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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【21】マッサージ指南書

「遅い。一体何時だと思っているのだね?」


アジトに帰ると、既に日がとっぷりと暮れていた。本来なら夕食を終えて、文字の練習まで終わらせている時間だ。ローレン先生とのお茶会と、エド達との立ち話で予想以上に遅くなってしまったらしい。

ユーディアは腕を組んでご立腹である。


「【契約回廊】で様子を伺っていたが……あと少し遅ければ様子を見に行く所だったぞ」

「悪い、ローレン先生に色々質問しててさ。…… 先生から【師弟契約】について少し教えてもらってきた」

「ほう、まさかローレン殿が知っていようとは」


興味深そうにユーディアは片眉を上げる。

新情報は聞けたが、その分俺はやらかしている。


「その時に俺、【師弟契約】の“弟子”だって先生に伝えちまってさ……」

「何?」

「【師弟契約】について根掘り葉掘り聞かれそうになった」

「だろうな。非常に珍しい契約だ。魔法の研究者であれば興味がそそられるのも無理はない」

「……悪い。後先考えず、喋って」

「そう思っているなら構わん。ーーローレン殿は信用できそうか?」

「そこは、大丈夫だと思う」


オブラートどっか行っちゃった系だが、生徒想いの優しい先生だ。俺の事も気遣ってくれた。あれで悪人だったなら、俺は人を見る目に自信が無くなる。


ふと、テーブルの上に置かれた鍋を見ると、夕食のスープが少し残っていた。先に食べ終えていたようだ。


「ハッ!しかし、未だにローレン殿の講義に出ていたとはな。魔力の“ま”の字すらおぼつかないくせに、まだ魔法を諦めてなかったのかね?」

「へっ!……そんなことを言っていいのかぁ?せっかく土産を持ってきたのに」


鍋を火にかけてスープを軽く温め直すユーディアに、俺はドヤ顔でお菓子を顔の前に差し出す。


「じゃーん。ローレン先生から菓子貰ってきた。今日のデザートだぞ」

「これは……フレイムビスキュイか?」

「ん?多分?」


炎が出て、ビスケットみたいな香りがしたからきっとそうだと思う。野草に詳しいホームレス怪盗は、その言葉に目を見開く。


「高級品だぞ?これ1つで銀貨5~6枚は飛ぶ」

「は!?」


ローレン先生から結構貰ってきてしまったが、総額小金貨2枚と銀貨5枚になる。俺達にはとんでもない贅沢品だ。


「そんなに高いのか……今度ローレン先生にお礼言わないとな……」

「まったくだ。だがしかし、せっかくの菓子だからな。馳走させてもらおう」

「俺にも感謝してくれよ?」

「フン、私の文字の練習をサボったのだから、これでトントンだろう」


その割には嬉しそうだ。

貧乏怪盗にはなかなか口にできない贅沢品だからか、少しニヤついている。

少し温め直したスープがテーブルに置かれ、俺は席について「いただきます」と手を合わせる。


残飯スープを啜りながら、ユーディアにローレン先生から聞いてきたことを共有した。【師弟契約】には、師にも恩恵がある、などの新情報をだ。


「師に恩恵?」


俺の新情報にユーディアは、きょとん、とした顔をしている。


「知らないのか?」

「……本当に恩恵があるのならば、私は嬉々としてこれから領主邸に忍び込みに行っている」

「確かに……。じゃあ、【師弟契約】について、俺に言ったことはアレで全部か?」


ユーディアは目を逸らす。

やはりコイツは報連相が出来ていない。

前科2犯だ。


テーブルに置いてあるフレイムビスキュイを、つつつ……とユーディアから奪い取ろうとすると、ハシッ!とユーディアはそれを掴んで自分の元に引き戻そうとする。


「……腹が軽くならないと、デザートは重くて食えないよなぁ?」

「デザートは別腹だと言うだろう?」

「吐けやコラァ」


ビスキュイをお互いに引っ張り睨み合う。そのうち観念したのか、嫌々話し始めた。


「【師弟契約】の弟子には、ちゃんとした恩恵がある。師匠の流派だけではなく、近い系統の技能まで授かりやすくなるのだ。アルノー君なら、怪盗、盗賊、斥候、暗殺者、諜報系統などだ」

