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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【20】リナ

空が茜色に染まる夕暮れ時。

俺はホクホク顔で、職業訓練所を後にしていた。


厚かましくもローレン先生にお菓子のおかわりをお願いしたところ、なんと5つも貰ってしまった。

いつもよりも遅い帰宅になるが、ユーディアに土産を持っていってやるのだ。文句は言わせまい。

そこそこデカイので、両腕に抱えて足取り軽く帰路につく。


その時、


「あれ!アルノー兄ちゃん!」

「アルノーおにーちゃん、こんばんは!」


久しぶりに聞く声の方へ視線を向けると、エドとユノが手を振っていた。何日ぶりだろうか。なかなか会えなかったから、職業訓練所に来ていないのかと思っていた。2人に近づくと、ふと彼らの背後に、1人の女性が立っていることに気がついた。


春先だというのに、短パンにへそ出しファッションの、ザ・盗賊みたいな人だ。金色の目に、青い髪を後ろでまとめていて、全体的にスタイリッシュに見える。


「あんた!やっと会えたよ!」


つかつかを突然距離を詰められ、俺は2、3歩下がる。

近くに来て、ようやくコイツの正体が分かった。


「あれ、お前、あの時のひったくり犯?」

「しぃっー!!」


俺の口をガバッ!と片手で押さえて、チラリ……とエドとユノに視線を送る。エド達は頭にハテナを浮かべているので、どうやら聞こえなかったようだ。


確かこのひったくり犯、エドとユノの姉貴で、2人が職業訓練所へ行くための金を出した人だったか。


「何?お前、ひったくりのこと秘密にもごもごもご」

「しぃーって言ってんだろ!空気読めよ!」


俺の口を両手で押さえるひったくり犯。

息苦しい。しかし両腕が塞がっているので、反抗出来ない。


「アルノー兄ちゃん、やっと会えたな!」

「じかん、あわなくって、さみしかったよ」

「ふがふが」


手をどけろ、と目線で訴えるが、ひったくり犯は「まだ言うつもりか?」とジト目だ。

言わない、言わない、と首を横に振る。

そこでやっと手を離してくれた。


「エド、ユノ、久しぶり。技能の方はどうだ?」

「まだまだ全然だよ。でも、ユノは基本技能《剣術》を覚えたんだぜ!」

「えっ、そうなのか?まだ2週間も経ってないだろ?」


確か10年をかけて、平民が獲得できる技能は6~7個。約1年とちょっとで、技能1つ授かるのが一般的なペースだ。それを2週間ってことは、ユノはとんでもない才能の持ち主なのかもしれない。


「ユノ、おめでとう!やったな!」

「えへへ、アルノーおにーちゃんに会いたくてね、たくさん通ってたら、もらえたの〜」


俺に会いたくて??なんて可愛い……!

こういう妹が俺も欲しかったなぁ。


既にたくさんの人に褒められた後らしく、ユノはえへへと照れ笑いをする。その顔につられて、俺も顔が緩んでしまった。


「俺に会いたくてなんて嬉しいなぁ。俺もユノに会いたかったぞ〜」

「えへへ〜。あとねあとね〜、おねーちゃんが会いたいって言ってたから、ユノ、おにーちゃん探すのおてつだいしてたんだ〜」

「ちょ、ユノ!」


慌てた様子で、おねーちゃんとやらはユノを見る。

しかし、ユノちゃんはにっこりと笑い教えてくれる。


「おねーちゃんね、アルノーおにーちゃんに会いたくて、ずっと【せせらぎてい】のまわり、あるいてたんだよー」

「へーそうなのか?おねーちゃん」

「お、お前がおねーちゃん言うな!」


たじたじなおねーちゃんとやらは、こほん、と咳払いをし、俺に向き直った。


「リナだ。……あんたには、その、色々感謝してる。あの事だけじゃなくて……サンドイッチも、凄く美味しかった。犯罪数値が高い、見ず知らずのあたしに……あんなに良くしてもらったの、初めてでさ」


もごもごと、照れくさそうにリナは俺を見た。


「直接礼が言いたくて、ずっと探してたんだ」


リナの話を聞くと、どうやら俺に会うべく中央通りをずっと彷徨っていたらしい。確かにあそこはアジトの近くだが、最近はそっち方面には行ってなかった。タイミングが合わなかったようだ。

