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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【18】ローレン先生とのお茶会

あれから更に数日が過ぎた。

俺は今日も、職業訓練所に来ていた。



「まだまだァッ! あとッ! 10回追加ァッ!」

「は、はひぃ……」


腕立て伏せする俺の背に、ベレー先生がノシッ……と乗っかる。


「ムリムリムリムリっ!」

「無理じゃなぁぁあいッ!自分を越えろッ!限界を越えろッ!」

「腕もげるぅ……ッ!」


べシャッ!と俺は地面に倒れ込む。

ベレー先生の下敷きになり、カエルが潰れたような声が俺の喉から零れた。


「ぐぇっ……」

「立てぇッ!アルノーッ!」

「ム、ムリれす……」

「諦めるなぁぁあッ!君にはッ!一体ッ!何があるッ!?」

「ムリれす……」

「技能が無くともッ!腕があるッ!」

「ムリ……」

「魔力が無くともッ!足があるッ!」

「あの、どいて……」

「魂を燃やせッ!命を燃やせッ!」

「あの……」

「立てぇッーーー!!!!!」


ベレー先生は頭まで筋肉で出来ていると風の噂で聞いたことがある。

確かに、言葉が通じている気がしない。


耳元で叫ばれながら、俺はベレー先生の講義が0人である理由を、身をもって知った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はい皆さん、お疲れ様でした。来週は水を使った魔力操作の講義です。おうちでもしっかりと練習してきてくださいね」

「「はーい!」」

「はーい……」


俺は懲りずにローレン先生の魔法講義にも出ていた。例え魔力が感じられなくとも、少しでも可能性がある限り挑戦をしたいのだ。

あと、まだ魔法が使えることを夢に見ている。

今日も惨敗だったけど。ちくしょう。


講義を終えたローレン先生は、帰り支度をしていた。

いつも忙しくてギリギリまで講義をしているが、今日はどうやら早めに講義が終わるみたいだ。


ーー今なら、少し質問できるか?


「あの、ローレン先生。今いいですか?」

「おやアルノーさん。どうされました?」

「もし知ってたら教えて欲しいんですが……呪術師や精霊術師とかって、会ったことありますか?」


俺の知り合いで、一番魔法に詳しいのはローレン先生だ。ユーディアが街で探し回っているなら、俺は俺の行動範囲で探そうと思ったのだ。


「……呪術師?アルノーさん、まさか……そこまで思い詰めてっ……」

「はい?」

「いけません!」


穏やかなローレン先生が、あわあわした様子で俺の肩をわしっと掴んできた。


「あなたは自分の身体を大事にしてください!まだこんなに若いのに……!」

「じゅ、呪術師ってそんなにヤバいんですか?」

「ヤバいです!」


すごい剣幕に、俺は圧倒される。


「アルノーさんには確かに魔力を扱う技能も才能もこれっぽっちもありません……」

「ローレン先生、もう少しオブラートに包んでくれませんかね?」

「しかし!だからといって、悪魔に魂を売るなどッ……」

「え?」


悪魔?呪術師って、悪魔と契約する系??

確かにユーディアは「契約に詳しい」と言ってたが、まさかのデット オア アライブ系なの?


「先生、悲しいですッ……!私は、才能の欠片も無いアルノーさんが、それでも夢見て私の講義を受けてくださる、その真っ直ぐな姿勢が好きでしたのに……!」


うん。

この先生、オブラートがどっか行っちゃった系のようだ。


「じゃなくて!契約に詳しい人を探しているんです」

「あ……なんだ、そういう事でしたか。すみません、つい動揺してしまい……」


汗をハンカチでふきふきするローレン先生。

悪い人では無いんだけど、悪い人では……。


「すみません。そういった珍しい方々とは知り合いではなく……」

「まぁ、ですよねぇ……」


ユーディアが探し回って手がかり無しなんだから、そう簡単にはいかないか……。


「しかし、契約ですか。精霊術師にも関係してくるとすれば、儀式系魔術や召喚魔術による契約の類いでしょうか?」

「えっ? た、多分……?」

「よろしければ相談に乗りますよ。一応、王都では魔術契約なども一通り学んでおりますから」

「え、えぇ!?マジ!?マジっすか!!」


なんて偶然だ!もしかすると【師弟契約】の解除について、何か糸口が掴めるかもしれない!

俺は思わずローレン先生の手を取り、ブンブン!と上下に振るった。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「いえいえ。よろしければ、私の研究室にいらっしゃいませんか?お茶でも飲みながらお話を伺いますよ」

「いいんですか!やったー!」


魔法使いの研究室。あまりにもロマンがある。

ついでに美味しいお茶菓子が出たら嬉しい。


俺はローレン先生と共に、専門棟の5階へ登って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



専門棟5階は、先生達の宿舎 兼 研究室になっている。先生達は皆、ここで寝泊まりをするらしい。


ローレン先生の部屋は突き当たりの部屋で、とても分かりやすかった。他の扉と違って、すこし凝った装飾がされていてオシャレだ。


「さ、どうぞ」


ローレン先生の後に続いて中に入るとーー


そこは、まさに俺の理想通りの部屋だった。


机の上には、厚みのある専門書と、古びた羊皮紙のスクロールが幾重にも積み上げられている。インクの匂いと、かすかに甘い薬草の香りが混じり合い、ローレン先生の長い研究の時間を物語っていた。


壁一面の書棚には厚い革張りの本が隙間なく並び、ところどころに挟まれた栞や札が、今なお使われ続けていることを連想させる。


部屋のあちこちには、見たこともない植物が置かれていた。葉の縁が淡く光るもの、ゆっくりと蔓を伸ばし続けるもの、呼吸するかのように光が灯る蕾――どれも、ただの観葉植物とは明らかに違う。