「全部、後暗い系統じゃんか」


出来れば真っ当な系統の技能がほしい。

そっちに補正をつけて欲しかった。


「で、師匠側には何かないのか?本当に【契約回廊】の魔力を消費するだけか?」

「……一応は、ある。だが、私には全く恩恵は無いぞ」


そう言って、ユーディアはなんて事ない風に話し出す。


「【師弟契約】の師は、弟子の持つ《基本技能》を扱えるようになるのだ」

「は?いや、それ、かなりの恩恵じゃね!?」


やっぱりコイツ黙ってやがった。

技能の質の良さや技能の数などで優劣のつく世界だ。契約ひとつで相手の技能をつかえるようになるのなら、その恩恵はかなりデカイ。


……けど、それだけか?

それだけが師匠の“恩恵”?


「他に吐いてないことはないだろうなぁ?」

「本当に、これ以上は逆立ちしても何も出てこない」

「本当かぁ?ジャンプしてみるかぁ?」

「飛んでも跳ねても、本当にこれ以上私は何も知らないのだ」


それに、とユーディアは続ける。


「この恩恵も、私には無意味だ。《基本技能》0個のバカ弟子が相手では、契約損にも程がある」

「お、あそこに美味そうなビスキュイが……」

「えぇい!私を菓子で弄ぶな!小僧!」


ユーディアは怪盗らしい速度で自分のビスキュイを確保し、もきゅもきゅと食べ始める。


スープを食べ終えた俺もデザートのビスキュイを齧りながら、色々と思考を巡らせていた。


ーー《基本技能》は、機会と才能があれば、誰でも取れるものだ。そのせいか、職業同定に関わってくる《基幹技能》よりも効果や質が低いらしい。

他人の《基本技能》を使えるようになったとしても、自分の最大魔力量が【契約回廊】維持に持っていかれることを考えると、そこまでぶっこわれた契約だとは思えない。

……何故、昔の人はそんな契約を行っていた?


