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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【26】怪盗達の戦い

「これ以上逃げないよう、技能を使った」


騎士は剣を構え直し、俺達に対峙する。


「この結界は決して破れない。外に音が漏れることも、貴様らがここにいることすら認知されない」


一歩、また一歩。

ゆっくりと近づいてくる。


「助けは来ないーー貴族をなめたことを後悔しながら死ぬといい」


残虐性を帯びたその瞳に、

俺は背筋が寒くなった。


怖い。


確実に殺すというその意志が。


圧倒的な実力の差が。


俺の心にゆっくりと絶望感が染み込む。


足が震え、ポン子を支える腕までも震え始めた。


「……もう、よいのです」


腕の中から、声がした。


ハッ、と見れば、青いアクアマリンのような瞳を潤ませて、ポン子は俺を見上げていた。


「わたくし一人で、済むのなら……」


……俺の腕が震えているんじゃない。

ポン子も、全身をカタカタ震わせていた。


怖いのは当然だ。


けど彼女を引き渡したとしたらーーどんな目に合うのか想像するだけで恐ろしい。



それでも、彼女はその身を差し出そうとしている。



か細い腕を震えながら解き、

俺を見上げ、不器用にニコ……と笑った。



ーー行かせて、と言わんばかりに。



「ーーユーディア」

「なんだ」

「俺を殴ってくれ」


パシン!


「……普通、もうちょっと躊躇わない?」


ジト目で睨むと、ユーディアは鼻で笑った。


「気合いを入れて欲しいのだろう?」

「なんで分かんだよ」

「君の師で……友人だからな」


ユーディアはいつものように、ハッと笑った。

その変わらない姿に、少しホッとする。


足の震えは、多少マシになった。


俺は、ゆっくりとポン子を地面に降ろす。

ぺたり、とポン子はその場に崩れ落ちる。

腰が抜けて立てないようだ。


「ポン子はここで待ってろ」

「っ……!……」

「お前を引き渡しても、どのみち俺達は殺される。なら、出来るだけ足掻いてやるからさ」


俺は無理やり“竹田くんスマイル”を作った。


「終わったら、お礼を期待してるからな!」

「っ」


ポン子を置いて、俺とユーディアは騎士に近づく。


「ユーディア、攻撃技能はあるのか?」

「怪盗は逃げる者だ」

「ですよねぇ……」

「だがーー貴族をおちょくるのは、私の得意分野だ」


ユーディアは手を俺に差し出す。


「技能を許可する。ーー貴族を弄ぶ方法を教えてやろう」

「いきなり実践訓練かよ」

「今は一応……怪盗訓練の時間だからな」


「《風刃》」


目の前の貴族から不可視の刃が放たれる。

俺達の首を切り裂く前にーー俺はユーディアの手を掴んだ。


「《偽相盗用》」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



確実に捉えた。

今に、赤い花が平民の体から立ち上る。

そう思った瞬間ーー不可視の刃が地面で爆ぜた。


「……なに?」


目の前から突如、平民2人が姿を消した。

背後から気配ーー


振り向きざまに剣を一閃。


しかし、当たらない。


「どこを見ているのかね?」


また、背後。

もう一度剣を一閃するが、また外す。


「ここだ、ここ」

「《剣戟》!」


間髪入れずに背後へ技能を叩き込むが、

またもや外す。


おかしい、パッとしない方の男は確かに動きが早かったが、もう一方は特段と素早い訳でもなかった。


何故か技能は当たらなくとも、平民程度の魔力ならそう長くは持たない。そう思っていたがーー


「ほぉら!見上げてごらん!」


頭上から、声。

バッと上を向くとーー


「剣を振り回すのはそんなに楽しいかね?」

「楽しいのなら私……ンンッ、俺にも教えて貰いたいものだ」


平民2人が、風もないのに空を飛んでいた。

フラフラと、頭の上でまるでダンスを踊るかのように漂っては時折くるり、と回っている。


ーー風魔法以外で空を飛ぶ技能なんて、ほとんど存在しない。

ましてや、貴族でも持つ者は居ない。



いや、そんなことよりもーー



平民風情が、貴族を高いところから見下ろしていた。



「降りてこい!この下等種族がッ!」

「下等種族というのなら、君がここまで来たまえよ。上位種族クン?」


あろうことか、貴族を鼻で笑っている。


「ーー殺す」


魔力を練り上げ、技能の純度をより高める。


「《風魔法》ーー《炎蛇》ッ!」


風に炎を乗せ、空気を含んだ炎の蛇はより巨大に姿を変え、平民を飲み込む。

結界の天井を埋めつくさんばかりの炎が蹂躙したあと、技能を切れば空には何も残っていない。燃え尽ーー


ぺちっ


「いったぁ……」


ーーは?


