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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【23】お金の稼ぎ方

金が欲しい。

5000兆円とは言わない。

2億円でいいから欲しい。


そう思いつつ、俺は地面に大の字で倒れ、空を見上げていた。


ーーあ、鳥。


「寝ている暇はッ!無いッ!次ッ!ウサギ跳びでッ!外周30周ッ!」

「……」

「君のッ!真価はッ!これからだッ!」

「……」

「立てッ!走れッ!進めッーー!!」

「……」


既に外周を全速力で30周を終えた俺に、何を言うんだい?ベレー先生。


だが、気力の抜けきった俺の首根っこを、ベレー先生はひょいっとつまみ上げ、強引に立たせると、真横から鼓膜を破壊しにきた。


「技能が無くともッ!」

「腕がある……」

「魔力が無くともッ!」

「足がある……」

「魂を燃やせッ!」

「命を燃やせ……」

「立てぇッーーー!!!!!」

「てぇ〜……」


気づけば俺は、ベレー先生の言葉を無意識に復唱できるようになっていた。

完全に刷り込まれている。


ヨロヨロとしゃがみ込み、手を後ろに組んでウサギ跳びを始める。


「遅い遅い遅い遅いッ!そんなのではッ!今にッ!追いつかれるぞッ!!」


何にだよ。


「あのっ……ベレーっ……先生っ……!」


ウサギ跳びしながら横を爆走するベレー先生に声をかける。


「先生って……お金……どうやって……稼いでますかッ……」

「それはッ!実にッ!簡単ッ!」


俺の胴体程もある二の腕をムキッとさせ、ベレー先生は満面の笑みを浮かべた。


「金が無くともッ!ーー筋肉があるッッ!!!」


ダメだこりゃ。


金策方法を聞く前に、まずはベレー先生とのコミュニケーションをどうにかする方法を考える必要があるようだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



クラリスさんのお店から帰った後、俺とユーディアは天井まで上がったテンションを床まで落とされた気分になった。


あばら家生活の俺達には、とてもじゃないが大金貨2000枚なんて用意出来ない。

山菜を売って得られる金は、銅貨5~6枚。

白札の俺達じゃ買い叩かれるのが関の山だった。


結局、当初の予定通り、俺は技能獲得に向けて職業訓練所に。ユーディアは呪術師や精霊術師を探すことになった。ガックリである。





「はぁ〜……」

「おや、アルノーさん、どうしました?集中できませんか?」

「あ、あぁ、すみません……」


今は、ローレン先生の研究室で個人授業中だ。

魔力を感じる練習ということで、薄青い水晶玉に手を乗せて意識を集中していたのだが、つい先日の2億円の件を思い出し、ため息をついてしまった。


「もう一度、お願いします」

「えぇ、では行きますよ。何でもいいので、何かを感じたら言ってくださいね」


ローレン先生が水晶玉に手をかざすと、

淡い光が内側から滲むように灯った。


この水晶玉は、注ぎ込んだ魔力を外へ強く放出する魔道具らしい。光っている間、ローレン先生の魔力が、確かにここから溢れている――はずなのだが。


ゼロ距離で手を乗せているのに、何も感じない。


目を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。

だが、熱も、痺れも、ざわつきもない。

魔力の“ま”の字すら、掠りもしなかった。


「ーーやっぱ何も分からないです……」

「これだけ強くしているのに全く感じ取れないとは……魔力を感知する感覚が一切動いてないのでしょうか」


もう少し強くしますよ、とローレン先生が手をかざすと、水晶玉は電球のように眩しい光を放ち始めた。

俺の髪や服が、まるで反重力のようにふわり、と持ち上がる。


……しかし、それでも何も感じない。


「っは〜!ちょっと休憩させてください」


ローレン先生は椅子に腰を下ろし、ハンカチで額の汗を拭った。ルーファムストーンの花茶を一口飲むその様子は、明らかに疲れている。かなりの魔力を使ったのだろう。水晶玉の光がゆっくりと失われていくのを呆然と眺めながら、俺も茶を口にした。


