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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【17】商都ミレアス

「なぁミナ、聞いたか?最近、下半身露出しながらひったくりをする盗賊がいるらしい」

「やだ〜、こわ〜い!変態〜!ヒロぴー、助けて〜♡」

「安心しろよミナ。そんなやつ、俺がぶっ飛ばしてやる」

「ヒロぴー♡」


……キャピキャピとしたバカップルの横を、俺とユーディアは無言で通り抜けた。


「俺、完全に露出狂として噂になってるんだけど……」

「ハッ。君は全裸で道に飛び出した事があるではないか。そこまで間違いではないだろう」

「領主邸でほぼ全裸で駆け回ったお前に言われたくない」

「あれは君のせいだろう!」


ッハーン!と憤るユーディアを適当に受け流しながら、

俺は歩いている市民街の道を、頭の中で必死に整理していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ユーディアと一緒に街を歩き回るうちに、

この商都ミレアスの地理が、少しずつ見えてきた。


ミレアスは大きく分けて、三つの区域で構成されている。


貴族街、商業街、市民街。


この三つを三角形になるよう、ぎゅっと配置したのがミレアス全体の形だ。


まず、南西方向――国境線に沿うように広がっているのが貴族街。

その北側に商業街があり、

貴族街から見て東側に位置するのが、市民街である。


ミレアスは国境に隣接する貿易都市だ。

複数の国との中継地点でもあり、立地的にはかなり危うい。


そのため、国境沿いには強力な魔力や技能を持つ貴族達の屋敷がずらりと並んでいる。

貴族の建物を眺めれば、国境線がどの辺りに引かれているのか、大体の見当がつくほどだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



貴族街は、その名の通り貴族の住居が集まった区域だ。

3~4階建ての横に長い豪邸が多く、どの屋敷にも手入れの行き届いた庭がある。


その中心にあるのが、街最大の建物――領主邸。


道は広く、屋敷同士の間隔も空いている。

路地裏ですら綺麗に掃除されていて、身を隠す場所が少ない。


つまり、俺達が逃げるのには、最悪の場所だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


商業街は、個人商店を構える商人達の区域。


4~5階建ての細長い建物が密集しており、

少しでも売り場を広く取るため、路地は異様なほど狭い。人ひとりが、やっと通れる程度だ。

使われていない木箱や包装紙が無造作に放置されている。


逃げやすいが、道は単純だ。

回り道をされると簡単に挟み撃ちにされる危険がある。よく考えて走らないとマズイ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



