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極悪非道もサジ加減! 〜ポンコツ怪盗の弟子になった俺は、悪事で悪党共を救う〜  作者: 一二三 五六
【第1章】怪盗は夜空を舞い、弟子は宙を仰ぐ

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【16】師匠と弟子の日々

あれから数日が経った。

俺とユーディアの関係は、ほんの少しだけ変わった。


「この文字は?」

「ふむ……『だ、ん、じ、よ、ん』」

「正解!……これは?」

「む……『お、た、か、ら』」

「正解!……じゃ、これは?」

「……『い、っ、か、く、せ、ん、き、ん、』」

「正解!」

「君の欲望に塗れた問題を出すのはやめたまえ」


ほんの少しだけ、俺は様々な訓練に前向きになった。

ほんの少しだけ、ユーディアも話を聞くようになった。


「じゃあ、これは?」

「『わ、た、し、は、あ、ほ、で、す』って、コラ!」

「はっはっはー」


ユーディアは地頭は良いらしく、ぽんぽんと文字を覚えていくので最近は教えるのが楽しい。


「まぁ、あとは慣れだな。カタカナも覚えたし、そろそろ漢字に行くか」

「フッ……いよいよ大詰めか。この天才的な怪盗ユーディアに、やはり“不可能”の文字はないーー」

「何言ってんだよ」


俺はにっこりと、笑いかける。


「漢字は星の数ほどあるんだぞ。それに、漢字を覚えたら、次は単語だ。主語と術語、名詞、助詞、副詞、装飾語、尊敬語、謙譲語、丁寧語……」

「まっ、待て待て。何を言っている? は?そんけい、ご??漢字を覚えて終わりであろう?」

「なわけないだろ」


日本語が世界でも取得難易度がトップクラスの由縁が、これだ。多くの外国人が日本語を覚えようとする際に躓く難関の一つ。敬語と文法である。


「さっ、お前に不可能の文字はないんだよな?じゃ、“不可能”って漢字から教えてやろっかぁ!」

「へぁ……」


ユーディアは、口から魂が抜け出そうになっていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ガッシャーンッ!!


文字の練習の後は、俺の怪盗の訓練だ。


しかし残念ながら、俺はユーディアとは違って全然上手くいってなかった。


箱に足を取られ、今も盛大にズッコケている。


「惜しいな。今のはあえて箱がある左に避けるべきだった」

「……もう一度、お願いします」

「よかろう」


擦りむいた手を握りしめ、もう一度箱を同じように積み上げる。



最初の頃のような衛兵ごっこの形を続けているが、ユーディアは障害物を倒さなくなった。



「極力、障害物は倒さずに残したまま逃げる訓練をする」

「なんで?」

「場合によっては障害物を倒すことで道幅が増え、相手に有利になるからだ。障害物の中を走ることに慣れろ。そちらの方が、早く追っ手を振り切れる。あくまでも障害物を倒すのは、追っ手がギリギリまで迫ってきていた時の緊急時のみだ」