「さっきの、結構強めに魔力を入れたのに全然平気そうですね。普通なら他人の魔力の不快感ですぐ手を離すのに」

「やっぱ俺、才能ないんですかね」

「小指の先ほどもありませんねぇ」

「オブラートォ……」


どうやっても、「魔力を感じる」という感覚が分からない。この世界の人間は、子供の頃から魔力と共に生きてきたのだ。それに比べれば、俺はまだこの世界に来て数週間。言ってしまえば、魔力に関しては赤ちゃん同然だ。


「うーん、別の視点で試してみますかねぇ」


ローレン先生は立ち上がり、薬品棚をガチャガチャと漁り出す。そして、1本の青くて細長い瓶を持ってきた。


「今度は内側から魔力を感じてみましょう。こちらを飲んでみてください」

「これは?」

「マナポーションです。即効性のものを用意したので、飲むとすぐに魔力が回復します。その“回復する感覚”を、感じ取ってみましょう」


なるほど。外からの刺激がダメなら、内側の魔力が増減する感覚を感じ取ろうというのだ。技能を使う時に確かに何かがゴリっと削れるような感覚があるので、これは期待できるかもしれない。


「ちなみに今日はマナポーションは使ってませんか?」

「えっ、使ってないですけど……使ってたらマズイんですか?」

「魔力を無理やり回復させる劇薬ですからねぇ。基本は1日一本までなんですよ」


用法用量を正しくお守りください、というやつだ。

俺は小瓶を開けて一気に飲み干した。

エナドリみたいな味で美味しい。


ーーが。


「どうでしょう?アルノーさん」

「……何にも感じないです」

「えぇっ!?これ結構効力の強いやつなので、内側から魔力がぐわぁ〜と増える感覚があると思うんですが……」

「うーん……なんか、甘くて薬っぽい味で意外と美味しかったです」

「あー……うん……そうですか……美味しかったですか……」


なんとも言えない表情を浮かべたローレン先生は、俺専用の特別訓練メニューが書かれた紙を取り出し、今行った項目に横線を引いて消した。どうやら、完全に失敗らしい。


ローレン先生も、こういう指導は初めてなのだろう。色々と考えてくれているのは分かるが、結果がまるで出ない。魔力を使って技能を発動させるこの世界の人間にとって、「魔力を感じない」という状態そのものが想定外なのだろう。


「ローレン先生、全然関係ない質問いいですか?」

「はい、なんでしょう?」


次の訓練の準備を始めたローレン先生に、俺はここ数日、頭の片隅に引っかかっていた疑問を投げかけた。


「ローレン先生って、職業訓練所の先生やってますよね。収入って、それだけなんですか?」

「おや、まさか私の収入源について聞かれるとは」


2億円とは言わない。

せめて、そろそろ安定した収入が欲しいと思っただけだ。さすがに失礼だっただろうか。


「職業訓練所の収入だけでも結構多いですが、研究者としてはお金はいくらあっても困りませんからねぇ。一応、別の収入源を用意してますよ」

「それって?」

「私の職業効果で恩恵が一番大きい、草木魔法を使ったものが中心ですね」


そういえば、魔法部門と神官部門、両方の先生をやっているが、一体どんな職業なのだろう。

俺の疑問を察したのか、ローレン先生はふふふ、と意味ありげに笑い、「休憩にしましょう」と言ってお菓子を用意してくれた。


フレイムビスキュイだ。


「私は、《森林司祭(ドルイド)》のようなものです。ほかの系統の魔法も使えますが、一番得意なのは草木魔法なのですよ」


森林司祭(ドルイド)》!ゲームとかで聞くやつだ。確かに名前に司祭とあるので、神官系統の魔法も使えるのだろうか。しかし、


「……“のようなもの”?」

「言葉の綾ですよ」


つまり《森林司祭(ドルイド)》ではないということだ。他に草木魔法が得意な職業って、なんだろう?

……農民、じゃないよな?


「基本は草木魔法で茶葉や茶花を栽培し、商人や貴族に卸しています」

「へぇ。確かにこのお茶、凄く美味しいですし、商人にも売れそうですね。先生の自慢の1品って感じですか」

「ふふん、そうなんです。私、お茶には少しうるさくて。王国一お茶を美味しく飲む方法を知っていると自負しております」


えへん、と胸を張る先生は、菓子とお茶のマリアージュを楽しんでいる。確かにフレイムビスキュイとルーファムストーンの花茶の相性は抜群だ。


「ほかにも研究成果を貴族に売ったり、農民さんの畑の様子を見たり、あとは臨時の傭兵とかですかね。お金を稼ぐには、収入源はいくつあってもいいですから」

「傭兵ですか!?ローレン先生、戦えるんですか!?」


この、のほほん、とした雰囲気の先生が!?


