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極悪非道もサジ加減!~ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【25】怪盗達の逃避行

深夜。

夜の闇がもっとも深くなり、人々が寝静まる時刻。


カラスのようなマントと黒衣のコートをはためかせ、俺とユーディアは商業街の高い建物から街を見下ろしていた。

空には月が煌々と照り、夜だというのに、やけに明るく感じる。


「今日から貴族街だ。気を抜くなよ」

「了解」


フードを深く被り、夜に溶け込みそうなユーディアの背中を追う。






――俺がこの街に来て、

なんだかんだで、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。





指名手配される気配は相変わらずない。

それなら、とユーディアと相談し、そろそろ貴族街の地理も把握しておこうという話になった。


もっとも、昼間は顔を見られる危険がある。

そのため怪盗訓練の時間を使い、さらに念を入れて、ユーディアの《月下舞踊》が使える月夜を選んだ。


もし見つかっても、俺が《偽相盗用》を使って一緒に飛んで逃げればいい。

初日はユーディアが事前に下見した、比較的安全なルートを通ることになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



貴族街は、市民街や商業街から遠目に見たことはあった。

だが、実際に足を踏み入れると、その違いはより鮮明だ。


道はレンガ敷きで丁寧に舗装され、幅は商業街の4~5倍はある。等間隔に並ぶ街灯が夜道を照らし、暗がりらしい暗がりがほとんどない。


さすがにこの時間帯では出店もすべて閉まっているが、どの屋台も作りがしっかりしている。

看板から察するに、高価な食品や雑貨、石鹸などの日用品を扱っていたのだろう。

客層は貴族に仕える者たち――そう考えると、妙に納得がいった。


「国境付近は見回りが多い。

今日は商業街寄りの北区域を回る」


レンガ道を踏みしめながら、俺は周囲を見渡す。

人影は少ないが、貴族の屋敷の前には必ずと言っていいほど見張りが立っていた。

ユーディアはそれらを避けるよう、器用にルートを選んで進んでいく。


「本来なら商業街か市民街に入れれば追っ手は振り切れる。だが、そこから貴族街に追い込まれたら最悪だ。道はしっかり覚えておけ」

「分かってるって。……あそこが商業街に繋がる道で、この先三本目を曲がれば――逃げるなら、ここか」


商業街と市民街は、ようやく路地を把握し始めたところだ。実際に歩くと、頭の中で地図が立体的に組み上がっていく。路地によっては表通りにしか繋がらない“ハズレ”もあるため、構造の把握は欠かせない。


「言い忘れていたが、追っ手が貴族だった場合、路地は使うな」

「は?なんで?」

「路地でも表通りでも、貴族にはどうせ追いつかれる。

なら、《怪盗歩行》で背後に回れる、広い表通りのほうがいい」

「でも表通りだと衛兵が――」

「衛兵100人より、貴族一人のほうが厄介だ」


貴族は、魔力量も技能の質も桁違いだという。

正直、俺にはまだ実感が湧かないが、ユーディアが言うなら間違いないのだろう。


「しっかし、隠れられそうな場所がマジで無いな。道も綺麗すぎるし。……いざとなったら、貴族の屋敷に逃げ込むのは?」

「論外だ。庭は見通しが良すぎるし、屋敷など自殺行為だ。領主邸のように雑木林でもあれば話は別だが……どのみち貴族街には“騎士”が多い」

「騎士?衛兵とは違うのか?」


俺の言葉に、神妙な顔でユーディアは頷く。


「衛兵は戦闘技能を持った平民の兵士。騎士は、戦闘技能を持った貴族の兵士だ。数は少ないが、国防の要として国境付近に集中している。……ただし、上位貴族の個人的な護衛や休暇中などであれば、ここまで出てくることもある。とにかく下手なことはするなよ」

