が二人の前に立ち、ペコリと頭を下げた。


「あのっ……お礼……っ……を……」


後半はもごもごして聞き取れなかったが、

どうやら何かお礼をしたいらしい。


……正直、欲しいものと言えば。


「大金貨二千枚とか?」

「ふぁっ!?」


ポン子が、素っ頓狂な声を上げた。

さすがにお嬢様でも、その額を右から左へは無理か。


「ならば――」


ユーディアが、すっと背筋を伸ばす。


「何か換金性の高いものはあるかな?先の戦いで服がボロボロになってしまってね。宝石でも、指輪でも、ネックレスでも構わんのだが」


期待するかのような瞳がポン子を捉える。

目が、完全に怪盗のそれだ。


ポン子はまたもや、おろおろ、わたわた……。

そして意を決したように、


「ん、しょ……」


自分の身に着けていた純白のマントを脱ぎ、

そっとユーディアの上に掛けた。


「……感謝しよう。白牡丹の君よ」


芝居がかった微笑みを浮かべるユーディア。

だが、ほんの一瞬だけ、肩を落としたのを俺は見逃さなかった。


……やっぱり、宝石の方が良かったか。


とはいえ、金目の物を要求して、

淑女に身に着けていた服を差し出された以上、

これ以上を望むのはさすがに無粋だ。


諦めろ、ユーディア。


「それじゃ、行くぞ。ポン子」

「っ……はい」


俺はポン子を連れ、自衛団の詰所へ向かうため、

アジトを後にした。

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