市民街は、一般住民が暮らす区域だ。


1~2建ての家屋がほとんどで、屋根にも登りやすい。

商業街以上に区画整理がされておらず、

路地はぐねぐねと曲がりくねっている。


道さえ覚えれば、追っ手を撒くにはうってつけだ。


ただし――袋小路や、水路沿いの広場も多い。

衛兵も道を把握してる場合が多いので、油断すれば、こっちが追い詰められる。


市民街の中央通りには飲食店街があり、

俺達が残飯を漁っていたのも、この辺りだ。


さらに、職業訓練所、公衆浴場、冒険者ギルドなど、

生活に必要な公共施設もこの区域に集中している。


つまり――

今の俺の生活圏は市民街がほとんどだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ザワザワ……


肩が触れ合うほどの大混雑だ。

人の波に飲み込まれないよう、俺はユーディアの背中を追って進む。


ユーディアは、するり、するりと人の隙間を抜けていくが、俺はそう簡単にはいかない。


「ユーディア!速ぇよ!」


声をかけると、ユーディアは出店と出店の隙間で立ち止まり、俺が追いつくのを待った。


「っはぁ〜……すごい人だな……表参道みたいだ」

「おもて……さん……どう? なんだね、それは」

「こっちの世界の話だよ」


俺たちは、市民街の朝市に来ていた。


新鮮な食材や、質のいい輸入品は早い者勝ちだ。

だから早朝のこの時間帯は、我先にと買い物客が押し寄せる。


ミレアスが“商都”と呼ばれる理由が、この光景だった。


貴族街、商業街、市民街。

質の差はあれど、どの区域でも出店は立ち並ぶ。


そして、日が暮れるまで商いは続く。


この街には、いわゆる商人ギルドのようなものが存在しない。

場所代と、領主邸から発行される販売許可さえあれば、誰でも店を開ける。


税も、入都の際にまとめて払えばそれで終わりだ。


そのため、他国の商人はもちろん、商人系の職に就いていない者が店を出すことも珍しくない。

中古品を売るだけの、フリーマーケットのような出店すらある。


商売への敷居は、他国と比べて限りなく低い。


朝から晩まで、好きなものを、好きなだけ売れる。

あらゆる国の品物が、一堂に会する場所。


故に――

商人達の聖地、“商都”と呼ばれるのだ。



「ホントに、何でもあるんだな……」


俺は、ぐねぐねと曲がったスプーンを手に取ってつついてみる。

柄の部分が不自然に折れ曲がっている。

スプーン曲げでもしたのか?何に使うんだ、これ。


「“無いものが無い”と噂のミレアスだからな。以前より、来てみたかったのだ」


そう言いながら、ユーディアはキラキラとした石がはめ込まれたブレスレットを角度を変えながら品定めしていたが、やがて机に戻した。


「特に、この街の貴族街には――各国の由緒ある宝飾品が展示された“ミレアス記念美術館”があるのだ」


くるり、と芝居がかった動きで一回転し、ユーディアはうっとりとした表情を浮かべる。


「――あぁ!考えるだけで、なんと甘美なっ!薄いガラスに守られた深窓の令嬢達が、私の手に包まれ、攫われる時を今か今かと待っているに違いないッ!」

「うっせー!大声でそんなこと言うな!」


……少し、ユーディアのことが分かってきた気がする。


コイツは、怪盗行為の時、テンションが上がった時、

そして女の人に話しかける時……頭がポンチな芝居がかった言動を始める生き物なのだ。


「でも今は、怪盗できないんだろ?」


俺がそう言うと、


「……」


しゅん……と、ユーディアは一気にしおしおになった。


「怪盗、やりたい……盗みたい……見せびらかしたい……衛兵共を、おちょくりたい……うぅ……」


もはや、病気である。


「しっかりしろって。ほら、【師弟契約】が切れたらいくらでも出来るだろ。な?」

「む……そう、だな……」


本当に怪盗をすることが生き甲斐のようだ。

怪盗しないと死んじゃう病なのだろう。

可哀想な生き物である。


「ところで、俺って指名手配されてるんだよな?」


街をあちこち回っていて、ふと気がついた。

――その割に、俺の指名手配書が一枚も見当たらない。


掲示板には、盗賊や犯罪者の張り紙がずらりと貼られている。

だが、その中に俺の顔は無かった。


自分で言うのもなんだが、

俺は領主就任式を台無しにし、本人から死刑判決まで貰った身だ。

領主グレゴール公認の大悪党である。


「……指名手配は、されていないようだ」

「なんでだよ。死刑判決まで貰ったんだぞ、俺」


ユーディアは、ぐぬぬ、と苦々しい顔をした。


「……領主は恐らく、君を逃がしたのが私であると気がついている。その上で指名手配をしなかった。ーーこの私を、嘲笑う為に」


嘲笑う?

俺を指名手配しないことが?


「以前、公衆浴場で聞いたであろう。“怪盗ユーディアを追い返した”と、領主邸が公式に発表した件だ」


確かに、そんな話を聞いた。

あの時は、捕まった俺が怪盗ユーディアだと思われていたんだっけか。


「領主は君が怪盗ユーディアではないと気がついていたが、周りはそうではなかった。貴族商人ラディックの証言があったからな」


久しぶりに聞いたぞ、その名前……。


「アルノー君を指名手配する時、“怪盗ユーディア”として処理されるはずだ。だが、実際それは間違っている。もし君を指名手配して捕まえた後に、私が別の所で盗みを働けば、領主は赤っ恥をかくことになる」