「うっす」


騎士に見つかると相当やばいようだ。

俺はユーディアの忠告を素直に聞き入れ、また道を覚えることに心血を注ぐ。


「そこの角を右ーーいや、待て」

「ん?どうした?」

「下がれ。誰か来る」


ユーディアの言葉を聞いて、すぐに彼の傍まで下がる。いつでも《偽相盗用》を使えるように構えていると、確かに軽快に走るような足音が聞こえてきた。


足音の主が、角から現れる。



ーーそれは、大きなポップコーンだった。



いや、真っ白なゆるふわの髪を持った、女の子だった。


「…………ポン子?」


俺が声を掛けると、彼女は驚くように目を見開き、そして嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ーーはい」


今回はちゃんとすぐに返事をしてくれた。


かなり久しぶりの再会だ。

1ヶ月振りくらいだろうか。


だが……今は人が寝静まる時間である。

それなのにどうしていい所のお嬢様が、夜中にこんな道端をうろついているのか。


しかも目の前のポン子は、以前に見た白いふわふわパジャマ姿に、全身を覆う白いフード付きのマントを付けている。まるで、寝ていたところをマントだけ掴んで飛び出してきたようだ。


「ポン子、お前どうしてここにーー」

「誰だ!お前達は!」


ふと、ポン子の後を追うように、1人の男が現れた。

白銀のアーマーを付け、腰から剣を携えた身なりのいい男だ。衛兵のような簡易的な装備ではない。それぞれに相当な金をかけたものだと分かる。


「ーー騎士だ」


ユーディアは男から目線を外さず、警戒した様子でそう呟く。その言葉に俺は目を見開いた。

噂をすれば、何とやらである。


「貴様ら、その女性から離れろ!そのお方は貴様らのような平民ごときが拝謁を許されるような方ではない!」


これはマズイ。

目を付けられる前に、ここから退散すべきだ。


そう思っていると、ポン子が俺の所へトテトテとやってきて、キュッ……と俺の袖を掴む。

そして、なにか怯えた様子で俺を見上げてきた。

微かに震えている。


「なっ、何をしているのです!?ルルシェラ様!さぁ、帰りましょう!こちらへ!」


騎士の怒号に、ポン子はさらに縮み上がる。


……ポン子は何故、パジャマ姿で外に飛び出してきたのか。騎士はポン子を追ってきたようだが、騎士に対するポン子の様子がおかしい。



ーーまさか、騎士から逃げてきた?



「平民ッ!その方から離れろッ!」

「……アルノー君。ここは下がるぞ。相手がマズイ」


ヒソヒソとユーディアはそう言って後退する。

俺も逃げたい。衛兵の100倍ヤバいやつなのだ。


だが以前、見ず知らずの俺達に協力してくれたポン子を、コイツが困っている時に見捨てるのはーー


「アルノー君っ!」

「……」


怯えた顔で見上げてくるポン子を見下ろし、俺は小声で尋ねる。


「……俺達と一緒に来たいか?」

「っ……」

「アルノー君!?」


ユーディアが素っ頓狂な声を上げるが、

お構いなしに続けた。


「ポン子ーーどうする?」


ポン子は目を見開き、騎士をチラッと見て、もう一度俺を見上げる。


「………………はい」

「よし」


俺はポン子の手を掴み、後方へ走り出した。


「何をしているのだッ!?」


その行動にユーディアが悲鳴に近い声を上げる。


「ーー平民風情がッ!薄汚いその手をッ!離せぇッ!」


そして案の定、騎士が鬼の形相で追いかけてきた。


「馬鹿者!正気かねッ!?」

「正気も正気だ!むしろ見捨てる方がどうかしてるだろ!」

「白牡丹の君の事情は知らんが!我々の関与すべき事ではないだろう!」

「お前いつも女性に優しいのにこういう時に助けないのかよ!?美学はどうした!?お前の美学ってのは状況によってコロコロ変わるようなダセェもんかよ!」


その言葉にユーディアは「ぐっ」と息を飲む。


「自分に課したものなら最後まで貫け!

