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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【19】世界契約

「世界契約?」

「正確には、“世界干渉規模契約”、略して世界契約です」


なんだか、すごいスケールのデカイ名前である。


「世界契約とは、通常の契約関係とは異なり、世界の“理”に干渉するものです。人と“契約対象”との間で交わされる一般的な契約とは性質が違います。どちらかと言えば、神々より与えられる“技能”に近いものですね」

「はぁ……?」

「簡単に言うと、《定理技能》のようなものです。世界の仕組みそのものを、“前提”として扱う力、と考えてください」

「???」


必殺技みたいなってことか?

うーん分からん。

これ以上突っ込むと余計に混乱しそうなので、俺は黙って続きを促す。


「辛うじて残っている文献によれば、【師弟契約】は古代都市で行われていた儀式の1つだったようです。師と弟子は、通常の魔術では得られない特別な“繋がり”を持ち、お互いに互助関係にあった、と」

「互助関係……お互いに、助け合うってことです?」


俺は首を傾げた。

どう考えても、今の俺は師であるユーディアの助けになるような事は何もしていない。強いて言うなら、文字の練習くらいだ。


「……あの、【師弟契約】って、解除方法とかあるんですか?」

「えっ?」


ローレン先生は、少し意外そうに目を瞬かせた。


「……【師弟契約】は、どちらかと言えば永続を前提に結ばれていたものですね」

「は?」

「師弟とは言いますが、実際は契約によって得られる恩恵が非常に大きく、それを目的にして結ばれることも多かったようです」


恩恵?

そんなもの、俺は知らない。


「文献には、晩年で引退していた師が、再び戦場に立つために弟子の力を借りた、という記述もありました。時間と労力をかけて結ぶ世界契約を、わざわざ解除する者はほとんどいなかったのでしょう」


ユーディアから聞いていた話と、全然違う。


アイツは以前にも師弟契約を体験している。

なら、師側のメリットを知らないはずがない。

なのに――俺は、そんな話を一度も聞いていない。


「本来は、弟子を育て、技能を継承させるための契約でした。しかし、その恩恵の大きさゆえに、目的は歪んでいきました」

「歪んだ……?」

「弟子を育てるのではなく、師がより強くなるために一方的に契約を結ばせる――そんな搾取目的の契約も行われていたようです」


ローレン先生は、少しだけ表情を曇らせた。


「それを嘆いた神々は、人々から【師弟契約】を取り上げた、と記されています。本来の目的――継承と育成が、完全に失われてしまったからでしょう」

「……取り上げた、ですか」


なら、どうして俺は――?


「私が知っているのは、この程度です。質問にはお答えできると思っていたのですが……あまりお力になれず、すみません」

「いえ。すごく、有益な話でした」


むしろ、聞けてよかった。


帰ったら、ユーディアに聞こう。

アイツは報連相を怠った前科がある。

まだ何か隠していることがあるかもしれない。


「それにしても……【師弟契約】をよくご存じでしたね。王都で古代史を専攻している方でも、知らない方は多いですよ」

「い、いや……たまたま、調べてて」

「それにしては、随分と真剣なご様子でしたが……」


ローレン先生は、カチャリ、とカップを置いた。

エドに似た、好奇心に満ちた瞳が、まっすぐに俺を捉える。


「アルノーさん。どうして、そこまで【師弟契約】をお調べになっているのですか?」


ドキリ、と胸が跳ねる。


異世界人だと知られたら、何が起きるか分からない世界だ。

それに、【師弟契約】がもし禁忌に近いものなら、下手なことを言えば厄介な立場に追い込まれるかもしれない。


――でも。


ここまで親身になって話を聞いてくれた相手に、何も言わないのは不誠実だ。


「……他言無用で、お願いできますか?」

「もちろん。生徒の悩みに耳を傾けるのも、教師の務めです。決して、他の方には話しません」


その言葉を信じることにした。


俺は、一度だけ深く息を吸い――口を開く。


「実は……俺、偶然【師弟契約】の“弟子”になっちゃったんです」


その言葉を聞いて、

ローレン先生はにこりと微笑み――


「……………………はい?」


まるでNow Loading中かのような顔をした後、ようやく声を絞り出した。


「で、でで、弟子!?ですか!?【師弟契約】の!?」


ガタガタガタッ!

勢いよく立ち上がったローレン先生は、机を回り込み、俺の顔へグイッと迫ってきた。


その圧に気圧され、花茶を飲もうとした俺は、口ではなく机にお茶をサービスしてしまった。


「は、はい」

「ど、どうやって!?いえ、それ以前に、本当ですか!?先生、嘘つきは嫌いですからね!?」

「本当です!本当だから困ってるんです!」


俺がそう言うと、ローレン先生は椅子に座っていられないのか、机の周りをうろうろと歩き回り始めた。


「本当に……?あの文献は世迷いごとではなく事実……?だとすれば、古代史の不可解な点がいくつも……いえ、それどころではありません。現代に技法を再現できれば、アーヴァンテール王国の国力は――四カ国の均衡が……しかし世界契約は……」


後半は早口すぎて、ほとんど聞き取れなかった。

とにかく、とんでもない衝撃だったらしい。


……これ、あれだよな。


――俺、なんかやっちゃいました?