エドとユノは午前に仕事が無い時だけ職業訓練所に行き、午後は毎日仕事らしい。俺のライフスタイルと全くの真逆でなかなか会えなかったのも頷ける。


……良かった、馬乗りになったことを言及されなかったということは、俺のサンドイッチ賄賂でちゃんとセクハラの件は水に流してくれたようだ。


「でさ!ユノが技能を授かったからさ!先生達みんなに報告するために、講義が終わる夕方に姉貴やユノと一緒にここに来たら、偶然アルノー兄ちゃんに会えたってわけ!」

「ユノのおかげだよ〜」


エドとユノは仲良く胸を張る。微笑ましい。

リナは俺に一歩近づき、チラチラと俺を見る。


「なぁ、これも何かの縁だしさ……あたしも、アルノー……って呼んでいい?」

「いいよ。じゃ、こっちは……姉貴?」

「な、なんでさ!名前で呼んでくれよ!」

「リナの姉貴?」

「姉貴は取れ!」

「リナね、はいはい」

「な、なんなのさ、あんた……」

「じゃあ、会えてよかったよ。気をつけて帰れよ〜」

「ちょちょちょ、待ってよ!お礼をしに来たって言っただろっ!挨拶して終わりじゃないよ!待ってって!」


随分と反応の面白い人だ。弄りがいがある。


「エドとユノから聞いたよ。アルノー。あんた、技能を授かりたいんだろ?」

「なんだ?手とり足とり教えてくれるのか?」

「バッカ!違うよもうっ!これ!これあげるって言ってんの!」


おもしれー女である。

そんな風に思っていると、リナは服の後ろから、1冊の本を取り出した。どこに入れてんだ?短パンに入れてたのか?


「なにそれ?」

「職業訓練所じゃ身につかない、裏稼業の指南書だよ。市場じゃそこそこレアなんだ。あたしが持ってる中で、一番質のいいやつを持ってきてやった」


差し出された本を受け取る。

表紙には、『サルでも分かる!初めてのマッサージ指南書』と書いてある。


「……生暖かい」

「言うなッ!」


ぺしっと頭を叩かれるが、そこまで痛くない。

リナは打てば欲しい反応を返してくれるおもちゃのようで、大変楽しい。

俺が愉悦を感じてると、ユノがスンスンと俺の近くで匂いをかぐ。


「アルノーおにーちゃん、なんだか甘いにおいするね?」

「ん?あー、これだよ」


俺は謎の魔法お菓子をユノに一つ渡す。


「魔法使いのお菓子だ。食ってみろよ」

「いいの?」

「将来、お菓子屋さんになるんだろ?こういうの作ってくれたら、俺買いに行くからさ」

「わぁい!」


ユノちゃんはサクサクと食べ始める。


「あっまぁーい!」


顔が花咲くようにほころぶ。

甘味は貴重だからな、食えた時の感動たるや、ひとしおだ。


「エド、お前もほら」

「いいのか?やったー!」


エドもお菓子を貰えてご満悦だ。ユノと一緒に、早速頬張っている。


さて。


俺は、何かを期待するような目で見てくるリナへ、振り返る。


「……リナは大人だしな〜」

「えっ」

「お菓子とか〜そんなの、要らないかぁ〜」

「えっと、いや……あたし……」

「あと3つしかないし〜」

「うぅ……」

「じゃ、俺はこの辺で帰ろっかなぁ〜」

「〜っ!!」


顔を赤らめ、物欲しそうに睨みつけてくるリナは、「欲しい」の言葉が口から出ない。

そのまま俯き、プルプルと震える。

その姿をみて満足した俺は、リナの頭へ、ポスッとお菓子を置いた。


「えっ」

「そんな意地張んなくても、欲しいって言えばやるっての」


確か女の子は、お砂糖とスパイスと素敵なもので出来ているのだ。遊ばせてもらったお礼として、お砂糖で補填をさせてもらおう。


「ーーいいの?」

「あ?いらねぇの?」

「い、いるっ!」

「じゃあ、聞くなって」


リナはお菓子を受け取ると、嬉しそうにそれを見つめる。やはり、女の子のご機嫌を取るには甘いものなのだ。


「まぁ、せっかくだし、この本は貰っていくわ。ありがとな」

「うん!お菓子、ありがとう!アルノーおにーちゃん!」

「甘くて美味しかった!ありがとな!技能取得、お互いにがんばろーぜ!アルノー兄ちゃん!」

「あぁ、またな」


俺が背を向けると、リナが声をかけてきた。


「ーーあのさ!………………お菓子……あり、がと……」

「あぁ?聞こえねぇーなぁー?もう1回!」

「っ!!もぉーー!言わないっ!」


プイッと顔を背けるリナ。

やっぱおもしれー女である。


俺は3人に手を振りながら、アジトに戻った。

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