偽の怪盗を捕まえて鼻高々してしまった領主……確かにアホっぽく見える。


「貴族とは、見栄を最も重視する生き物だ。私に盗まれ、コケにされれば、必死で捕まえに来る。……だが、何も盗られていないのなら話は別だ」

「……つまり?」

「『何も盗まれずに怪盗ユーディアを退けた』。これは君が思っている以上に、領主にとって大きな“実績”なのだ。指名手配なんてする必要などないほどにな」


そんなになのか。


「ん?待てよ、俺の指輪を書斎に戻したんだろ?その時、ついでに何か盗めばよかったじゃんか」


俺の指輪を書斎に置きに戻ったのだから、何か盗むチャンスはあったはずだ。そうすれば、グレゴールだって指名手配をしただろうに。


「私の予告状は覚えているかね?」

「確か、『今夜、あなたのもっとも大切な宝を頂きに参上する』……だったか?」

「そうだ。私は犯行予告をした者の『もっとも大切な宝』を盗むのだ。何が盗まれるか、本人にしか分からん」

「は?本人にしか分からないのに、なんでお前にはそれが『宝』って分かるんだよ」


俺の質問に、ユーディアは自分の瞳を指さす。


「私には、《注目律》という技能がある。これを発動すると、誰が、何を、どの程度大事にしているのか、どんな感情を抱いているのか、見るだけで分かるのだ」

「へー。ちなみに俺は?」

「……左ポケットにある銅貨2枚に対して、心地よい感情が伝わってくる」


当たりである。エドとユノに貰ったやつだ。

大事にしすぎてなかなか使えてない。


「……あの時、領主邸の中には、大切なものはひとつも無かった」

「ひとつも?」

「一番強い感情だったのが君の指輪だったのだ。予告状を出すと、盗られまいと皆が宝に対して強い感情を抱く。私はそれを見て、何を盗むのか判断している」


なるほど。だから俺を領主と勘違いしたと。

そして、グレゴールの宝の反応が無かった為、何も盗めなかった、と。


「別に、領主邸の高そうなものを適当に盗めば良かったんじゃね?」

「それは私の『美学』に反する。何故ならーー」

「『怪盗は本物しか盗まない』……か?」


初めてユーディアと街を歩いた時、コイツがそんなことを口走っていたのを覚えている。


「フン、よく覚えているではないか」

「そりゃどーも」


話を戻すぞ、とユーディアは俺に向き直る。


「とはいえ、だ。私は君を連れ出して逃げおおせたのだ。なのに、領主という莫大な権力を持つものが、天に名を轟かせるこの怪盗ユーディアを指名手配せず、この私を『追い返した』などと戯言を言ってきたのだ」


ユーディアは拳を握りしめる。


「その行為は、私にはこう聞こえたぞ。『指名手配する程でもない。悔しければもう一度、盗みに来てみろ。おしりペンペン』だ」

「その副音声、あまりにも幼稚すぎねぇ?」


若干、私情が入っている気がする。


「くっ……恐れられ、震え上がらせることが私の本懐なのに、舐めおって……!本来であれば、今すぐにでも盗みに入りたいが……怪盗が出来んからな……ぐぬぬ」


なるほど。公衆浴場で公式発表について、『領主は怪盗の報復を恐れていないのか?』と聞いたが、ユーディアの話を聞く限り、私情混じりの副音声は概ね合ってはいそうである。


もしコイツが万全なら、報復としてすぐに盗みに入ったはずだ。


いわゆる、領主は“誘っている”。

確実に罠だ。


……しかし、ここまで的確にユーディアを挑発するなんて、グレゴールは意外と頭がいいのかもしれない。


「はぁ……もういい。とりあえず、指名手配されてなくとも、君の顔を見た衛兵も多い。引き続き、顔は隠すように」

「了解。……そろそろ俺、職業訓練所に行かないと」

「もうそんな時間か。ふむ……アルノー君。ここまでの道は覚えたかね?」

「えっ、あー、多分?」

「ではテストだ。表通りを使わずに、ここから職業訓練所まで案内してみたまえ」

「はぁっ!?」


突然の抜き打ちテストに俺は道を4回間違え、ユーディアにため息を7回つかれた。

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