天井付近を漂う花は、淡い白い光を放ちながら、重力を忘れたように宙に浮かんでいた。その光は部屋全体を柔らかく照らし、影を曖昧に溶かしている。

この部屋にはロウソクがないから、これが光源になってるみたいだ。


――ここは、ただの部屋ではない。

紛れもなく、魔法使いの研究室だった。


「すげぇ……!」

「ふふふ、ありきたりな部屋ですが、そんなに目を輝かされると照れますねぇ」


俺の知ってる部屋は、牢屋と、淑女の寝室と、あばら家なのだ。こんなにちゃんとしたファンタジー盛り盛りの部屋は初めてである。


キョロキョロする俺に微笑みつつ、ローレン先生は机の上の本をずらしてスペースを作ると、戸棚からカップを持ってきた。


……あれ、ポットが無いけど。


「お好きなお茶はありますか?」

「せっかくなのでオススメで」

「分かりました」


ローレン先生が二つのカップの上で指を振ると、近くで咲いていた赤い花が静かに身を伸ばした。

花弁がぽとり、ぽとりと一枚ずつカップへ落ちる。

また指を振えば、一瞬で花弁はさらりと粉になった。

次に、宙に沸騰した水球が現れ、カップへと注がれる。

粉はとろりと溶け、澄んだ飴色のお茶へと変わった。

ふわりと甘い香りが立ちのぼり、鼻腔をくすぐる。


「さぁ、どうぞ。ルーファムストーンの花茶です」


か゛っ゛こ゛い゛い゛〜!!

これこれ!これだよファンタジー!

俺の求めていた魔法使い!!

やりたい!俺もこれやりたいんだけど!


「すっ……凄いですね」

「ふふふ。照れますねぇ」

「あの、これ、俺にも出来ますかね……?」

「ふふふ。無理じゃないですかねぇ」


ガクッ……


「そんなに落ち込まないでください。私達先生は皆、アルノーさんのことを応援しているのですよ」

「へ……?」


お茶をコクリ、と飲みつつ、ローレン先生は朗らかに微笑んだ。


「普通、18歳以上で職業訓練所に来ようとする人はいません。技能はまず授かれませんし、皆さん生活がありますから」

「えっ。で、でも技能適性があれば、授かることもあるんですよね……?」

「あれは子供達があなたを侮らないように言った方便です。貴族でも18歳を越えてから技能を授かる方は、滅多に居ません」

「は!?」


ってことは、俺の努力って、全部無駄!?


「ですがね、アルノーさん」


ローレン先生は嬉しそうに微笑む。


「あなたのその真っ直ぐに取り組む姿勢は、大変好ましく思っています。毎日コリもせず職業訓練所に来ては半日も居座る暇人なんて、あなたくらいですから」


先生、オブラート。オブラートに包んで先生。


「ベレー先生の講義は厳しく、続ける方はほとんどいません。ですが、あなたは身体を引きづりながら必死に取り組んでくれています。その姿に、私達はあなたなら成し遂げられるかもと、少し期待しているのです。……あなたを見ていると、がむしゃらに技能獲得を目指していた、自分の青春時代を思い出してしまって、懐かしくなりましてね」

「ローレン先生……」

「おっと、お茶菓子を忘れていました」


ローレン先生が指をひと振りすると、天井に咲いていたピンクの花が音もなく枯れ、代わりに黄色い果実がすくすくと実った。熟した果実はそのまま先生の手のひらへと落ちる。

果実は触れられる前にふたつに割れ、淡い炎が静かに包み込んだ。やがて火は消え、代わりに焼き菓子のような甘い香りがふわりと広がる。ローレン先生が落ちてきたそれをキャッチすると、片方を俺に差し出した。


「すみません、お皿なくって。このままどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


なんなんだろう、これは……。

魔法のお菓子を恐る恐る口に入れる。

サクッと口の中でほどけ、ビスケットのような甘みと香りがした。


め、めちゃくちゃ美味い!

久しぶりのお菓子の味に、俺は夢中で貪る。

花茶とやらも一口含む。爽やかでスッキリしたお茶が、口の中の甘味をさらりと溶かしていく。


「すっげぇーうまいです!」

「ふふふ、いつも頑張っているアルノーさんへのご褒美のようなものですよ」


ローレン先生はサクサクと果実を食べながら、「本題に入りましょう」と続けた。


「アルノーさんは契約に詳しい方を探しているとの事でしたが、どのような事を知りたいのでしょう?」

「実は……【師弟契約】についてなんですけど……」

「……【師弟契約】?」


ローレン先生は首を傾げて、ふむ……と顎に手を置き、考え始める。やっぱ、知らない……か?


「……ものすごくドマイナーな古代契約ですね。それは確かに、精霊術師を探すのも頷けます」

「し、知ってるんですかッ!?」


思わず身を乗り出してローレン先生に詰め寄る。

俺の勢いにローレン先生は驚き、果実の一部がコロン……と机に落ちた。


「え、えぇ。ですが、あまり詳しくはありません。何せ、契約を行う為の技法や文献などはほぼ失われており、“あったかもしれない”適度の、存在もあやふやな噂みたいな契約ですから」

「あの、分かる範囲でいいんで、教えて貰えませんか?」

「いいですよ」


そう言うと、ローレン先生は俺に向き直り、先生モードになった。


「【師弟契約】とは、“世界契約”の一種です」

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