「くっ、怪盗パンチが効かないとは……なんて防御性能だ……」

「師匠、やはり君に不意打ちは無理だ。筋力ひよこ過ぎる」


平民風情が、高貴な貴族に、薄汚れた手で触れてきていた。


「貴様らァッ!!」


剣を振るうが、また消える。


「「ははははっ!!」」


左右から、前後から、笑い声が聞こえる。


視線で捉えようとしても、すり抜ける。


薄汚い平民の手で、


頭を、頬を、背中を、足を、腕を、


なんの傷にもならない無意味な攻撃が続く。


「《逃走阻止》!」


瞬時に平民の前へ転移する。

そのまま剣を振り下ろすがーー


「ざぁんねん」


ーーまた、消える


「《剣戟》ッ!《風刃》ッ!《破砕脚》ッ!」


前に、後ろに、左右に、上空にーー

がむしゃらに全方位に剣を振るい、背後へ蹴りを入れる。


ーーが、当たらない。


「師匠、アレは何をやっているのだね?」

「貴族はコケにされると冷静さを失いやすい。あれがいい例だ」

「おお!そうか!なんて分かりやすい見本だろう!」


声の方を見る。

ーー剣が届かない離れた位置で、まるで珍獣を観察するかのように、貴族を鼻で笑う平民がいた。


「そこかァッ!!」


特大の《風刃》を飛ばすが、するりとまた視線から消える。


「《怪盗遊戯》」


パチンッ


何か、下腹部から音がした。


視線を下げるとーー

騎士の高潔な鎧のベルトが外れ、

ガシャン、という音と共に腰鎧が地面に落ちる。


「なるほど!この技能はその様な名前だったのだね!」

「技能名も知らずに使えている君の方がおかしいのだよ」


振り向けば、騎士のベルトをクルクルと回して遊ぶ平民が立っていた。


「殺ーー」

「《怪盗歩行》ーー《怪盗遊戯》」


パチンッ、と今度は

アーマーを固定する右脇のベルトが無くなる。


「《怪盗遊戯》」


今度は、左脇のベルトが無くなる。


アーマーが固定されず、

体の上でガチャガチャと騒がしく鳴り響く。


「邪魔だぁッ!」


騎士はアーマーをかなぐり捨てた。


「《怪盗遊戯》」


アーマーを脱ぐことに意識が向いたせいか、

手に持っていた剣を再び奪われる。


「ほぉ〜ら、取ってこぉーい!」


平民はそれを、遠くへと投げた。


「……クソッ!!《瞬足》ッ!!」


地面に落ちる前に、技能で加速し、剣をキャッチする。


「おお!偉いぞ!グッドボーイ!」

「さすが騎士だ。素晴らしい反射速度じゃないか」


その光景を……背後の平民2人は、ケタケタと笑った。


尊き神に選ばれた貴族を、

平民から恐れられるべき騎士を、

この下等種族は馬鹿にし嘲笑う。


こんな、こんな者たち、まるで……



ーーあの、怪盗ユーディアのようではないか。



人を弄ぶことに長けた、

存在すら許されない忌避されるべき悪。


神々に選ばれた貴族を玩具程度にしか思っていない、

世界を股にかける大悪党。


そうだとしか思えない。


ならばーー貴族として……滅ぼさねば。


「天を司る神々よ。火炎の神オルフェノーヴンスよ」


詠唱を始めると、平民達は驚いたように目を見開いた。


「我が手に焦炎を。我が手に殲滅を。万物を焼き付くし、邪より我らが民を守り給え。この炎天を神々へ捧げますーー」


平民はルルシェラの下へ駆け寄る。

ーーが、もう遅い。


諸共すべて消し炭になるがいい。


「《炎天・焦土爆炎陣》ッ!!」


《決闘結界》全域を、赤い魔力の線が走る。

瞬間ーー


地面より灼熱の炎が噴き上がり、

結界内を余す所なく蹂躙する。


ーー本来、このような広範囲殲滅技能を使うには、然るべき許可が必要だ。


後で魔力の痕跡を調べられれば、否が応でも自身の犯行だとバレ、犯罪数値に加点が入る。


だとしてもーールルシェラを無き者にし、怪盗と思わしき邪悪を退けたのだ。



本国へ戻れば、犯罪数値など気にならない程の栄誉が与えられるだろう。



ようやく炎が落ち着き、視界が晴れるとーー



黒く焦げた平民が、ルルシェラを庇うように折り重なって倒れていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



騎士が詠唱を始めた。

《極地技能》だ。


足下に赤い線が走る。

逃げ場がない。


「師よ!」

「分かっている!」


2人で座り込むルルシェラ嬢に駆け寄る。


師匠にはもう、3人分を庇うだけの魔力がない。


なら、私が使うまでーー


「《無名讃歌》ッ!」


……。


…………。


発動、しない?