「……やめやめ。分からないことを考えても仕方ない」


俺は気分を変える為に、リナから貰ったマッサージ指南書をパラパラと捲ってみた。


「む?その本は?」


最近、簡易講義のテキストを読み進めているせいか、本に興味津々のユーディアが俺の所にやってきた。


「この前のひったくり犯に、助けた礼としてもらった。ーー表紙の文字、読めるか?」

「ふむ……『サルでも分かる!初めてのマッサージ指南書』か?はっはっは!お猿な君にピッタリではないか!」

「正解だけど、ぶちのめすぞコラァ」


くっそ、後で覚えてろよ。

俺を嘲笑って満足したユーディアが横から覗き込んでくる。しかし、文字がびっしりの本を見て、眉をひそめた。


「ふむ……図はなんとなく分かるが、文字が難しくて読めん」

「これは“肩こり解消指圧法”って読むんだよ」

「ほう、それはいい。弟子よ、ここはひとつ師を労ってはみないか?」

「代金は1回につき銀貨1枚になりまーす」

「このぼったくりめ」


早々に諦め、ユーディアは皿と鍋を洗いに行った。

俺は続きを読み進める。


「ふむふむ……血行促進のツボ……老廃物の排出マッサージ……浮腫み軽減……魔力疲労改善……」


パッと見、普通のマッサージ本だ。

強いて言うなら、魔力の不調改善についてのツボや、人間以外の獣人などの身体の構造が図解で記載されている。


案外普通の本だったな。何が裏稼業だ。

パタン、と本を閉じて机の上に放る。

ちぇっ。ちょっとは期待したのに。


その時ーー


「……あれ?」


本のページが、少し浮いてるように感じた。

分厚くて、空気が入っているような……そう、例えば、


「ーー袋とじ?」


俺はもう一度、本を手に取る。

ページを捲り、手を滑らせる。

……少しだけ、分厚い。まるで紙を2枚繋げたような、そんな感じだ。


俺は慎重にページの端を爪で引っ掻く。


ーーぺらり、と紙が捲れ、内側が見える。


それを見て、俺は一瞬で察した。


「ーーこれ、暗殺者の指南書だ」


内側のページには、人体の急所や構造、魔力がどのように流れているか、どこをどう衝撃を与えると一撃で倒せるのか、詳細に記載されていた。


確かにこんなもの、フルオープンで書店には並べられない。バレないようにマッサージ本に装って、販売しているのだ。


ページを光に透かすと、マッサージで押す部分と、暗殺に使える急所の部分が同時に確認できる。

リナはとんでもないものを渡してくれやがった。


……しかし、俺には身を守る術がない。

攻撃は最大の防御とも言う。

さすがに暗殺はやりたくはないが、最小限の攻撃で最大限の効果を得るには、人体の急所を知っておいて損はないかもしれない。


俺はまず、人体のページから読み込むことにした。


「……随分と熱心に読んでいるではないか。そんなに面白いのか?」


戻ってきたユーディアが、本を読む俺を見て少し驚いている。


……正直、読んでるだけでは「ふーん」で終わる。

ここはやはり、実践で覚えるしかない。


「ーーなぁ、師匠?」


俺は、ターゲットに向かって“竹田くんスマイル”を向けた。


「やっぱり、師匠にはいつもお世話になってるからさ。弟子として、たまには労わせてくれよ」

「……さっきと言ってることが違うが?」


不気味な妖怪を見つけたような顔でそう言われるが、俺はニコニコと気にしてない風で微笑む。


「さっきはさっき、今は今だろ?ちなみに、今ならタダでやってやるよ。明日からは有料になるかもだけどさ?」

「タダ……」


貧乏性怪盗は、“タダ”という魔法の言葉に弱いらしい。しばらく悩んだ後、「仕方ない」と頷いてくれた。

よし。


「じゃあ、そこにうつ伏せになってくれ」


俺は自分のベットにユーディアを寝かせる。

マッサージ本を置くところが無かったので、ユーディアの頭に乗せておいた。


「おい。師を労うと言いながら、師の頭に物を置くな」

「まぁまぁ。初めてだから本を見ながらじゃないと出来ないんだよ。大目に見てくれ、師匠」

「見れんわ、馬鹿者」


さて。

まずは肩こり解消のツボを押してみる。


「む……」


なかなか気持ちがいいらしく、頭に乗ってる本について言及しなくなった。

次に、血行促進のツボ。


「むぅ……」


目を閉じて身を委ね、じっくりとツボを押されている。

かなりいい感じだ。


ではここで、

魔力の巡りを良くする代わりに、

全身の魔力がしなって激痛を引き起こすーー


ーー暗殺指南書秘伝【激震ツボ】。


ギュッ


「ッだぁぁあああああああ!?!?!?」


海老反りになり、足をバタバタさせて逃げようとする師匠。それを俺は、上からガッ!と押さえる。


「ほらほら、動かない動かない」

「っ〜!ま、待て!今のは何だ!?」

「ツボですよ、お客さん。いやぁ、凝ってますねぇ」


ギュッ


「ッがァァあああああああああ!!!!!」


逃れようとする師匠に組み付き、俺はどんどんツボを試していく。


【断絶ツボ】【烈痛ツボ】【破砕ツボ】ーー


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」


どれも暗器などで刺せば一撃で相手を無力化出来る、人体の急所だ。しかし、体の魔力や血流が滞りやすい箇所でもあるので、普通にマッサージをすると激痛が走る代わりに身体の調子がめちゃくちゃ良くなる。


これは単に実験ではない。

ちゃんと身体の調子が良くなるので、紛うことなき師匠孝行である。


「はい、お疲れさん」


腕が疲れてきたのでマッサージを止めたが、ユーディアはうつ伏せのまま動かない。


「どうよ?血行促進、魔力促進、気力回復、肩こり解消……効果のほどは?」

「小僧……」


ユーディアは汗びっしょりの顔を、俺に向けた。


「効果は抜群だが…………二度とするな…………」

「考えとくわ」


その日。

ユーディアが動けなかった為、怪盗訓練は中止となった。

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