ーー確かに。

この前のリアル衛兵ごっこでは、それでかなり距離を詰められた。


「……ん?じゃあ、初日にユーディアが障害物を俺に向かって倒したのは……」

「……」

「アレ嫌がらせかよッ!?」


そんなこんなで、今現在では俺が躓く度に一度訓練を中止。反省をして、躓いた地点からやり直し。これを繰り返していた。


感覚と直感で動けるよう、障害物を避けたり、身体の動かし方を覚えたり、曲がる時にスピードを落とさないような走り方を叩き込まれている。


だが、


「ヤッ!とするのだ、ヤッ!と」

「わっかんねぇ〜!何だそのヤッ!てのは!」

「だから、曲がる時は、なんだ、この辺を……ヤッ!」


体幹とか、技能とか、そういう無意識的な所に関して、コイツは絶望的に説明が下手だった。


「ヤッー!」


その雄叫びに、

俺は地球の某お笑い芸人を思い出していた。


恐らくユーディアは、天才肌ーー

つまりは、感覚で覚える派だったのだ。


……俺の訓練は、まだまだ長引きそうである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



朝。


ユーディアは、相変わらず梁の上、俺は床で寝ている。

最近の俺は、職業訓練所で使われていない板とボロ布を貰って、簡易的なベッドのようなものを作っていた。板の上に布を敷いただけだが、一気にベッド感が出て嬉しい。


「アルノー君、朝だ。今日は君が朝当番だぞ」

「んぁ……」


ユーディアは早起きなので、俺はいつも起こしてもらっている。

朝当番の俺は桶に水を汲んできて、一部を朝飯用のスープに、残りをユーディアと二人で顔を洗ったり、飲み水に利用する。


朝当番の日は、俺が飯を作ることになった。


昨日より分けていた残飯を鍋に入れる。

その時に、ユーディアに簡単にこの世界の食物について教えてもらっていた。


「ん〜……これは〜……トロン?」

「の、親戚の従兄弟のような、カロンだ」

「ほぼ他人ッ!!」

「カロンは皮の近くに麻痺毒があるから、食用にする時はかなり分厚く皮をむく」

「……の、まだ食べられる所ギリギリをこそげ落とす?」

「その通り」

「こえぇ〜」


商都ミレアスでは、一次産業……農業も遠方で行っているそうだが、どちらかというと日持ちする根菜や果物が他国から安く輸入される為、とにかく菜物が少なくて、様々な国のじゃがいもや大根のような似た根菜が多い。見た目は同じでも、甘かったり、しょっぱかったり、ねっとりしてたりする。


ちなみにトロンは里芋のような感じで、カロンは山芋のような感じだ。わっかんねー。


師匠らしく教えられることが嬉しいのか、

ユーディアは朝からご機嫌だ。


ユーディアの火打ち石で火を起こし、スープを作る。

ちなみに火打ち石は危ないからと、俺には使わせてくれない。ちぇっ。


「「いただきます」」


二人でスープを啜りつつ、今日の予定を話し合う。


「今日も市民街の散策だ。西側の方に行ったことは?」

「うーん……チラッと見たかもだが、覚えてないな」

「ふむ、なら一度歩いてみよう。コートはあるな?」

「洗いたてだぜ」


最近の俺の一日は、午前はユーディアと共に街を歩いて地形や道などを覚えることに使っている。


何があるのか、どう逃げるか、いざと言う時使えそうなものや、絶対入ってはいけない通りなどを大怪盗ユーディア様の観光案内付きで毎日色んな所を巡るのだ。


「俺、午後は職業訓練所に入り浸るよ。ベレー先生が最近ノリノリでさぁ……。日が暮れる前に……生きて……戻りたいなぁ……」

「ハッ、文字の練習の時間までには戻るのだぞ」

「せめて夕食を食わせてくれよ……」


午後、俺は職業訓練所。ユーディアはさらに街の散策と、呪術師や精霊術師の捜索。それから小銭稼ぎに都の外まで行って、山菜や薬草を取りに行って売ったりしている。


あと、俺がヘトヘトで帰ってくるので、タイミングが合えばその小銭で風呂に入りに行ったりする。

夕飯は俺がベレー先生の講義のせいで動けないので、基本はユーディアが作る。

昼飯はない。

一日二食生活だ。


「技能は覚えられそうかね?」

「ぜぇんぜん……ただ、体力作りには最適だな」

「ふぅむ。まぁ君くらいの年齢ならば、新しく技能を覚えるには相当の努力が必要だからな。頑張りたまえ」

「へいへい。それより……ダンジョン行かないか?冒険者ギルドでもいいぜ?」

「まぁだそんなことを言っているのか」


ダンジョンや冒険者ギルドは憧れなのだ。

市民街に冒険者ギルドがあるので出来れば今日寄りたいが、ユーディアは断固として連れて行ってくれない。


「君が何か技能を覚えて、この私が大金を喉から手が出るほど欲しがったら、考えてやろう」

「それ一生無いやつじゃんか!」

「なら諦めたまえ」


ひどい。

こんなに善良な弟子が行きたいと言ってるのに、コイツは師匠権限で絶対に連れて行ってくれない。

師匠(マスター)ハラスメントだ。マスハラだ。


スープを飲み干したら、朝当番の俺がザバザバと水で器や鍋を洗う。


ユーディアは怪盗服に着替え、マントをバサリと肩にかける。

俺はコートを羽織り、フードを深く被る。


「ーーでは、行くぞ」


師匠の背中を追って、アジトを出る。


ーーそれが、最近の俺の日常になりつつあった。

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