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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【序章】かくして異世界に来たりけり

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【3】怪盗騒動

まずい。

まずいまずいまずい。


ついさっきまで話していたラディックさんの顔が、脳裏に浮かぶ。

あの指輪がなければ――俺は帰れない。


「返せ!この泥棒!」


飛びかかった瞬間、また男の姿が消えた。


「泥棒とは心外だな。私は金ではなく、美を盗むのだから」


再び、背後。


振り向けば、男はいつの間にか窓辺に立っている。


「さて、若き領主よ。今宵は少々物足りなかったが、楽しませてもらった」


もう一度、男に飛びかかる。


ーー煙のように、男は消える。


すぐに背後から声が聞こえた。


「別れの挨拶代わりに、我が名を記憶に刻んでおくといい」


意味不明な台詞。

俺は、もう一度男に飛びかかった。


――また、消える。


「我が名は怪盗ユー……」

「そぉいっ!」

「ディアぐふぅッ!?」


後ろ足で、思いきり蹴り上げた。

手応え、あり。


振り向くと、黒衣の男――怪盗が腹を押さえ、苦しそうに床にうずくまっていた。

その傍らには、青い光を反射する指輪。


妖精王の気まぐれ(チェンジリング)》。


俺はそれを拾い、すぐに指にはめる。


……こいつ、バカか?

背後ばかり取るから、試しに蹴っただけなのに。


縛ろうにも、部屋の中にはロープがない。

仕方なく、誰かを呼ぶことにした。


部屋の唯一の扉を開けてみる。

横長の建物なのか、左右に続く長い廊下には誰も居ない。


「すみませーん!誰か――」


数秒後、複数の足音と共に現れたのは、軽装の鎧を着た数人の衛兵だった。


「あの、俺はラディックさんの客人で――」

「出たぞっ!()()()()()()()だっ!!」


……は?


「違う!俺は――」

「上下黒尽くめの異国の装束……間違いないっ!」


もしや、このリクルートスーツのことか?


衛兵の後ろから、今度はちょび髭の男が現れる。

豪華な身なりからして、衛兵より明らかに立場が上だ。


「盗っ人め……一体どこから入った?」


「違うっての!怪盗ならーー」


「衛兵ッ!そいつを捕えよ!」

「ハッ!」


「いやいやいやいや!?」


意味が分からない。

弁解の機会もない。


――やばい。


俺はすぐさま指輪をつけた手を握り、強く願った。

帰りたい、と。


……何も起こらない。


視線を落とす。

中指にあるはずの指輪が、()()


「……まさか」


部屋の中を振り返る。


月明かりの中、腹を押さえながらゆらりと立ち上がる怪盗。

その手には――メタリックブルーの指輪。


「お前……」

「ゔぇほっ……ははは。予告通り、宝は頂いていく」


怪盗はマントを翻し、窓から飛び出した。


慌てて窓辺に駆け寄る。

落ちたはずの怪盗が、眼下でふわりと浮き上がる。

信じられないが、奴は空を飛んで逃げるつもりだ。


前には指輪を奪って逃げる怪盗。

後ろには、俺を捕えようとする衛兵。


……詰んでる。


昔、貴族に手を出した場合、冤罪でも死刑になるとどこかで見た気がする。成否はともかく、今死ぬか、後で死ぬかの2択だ。


なら、とーー俺は、窓枠に足をかけた。


「どりゃあああ!!」


一か八か。

怪盗に向かって、飛びついた。


間一髪、飛んでいた怪盗の足首を掴む。


「なっ!?何を――」

「うるせぇ!指輪返せ!」

「この“技能”は一人用だ!二人は――」


怪盗の上昇が止まり、途端、急降下が始まる。


眼下には祭りの広場が、迫ってきていた。

落下先には、壇上。

そして人影。


このままじゃ、巻き添えが出る。

いやそれどこか、


――死ぬ。


その瞬間、脳裏に浮かんだのは――

月を背に、窓辺に降り立った怪盗の姿。


この世界には、空を飛ぶ力がある。


もし俺に、本当に“才能”があるなら――

今しかない。


俺は、怪盗を掴んだまま、

あの瞬間を、必死に思い描いた。


鳥のように空を舞う、

黒衣の怪盗の姿を。


――――カチリ。


胸の奥で、

何かが噛み合う。


今、

確かに、

ハマった。


次の瞬間、俺達は広場の壇上に叩きつけられた。


――――――――――――――――――


ハッと気がつくと、周囲は壇上の残骸と土煙に囲まれていた。

遠くから聞こえる悲鳴。怒号。


慌てて体を起こす。……どこも痛くない。

他に怪我した人も居なかったようだ。


怪盗は、いつの間にか消えていた。

俺より先に気が付いて逃げたのか。

ーー()()()()()()


服の汚れを叩き落とし、立ち上がる。

土煙が晴れるにつれ、大勢の視線が俺に集まってきた。


人々が俺を指さし、何かを叫んでいる。

剣や槍を構えた警備隊が、あれよあれよという間に集結してきた。


その光景を見て、


俺は……


ーーーー胸の奥から、心地よい熱が込み上げるのを感じていた。


あぁ、皆が俺を見ている!

恐れている!

怒り狂っている!!


それはまるで、

パーティの主賓を取り囲む野次馬達のようだ。


高らかに、俺は挨拶をする。


「楽しそうな催しをしていた為、

 思わず空より失礼させていただいた。

 皆々様、ごきげんよう!」


恭しく一礼。


周囲は理解が追いついていないのか、

誰もが目を見開いたまま固まっている。


――そうだ。

その眼で、私を見てくれ。


衛兵の数人が、遅れて剣を向ける。


おお、遅い。


一歩、踏み出す。

次の瞬間には、彼らの背後だ。


驚愕、そして混乱。

振り返る顔、顔、顔。


そう!

その表情が見たいのだよ!


思わず、笑いがこぼれた。


「は、ははは……

 ハハハハハ!!」


愉快!

痛快!

なんと楽しい!


世界が、眩しいほどに輝いて見える。


すれ違いざま、手のひらをくるり。


ほら、君の剣はここ。

君の槍は、そこだ。


武器を花瓶に突き立て、

美しく飾ってやる。


おお、まだ居たのかね?


さぁ来たまえ!

捕まえてみるがいい!


四方から、隙間なく詰め寄る衛兵達。

――まだ早い。


武器が当たる、

その寸前。


私は、空へと舞い上がった。


下でぶつかる金属音。


残念!

ハズレだ!


空から見下ろす祭りは、大混乱。

指差され、叫ばれ、

無数の視線が、私を撫でる。


あぁ、素晴らしい!


近くの、がらんどうになった机へと降り立ち、

心のままに叫んだ。


「遠からん者は音にも聞け!

 近くば寄って、目にも見よ!

 我が名は――()()()()()()……」


…………あ?


――何を言っている。


私?

いや、俺だ。


夢を見ていたような感覚が、

急に引き剥がされる。


すっぽりと、

何かが抜け落ちた。


――俺、今……何を言いかけた?


混ざり合う意識の中、

突如、それは起きた。


ぽたり。


「……へ?」


鼻から、赤い雫が落ちる。


次の瞬間、

体の内側がひっくり返るような不快感。


崩れ落ち、机からも転げ落ちる。

体を支えきれず、地面に突っ伏した。


暑くて、寒くて、

全身に鳥肌が立つ。


「……な゛に゛、こ゛れ゛ぇ……」


やってきた人達に乱暴に取り押さえられ、

顔を地面に押し付けられる。


抵抗する力もない。


テレビの電源を切るように、

俺の意識は、そこで途切れた。

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