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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【27】見習い怪盗の戦い

「死ねェッ!」


騎士が剣を振りかざし、一気に間合いを詰めてくる。

次の瞬間、鋼の刃が俺の首を狙って振り下ろされた。


俺は考える暇もなく、後ろへ跳ぶ。

ただひたすら、距離を取る。


「避けるな!避けるな!避けるなァッ!!」


横に転がり、さらに後方へ。

地面を蹴り、体勢を立て直しながら、騎士の動きを見る。


――技能が無くとも、腕がある。

――魔力が無くとも、足がある。


諦めない。

体が動く限り、避け続ける。


ベレー先生の講義は無駄じゃなかった。

体力系統の技能がなくても、ここまで動ける。


「追い詰めたぞッ!下等種族ッ!」

「っ……!」


気づいた時には、背後に結界の壁。

狭い。

思っていた以上に、この空間は逃げ場がない。


「なぶり殺してやる……ッ。楽に死ねると思うなよ……!」


剣先から伝わってくる殺意に、背中が粟立つ。

喉が渇き、指先がわずかに震える。


――それでも。


頭だけは、妙に冷えていた。


これは、怪盗訓練だ。


ユーディアがいつも言っていた。

「走れ。考えるな。景色を読め」と。


騎士は道。

剣は障害物。


上からの斬撃は、落ちてくる木箱だ。


冷静に、状況を把握し、

最小限の動きで――すり抜ける。


絶体絶命の一発勝負。

失敗は許されない。


――だが、こっちは怪盗ユーディアの一番弟子だ。


これくらい避けられなきゃ、

師匠に馬鹿にされる……ッ!!


「おりゃぁぁああ!!」


俺は、逃げるのをやめた。

逆に、騎士へと踏み込む。


振り下ろされる剣。


その軌道を、刹那で読む。


――今だ。


刃が届く寸前、体を捻る。

紙一重。


顔の横を鋼が掠め、

空気を切り裂きながら、体表すれすれを通過する。


足元を風圧が抜け、

コートの端が、ハラリと宙を舞った。


…………。


――避けたっ!


「《剣戟》ッ!!」


振り下ろされた剣筋が途端に跳ね上がり、下から斬り上げるように俺を襲う。




ーーそうだ、コイツ、突然剣筋を変えてくるんだった




世界が、スローモーションに沈む。



鋼の切っ先が、

確実な殺意を帯びて、迫り来る。



確実に急所を狙った、一撃。



当たれば、頸動脈を切り裂かれる。



体が動かない。



間に合わない。



ーー死ぬ。



……



ーーいや、



動け、



動け!



動けッ!!



動けッ!!!!