それが、美学ってもんだろ!」


ユーディアはハッとした顔をすると、一度キツく目を閉じた。ーーそして、決意を込めた瞳で俺を見る。


「ーー全く!この私が、弟子に諭されるとはなッ!」

「先導!頼む!ユーディア!」

「任された!」


ポン子は俺に引っ張られるように走っているが、足が遅い。このままだと追いつかれる。


「ポン子!ちゃんと掴まってろ!」

「っ!」


ポン子をひょいっと持ち上げ、お姫様抱っこをする。ポン子はすぐに、落ちないようにと、俺の首に手を回した。


軽い。ベレー先生との地獄の特訓を続けていたおかげだ。いつの間にか、ポン子くらいなら余裕で持ち上げて走れる程の筋力が付いていたらしい。


「商業街への最短経路で行く!」


その言葉に俺は頭の中の地図を確認する。

今の道なら、走って2~3分程度だ。


「ーー《瞬足》」


背後で、空気が裂けるような音。

次の瞬間、

俺の背後ーー耳元で、チャッ……と剣を抜く音がする。


反射的に、俺は地面を蹴った。

横へ。とにかく、身体をずらす。


一瞬遅れて、俺が立っていた場所を、

銀色の光が一直線に薙いだ。

遅れて風圧が頭上で荒れ狂う。


「《剣戟》!」


避けたーーそう思った瞬間、

騎士は既に剣の切っ先を俺に向けていた。

ありえないーーコイツ、剣筋を途中で変えてきやがった。


「《無名讃歌》ッ!」


視界の端からユーディアが滑り込んできた。

強く、俺の手首が掴まれる。


次の瞬間、

剣の軌跡が、俺達の身体をすり抜けた。


音が、遅れて爆ぜる。


背後の壁が紙細工みたいに刻まれ、

粉塵と破片が、夜空に舞い上がった。


「……くっ、こっちだ!」


ユーディアが叫び、角を曲がる。


だがその道は、商業街じゃない。

市民街のほうだ。


このタイミングで経路変更か?


「ーー《逃走阻止》」


低い声が響いた、次の瞬間。


さっきまで背後にいたはずの騎士が、

目の前に立っていた。


ユーディアに向かって剣が振り下ろされる。


だが――

刃は、彼の身体をすり抜けた。


「小僧ッ!行けッ!」


その一瞬で、ユーディアは騎士の背後へ回り込む。

すれ違いざまに、スルリと滑らかな動作で騎士の手から剣が奪い取られた。


――だから、路線を変えたのか。


先回りされないために。

本命の逃げ道を潰されないために。


俺は、背中を向けて走り出した。


とにかく今は、商業街へ――


「《逃走阻止》ーー《破砕拳》!」

「っ!?」


考えるよりも先に、身体が勝手に動いた。


思い切り頭を下げる。


直後、俺の頭上を拳が風を引き裂いて通過した。


俺の頭付近にあった建物の壁が、内側から弾け飛ぶ。

石と木片が雨のように降り注いだ。


「こっ……殺す気かっ!?」

「避けるな!下等種族がッ!」


忌々しそうに騎士は吐き捨てる。


「貴族に無礼を働いたその蛮行ッ!ーー万死に値するッ!」


何が蛮行だ!むちゃくちゃすぎる!

というかユーディアが剣を奪ったのに、今度は拳で襲ってきやがった!


拳でも戦えるのかコイツ!?


「《破砕ーー」

「《落下猶予》ッ!」


振り下ろされかけた拳が、

空中で、凍りついたように止まる。


その隙に、俺は駆け出した。


「《風刃》!」


背後で空気がうねり、風が巻き起こる。

何か、ーー来る!