「馬鹿者ッ!技能を切れッ!」


頭を叩かれ、反射的に技能を切る。


途端、全身を駆け巡る不快感が俺を襲い、ユーディアとポン子の上に折り重なるように倒れた。


瞬間、地面より炎が噴き上がり、

空気が一瞬で高熱に変わる。


焼け死ぬーー



「《無名、讃歌》っ……!」



ユーディアが絞り出すように呟くと、炎に包まれながらも、ふっと熱が収まる。しかし、灼熱の炎はまだ収まらない。


ただでさえ無理をして3人分を庇っているのだ。

ユーディアがもたない。


ーー何故、俺は《無名讃歌》を使えなかった?


考えるよりも先に、

ジワリと皮膚が焼けるような痛みを放ち始めた。


「……アル、ノー……」

「おい!おいしっかりしろ!」

「す……ま、ん……」


俺はユーディアとポン子の上に覆いかぶさり、炎から庇う。


ユーディアの全身から力が抜けた瞬間ーー



凄まじい熱気に包まれた。



「ぐぅッ!!」



熱い、熱い、熱いッ!



生きたまま焼かれる。


その悍ましさを覚えるよりも、

とにかく今は全身を刺すような激痛に耐える。



せめて、2人だけでも守らないと……ッ!



1秒が、何分にも何時間にも感じられ、

もうダメかと思ったその時ーーフッ、と炎が収まる。



ユーディアの買ってくれたコートが所々焦げているが、燃えていない。どうやらたまたま耐火性が高いものだったらしい。


体を持ち上げ、2人を確認ーー


「ッあぁ……!?」


全身がジリジリと火傷の鮮烈な痛みが襲い、その場でのたうち回る。まるで全身を鉄線で抉られるような逃げ場のない激痛が全身を貫く。

涙が溢れ、まともに2人を確認出来ない。


ユーディアは?ポン子は?


今、俺はどうなってーー


その時、


「《掌上の癒し》」


誰かの手が俺に触れる。


途端、痛みがスっと引き、体のひきつりが一瞬で治った。


ゼェゼェ、と涙で歪んだ視界でその手の主を見る。



ーーふわふわの、すこし焦げたポップコーンだった。



ポン子の技能で、俺を治してくれたらしい。

体を動かしても、全く痛くない。


「ポン子っ……!助かった……!」


ポン子は泣きそうな顔でコクリ、と頷く。

そのポン子の上には、ぐったりとしたユーディアが倒れていた。所々火傷があるが、息はある。


「悪い……そいつを頼めるか?」

「っ!」


コクリ、と頷くのを確認し、

俺はユーディアに手を伸ばした。


あとどれほど魔力が持つか分からない。


だが、《偽相盗用》無しで、

騎士相手に立ち回りは出来ない。



もう一度、発動をーー



キュ、と伸ばしかけた俺の手が、ポン子に掴まれた。


「な、何をーー」


動揺する俺を置いて、

ポン子は祈るように、願うように、言葉を紡ぐ。


「ーー貴方に、神々のご加護があらんことを」


その瞬間、背後で風がうねる音。


咄嗟にポン子を突き飛ばし、自分も後ろに飛ぶ。

一拍後、先程までいた場所に破裂音と土埃が舞う。


「はぁ、はぁ……燃えカスの平民風情が……まだ動くかッ……!」


ジリジリと、体を引きずるように騎士が迫り来る。


さすがの騎士も、魔力をかなり消費したようだ。

飛んできた風の刃も威力がかなり落ちている。


ーーだが、ユーディアと離されてしまった。


俺、ユーディアとポン子、騎士がちょうど同じ距離にいる。


……ユーディアの方へ近づいたら、動けない2人が標的になるかもしれない。


「あっれぇ?騎士様、もう終わりですかぁ?」


舌を出し、俺はハハハッと笑う。


「アレがお前の本気ぃ?おいおい、涼しすぎるぜぇ?」


不得意だが、出来るだけ俺は悪人面で貴族を嘲笑う。

斜め上から、見下ろすように。


「下等種族すら燃やせないとか、お前も俺たちと同レベルってことじゃねーの?ダッセェ〜!」

「ーー貴様ァッ!」


俺の見え見えの挑発にまんまと引っかかった騎士は、剣を構えてこちらに走り寄ってくる。


魔力が少ないのか、技能で近づいて来ない。

俺は安全のため、ポン子とユーディアから距離を取る。



ーーここで俺が死ねば、2人も死ぬ。



魔力も減り、まともに技能が使えない者同士の、

最後の戦いが始まった。

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