「動けェェエエッ!!!!」




バチリ、と脳内に光が走る。



ーー《怪盗系統:基幹技能》



文字でも、言葉でもない。

魂に、直接刻み込まれる感覚。


それが、何なのか。

どう使うものなのか。


最初から知っていたかのように、理解できる。


ただ、その言葉が、自然と口をついて出た。




「ーー《影足》」




瞬間、脳と身体が加速する。

超スピードで迫る剣を、じっくりと眺められるくらいだ。


俺は反射的に体を仰け反らせた。


腰から90度以上、後ろに仰け反っている。


普通の人ならバランスを崩して倒れるような体勢だ。

しかし……倒れる気がしない。


「なっ……!?」


刃が通り過ぎた後、

そのまま体の体勢を戻し、騎士の横を滑りぬける。


タンッ。


たった一歩で、3m以上も距離が開く。


軽い。

体幹も強くなっている。



脳内に瞬いた《影足》という言葉。



ーーこれが、神々より技能を授かるということ。



“授かる”という言葉にこれまで実感が湧かなかったが……

なるほど確かにこれは、


ーー神々に認められたような感覚だった。



「まだ……そんな技能を持っていたのかッ……!」



騎士は剣を構え、再び駆けてくる。


だが、不思議と恐怖は湧かない。


一歩、踏み出す。


夜闇に溶けるように、

地面を滑るように距離を詰める。


視界の端で、騎士の呼吸が乱れるのが分かる。


「《剣戟》ッ!!」


乱れ打ちの剣閃。

だが、その軌道が――見える。


ほんの一瞬の重心のズレ。

踏み込みの甘さ。


その隙を縫って、

俺は背後へと抜けていた。


――なるほど。



これは、《怪盗歩行》の系統だ。



《怪盗歩行》は一瞬で死角に移動出来て、使用中は体力も減らない。

《影足》は瞬間移動のようなことは出来ないし、動いた分だけ体力が減る。

ただ、移動速度と反射的速度が上がり、体幹が強くなる。


そして何より――

相手の“隙”が、肌で分かる。


「貴様ッ……許さ、ない……ッ……!」


騎士は肩で息をしている。


俺も、いつまで持つかは分からない。


だから。


――俺が倒れる前に。

――相手が慣れる前に。


ここで、決める。


俺はポケットの中で、銅貨二枚を強く握りしめた。


「……エド、ユノ。使わせてもらうぜ」


「死ねェエエ!!」


俺は、迫り来る騎士に向かって、

ずっと大事にしていた銅貨を放り投げた。


騎士はそれを剣で振り払おうとする――が、


「《落下猶予》ッ!」


空中で、ピタリと止まる銅貨。


その異様な光景に対応できず、

騎士は漂う銅貨へと顔面から突っ込んだ。


……たまたま目の位置だったのは、

きっと俺の日頃の行いが良かったからだろう。


「っ、クソがァッ!!」


突然の衝撃に、騎士は反射的に目を閉じる。

そのまま体勢を立て直そうとするが――


「《落下猶予》ッ!」


ふらついて上げた足が、

空中に縫い留められる。


見えない床に引っかかったかのように、

足は下ろせず、体勢だけが前に流れる。


――必然。


騎士は、前のめりに倒れ込んだ。


「《影足》ッ!」


地面を蹴った感覚すら曖昧なまま、

俺の視界は一気に騎士の背後へ滑り込む。


俺は、指圧のように親指を上げた。



バチリ、と再び脳内に光が走る。



ーー《暗殺系統:基幹技能》



魂に刻み込まれる。



……今、俺に必要な技能。



「ーー《致命顕現》」



騎士の背中に、淡い光がみえる。


マッサージ指南書で見た所と重なるが、


より、深く。

より、正確に。

位置、角度、強さ、全てが理解できる。


俺は騎士を地面に叩きつける勢いで、

あの場所を押した。


「奥義ッ!【激震ツボ】ッ!!」



ドムッ!!!