「えー、強そうに見えません?」

「すみませんが、ベレー先生と比べると戦うイメージが全く湧かなくて……」

「ベレー先生と比べないでくださいよー。私は後方支援ですよ。神官系統も使えますからね」


つまりは救護担当ということだろう。


「しかし、そんなことを聞くということはやはり生活が苦しいのですか?今、お仕事は何を?」

「ま、まぁ、そうですね……ちょっとした街案内のようなやつですね……」

「技能2つだと雇って貰えそうなところありませんからねぇ。確かにそれはお金に困りそうです」


困っているどころか、野生の山菜を取って売ってるのでその日の収入に大きな振れ幅がある。

収入ゼロの日も少なくはない。


「せっかくのミレアスですし、何か商売を始めては?いらないものを売るとか……」

「いやぁ、俺、質素な生活なんで売るものとかないんですよ。商人になるのも……向いてないと思いますし」


商人と聞くと偽ラディックが脳内にチラついて、あまり乗り気にはなれない。しかもここは商人の聖地“商都ミレアス”。この世界の物の価値を知らない俺が、山千海千の商人達相手に商売など、無謀にも程がある。


「まぁ技能2つでよくここまで生きてこられたという感じですし、いきなり商売は確かに難しいかもしれませんね」

「オブラートォ……」

「ーーさて、休憩はここまでです。次は魔力を吸い出して、魔力の減少を感じてみましょう」

「はい……」


ローレン先生の個人授業も虚しく、本日も俺は魔力を感じ取れなかった。


とほほである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



個人授業の後、俺はまたローレン先生からフレイムビスキュイを土産に貰い、帰路についていた。

だが、頭の中は金策のことでいっぱいだ。


今の収入源は、ほぼユーディア頼み。

正直、いつも「感謝したまえ」と言いながら風呂代を出してくるあいつの世話になり続けるのは、男としてのプライドに関わる。

そろそろ、自由に使える金が欲しい。


とはいえ、どうやって稼ぐか。

俺にとって最優先なのは、職業訓練所で技能を獲得することだ。使える時間は午前中だけ。


最近はユーディアの案内のおかげで、市民街と商業街の一部なら道もだいぶ把握できてきた。


街歩きの時間を減らして、

短時間で稼げる方法はないものか――。


「あっ、アルノー。奇遇だな」


ふと、目の前の壁に寄りかかって立っていた、青髪の女が話しかけてきた。

ひったくり犯ことリナだ。今日は1人らしい。


「奇遇も何も、お前立ってただけだろ」

「たっ、たまたま、立ってたら会えたんだから奇遇なんだよっ」

「俺が通るのを待ってたとか?」

「っ、違うし!」


そうか、本当にたまたまだったのか。

てっきり出待ちされているのかと思った。


ふと、リナの視線が俺の腕のなかのビスキュイに刺さる。


「……今日は2つしか無いんだ。やらないぞ」

「うっ……そんなの、いらないよ!」


リナはそういうが、視線はビスキュイをチラチラ見ている。


……なるほど。

俺がお菓子をあげたせいで、菓子目当てにここで待っていたようだ。妙な女を餌付けしてしまった。


だが、金策でぐるぐる悩んでた俺にとって、ちょうど話し相手がほしかったところだ。


「リナ、お前ん家ってどっち?」

「えっ……えーと……中央通りを東に抜けた郊外だけど」

「そっか。じゃあ、帰り道の方向は俺と一緒だな。途中まで一緒に行かないか?ビスキュイはやらないけど」

「えっ!……し、仕方ないねぇ。これから用事があるんだけど、どうしてもっていうなら付き合ってあげるよ」

「用事があるならいいや」

「ま、待って!嘘!ヒマ!ヒマだから!」


天邪鬼な奴だ。

最初から暇だと言えばいいのに。


「じゃあ行くぞー」


とりあえず、だらだら何か喋って気分転換をしたい。

俺はリナを引き連れて、アジトのある中央通り方面へ向かった。

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