「お、おち、落ち着いてください、アルノーさん」

「ローレン先生が落ち着いてください」

「あっ……そ、そうでした。失礼。年甲斐もなく、はしゃいでしまいました」


ハンカチで額の汗を拭い、ローレン先生はようやく椅子に腰を下ろす。


「……あの、アルノーさん。大変恐縮なのですが、私の技能で、その話が事実か確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「そんなことが出来る技能をお持ちなんですか?」


少し気まずそうな表情を見るに、あまり使いたくない類の技能らしい。


「《情報看破》という神官系統の技能です。神殿で行う“職業同定”の際に見える情報が、私にも視認できるようになります」


つまり、俺が《職業:見習い怪盗》であり、“技能二つのカス”だと一瞬でバレるわけだ。

これは非常にマズイ。

今度は俺の額に汗が浮かぶ。ハンカチが欲しい。


「お見せできるほど技能は無くて……」

「技能の詳細までは見ません。あなたの技能の数に関して、決して他言しないと神に誓います」

「職業も、見せたくないんですけど……」

「見ないように魔力の出力を絞って、細心の注意を払って確認いたします。……無礼なお願いだとは承知していますが、どうか」


祈るように手を組まれてしまった。

……非常に困るが、俺はこういう押しに弱い。


「……分かりました」

「ありがとうございます!」


ガッと手を掴まれ、ぶんぶんと上下に振られる。

ローレン先生がここまで喜ぶ姿は、初めて見た。


「けど、職業は絶対に見せたくないので、ホントよろしくお願いしますよ」

「もちろんです。技能も職業も文字が見えないように魔力を調整します。さすがに、輪郭だけは分かるので技能数は分かってしまいますが……ご了承いただけると……」

「分かりましたよ」


これはもう仕方ない。

こっそり技能を使えば良かったのに、わざわざ俺に確認をしてくれたのだ。

ローレン先生のその誠実な態度に、俺は頷いた。


「では……行きます。《情報看破》」


両手の親指と人差し指で四角を作り、カメラのフレームのように俺を覗き込む。

次の瞬間、目を見開いた。


「……は、はわ……はわわわ……本当に【師弟契約】“弟子”ですね……!」


先生、はわわわ、って言うのか……。

あまりに取り乱しているせいか、逆に俺は冷静だった。


「よ、よろしければ契約技法の詳細を……いえ、その前に、あなたの“師”の方とお話を――」

「いや……それは無理です」


思った以上の食いつきだった。

ユーディアなら、確かに正しい【師弟契約】の締結方法を知っているだろう。

ーーけれど、それは彼にとって大切な“思い出”だ。

俺、ほんとにやっちゃったな……。


「俺から話したのに申し訳ありません。でも、簡単に口にできるものじゃないんです。師匠……友人にとっても軽いものじゃないので」

「……っ、そう、ですよね。こんなの、簡単に話せる内容ではありませんよね。申し訳ありません」


ローレン先生は深く息を吐き、椅子にもたれかかった。


「……あなたが相談した相手が、私でよかった。王都の能無し学者先生達に知られていたら、厄介なことになっていましたよ」

「先生の反応を見て、俺も軽率だったと反省してます。すみません」


……あまりに考え無しだった。誠実さを見せる為とはいえ、下手をすれば、俺はまたユーディアを傷つけてしまう所だったのだ。

後でちゃんと、アイツにも謝っておこう。


「……事情は分かりました。しかし、それなら何故職業訓練所に?あなたの技能は引くほど少ないですが、今のお話的に【師弟契約】の解除について、何かのとっかかりが、ここに?」

「先生オブラート……いえ、そのですね……」


俺は異世界人であることを伏せ、ざっくりとこれまでのことをマイルドに伝えた。

【師弟契約】解除の為に、職業訓練所へ来たことをだ。


「なるほど……理論上、あなたの考えで解除できる可能性は……無くはありません」

「ホントですか!」


魔法使いのお墨付きである。

希望が見えてきた。

俺が小さくガッツポーズをしていると、ローレン先生がずいッと身を乗り出してきた。


「アルノーさん。よろしければ、お手伝いさせてください」

「えっ」

「興味が湧いたんです。他流派の技能取得が、世界契約にどう影響するのか……非常に魅力的です」


魔法使いの研究者らしき、キラキラとした目だ。


「私はあなたの師にはなれません。ですが教師です。生徒の重大な秘密を知ってしまった責任は、取らせてください」

「言っておきますけど、【師弟契約】については何を聞かれても答えませんよ?」

「無論です。むしろ、先程は無理強いしてしまい……配慮が足りず、すみませんでした。この事は決して他言しません。ーー私は純粋に、アルノーさんに新たな技能が与えられることを願っているのです」


ローレン先生はようやくいつものように朗らかに微笑んだ。


「どうでしょう?お互いの講義後、もし時間が取れれば、私の部屋で個人授業でもいかがですか?お茶を飲みながら、ね?」

「え!?仕事後なのにいいんですか!?」

「えぇ。例え才能のないアルノーさんでも、多少の魔力感知が出来るよう、お手伝いしますよ」

「オブラート!じゃなくて……ローレン先生!ありがとうございます!」


俺は立ち上がり、頭を深々と下げる。

魔法を使うのは憧れだったのだ。

それがもしかすると叶うかもしれない。


……ローレン先生に話せて良かった。

なんとなくだが、この人は信用できると思う。


そうこうしているうちに、カーン……と職業訓練所の閉館の鐘が鳴る。


「おや、もうこんな時間でしたか。また明日、お待ちしております。他にも何か相談したいことがあれば、いつでもお話を伺いますよ」

「はい、よろしくお願いします」


俺は立ち上がり、頭を下げ、部屋を出ようとドアノブに手を伸ばした所でーーくるり、とローレン先生に振り返った。


「……あの、さっきのお菓子、もうちょっと貰えませんか?」

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