倒れた勢いと、《影足》の勢いが重なり、

ありえないぐらい深く指が突き刺さった。



「っだァァァアアアアアア!!??」



ぐきっ



「っでぇぇええ!!!!???」



俺の親指が変な方向に曲がった。

全体重をかけたせいなので、当たり前っちゃ当たり前だ。


「あ"、あ"あ"ぁ……」


騎士はのたうち回った後、一瞬びくりと体を震わせ、



……動かなくなった。



口から泡を吹いて倒れている。

どうやら、気絶しているようだ。


それを確認した瞬間、

周囲に張り巡らされていた結界が、音もなく解けた。


「……か、勝った……」


痛む親指を押さえながら、

俺は騎士の背中から、ふらりと立ち上がる。


し、死ぬかと思った。



ーーポスッ



背中に軽い衝撃。

振り返ってみると、ポン子が俺の背中に飛びついていた。

よく見えないので、巨大なポップコーンに寄生されたような気分になる。


「……ポン子、ちょっと痛い」

「っ……!」


ポン子はワタワタと離れると、振り向いた俺の両手を掴む。


「《掌上の癒し》」


小さく呟いた瞬間、

ポゥ……と白い光が俺の全身を包み込んだ。


折れていた親指が、痛みもなく元に戻っていく。

それだけじゃない。身体に溜まっていた疲労まで、

スゥ……と抜け落ちていく。


心地よくて、奇妙な感覚。


ポン子が手を離す頃には、

俺の手は――完全に元通りだった。


「……治ったよ。ありがとな、ポン子」


治った手で頭をポスポスしてやる。

ポン子は涙ぐんだ顔のまま、嬉しそうに笑った。


「……そういや、ユー……俺の連れはどうだ?」


ポン子はワタワタした後、倒れているユーディアの元へ俺の手を引いて連れて行く。


ユーディアの怪我は、すでにポン子の技能で治っていた。

だが――その姿は、あまりにも酷い。


鼻、耳、目、口。

あちこちから血が流れた跡が残っている。


今は静かに呼吸しているものの、浅く、弱々しい。

顔色は青白く、まるで幽霊のようだ。


……魔力を無理に使いすぎれば、命に関わる。

この有様を見れば、それは明白だった。


だが、ユーディアが技能を使っていなければ――

とっくの昔に、俺たちは死んでいた。


今さら後悔はしてない。

だが、騎士がどれほど危険な存在かを身をもって知った以上、軽率だったのも事実だ。


「……はぁ、迷惑かけてばっかだな、俺」


今度、師匠を労わってやろう。

ちゃんとしたマッサージで。


「ポン子、お前、一人で帰れるか?」


その言葉に、ポン子はハッとした顔でキョロキョロと辺りを見回し、アワアワした後、しゅん……とした顔になった。

がむしゃらに商業街まで来たのだ。

きっと道も覚えていないだろう。


……あんなアジトに連れて行くのは気が引ける。

だが、このまま放置もできない。

この時間じゃ、宿屋も開いてないだろう。


不安そうな顔をするポン子の頭を、ポスポスしてやる。


「……今晩だけ、うちに来るか?」

「!」


いいの?と言うように、ポン子が見上げてくる。

良くは無いが、致し方ない。


「……俺の友達、背負うの手伝ってくれよ」

「っ」


コクコクと頷き、ポン子は嬉しそうに俺の腰に飛びついた。ポップコーンに寄生された気分になった。


「ーーさて、」


俺は倒れている騎士に目を向ける。


口から泡を吹き、起きる気配がない。


新しく授かった《致命顕現》の詳しい能力は分からないが、俺の指圧がどうやらクリティカルヒットしたおかげで、かなり強いショックが入ったようだ。


……散々、下等種族だの、平民風情だの、

好き放題言いやがって。


ふつふつと怒りが沸いてくる。


俺の小さな器が、カタカタと怒りに震え、限界を迎えつつあった。


マージで散々やりやがったなこの野郎。


どうしてやろうか。


周囲をぐるりと見回す。


周囲に散らばる、

熱で溶けたアーマーと剣。


路地に積まれた木箱。


そして――

簡易的な服だけを身につけた騎士。


……貴族は、コケにされるのが我慢ならないんだよなぁ?


俺に寄生するポップコーンを引き離し、騎士の元へ歩いていく。落ちていた剣を拾い、騎士を見下ろした。



「さぁて……お仕置きの時間だ」



俺は騎士に向かって、剣を振るった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



翌朝。



商業街の大通りで、いくつもの悲鳴が上がった。


駆けつけた衛兵と自衛団が目にしたのは、

まず、爆心地のように黒く焦げた地面だった。


そして、

中央にはいくつもの木箱が無造作につなぎ合わされ、

その上に――全裸の男が磔にされていた。


男の服は細切りにされ、ロープ代わりに使われている。

その布切れが、手足と首を何重にも縛り上げ、

身動き一つ取れない状態で木箱に固定されていた。


周囲には、溶けて歪んだアーマーの破片が散乱しており、

ここでどれほど激しい戦闘が行われたのか、想像するだけで背筋が冷える。


さらに異様なのは、

男の股下付近の木箱に、貴族の物と思しき高価な剣が深々と突き刺さっていたことだ。


剣の柄には、服の切れ端が結びつけられており、

そこにはふざけた文字で、こう書かれていた。



「貴族の全て、無料大公開中!」

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