「《無名讃歌》ッ!」


素早くユーディアが駆け寄り、再び手を掴む。


風の刃が俺の足元をすり抜け、地面で爆ぜる。

地面に巨大な獣の爪で抉られたような跡が残った。


「《炎蛇》!」


立て続けに、今度は騎士の周りから巨大な火柱が噴き上がる。凄まじい熱が頬を焼き、息をするだけでも苦しい。

炎は意志を持ったかのように道幅全域に広がり、

逃げ場を塞ぐように迫ってくる。


「っ……《無名讃歌》!」


ユーディアの《無名讃歌》が発動した直後、俺達は炎に呑まれた。

しかし、技能のおかげでまったく熱くはない。


すぐに炎の光に紛れ、騎士の視線を切るように角へ飛び込む。手を離したユーディアはふらつき、壁に手をついて体を支えた。


「ぐっ……」

「ユーディア、魔力残量は?」

「……ハッ、まだ……多少ある」


顔色が悪い。

あまり長くは持たなそうだ。


ユーディアを支えつつ、商業街方面へ。


角を曲がり、通りを抜け、なんとか商業街の表通りに出た。


その瞬間、


「《風刃》」


俺はユーディアを突き飛ばし、

同時に自分も頭を下げる。


首があった位置を透明な刃が通過した。


背後で建物の壁が真横一文字に切断される。


振り返る。


振り切ったはずの騎士が、

いつの間にか剣を取り戻し、そこに立っていた。




――衛兵とは、まるで違う。




技能を惜しみなく使い、

状況に応じて迷いなく切り替える。

あれだけの魔法と技能を使っても疲れた様子が微塵もない。



そして何より、

ーー人を殺すことに、一切の躊躇がない。



俺達とは技能や倫理観がまるで違う別の存在。



それが――貴族。




「おいコラ!今の!下手したらこの子にも当たってたぞ!」


俺の叫びに、騎士は嗤った。


その顔は、さっきまでの騎士然としたものではない。


人を、人として見ていない。

蔑みで歪んだ、醜い笑み。


「だから?それが何だと?」

「な……何言ってんだよ!この子、高貴な身分なんだろ!」

「連れていくのに、“上”からは生死を問われてはいない」


ーー生死を問わない?

その言葉に、ポン子が目を見開く。


「とっとと渡せばよかったものを……下等種族風情が、貴族の言葉を聞かないとはな」

「……女性を軽視し、平民差別を繰り返す……貴族としての品の欠片もない愚者に言われたくはないな」


ユーディアの言葉に騎士の顔が歪む。


だが、すぐにおぞましい光を瞳に宿し、ニィと口端を釣り上げた。


「確かに、女性軽視は良くないな。生死は問わないとはいえ……真っ二つにするのは、勿体ないほどの美貌だ」


騎士は、ねろりと唇を舐める。


「生きてても死んでてもいいのならーー“頭が付いている方”が楽しめそうだ」


腕の中で、ポン子が小さく震える。

俺の首に回す腕が、ほんの少し強くなった。


「アルノー君。君の言う通りだった」


ユーディアは歯を食いしばり、騎士を睨む。


「あの時、彼女を置いていっていたらーー私はきっと、酷く後悔しただろう」

「あぁーー俺もだ」


俺達が立ち止まったのを確認した騎士は、まるで祈るかのように胸の前で剣を構える。


「天を司る神々よ。戦士の神ヴァールディオスよーー」


「まずい」


ユーディアはすぐさま駆け出す。

俺も続くがーー詠唱が終わるのが先だった。


「我が手に戦を。我が手に勝利を。神聖な戦いをご照覧あれ。我が尊き神々に、この血を捧げますーー《決闘結界》ッ!」


騎士を中心に、

半径30メートルほどの透明な膜が展開される。


ユーディアは膜の手前で足を止め、舌打ちした。


「ユーディア!これは!?」

「稀に貴族が持つとされる、《極地技能》ーー技能の中でも詠唱を行うことで強力な効果を発動できるものだ。技能の中では最高品質とされる」

「名前からして俺達を逃がしてくれなさそうだが……《無名讃歌》で出られるか?」

「可能……だが、私を含め、2人が限界だ。あれは魔力消費が激しすぎる。もう魔力がない。出られたとしても、魔力欠乏で倒れる可能性が高い」

「つまり……」


俺とユーディアは、背後に佇む騎士へ振り返る。



ーーコイツを倒さない限り、逃げられない。

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